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忘れがたき炎の物語  作者: 判虹彩
老龍編
6/21

第6話「満月の夜に」

さてさてクライマックスざんすよ!

満月が夜空に浮かび上がり、月明かりが“深淵なる森“を照らす。

東の空から物凄い速さで、大きな影が月明かりを一瞬遮る。


『グオオオオーーーーーン!!』


その咆哮は、まさに“悪“に対しての“怒り“であった。

竜の女が生まれて初めて知った、人間の“善“に対する悪への“反撃“であった。

「私の大好きなものを壊すな」という少女の心の中からの叫びであった。


魔導士トーレスは、洞窟の上部の入り口に目をやった。

『ちっ!サンボラめ!しくじったな!!』


両手にガラとドロレスを抱えたドラゴンは、洞窟の上部から老龍の目の前に降り立った。


ガラとドロレスがさっと地面に降りる。

『あんたらの狙いは何だ!?神聖なものを踏み躙ってまで得たいもんなのか!?』

ドロレスがバトルアックスの矛先をトーレスたちに向けた。

『貴様らには分かるまい!我々の崇高な目的が!』

『崇高だがなんだか知らんが、この俺を怒らせた罪はデカいぞ!』

ガラは名刀“メタリカ“を抜いた。

『貴様らは、わが“ブラインド・ガーディアン“の真の平和への礎にしてやろう!』


トーレスたちは手をかざし、紫色のオーラをまとった。

『くらえっ!』

紫色の破壊光球“ディストーン”が一斉に放たれる。

ガラとドロレスはひらっとかわした。

ドラゴンのセレナは翼で掻き消し、トーレスに向けて火を吹いた。

『ちっ!』

トーレスは、横に飛んでかわす。


洞窟内が爆発音で響き渡る。


『オーバードライブ!』

ガラは名刀メタリカに火をまとわせた。


『ロイヤル・ハント!』

ドロレスのバトルアックスが高速回転しながら魔導士たちを襲う。


魔導士たちはひらりと身をかわした。

『どうやら街にいた魔導士連中たちよりもできるじゃないか!』

ドロレスは回転しながら戻ってくるバトルアックスをキャッチした。


その時、ヴァノが再び動き出し、口から波動を放った。


コォーッという轟音と共にトーレスを襲うが、慌ててよける。その一瞬の隙を突いて、セレナは尻尾を振り払い、トーレスに直撃させた。

トーレスは吹き飛んで壁に激突した。ドゴォン!という音共に、壁が崩れる。


『トーレス様!』

魔導士たちがトーレスの方を向いた瞬間、ガラは魔導士二人の間に入った。

『よそ見してんじゃねえよ』

ズバッと二人の魔導士を瞬時に焼き切った。


ドロレスもその一瞬の隙を逃さなかった。

魔導士たちに向け飛び上がり、斧を一閃。魔導士たちを真っ二つにした。


『よし!』


瞬く間の出来事であった。一瞬のうちに魔導士たちを撃退してしまったのだ。


『大したことない奴らだったな』

『ああ、だがオーブが何故必要なのか聞き出せなかった。』

ドロレスは笑う。

『とりあえず守れたんだから、よしとしよう!』

ヴァノは二人に語りかける。

『安心するにはまだ早いぞ…』


その時、セレナに吹き飛ばされたトーレスは、瓦礫の中からゆっくり立ち上がった。


『…古代魔導王朝をご存知かな?』


『ほう!あんた意外としぶといんだな』

ドロレスは両手を腰に置きながら言う。


トーレスは続けた。

『今の世界が始まる前に、実に1000年もの歴史を刻んだ偉大なる魔導王朝“ヴィルト“。我々は日夜その文明の文化、技術、哲学、様々な分野に至るまで研究を重ねている。』


『なにを喋ってる?』ガラは怪訝な顔でトーレスを睨みつけている。


『様々な発見や驚きの連続なのだよ。今の世界があっと驚くほどの高い水準の文明だったのだ。』

トーレスはゆっくり歩き出した。

『アングラ様は、この高い水準の文明を今の世の中に甦らせさえすれば、素晴らしい理想郷を築くことが出来るとお考えなのだ。』

『君らももうウンザリだろう?戦争や飢餓、疫病、そして異常気象や自然災害などなど。』

セレナはドラゴンの姿でトーレスを睨みつけている。

『それらありとあらゆる人類に対しての課題を乗り越える術が、古代の帝国には存在したのだ!』

『ふーん。で、オーブを使って何をする気なんだ?』

ドロレスがそっけなく聞く。

『このオーブは、世界の均衡を保つとされている。それはドラゴンの霊力によってのみ、能力を発揮する。…そう言い伝えられてきた。しかし、我々の研究によれば、さらに、素晴らしい効果を発揮出来ることが分かったのだ!』

