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1話 三度目の朝焼け

この星、アルデリスに住む十三歳以上の人間の七十パーセント以上は、()を体内に宿しており、宿り人(やどりびと)と呼ばれている。宿り人は体内に宿った体内エネルギー、ヴォーネを扱い様々な戦闘能力を有する。




あぁ・・・。まただ。


(ゆう)・・・」


悠が、俺の前にいる。

うれしい。

悠に会えるのは言葉にできないほどうれしいし、幸せだ。

でも・・・。


眩しい・・・。


カーテンの隙間から一筋の光が一人の少年の顔をかすめる。


・・・。やっぱり。夢か・・・。


そう思いながら仰向けの体勢から上半身を起こす少年、希山朝焼(きやまあさや)

寝癖がぼさぼさに立っており、目は半開き。


・・・。あれ? 今日は母ちゃん、起こしてくれねーのか。

あっ。そっか。今日から寮生活か。

よかったー。寝坊しないで。

・・・。じゃなかった。


いつもと違う部屋の内装を見渡して思い出す。


そう。俺は今日からここ、実霞晴嵐(みかすみせいらん)学園の生徒だ。


実霞晴嵐。ここ、桜月(おうづき)国実霞地方の実力組織、という肩書きにはなっている。

実霞晴嵐学園はその付属学校。実霞最大の学校で十四歳から通える二年制の学校だ。

広大な土地に実霞晴嵐本部や学園の校舎などが所在する。

学園は付属学校だが、卒業後の選択は自由。

実霞晴嵐に、無理に入る必要もない。

実際、卒業後にエスカレーター式で入る生徒は、三割程度らしい。


でも、俺がここへ来たのは・・・。


「悠・・・。(りん)・・・」


朝焼は拳を握り、鋭くまっすぐな視線を前に向けた。


制服に着替え、身支度を終えた朝焼は、桜舞う実霞晴嵐学園敷地内の道を歩き校舎へ向かっている。

寝癖はまだ少し立っている。

シャツのボタンは一つずつずれて留まっている。

ネクタイも緩く、今にもほどけ落ちそうだ。

辺りを見渡すと沢山の生徒が歩いている。

同じ年か、それとも先輩か。

慣れた歩行、迷い迷いの足取り。

様々だ。


「んっ。あっ」


朝焼は見覚えのある顔を見て声を漏らし、その人に向かって走り出す。


洋那(ようた)っ」


そこにいたのは同じ小学校に通っていた生徒、飛藤洋那(ひとうようた)


