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13話 影洛の男

露松にある梅露広場付近の廃墟群。

そこにある教会のような廃墟の入り口前で、ルリットと男が近接戦闘を繰り広げていた。

男は左頬目掛けて右ハイキックを放つが、ルリットは左頬近くまで左前腕を上げてガードした。

ルリットは顔目掛けて右ストレートを放つが、男は瞬時に右足を地面に突け、左足でルリットの右前腕を外側から受け流すように蹴り、ルリットの右ストレートを避ける。

男はその蹴りの勢いそのまま、左足を地面に突け右足の踵でルリットの右側頭部目掛けて後ろ回し蹴りを繰り出す。

ルリットは思いっきりしゃがみ込み、左手を地面に突け、左足を軸に右足で地面をなぞりながら男の左足くるぶし目掛けて足の甲で蹴る。

男は、無理矢理左足をつま先から上空へ上げ、そのままルリットの頭部目掛けて左足踵から落とす。

ルリットはその踵を、右拳の小指側の面で殴るように右腕を振り、男の踵とルリットの右拳小指側の面がぶつかった。

ルリットはしゃがんだ体勢のまま、地面を削るように少し後方へ、男は反動のまま、空中でくるりとバク宙し着地した。


「きーきっきっき。そろそろ血がみたいなぁー」


男はそう言うと、男の肘近く、小指側の前腕から、横と縦三センチ、高さ十センチの直方体の土台が生え、手の方向へ刀身の上身が小指の先五センチくらいまで伸びる。

刀身は腕と接している側が棟、反対側が刃となって。


マシーグ・・・。


男は両手それぞれで手刀を構え、右腕を上に、左腕を下に、肘を九十度に曲げて、身体の正面で両腕が平行になるように構え、両腕を外へ広げ、横一文字の斬を同時に二発放った。

距離が狭い二の字のような形で斬が飛んできたため、縦一文字の斬一発で二発の斬と衝突させることができるが、一発の斬では、かなり実力に差がない限り、威力で押されるため、ルリットは両手それぞれの手刀で同時に縦一文字の斬を放った。

二人が放った斬は打ち消しあったが。


「ぐはっ」


二つの斬がルリットの腹部に命中し、ルリットは後方へ吹き飛び、レンガ積みの壁に背中から衝突した。


何が起こった・・・?

斬の威力はほとんど互角で、打ち消し合ったはず。

じゃあ、なんで二発の斬が飛んできたんだ?

あいつが追撃を行う動作はなかった。


「きーきっきっき。ほらほら、もっと血を見せろーー」


男は、右ミドルキックで横の斬を放った。

ルリットは右手の手刀で縦の斬を放ち打ち消した。


・・・。

今度は追撃がなかった。

さっきと何が違う?

さっきは両手から放たれた斬。

今は、足から放たれた斬。

違いといえば、あの刀身。

両腕にはあの刀身が付いている。

足には付いていない。

あの刀身か・・・。


ルリットがそんな風に考察していると、男は右手の手刀で横の斬を、続けて左手の手刀で横の斬を放った。

ルリットは両手それぞれの手刀で縦一文字の斬を一発ずつタイミングを少しずらして放ち、男の放った斬と打ち消しあったが、男が放った二発目の斬がそのまま飛んできた。

ルリットは、それに反応し、膝を曲げてしゃがみ込み、それを避けた。


やっぱり。

右手の手刀を振ると、まず刃から斬が放たれ、その後手刀からも斬が放たれているのか。

それも、まるで一発の斬のように、二発の斬がほとんどくっついて。

つまり、両手で放たれれば、四発の斬が飛んでくるのか。

俺とあいつの斬は打ち消しあったし、一回の振りで二発の斬が一気に放たれると、俺は二回振らないと斬を打ち消せない。

ってことは、俺だけ行動が一回増えるのか。

そうなると、避けた方がいいな。


ルリットは両手を軽く開き、両手の指の腹を顔の前で合わせた。


「ルチク」


すると、ルリットは薄い金色のオーラに包まれ、さらに直径十センチの金色の球体が、身体の周りを不規則に回り始めた。


「きーきっきっき。なんだー? 雰囲気が変わったぞ」


男は両手それぞれの手刀で横の斬を放った。

ルリットは男に向かって走りながら、飛んでそれを避けた。

男は両手それぞれで横、縦、右上がり、左上がりの斬を連続で放ち続けた。

右上がりと左上がりの斬は角度を変え、放った斬は計十発。

ルリットは、今までのルリットからは想像できないほどのスピードで、斬の左右、時には斬の上下に移動しながら斬を避けていく。


(こいつ、速いな)


んー。

どうするか。

あいつの斬は避けられるけど、こっちも斬を放てない。

接近して打撃戦に持ち込むしかないか。


ルリットは普段のスピードで移動しながら斬を放つ時、前後に移動する場合は狙った位置に放てているが、左右や斜めに移動する時は、一旦スピードを落として狙いを定めていた。