『ほーう。そらなんだ?』

ガラに対して目を向けるトーレス。

『すなわち、人心だよ。人々の生み出す憎悪、エゴ、怠惰。それらを抑制することが出来るのだ!素晴らしいとは思わないか?』

ドロレスは言った。

『たしかに、それが実現したら平和な世の中になるかもな!だが、あたしはごめんだ。人の心の中をコントロールするって?気持ち悪くてしょうがないね!』

ガラは言う。

『俺は、かつて勇者と共に様々な戦争に参加してきた。あんたの言うことも一理あるさ。人間なんざ、憎悪と憎悪の連鎖から抜け出せやしないんだ。』

『おお…炎のガラよ。お前なら分かってくれると思ってたぞ!』

『だがな、お前らのやり方は気に食わねえ!お前らの“平和“とやらのために、他の人間やドラゴンを犠牲にするってこと自体がエゴの塊じゃねえか。クソ矛盾してるぞ。』

トーレスは顔を強張らせた。

『…実に残念だよ。我らの理想こそが人類の希望であるのに。やはり、貴様らは人類にとって邪魔な存在なのだ。それは排除せねばならない。』

ドロレスは呆れた感じで言う。

『はっ!お前分かってんのか?まわりを見てみろよ!追い詰められてんのはお前だぞ?』


その時、セレナが思念でガラたちに話しかけた。

《気を付けて!こいつ何か隠してる!》


トーレスは懐から何かを取り出した。何やら先が尖った棒のような物だ。

『これを使うと、二度と元には戻れない。最後の手段だったのだが、俺はアングラ様の理想の為に、この身を捨てると今宣言しよう!』

手に持っていた棒を自分の首元に突き刺した。


その時、トーレスの体が激しく震え出した。

『グググゴゴゴ…』


ガラとドロレスは身構える。

『一体何をした?』


突然、トーレスの背中から2本の腕が飛び出した。そして足の付け根からさらに2本の足も飛び出した。さらに体が巨大化していく…

『グボァッ…!』


なんと、トーレスは巨大な大蜘蛛へと変身してしまった。

『キキキキ…!』


ドロレスは震えた。

『うげげっ!気持ち悪い!あたしは蜘蛛が苦手なんだ!』

『くるぞ!』


大蜘蛛は、ガサガサっと足を動かしながら、物凄い速さでガラたちに向かってきた。


ドロレスは、バトルアックスを深く構える。

『真っ二つにしてやる!』


次の瞬間、大蜘蛛は、紫色の液体をドロレスに向かって飛ばした。それがドロレスの体にかかる。

『うっ!何だこれは!』


ドロレスは、真っ青な顔になり、膝を付き、嘔吐した。

『くそっ!毒だ。くらっちまった!』


ガラはメタリカを構え、大蜘蛛に突進した。

『この野郎!』

大蜘蛛は、目にも止まらなぬ速さでガラの剣を交わした。

『は、速い!』

次の瞬間、大蜘蛛はガラの背後に回った。

《危ない!》

セレナが思念でガラに話したその時、

ズンッ!と、大蜘蛛の爪が、ガラの背中を突き刺した。

『グハッ!』

ガラは倒れた。そして、ドロレスも倒れてしまった。

セレナはすぐに大蜘蛛に向けて火を吹くが、大蜘蛛はひょいとジャンプし、交わした。そして、天井にくっ付いた。

《速すぎる!》


ヴァノは口を開けて波動を出そうとする。

『コォー…』

しかし、波動は放たれなかった。ヴァノは力尽きて倒れてしまった。ズズーンという音が洞窟に響き渡る。

《ヴァノ!》


大蜘蛛は尻をセレナに向けた。ビューッと勢いよく糸が飛び出し、セレナに巻き付いた。

糸は強靭で、セレナはバランスを崩して倒れ込んだ。


あっという間に、形勢は逆転し、ガラたちは万事休すとなった。


『な、なんてこった…』

ドロレスは体を震わせ、地面に顔を付けながら悔しがった。


大蜘蛛トーレスは「キキキキ…」と不気味な音を立てながら、オーブに近付いていく。


その時であった。


大蜘蛛の背後から、一つの影が飛び出した。

ハーフドラゴンのジェズィである。彼は雄叫びを上げながら、槍を大蜘蛛の背中に突き刺した。

『ぐおお!』

大蜘蛛はもがき苦しむ。