ここ桜月、いや、世界中で共通だが小学校は五年制であり通うことを義務付けられていない。

通う子供もいれば、通わない子供も多い。


朝焼が洋那に会ったのは、四、五年ぶりだった。

洋那も朝焼も、小学校をやめたあの日以来・・・。


洋那は、寝癖もなく制服もきちんと着こなしている。


「何でここにいるんだよ」

「・・・。朝焼。お前こそ・・・」

「・・・。あぁ。そっか。俺がいる方がおかしいよなっ」


よくよく考えれば洋那がここにいるのは何も不思議ではない。

むしろ、洋那からしたら朝焼がいる方が疑問だろう。

洋那は昔から宿り人だったが朝焼はいつ宿り人になったのか自分でも認識していなかった。


「実は特訓して簡単な斬技(ざんぎ)を扱えるようになったんだ」

「・・・。朝焼。ヴォーネが宿ったのか?」

「あぁ。だけど、よくわかんねーんだ。刺し傷はあるんだけど、何の傷でいつできたのかも知らねーし」

「・・・。そうか」


朝焼と洋那は会話をしながらそれぞれの教室に向かった。


会話をして分かった事だが、洋那は特晴(とくはる)コースだった。


実霞晴嵐には二つのコースがある。

一つは特晴コース。

簡単に言えば上級コースで、実霞の中で最難関の入試難易度を誇り、一学年に二クラスある。

そしてもう一つは通常コース。

名前の通り通常のコースだが実霞の中では入試難易度は高い。

通常コースは一学年に四クラスある。


朝焼は通常コースだ。

そう。通常コース。


洋那と久しぶりに会えて、うれしくて感情が高ぶったがこれじゃダメだ。

もっと隠さねーと。


朝焼のクラスは一年一組。入寮する前に貰ったしおりに書いてあった。

一年一組の教室は二つある校舎の内、第二校舎の二階にある。


教室に向かう途中の階段を上り終え、角を左に曲がろうとすると

「ドンッ」

という音が鳴る。


「いって」


二つの声が混じった。

朝焼は誰かとぶつかりその場に転んだ。

顔を上げると背の高い、恐らく他国出身であろう男が頭を抱えていた。

髪の毛は薄い水色の短髪で毛が立っている。

瞳の虹彩は灰色、そして筋骨隆々。


「すいません。大丈夫ですか?」

「ああ。こっちこそすまねー」

「あっ。あなたも一組ですか?」


その、外国人は床に落ちた朝焼のしおりを見て尋ねた。


「ああ」

「ボクもです。ボクはルリット・ウォーカーです。よろしく」

「俺は・・・。僕は希山朝焼って言います。よろしくお願いします」


朝焼は途中から、洋那と話していた時とは打って変わり、かしこまった態度で話す。


ルリットはアスワレド出身で朝焼と同じクラスの新入生。


この世界には現在八つの大陸、十六カ国の国が存在する。

桜月国は富雅島(ふがしま)大陸にある四つの国の一つ。

西に菊壱(きくいち)、南に凪ノ原(なぎのはら)と国境を接しており南西に京霖(きょうりん)という国がある。

ちなみに、アスワレドはカザシア大陸にある国の一つだ。


朝焼はルリットとかしこまった態度で話続け、少しすると教室に着いた。

教室に右足を入れると同時にチャイムが鳴った。

朝焼は急いで自分の席、四つの列のうち窓側から二列目の前から五番目、一番後ろの席に座った。

ルリットは朝焼の右隣の席のようだ。


席に着いてすぐに一人の男が入ってくる。


「おはよう。私は担任の不可地藍人(ふかちあいと)だ。よろしく」


どうやらその男は担任の先生らしい。

年齢は三十代半ばぐらいだろうか・・・。

そして、堅苦しそう。


そんなことを思っていると出席確認が始まった。


暮野段(くれのだん)志野原梨菜(しのはらりな)、・・・」


藍人が次々と出席を取っていると聞き覚えのある名前が聞こえてきた。


遠藤(えんどう)りのか」


え・・・? 遠藤・・・りのか?


