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11話 太啼棋VS

露松の梅露広場から数キロ北西に位置する廃墟群。

その入り口らしき門付近で、錬は敵と戦っている。

錬の右ストレートを左腕でガードした男。

二人はそのまま近接戦に入った。

ウイルスと細菌で身体能力が強化されている二人の近接戦は、威力、スピード共に互角で繰り広げられている。


「かーはっはっは。中々やるねー」


男は笑みを浮かべながら打撃を繰り出す。


「はっ」


男は、一度錬との距離を少し取り、右手の掌を錬の足元へ向けた。

すると、錬の足元の地面だけが揺れ、錬はバランスを崩した。


「うっ」


錬は上空に飛ぶと、男はそれを読んでいたかのように、錬の飛んだ先に移動し、右ストレートを錬の顔正面目掛けて放った。

錬は両腕を顔の前で交差して、右ストレートをぎりぎりガードすることに成功したが、その衝撃で後方斜め下の地面に向かって打ち落とされ、背中から地面に落下した。


「ぐはっ」


う・・・。

さっきの揺れ。

この人のベガズかな。


「どうした? まだやれるだろう?」


男はゆっくりと近づいて来る。

錬はその場に立ち上がった。


「かーはっはっは。そうだよなー。まだまだこれからだぜ」


近接戦は互角。

そして、恐らくこの人も斬は得意じゃない。

最初に、朝焼に向かって放った斬は、僕の斬と打ち消し合った。

この人が、どれくらい威力にエネルギーを使っていたかは分からないけど。

もし、斬が得意なら、さっき僕が地面の揺れを嫌って上空へ飛んだ時、斬を放った方が相手にとってメリットが大きかったはず。

それをわざわざ先回りして、右ストレートを放ってきたということは、斬より近接戦に自信があると考えてよさそうだ。

斬も互角となると、ベガズが決め手になるか。

でも、僕のベガズは、攻撃面に期待はできない・・・。


錬が思考を巡らせていると、男は一気に距離を詰め、再び近接戦に入る。

近接戦は互角。

お互いに、ダメージとなる攻撃は通っていない。

錬は、男の右ストレートを左腕前腕で受け止めようとした時。


今だ。


錬の左腕前腕に長軸三十センチ程、短軸二十センチ程、厚さ七センチ程の楕円体の形をした岩が長軸を縦に、前腕に張り付いた。

まるで、岩の盾を身に着けたように。

男の右ストレートは岩に命中し、岩は砕けたが錬の左腕前腕には届かなかった。

男はその岩を見て、一瞬動きが止まった。

錬はその隙に右ストレートを男の顔正面目掛けて放ち、命中した。


「がはっ」


男は後方へ少し飛び、その後地面に落下して五メートルほど転がり、近くの小さい倉庫の壁に衝突した。


「ははっ。はあはあ。かーはっはっは。やるじゃねーか」


錬は眼鏡を右手で取り外し、近くのレンガ積みでできた壁の上にそっと置いた。


「かはっ。やっと本気か? 舐められたもんだな」

「最初から本気だよ」


錬と男は、鋭い眼差しを交わした。


一方、朝焼たちは廃墟となった団地や倉庫に足を踏み入れ、人質になっている生徒を探していた。


くそっ。

ここにもいねーか。


朝焼と太啼棋は、倉庫を出て、廃墟群にある道を走り、次の建物へ向かった。


次はあの廃墟だな。

んっ?

誰かいる・・・。


道を進んでいると、一人の男が、道の真ん中に立っていた。


「お前らは、影洛の探している三人・・・じゃねーか。雑魚そうだし」

「お前らが攫った生徒はどこだ?」

「さぁー。でも、安心しろ。殺したりはしない。ただの餌だ。三人を誘き寄せるためのな。三人が来たら用はない」

「勝手に攫っておいて、用がないだと。随分身勝手な発想だな」

「くっくっく。いいか、ガキ。弱い奴はそうやって利用されるんだよ。むしろ、感謝してほしいね。殺さないんだから」

「・・・。朝焼、先行け。こいつは俺がやる」

「お、おう。分かった。気をつけろよ」


男と太啼棋は会話を交わし、太啼棋は朝焼を先に行かせた。

男は、朝焼が横を通り抜けても、太啼棋から視線を逸らさなかった。


(このガキは無視でいいだろう。前に立っているガキの方が強い。強いと言っても、雑魚の中ではの話だが)