ジェズィは、すぐさまドロレスを起こし、ガラの元へ行く。ガラはかろうじて息があった。

『か、鞄を…』

ガラはジェズィに道具の入っている鞄を持ってくるよう伝えた。

『これかい?』

ガラはジェズィにマリル特製ドリンクを持たせ、ドロレスに飲ませた。

んぐっんぐっと、ドロレスがドリンクを飲み干す。

ドロレスは、目を見開きすっと立ち上がる。

『うおお!な、何だこの飲み物は?力が漲ってくるぞ!』

鞄の中からもう一本の特製ドリンクを取り出し、今度はドロレスがガラに飲ませた。

ガラはヨロヨロと立ち上がった。

『やばかった。こいつ、変身するとは…』

ドロレスは、鞄の中からシュリケンを取り出した。

『何だこりゃ?』

ガラはシュリケンだと伝えると、ドロレスは何やらピンときた様子だ。

『よう、ハーフドラゴンの兄ちゃん!ありがとな!ちょっとだけ時間稼ぎ出来るか?ガラと二人で』


その時、大蜘蛛は背中の槍を自ら引っこ抜き、バキッと破壊し、捨てた。

再び不気味な音を立てて、ガラたちに近寄る。


『次はもう食らわねえぞ…』

ガラはもう一度オーバードライブを発動させ、メタリカに火をまとわせた。

ジェズィはドロレスからバトルアックスを受け取り、構える。

大蜘蛛がガラに向かって飛んでくると同時に、ガラは手をかざした。

『ファズ!』

ドンという音と共に、大蜘蛛の目元で閃光と爆発が起きる。ガラはすぐさまサッと大蜘蛛の足を一本切断した。

『ギャース!』

ジェズィがアックスで切り掛かる。寸前で大蜘蛛が横に飛んでかわした。

『さっきより動きが鈍くなってるぞ!』

大蜘蛛はジェズィとガラに向けて紫色の毒を飛ばす。が、咄嗟に二人は避けた。


二人が攻防を繰り返している間、ドロレスは、シュリケンを手に持ち、セレナの元へ近付く。

『ロイヤル・ハント!』

シュリケンは、高速で回転しながら、セレナに巻き付いた糸を切っていく。

セレナは体制を立て直した。


その時、大蜘蛛の足がジェズィに命中し、ジェズィを吹っ飛ばした。

『ぐあっ!』


セレナがすぐさま参戦し、ガラと二人で大蜘蛛を攻撃する。しかし、動きが衰えたとはいえ、ガラの剣は大蜘蛛を掠るのがやっとだ。セレナは火を吹くがやはり避けられる。

ドロレスは、ジェズィの元に駆け寄った。

『大丈夫か!あんたよく頑張ったよ。そこで休んでな!』

ジェズィから再びバトルアックスを受け取る。


『うおお!』

ガラは背中の傷がひびいて、だんだんと動きが遅くなっていく。またしても大蜘蛛の爪が襲いかかる直前で、ドロレスがバトルアックスで防いだ。

二人は後ろに吹き飛んだ。

『ぐあっ!なんて力だ!』


その時、ガラはドロレスにボソボソと何やら話し出した。(いいか…四隅だぞ…)そう聞こえた。


次の瞬間、ドロレスは、大蜘蛛とは対角線の洞窟の隅へ走り出した。


『!?』大蜘蛛トーレスは、少し不思議に思ったが、セレナの尻尾が飛んできて、再びかわした。

その時、ドロレスは地面を殴り、穴を開けた。

そして、また反対の壁沿いに走り出した。


ガラはヨロヨロと起き上がり、剣を構えた。

神経を集中させ、剣を地面に突き刺した。

『いいぞ…その調子だドロレス!』


その瞬間、大蜘蛛はまたしても糸を吐き、セレナに巻き付かせた。

『しまった!』


ドロレスは、一瞬躊躇したが、そのまま、壁沿いに走り出す。

『間に合ってくれ!』

ガラは光球を放つ。

『ファズ!』


大蜘蛛はとっさに避けた。そして、糸でぐるぐる巻きになったセレナを天井にくっ付けた。

強靭な糸はドラゴンの重みでも取れないようだ。

その後くるっとガラの方を向いて襲いかかる。


ガラは剣を抜き、大蜘蛛の爪撃をとっさに防ぐ。

ガキーン!という音が響く「さすが壊れねぇな!この剣は!」ガラはすぐさま振り抜く。

シュバッという音と共に、大蜘蛛の顔横にヒットした。

『ギャース!』大蜘蛛はもがいている。


その時、ドロレスが叫ぶ!