遠藤りのか。洋那と同様、同じ小学校に通っていた元同級生。

いや、今も同級生だ。

朝焼の前に座っているため、顔は見えないが恐らく、あの遠藤りのかだろう。

小学校の時とは変わり、髪の毛はショートからロングに、身長も伸び大人びた雰囲気を放っている。


「希山朝焼」

「はい」


朝焼の名前が呼ばれ、返事を返すとりのかが振り返り朝焼と目が合う。

やっぱり、朝焼の知る遠藤りのかだった。

りのかは目を大きく開け、眉を高く上げ驚いている様子だ。


朝礼が終わるとすぐに遠藤りのかの元へ向かう。


「遠藤。久しぶりっ」

「希山。久しぶり」

「元気だったか?」

「うん。希山は?」

「おう。元気だったぜ」


久しぶりの会話で、それ以上話は弾まなかった。


軽く挨拶をしているとクラスメイトが入学式に向けて廊下に整列し始めていた。




太陽が最も高くなった頃。

今日の日程が全て終わった。

今日は入学式や校内案内などが行われた。

校舎内、八つの訓練施設(室内)、四つの訓練所(室外)など学園の保有施設を回った。


実霞晴嵐学園は全寮制だが基本的に自由。

授業が終わればその後は全て自由時間。

飯を食ってもいいし、寝てもいいし、出かけてもいいし、何をしてもいい。

だが、ここに通っている生徒がやることは一つだろう。

特訓だ。

午前中に案内された訓練所数か所で多くの生徒が特訓することだろう。


「希山君。訓練所行く?」


声がした左後ろに振り返ると黒いリムをした眼鏡をかけ、耳が半分隠れるくらいの髪の毛の長さで少し身長の小さい、クラスメイトの田暎廼錬(たはのれん)の姿があった。

朝焼と錬は入学試験の筆記テストで、隣の席に座り実技テストでも共に回った顔見知りだ。


「んー。俺は・・・。僕は行かない。田暎廼君は行くの?」

「うん。行くつもり」


だよな。ほとんどの生徒は行くだろうな。

まあ、俺はいつものとこ行くか。

・・・。いーや。ダメだ。遠い。

場所。探しに行くかっ。


朝焼はすぐに、家ではなく寮に引っ越してきたことを思い出した。


「気合が・・・たっりーーん」


朝焼が錬と話し終え、その場を離れようとした時、大きな声でそんな言葉が聞こえた。


「君。気合が足りないぞ。気が緩んでいる」


誰だぁー?


朝焼はそんな疑問を持っていたが、そう言ってきたのは同じクラスの白刻空磨(しらときくうま)だった。

白髪で短髪、体格は朝焼とほとんど同じ。

声はバカでかい。


「・・・。後は頼んだ」


朝焼は錬の肩を軽く押し、空磨の近くへと移動させ逃げた。


よし。行くか。


朝焼は実霞晴嵐敷地内の外に出て辺りを見渡すが建物がたくさん建っている。


・・・。まあ、少し東に行けば山や森の一つぐらい見つかんだろ。


三十分ほど歩くとちょっとした森の入り口に足を踏み入れた。

奥まで進むと高さ五メートル、横八メートル、奥に十メートルぐらいだろうか。大きな岩を見つけた。


よし。ここでいいだろう。


朝焼は岩から十数メートル離れたところに立ち止まり目をつぶった。


「すぅー。はぁー」


そっと空気を吸い、吐き出し鋭い眼光で岩を眺めた。


「斬技。(ざん)