通常のスピードでも斬の狙いがぶれてしまうルリット。

当然、スピードが上がればそれは、さらに困難なものになる。

例え、ブレーキをかけたとしても、猛スピードからの急ブレーキでは、反動が大きすぎて、どっちにしろ狙いがぶれる。

ルリットは、今のスピードに全く慣れていないのだ。

だから、ルリットは接近し、打撃でダメージを与えようと考えている。

ルリットは猛スピードで男に向かって走り出した。

男は、バックステップで後方へ下がりながら、両手それぞれの手刀(刃)で斬を放ち続けた。

ルリットは、横で飛んでくる斬は滑るように下を通り、縦の斬は左右どちらかに避け、右上がりや左上がりの、斜めの斬は放たれる角度によって避け方を変えている。

縦に近い場合は左右どちらかに、横に近い場合は下を通り、四十五度に近い場合はそれぞれ右下左下と、斬と地面の距離が広い方を通り、避け続けた。

しかし、右上がりに放たれた斬がルリットの上半身に命中し、必然的にもう一発の斬も当たる。

ルリットは、後方へ吹っ飛び、近くの廃墟に背中から突っ込んだ。


「ぐっ・・・」


う・・・。

まずい。

ルチクはスピードが大幅に速くなる分、攻撃力と防御力が少し下がる。

通常の状態で食らうよりダメージが大きい。

それに加えて、奴の斬は二発一組で飛んでくる。

一発食らえば、もう一発も食らう。

ルチクを使った状態で斬を食らい続けると持たない。

まっすぐじゃ、ダメだな。


ルリットは右斜め前に猛スピードで走り出した。

男は両手それぞれで斬を放ち続けた。

しかし、斜めに猛スピードで移動するルリットには中々命中しない。


(くそっ。当たらない。だが、その移動じゃあ俺に近づけない)


ルリットは軽くしゃがみ、足を滑らせ急ブレーキし、今度は左斜め前に走り出した。

急ブレーキしても完全に止まることはできないが、走る向きを変えることくらいはできる。


(こいつ。最初からその猛スピードを利用して、遠回りしながら俺に接近するつもりだったのか。どうする。後方へ下がってもすぐ追いつかれ・・・)


男が判断に迷っていると、ルリットは打撃が当たる距離まで接近していた。

ルリットは右ストレートを放ち、男の左頬正面に命中するが、ルリットは今のスピードに慣れていないため、振り始めの右ストレートが当たり、不完全なヒットになったことで、決定打にはならなかったが、男は予期せぬ打撃を食らい、かなり大きいダメージを受けた。

男はルリットの打撃を食らい、少し後退したがルリットは距離を一瞬で縮め、左ストレートを顔正面目掛けて放ち命中した。

さらにルリットは、男が息をつく暇もなく接近し、右足の横蹴りを男の腹部に当てた。

男は後方へ吹っ飛び、レンガ積みの壁に背中から衝突した。

ルリットの打撃を予期していないところから三連続で食らった男は、大ダメージとなり、戦闘不能になった。


「き・・・きっき・・・。血を・・・」


男は朦朧とした意識の中でそう呟いた。

ルリットはルチクを解除すると、呼吸を整えながらその場に腰を下ろした。


はあはあ。

フー。

まだ慣れないな。

ベズンズの使用は。


一方、朝焼は教会のような廃墟内にある大部屋に足を踏み入れた。

すると、そこに黒いマントを羽織った男が立っていた。

そして、その黒いマントには、影洛のエンブレムが描かれていた。


影洛・・・。


「お前は飛藤洋那か、それとも春風雫季、奈村誘紫。いいや、違うな。お前は・・・。弱すぎる」

「影洛・・・」


朝焼はその男、就塗巳つぬしを見て、目を大きく開き、歯を食いしばり、両手を思いっきり強く握り締めた。


「お前に用はない。去れ。それともやるのか? お前ごときが」

「てめーは影洛の一員ってことでいいんだよな?」

「ふんっ。お前のようなガキが影洛を知っているとは滑稽だな。俺は影洛の一員だが、それがなんだ?」

「影洛・・・」


影洛。

悠と凛の命を奪った組織。

毎日続くと思っていた時間。

遊んで、怒られて、食べて、寝て、また遊んで。

ずっと続いて欲しかった時間。

でも、悠の命が突然奪われた。

凛は一人で悠の仇を取りに行き、命を奪われた。

影洛こいつらが奪った命。


「うおおおおお」


朝焼は、右手の手刀を左下から右上へ振り、右上がりの斬を放った。

就塗巳は右腕を前に伸ばし、右手を開いた状態から人差し指を軽く曲げ、右上がりの斬を放った。

就塗巳が放った斬は朝焼の放った斬を消し飛ばし貫通、そのまま朝焼の腹部に命中する。


「ぐはっ」


朝焼は勢いよく後方へ吹っ飛び、背中から壁に衝突し、口から血を吐いた。


「お前は何か勘違いをしているな。影洛の配下にある組織の組員と戦闘したのかどうかは知らんが、奴らと一緒にされては困る」

「ごほっ」


朝焼は覚束ない足取りでなんとか立ち上がり、右手の手刀で横の斬を放つが、就塗巳は右手の人差し指でデコピンをして、縦の斬を放った。

就塗巳の放った斬は朝焼の放った斬を消滅させて貫通、朝焼の右腕上腕に当たり、血が噴き出ると同時に右肩が外れた。

朝焼は左手の手刀で斬を放とうとするが、就塗巳は一瞬で朝焼に近づき左ストレートを腹部に放つ。


「ごはっ」


就塗巳は続けて右ストレートを朝焼のおでこに放った。

朝焼は頭から壁に勢いよく衝突し、気を失った。


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