『ガラ!準備オッケーだ!』


ガラは再び剣を地面に突き刺す。

しかし、天井にセレナがくっ付いたままだ。

ガラは頭の中を急速に巡らす「どうする?セレナを助ける?大蜘蛛はドロレスに任すか?いや、ドロレスもやられてしまうかもしれん。」

ガラはドロレスに叫ぶ。

『ドロレス!大蜘蛛の動きを封じれるか?』

『なんとかやってやるさ!セレナはどうする?』


《私にダガーを投げて!》


ガラとドロレスの頭の中にセレナの思念が聞こえた。「ダガー?」「鞄だ!」

ドロレスは鞄の中からトゥインゴからもらったダガー“スキッドロー“を取り出した。

《それを私の口に向けて投げて!》


セレナは逆さに吊るされ、顔だけが出ている。


ドロレスは、すぐさまダガーをセレナに向けて放り投げる。ヒュルヒュルと音を立てて、セレナに向けて飛んでいく。


「ガチっ!」セレナは見事口でダガーを捉えた。


その時、大蜘蛛は再び体勢を整える。

『ちっ!そこで大人しくしてろ!』


セレナは人間の姿に戻り、ぐるぐる巻きの糸をダガーで切り裂いた。そして、そのまま大蜘蛛の上に落下したのである。

ダガーが、大蜘蛛の首元に突き刺さった。

『ギャッ!グエッ!グエッ!』

大蜘蛛はもがいている。


『よし!セレナ!こっちに来るんだ!』

ガラはセレナに呼び掛ける。

『ダメだ!ガラ!私が抑えてないと、また動き出す!』

大蜘蛛は足をバタバタさせている。

『ドロレス!』

『あいよ!』

ドロレスが、バトルアックスを持ち、セレナの元へ駆け付けようとしたその時であった。


グサッ!


大蜘蛛の爪がセレナに刺さる。

『ぐっ!』

グサッグサッ!さらにセレナに容赦なく爪が刺さる。

『やめろおおお!!』

ガラはありったけの声で叫んだ。

大蜘蛛は糸を再びセレナに巻き付け、自分の背中にそのままくっ付けた。


『ウゴクナ!コイツニトドメヲサスゾ!』

大蜘蛛トーレスは足の爪をセレナの喉元に当てがい、ドロレスに言う。


ドロレスは、ギリギリと悔しさいっぱいの表情でジリジリと下がる。


ガラは涙を流して剣に手を掛ける。しかし、ガラは何も出来ずに、立ち尽くしているだけだった。


《ガラ!ファイヤーハウスを撃って!私のことは気にしないで!》


『やめろ、いや、今助けてやるから!』


《ダメだよ!もうこうするしかない!ガラ!分かってよ!》


『クソォォォオ!』


ドロレスにも思念が聴こえている。

ドロレスの頬にも涙が流れ出る。


ガラの頭の中には、またしてもあの悪夢が蘇ってきた。燃え盛る家々、逃げ惑う人々、腕の中で死にゆく愛しき妻ウラ。

『また…俺は…失っちまうのか…』

ガラの顔は涙でぐしゃぐしゃになった。


《大丈夫だよ。私はもう十分生きた。最後にガラに色んな場所に連れて行ってもらって、本当に楽しかったよ。》


『くそぉ…くそぉ…』


大蜘蛛は言った。

『オマエラ!ソノママニシテロヨ!オーブハモラッテイク!』


《撃って!ガラ!》



『ファイヤー・ハウス!!!!』



その瞬間、ドロレスが開けた四隅の穴の内側の地面から物凄い勢いの火柱が上がった。

ゴオォォォオ!という轟音と共に、洞窟全体を焼き尽くす。

洞窟の天井は吹き飛び、さらに火柱は大きくなっていく。

『オ…オ…オ…!』

大蜘蛛は焼き焦げ、消し飛んだ。





《ガラ…楽しかったよ…ありがとう…》



ガラは力無くその場に膝から崩れ落ちた。

ドロレスは、涙いっぱい溜めたまま、ガラを抱き寄せた。


いつの間にか満月は沈み、東の空が白み始めていた。


ええっ!?どうなっちゃうのよ!?

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