朝焼は左から右へ、右手で手刀を振るった。

すると、三日月のような弧の形をした斬撃波が岩に向かって飛び、そのまま岩に直撃した。

ぽろぽろと少しだけ、岩が崩れる。


斬技、斬。刀の斬撃を衝撃波として体から放つ技。

斬撃が斬撃波となって遠くまで飛ばすことができる。

一言で言えば飛ぶ斬撃だ。

今回朝焼は、左から右に手刀を振るった事で横一メートルほどの斬撃波が飛んだ。

斬撃波の大きさは手刀を振るった大きさに比例するわけではなく放つ時にコントロールすることができる。

そして、斬技はこの斬を応用して扱う技で、斬は最も初歩的であり、また最も重要な技。


朝焼は次に、手刀の手の形のまま肘を曲げ、脇を閉めて指先を岩に向けた。


「斬技。突き」


朝焼は肘を素早く伸ばすと刀で突きを行った時のような斬撃波が岩に向かって飛んだ。

岩に当たると数メートル、岩の内部まで貫通した。

突きは斬とは異なり、突きの斬撃波が飛ぶ。

そのため、斬に比べて岩に当たった面積は遥かに小さいが貫通力が高い。


「ふぅー。もっとだ・・・」


朝焼はそのまま斬と突きを放ち続けた。

数十分経つと汗だくになった朝焼の手が止まり、膝に手をついて大きく息を切らした。


「はあはあはあ、ヴォーネが尽きたか・・・」


ヴォーネは斬技などを扱うためのエネルギー。

普通の人間は持たず、宿り人が持つ体内エネルギーだ。


朝焼は森の中を少しランニングしてから少し休憩し、ヴォーネが回復すると再び岩に向かって斬や突きを放ち続けた。


ヴォーネが尽きると、時にランニング、時に筋トレ、時にシャドーボクシングならぬシャドー打撃トレーニングを行い、回復すると再び斬などを放った。


これらを繰り返し、気が付けば月明かりが輝いていた。


「はあはあはあはあ。帰るか・・・」


朝焼は森を抜け寮に向かって歩き始めた。


少し歩くと、大きな物音が聞こえてきた。


「パリーン、ガシャーン」

「何だぁ・・・」


朝焼は、大きな音がした方へ走り出した。


「確かこっちから・・・」


朝焼は交差点を左に曲がると大きな袋を担ぎながら走る男四人とぶつかりそうになる。


「どけぇー」

「うわぁー」


朝焼は男に右手で思いっきり弾き飛ばされた。


「ククク。これを売ってその金をあの組織に献上すれば我らもその一員に」

「ああ。こんな地域とはおさらばだ」


朝焼は男たちの会話を聞き、目を大きく開きその男たちの方を見た。


「待てよ」


朝焼は男たちを追って走り、すぐに追いついた。


「何だお前は・・・。ぐはっ」


朝焼は瞬時に一人の男を飛びながら繰り出した左足での蹴りで吹っ飛ばした。


「貴様・・・。ガキの分際で。ヒーローごっこのつもりか? まあいい。大人の強さと怖さを思い知れせてやる」

「斬技。斬」


男2人が一斉に襲い掛かってくるが、朝焼は胸の位置から腰の位置へ、右手と左手それぞれで斜めに手刀を振るった。

まるで、二等辺三角形の等辺のように。


「ヒヒッ。斬」


男二人も斬を繰り出してくるが。


「ぶはーー」

「ぐほっ」


朝焼が放った斬の方が威力が高く、男の斬を粉砕して突き抜け、二人に命中する。


「ガキが」

「お前がリーダーか?」


どうやら残った一人がこの中のボスのようだ。


ボスは担いでいた袋を置き頭を左に倒し首を鳴らした。


・・・。来る。


ボスは左手で斬技、突きを放ってきた。

朝焼は右足を軸に左足を九十度反時計回りに回し、体の右側面をボスに向けるようにして避けた。

ボスはその隙に距離を詰めてきて、左手で拳を握り朝焼の顔面を目掛けて殴りかかってくる。

朝焼は軽く膝を曲げそれをかわす。

それと同時に左拳でボスの腹を殴る。


「くっ」


思わぬ一撃を受けたボスはおぼつかない足取りで後退した。

ボスは再び距離を詰め、至近距離で斬を横一文字に右手の手刀で放った。

朝焼は思いっきり上空に飛び、空中で前に一回転しながらボスを飛び越えた。

さらに、体を反転させボスの方を見た。


「斬」


朝焼は上空からボス目掛けて、斬を横一文字に右手の手刀で放った。

この戦闘一番の威力で放った斬は、二メートルほどの長さの斬撃波でボスに直撃し、余波は地面に命中した。


「ぐはっーー」


ボスは、意識はあるものの起き上がれずに倒れ込んだ。

朝焼はボスに近づき尋ねる。


「おい。さっき話してたあの組織って何だ?」

「フッ。なんだ・・・。興味・・・あるのか?」

「いいから答えろ」

「漆黒の窃盗団。お前も聞いたことあるだろ」

「・・・。なんだそれっ。ダサっー」


漆黒の窃盗団? そんなの聞いたこともねーし。

んっ? 窃盗団? あー。こいつら物、盗んでたのか。


朝焼は男達が担いでいた袋を見てそう考えた。


その後、少しして実霞晴嵐隊員が強盗犯四人を逮捕し、連行した。


強盗捕まえたのはいいけど・・・。

俺の知りたかった事は分からなかったか。


朝焼は浮かない表情で寮へ向かって歩き出した。




「う・・・。うぅ・・・」


まただ・・・。また、俺の前に悠がいる・・・。

悠・・・。なんでそんな心配そうな目で。

俺を見る・・・?