男は左手の手刀で横の、右手の手刀で縦の斬を続けて放った。

太啼棋は、右手の手刀で縦の、左手の手刀で横の斬を放ち、男の放った斬と打ち消し合った。

その間に、男は太啼棋に接近しており、二人は近接戦に入った。

男は右ストレートを顔面に放つと見せかけて、左フックを太啼棋の右脇腹目掛けて放った。

太啼棋は、そのフェイントに引っかかることなく、軽く後方へ下がり、左フックを避けると、男の顔正面目掛けて左ストレートを放った。

男は右手の甲で太啼棋の左前腕を内から外へ弾き、再び左拳を太啼棋の右脇腹目掛けて振った。

太啼棋は右手で男の左手首を握り、それを止めた。


(このガキ、なんていう握力だ)


太啼棋は男の右脇腹目掛けて、左足でミドルキックを放った。

男は、さっき太啼棋が放った左ストレートを外へ弾いた影響で、右腕でのガードが間に合わず、もろにそれを食らった。


「くっ」


太啼棋は続けて左ストレートを顔正面目掛けて放ち、それも命中した。


「ぐはっ」


男は後方へ倒れながら距離を取ろうと試みるが、太啼棋に左手首を握られているため、距離が取れない。

男は右手の手刀を軽く振るい、太啼棋の右腕に縦の斬を放った。

太啼棋はそれに反応し、握っていた右手を離した。

男は、掴まれていた左腕が自由になると、後方へ下がり、太啼棋と距離を取った。


「ガキが、調子に乗るなよ」


男は左腕を正面にまっすぐ伸ばし、手を握り締め、手の甲を上にして拳を太啼棋に向け力を入れた。

すると、手の甲側の前腕部分に、大砲の砲身のようなものが装着された。

砲身は緑色で長さ十五センチほど、砲口は半径五センチほど。

砲口は手の甲に届かないくらいの所に位置している。

男は、その砲口からヴォーネで作られた濃い黄色の砲弾を放った。

太啼棋は左へ移動し、その砲弾を避けた。

砲弾は太啼棋の後方に合った倉庫の廃墟に命中すると、その廃墟は崩壊した。


こいつ。

マシーグか。


男は、続けて砲弾を二発連続で放った。


「ホルン」


太啼棋は角笛を右手で持ち、角笛を吹いた。

すると、太啼棋の前に最大直径八十センチほどの波紋が広がり、砲弾を破壊した。


「このガキ。ネヴォントか。時代遅れの遺物が」


男は砲弾を放ちながら太啼棋に接近する。

太啼棋は角笛を吹き、さっきと同じように波紋を出して破壊する。

しかし、男は太啼棋との距離を詰めることに成功し、近接戦に入る。


「くっくっく。どうしたー? 笛を吹く暇もないかー」


男はパンチを主軸に、時折蹴りを混ぜて打撃を放ち続ける。

その勢いに、太啼棋は思わずバランスを崩した。


「くっくっく。食らえー」


男は、太啼棋に至近距離で砲口を向け、炎を放出した。

その炎は、火炎放射器のように、途切れることなく炎を放出し続けた。

太啼棋は角笛を吹き、波紋を出してそれを受け止め続ける。

男はその隙に右ストレートを左側腹部に当てた。


「くっ」

「くっくっく。やっぱり。お前、打撃はその波紋で防ぐことができないんだろ。だが、その笛を手放せば、俺のベガズを防げない。笛を持ち続ければ片手を使えず、打撃で不利になる。過去の遺物じゃ、現代の技術には勝てないんだよぉ」


男は勝ち誇った顔で打撃を繰り出し続ける。

太啼棋は男の右ミドルキックを左脇腹で受けながら、角笛をさっきまでとは異なる音色で吹いた。


「くっくっく。無駄なんだよ。馬鹿がー」


男は、角笛ごと破壊しにいく勢いで、太啼棋の顔正面目掛けて右ストレートを放ったが、太啼棋の目の前に広がった波紋にその右ストレートが触れると、男の右腕は後方へ弾き飛ばされ、その反動で男は後方へ倒れそうになる。


「何ー」


男は後方へ小さく二歩下がり、倒れることはなかったが、体勢を崩した。

太啼棋は左足の横蹴りで右側腹部を蹴ると、男は後方へ飛ばされ、右肩後ろからレンガ積みの壁に突っ込んだ。


「がはっ。おーのーれー。クソガキがー」


(このガキ。隠してやがったな。音を変えると波紋の効果も変わるのか。それなら、笛を吹く隙間を与えず、打撃とベガズを混ぜて攻撃すればいいだけだ。俺の勝ちに変わりはない)