悠・・・。


少しすると、その少年、悠の姿が白煙のように消えていく。


悠・・・。待ってくれ。

悠ーーー。


「ゆうーーー・・・」


朝焼はそう叫びながら上半身を勢いよく起こす。

それと同時に額の汗が飛び散る。


「はあはあ・・・。またいつものか・・・」


午前八時四十八分。

朝礼が始まる二分前。


はあ、はあ。やべー。間に合うか・・・。


口に食パンを咥えながら朝焼が全力疾走で第二校舎に向かっている。

昨日に引き続きネクタイは緩く、ボタンはずれ、おまけにベルトも締まっていない。


朝焼が第二校舎の入り口に入ろうとすると一人の男とぶつかりそうになる。


「おっーと。あぶねー」


二つの声が混じる。


「すまん・・・。ルリットー?」

「スイマセン・・・。アサヤー?」


朝焼とぶつかりそうになった男は、同じクラスのルリット・ウォーカーだった。


「おう。ルリットー・・・。ごほん。おはようルリット君」

「おはよう。アサヤ」

「・・・。って。あいさつしてる場合じゃなかったー」


再び二人の声が混じり、響き渡る。


朝焼とルリットは猛ダッシュで階段を駆け上り、チャイムと同時に席に着いた。


何とか間に合ったようだ。


朝礼が終わり九時から授業が始まった。


今日の授業、一限はヴォーネについてだった。

藍人はヴォーネについて話し始めたが、最初の授業って事もありほとんどが基礎知識だった。

ヴォーネは斬技やその他の力を使うための体内エネルギーであること。

ヴォーネを持つのは、ネヴォントとマシーグ、ヴィーリアなどの宿り人で普通の人間は持たないこと。

人によって異なるが、ヴォーネは平均十三歳ほどから宿り始めること。


藍人はヴォーネの話をしつつ、授業の内容を広げた。

まずは斬技について話し始めた。


斬技は斬撃波を様々な方法で使う技。

その基本は斬技の斬。

斬は何も手刀でしか放てないわけではない。

蹴りやパンチ、それどころか体の至る所から放つこともできる。

宿り人に斬が命中すると、基本的には打撃の様なダメージを受けるが、ヴォーネや体力が無かったり、あまりにも実力差が開いている場合は刀で斬られる様なダメージを受ける。


ここまでは朝焼も知っている内容だった。


藍人は斬について少しだけ深堀して話し始めた。


斬はヴォーネを、斬を放つためのエネルギーに変換させることで放てるようになる。

そのエネルギーは斬エネルギーと呼ばれ、一発の斬に使用できるエネルギー量に上限があり、その量は小指程度であること。

そして、斬エネルギーは威力を出すための威力エネルギー、距離を出すための距離エネルギー、スピードを出すための速度エネルギーで構成されている。


へー。そうなんだー。初めて知った。


藍人は次に宿り人、ネヴォントについて話し始めた。


宿り人とはヴォーネを持つ人間の総称で主にネヴォント、マシーグ、ヴィーリアを指す。


ネヴォントは過去の戦士たちの力を得た者の総称。

その力を得るには、レリ・タァトゥムと呼ばれる過去の戦士たちの力が宿された道具を利用すること。

レリ・タァトゥムの内、武器、例えば剣なら、その剣で自身の腹を突き刺す事でその力を自身のものにできる。

その行為で、当然そのまま息絶える者もいるが、生き残りネヴォントとなる者もいる。

無事に生き残り、人間がネヴォントとなった場合は使用したレリ・タァトゥムは消え去るが失敗した場合はそのままその場に残る。

レリ・タァトゥムの内、腕輪やネックレスなどのアクセサリーは身に着ける事で力を得られるが、力を使えるのは一番最初に身に着けた者だけである。

加えて、安全に力を得られるが、前者に比べて得られる力は薄くなりやすい。

ネヴォントは努力次第で、元々力を持っていた戦士たち以上にその力を強化する事が可能だが、ほぼ全てのネヴォントはそこには到底たどり着かない。

現代の人間より過去の戦士の方が明らかに強いからだ。

その差は努力という言葉だけでは埋まらないほどに。

レリ・タァトゥムは使用者が亡くなると、その者のゆかりの地に再生成され未使用の状態に戻る。


藍人は次に、マシーグについて語り始めた。


マシーグは最近生まれたヴォーネを持つ者で、ものによって変わるが体内に縦二センチ、横一センチほどのチップを埋め込み、同化してヴォーネや力を得た人間の総称。

このマシーグになるためのチップはシグカチップと名付けられた。

埋め込む場所に決まりはない。

腹を貫く必要もないため安全に力を得られる上に、得られる力も薄くならない。

さらに、シグカチップに入っているデータにより()()()()を得る事ができるが、現代ではそのスペックを持つシグカチップは多くない。

そして、当然同じシグカチップを埋め込んだとしても人によって力量は変わる。

勿論、努力次第で強くなることも可能。

また、マシーグは体の一部を機械化することができる。

例えば左腕をシールドに変化させるなど。

マシーグは安全に力を得るために近年誕生した。


藍人は次にヴィーリアについて話し始めた。


ヴィーリアはマシーグと同時期に生まれ始めたヴォーネを持つ者で体内に特殊なウイルスや細菌を感染させ共存することで、力を得た人間の総称。

感染し共存させることで身体が強靭になり身体能力も向上する。

しかし、常に身体が強化されているわけではなくウイルスや細菌の力を使うと強化される。

そして、シグカチップと同様に()()()()を持つウイルスや細菌も存在するが現代では多くない。

ヴィーリアはマシーグとは異なり、安全に力を得られるわけではなく適合しなければ力を得られず、最悪、後遺症が残ったり死に至る場合もある。

ただ、現代ではほとんどのケースで安全に力を得ることができる。

ヴィーリアも当然、人によって力量は変わり、努力次第で変化する。



藍人は最後に宿り人が持つ素質能力と()()()()について語った。


宿り人はヴォーネが宿る事で素質能力が発現する。

素質能力はベガズと呼ばれ、人によって異なる。

ベガズは一人一種のみ発現する。

ベガズには、炎や氷などの属性系統や回復系統、幻術などの精神感覚系統などが含まれる。

また、属性系統には明確に定められているわけではないが、攻撃型、サポート型、万能型に区別されることもある。

ただ、ほとんどのネヴォントにとってベガズは微々たるものであまり使用されない。

マシーグとヴィーリアに関しては種類によって上昇幅は異なるが、ベガズを向上させる効果があるものがほとんどだ。

そのため、結構な頻度で使用される。

さらに、マシーグとヴィーリアにはそれぞれ固有のベガズが存在する。

マシーグは機械化、ヴィーリアは身体強化がそのベガズに当てはまる。


そして、宿り人には特殊な力を持つ者もいる。

この特殊な力はベズンズと呼ばれている。

ネヴォントのベズンズは戦士が持っていた力を指す。

ネヴォントは基本的にこのベズンズと斬技がメインウェポンになる。

マシーグとヴィーリアのベズンズはシグカチップやウイルス、細菌の種によって得られる固有の特殊な力を指す。

ただ、ベズンズを持つシグカチップやウイルス、細菌は現代ではまだ少なく、例えそれを持つものを使用したとしても発現するとは限らない。

さらに、ヴィーリアにはベガズとベズンズの中間の様な能力を持つ者も存在する。

全てのウイルスや細菌が持つベガズでもなく、種によって得られる固有のベズンズとも異なり、例えば三種類の異なるウイルスが同じ能力を持つ場合などがベガズとベズンズの中間に位置する能力となる。