男は砲弾を放ちながら接近を試みる。

太啼棋は角笛を吹き、波紋で砲弾を破壊したが、男の接近を許した。

男は右ストレートを太啼棋の左頬目掛けて放つが、太啼棋は頭を右へ傾け、簡単に避けると、音色を変えて角笛を吹いた。

最大直径二十センチほどの波紋が男の腹部に触れると、男はトランポリンで跳ねるように、後方へ吹っ飛んだ。

しかし、トランポリンで跳ねる時とは異なり、ダメージを受ける男。


(くそ。はあはあ。こいつ。今度はバリアのように働く防御的な波紋ではなく、俺自身を吹っ飛ばす攻撃的な波紋を出しやがった)


男は再び、砲弾を放ちながら接近を試みたが、太啼棋は再び角笛を吹き、波紋で砲弾を破壊する。

男は接近することに成功し、右ストレートを太啼棋の左頬目掛けて放ったが、太啼棋は再び簡単に避け、角笛を吹き波紋で吹っ飛ばす。


(このガキ。俺の動きを読んでやがるな)


太啼棋は男が左腕に装着されている砲身から砲弾を放って接近を試みていたことで、接近してからの打撃は、右で放ってくると予測していた。


(くっ。それなら)


男は、またまた砲弾を放ちながら接近を試みる。

さっきと同じやり取りで接近に成功した男は左ジャブを顔に放つ。

太啼棋は後方に少し下がり、それを避けるが男は砲口から炎を途切れることなく放出し続けた。

太啼棋は角笛を吹いて波紋を出し、炎を自身に当たらないよう防御するが、放出され続ける炎を完全に消すことはできない。

男は炎を放出しながら右ローキックを放つが、太啼棋は後方へ少し下がり、角笛を吹いて最大直径一メートルほどの攻撃的な波紋を男に当てた。

男は、さっき一度それを食らったこともあり、攻撃的な波紋を警戒していたため、少し後退させられるに留まったが、右ローキックは避けられ、放出し続けていた炎も太啼棋との距離ができたため当たっていない。

太啼棋は距離が離れた瞬間に、左手のデコピンで横一文字の斬を放ち、男に当てた。


「ぐはっ。クソガキがーーーーー」


男は自分が有利だと思っていたが、自分ばかりが攻撃を受け続けている現状に苛立ちを隠せなくなった。


(クソガキめ。こうなったら、残っているヴォーネを限界まで使って砲弾を作り、あの小賢しい波紋ごと吹き飛ばしてくれるわ)


男は左手を掌屈し、残ったヴォーネをほとんど使い、砲口の外へエネルギーを溜める。


「終わりだー。食らえーー」


男は半径一メートルほどの砲弾を放った。

砲弾は、地面に触れていないが、地面を削りながら進んでいる。

太啼棋は大きく息を吸い、角笛を吹いて最大直径二メートルほどの波紋を繰り出した。

砲弾と波紋が衝突すると、辺り一帯に衝撃が走り、付近の廃墟やレンガ積みの壁は崩壊していく。

しかし、徐々に砲弾が弱まっていき、やがて完全に消滅した。

太啼棋は男がいた位置に視線を向けると、男の姿がなかった。


「くっくっく。終わりだー」


男は太啼棋のすぐ後ろへ移動しており、首目掛けて威力エネルギー九割の斬を右手の手刀で放った。

太啼棋はすぐに気配を感じ、思いっきりしゃがみ込み、右足を軸に左足を伸ばし踵から地面をなぞるように回し、男の左足外側の踝辺りを蹴った。

それを受けて男が身体の左側面から転ぶと、太啼棋はすかさず上から男の右頬目掛けて右ストレートを放つ。


「斬技、斬打」


太啼棋の斬打は命中し、男は思いっきり左耳から地面に打ち付けられた。

男は、そのまま気を失った。


あ・・・。

人質の生徒の居場所を聞きたかったのに。

やり過ぎたか。

口程にもなかったな。

とは言っても、俺もヴォーネを結構使ってしまった。

でも、体力もスタミナもかなり余裕があるし、このまま探しに行くか。

朝焼がどこを探しているか分かんねーけど、遠くの廃墟を探すか。


太啼棋は再び生徒を探しに走り出した。

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