授業が終わり休み時間に入ると朝焼は隣のルリットと話し始めた。


「なあ・・・。ごほん。ねえ、ルリット君はネヴォント?」

「うん。腹の左のほうにキズがあるよ」

「そっかー・・・。そうなんだね。いつからあるの?」

「十二歳か・・・、うわーーー」

「バタンっ」


ルリットは話ながら足が四つある椅子の後ろ二つの足だけを床につけ、前後に揺れながら座っていた。

しかし、後ろに揺れすぎて背中から床に落っこちたのだ。


あはは・・・。俺もよくやったなー。


「ルリット君、大丈夫?」

「うん。大丈夫。朝焼は、ネヴォント?」

「うん。刺し傷が腹の右の方にあるぜ・・・、よ」


倒れたまま話すルリットに、つい、いつもの口調で話しそうになる朝焼。


「ねえ。希山君。昨日強盗犯捕まえたんだって?」


ルリットと会話をしていると同じクラスの追沢伸徒(せりざわしんと)が尋ねてきた。

青いリムの眼鏡をかけていて、黄色の髪の毛で耳にかかる位の長さ。

朝焼とは初めての会話だ。


「あー。おう。とっ捕まえたぜ」

「すごーい。相手は複数人だったって聞いたよ? ま、まあ。僕もそれぐらいは簡単にできるけどね」

「・・・。そうなんだー」


最初は素直に褒めた伸人だったが急に張り合ってきた。


そうして話している間に休み時間は終わり、次の授業が始まった。




「ぴんぽんかんこーん。ぴん・・・」


目覚まし時計のアラームが鳴り響き目を覚ます朝焼とルリット。

午前の授業が終わり、昼休みのようだ。


朝焼はルリットと錬と共に一階にある学食へ向かった。


「すげぇー。うまそー」


朝焼とルリットは同時に声を発した。

朝焼はオムライス、ルリットは鯖の塩焼きを注文し、口にしている。


「おっ。錬は・・・。ごほん。田暎廼君はお弁当?」

「うん。今日はたこさんウィンナーがうまくできたんだ」

「すげーーー。たこだーーー」


朝焼とルリットは、再び声がハモる。


「って。錬。弁当、自分で作ったのか?」

「うん」


せっかく口調を直したのに、直ぐに口調が戻る朝焼。

錬は自分で作った手作り弁当を食べている。

ご飯に卵焼きが四切れ、たこさんウィンナーが三つ、ほうれん草とベーコンの炒めが少々という構成だ。


三人が昼食を食べていると周りのテーブルで昼食を取っている生徒が朝焼に話しかけてくる。


「ねえ。君が希山朝焼君? すごいね。強盗犯、とっ捕まえたんでしょー」

「あ・・・。ああ。とっ捕まえたけど」

「しかも、相手は二十人いたって聞いたよ」

「え・・・。に、にじゅう・・・?」

「それだけじゃないよ。全員かなりの実力者で極悪組織の幹部だったらしいよ」

「は、はー? そしきのかんぶ・・・?」

「すごーーい」


続々と朝焼の周りに生徒が集まってきて朝焼をほめまくる。


あのー・・・。大分尾ひれがついているんですけど・・・。

人数は五分の一だし、組織の幹部でもないし・・・。

てか、やべー。目立っちゃってる・・・。



そんな場は収まり、午後の授業が始まった。

午後の授業は室内の第七訓練所で訓練を行うようだ。

今日は斬技、斬を一人ずつ出席番号順に、一人三回壁に向かって放つ小テストのようなものを行うようだ。

一回目は手刀で放ちぎりぎりで壁に届くように、二回目は本気で、そして、三回目は手刀以外の体勢で放つようにとのことだ。


斬は横三十メートル、縦十メートルのハルシュベラーという金属で作られた壁(板)に向かって放つようだ。

ハルシュベラーは硬いうえに衝撃をかなり軽減するため斬などを放つサンドバッグとして重宝する金属。

このハルシュベラーを使って作られた板をハルシュ(いた)と呼ぶ。

訓練所の壁はハルシュ板が取り付けられてできており、板の付け替えも手軽に行えるようになっている。

そして、このハルシュ板は斬の威力が高いと音が鳴る仕組みになっている。


出席番号一番の生徒、暮野段が呼ばれ、その板から三十メートルほど離れた位置にあるテープで作られた目印まで歩いて、位置に着く。


「好きなタイミングで打っていいぞ」


藍人の言葉に頷き視線をハルシュ板へ向ける。


一回目、放った斬はハルシュ板には届かずに消えた。

二回目、本気で放った斬はハルシュ板に勢いよく当たったが音は全く鳴らなかった。

三回目、段は右足でミドルキックを繰り出し、斬を放った。

斬はハルシュ板に当たったが勢いは二回目より明らかに弱かった。


すげー。足で放てんのかよ。


段の小テストが終わると続いて二番の誌野原梨菜が位置に着く。



次々と小テストを終え六番、田暎廼錬の順番がきた。


一回目、軽く放った斬は消えるか消えないかのぎりぎりでハルシュ板に命中した。

二回目、本気で放った斬はハルシュ板に当たったが音は鳴らず威力もまずまずだった。

三回目、錬は右ストレートで斬を放った。斬はハルシュ板に届いたが威力は二回目よりも弱かった。


錬は斬の強弱のコントロールがうまいな。



少し時間が経ち十番、ルリット・ウォーカーの番がきた。


一回目、軽く放った斬はハルシュ板に届く・・・、どころか数メートルで消え去った。


「あっ・・・」


ルリットは思わず声が漏れる。


二回目、本気で放った斬はかなり勢いよくハルシュ板に命中した。

音は鳴ったがかなり小さく、ほとんど聞こえなかった。それでもここまで九人の生徒が小テストを終えているが、音が鳴ったのは初めてだった。

三回目、ルリットは一回目とは反対の右手で手刀を振るい斬を放った。


「・・・。手刀で放ってんじゃん・・・」


ルリットの小テストを見ていた朝焼は、つい声を漏らした。

どうやらルリットは一、二回目以外の方法ならどんな体勢でもいいと勘違いしたらしい。



さらに、時は流れ十五番、朝焼の順番が回ってきた。


一回目、軽く放った斬はルリットよりは飛んだが大分手前で消え去った。

二回目、本気・・・、ではなく力を入れずに放った斬はハルシュ板に届いたがかなり威力が弱く音も鳴らなかった。


・・・。これでいい・・・。


三回目、朝焼は右足でミドルキックを繰り出したが斬を放つことすら出来なかった。



また少し時間が経ち、二十名全員の小テストが終わった。


「よーし。全員終わったな。今後しばらく斬の訓練を重点的に行う」


藍人は全員の小テストの結果を見て今後の方針を決めた。


「お言葉ですが先生。私共は高みを目指してこの学園に入学しました。にもかかわらず、斬を重点的にというのは理解しかねます」


そう発言したのは、出席番号四番、村園茉菜香(むらぞのまなか)

肩にかかる程度の黒い髪の毛を一本結びでまとめている。

そして、どうやら性格はお堅いようだ。


「村園さんの言う通りです。斬を学ぶよりも他の斬技、ベガズやベズンズを鍛えた方が良いのでは」


続けて発言したのは、出席番号二番、志野原梨菜。

薄いピンク髪で長さは茉菜香と同じ位でストレート。


「えぇーっと・・・。知っての通り、斬は最も基本的な技であり最も重要な技でもある。その基礎も思うように扱えん奴らが他の力や技を鍛えた所ですぐに行き詰り、その先へ進めなくなるぞ」

「それなら。私たちは斬を扱えています」

「どこがだ?」

「え?」

「威力の強度、コントロールの精度、どちらかはある程度のレベルでこなす者もいたが両方をそのレベルで扱える者は一人もいなかった。加えて、手刀以外の方法で放つという課題に関しては、まあ酷いもんだな。誰一人思うように放てていない」

「う・・・」


藍人の言葉を受け、言葉を失う茉菜香と梨菜。

その他の生徒は下を向く。


「いいか。斬を扱えるというのはな」


藍人はそう言いながらハルシュ板目掛けて右手でデコピンを撃つ。

すると、この日一番の威力で斬がハルシュ板に命中し音も鳴る。


「い・・・」

「こういう事を言うんだ」


す、すげぇー・・・。


デコピンで放たれた強力な斬に驚きを隠せない生徒達。


「分かったか。基礎をおろさかにし、大して扱うこともできやしないのに、扱えていると勘違いしている奴が高みへの階段を上れるわけないだろ。これからお前らには、最低限これ位は使いこなせるようになってもらうぞ」

「はいっ」


生徒は藍人の放った斬を見て授業方針に納得した。



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