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忘れがたき炎の物語  作者: 判虹彩
老龍編
5/21

第5話「老龍ヴァノ」

さてさてどうやることやらですね!

ーーー少し時間を遡ろう。

ガラがダイヤモンド・ダレルで報酬を受け取り、店から出た後、ギリオスはしばらく頭を抱えていた。

『まさか、やつが…本当にドラゴンを退治してくるとは…しかも、3匹だと?現役を退いたとはいえ、なんという男だ。』

『…今回は失敗だ。これは報告せねばなるまい。』


ギリオスは護衛の二人に声をかけ、店を出た。

パンテラ北門付近にある、とある空き家。ギリオスはキョロキョロとあたりを見回しながら、そこへ入っていった。

入り口には、魔導士が二人並んで立っている。

『これはギリオス殿。さ、中に入られよ。』


家の中にはテーブルがあり、奥には椅子に座った男がいる。周りの魔導士とはローブの色が少し違う。上位の役職者だろうか。

『ギリオス殿。いかがされたかな?』

『いいか、よく聞けよ。あいつが…ガラが帰ってきた。』

『何ッ!?』

魔導士の男は少し驚くと、ゆっくり拍手をした。


『さすがは元勇者の仲間。炎のガラとはただのお飾りではなかったか。』

ギリオスは額に汗を滲ませながら言った。

『頼む…もう俺には無理だ。金なら幾らだってくれてやる。だから、娘を…俺の娘を返してくれ!』

男は表情を変えずに言った。

『おいおい、何を言う。まるで我々がそなたを脅迫してるような言い草ではないか。心配するな。娘は無事だ。やむを得ず保護していただけさ。父親が我々の“治安維持活動“に協力している間だけな。』

ギリオスの頬から汗が滴り落ちる。

『ただ、このままお前を帰すわけにはいかないな。ギリオス、お前は知りすぎた。』


男は入り口にいた二人を呼んだ。

『こいつを始末しろ。証拠は残すな。』


『…!ま、待て!』

ギリオスが何かを言いかけた時、後ろから来た魔導士の男の一人が、何やら呪文のようものをボソっと呟いた瞬間、ギリオスの瞳孔が開き、そのまま動かなくなってしまった。口は僅かに開いたまま、手は力無く垂れ下がっている。

そのまま魔導士の男はギリオスを操るように手をかざし、外へと連れて行った。


上位の魔導士は、何やら五角形の形をした不思議な物体を取り出し、そこにぶつぶつと呪文を唱えながら手をかざした。しばらくすると、その物体から声が聞こえた。

『サンボラよ。どうした?』

『アングラ様。ギリオスがやってきました。ガラが生きて帰ったとのこと。』

『ほほう、それは意外だな。と、いうことはコンパルサにドラゴンは居なくなったということか。』

『おそらく。ギリオスの娘はいかがしましょう。』

『好きしろ。で、奴は始末したのか?』

『はい。』

『よろしい。ガラは今どうしてる?』

『後をつけさせております。何やら女を連れているようです。』

『女?…竜族か?』

『まだ分かりません。調査中です。』

『何かあったら随時報告するように。』

『御意。』


男は不思議な物体を懐にしまった。古代文明の遺物だろうか。古代魔導帝国は、1000年の栄華を極め、ガラがいる時代よりも遥かに高い技術が発達していたという。しかしながら、それがなぜか崩壊し、一旦人類は原始的な生活へと戻されてしまったのだ。

魔導士たちは、古代文明を研究しながら、様々な技術や魔法を密かに復活させていたのだ。


ーーーそして、時間は現在に至る。


ガラとドロレス、セレナは絶体絶命のピンチを迎えていた。

魔導士が信号弾を放った瞬間、四方八方から魔導士や憲兵たちがわらわらと集まってきて、三人を囲んだのだ。

『おとなしくしろ!無駄な抵抗はするなよ!』


ガラは思った。「ここでファズ(閃光弾)を放つのには相手が近過ぎる。二人も巻き添えを食っちまう」

その時、ドロレスが前に出た。




『ふん!この程度の人数であたしを捕えるってのか?笑わせんな!』



ドロレスはバトルアックス(両刃斧)を深く構えた。


『ロイヤル・ハント!』


その瞬間、物凄い勢いでドロレスのアックスが回転し、憲兵たち目掛けて飛んでいった。ズバズバと彼らを切り裂き飛んでいく。ドロレスは手を動かしながら、念力で斧を操っている。

『ぐああ!ぎゃあっ!』


『くっ!こいつはまずいッ!』

魔導士はもう一度信号弾を放った。

さらにわらわらと憲兵が集まってくる。

『ちっ!キリがないな!』

ドロレスは斧を再びキャッチした。


『よし!距離が取れた!ドロレス!目をつぶって伏せろ!』

ガラが手をかざして叫ぶ。

『ファズ!』

ガラの手から閃光弾が放たれ、魔導士の目の前で爆発した。

『ぐおおおっ!』

閃光と共に、魔導士は後ろに吹き飛ばされた。

まわりの憲兵たちも目が眩んでいる。


ドロレスはすぐさま立ち上がり、二人に呼びかけながら、路地裏へ走って行く。

『二人とも来るんだ!下水路から逃げるぞ!』


吹き飛ばされた魔導士は、すぐさま叫んだ。

『何をしている!追え!追うんだ!』


あたりは騒然としている。夜中に、信号弾や爆発音が響き渡り、住民たちも心配そうに外に出てきた。

魔導士の男は、集まっている住民たちに声をかけた。

『お騒がせしてすみません。問題はありませんので、どうか家にお戻りくだされよ。』


戻っていく住民たちを見送りながら、懐から五角形の通信装置を取り出した。

『アングラ様。サンボラです。ガラが現れました。』

装置から声が聞こえる。

『捕えたのか?』

『いえ、下水路を伝って逃げております。追跡中です。それと、朗報がございます。やはりガラと同行している女は竜の巫女でございました。』

『これで情報が一致したな。』

『はい、そろそろ調査隊がコンパルサに到着する頃かと。』

『ドラゴンは3体。1体をガラが倒したとして、もう1体は、巫女。コンパルサに居たとしても1体ならば、容易いことよ。よし、そのまま潜入を開始せよ。』

『御意。』



一方その頃、ガラたちは、下水路をひた走っていた。後ろの方で憲兵たちの叫び声がする。

『トゥワンゴのくれたマキビシってやつが役に立ってるな!さすがだぜ!』

『このまま、そこを右に曲がって、まっすぐ!そうすれば川に出るはずだ!』

下水はパンテラの東付近に流れる“サーティ川“へと繋がっている。


その時であった。セレナは、体中に強烈な悪寒を感じた。

『…!?』セレナは急に立ち止まった。

『セレナ!どうした!?』

『おい、嬢ちゃん!まだ追っ手が来てるんだ!』

『…大変だ。コンパルサが危ない!』


ガラは一瞬何のことか分からなかった。

『何言ってんだ?早く走れ!』

『ガラ!誰かが森に入ってきた!竜族たちと戦ってる!このままじゃ危ない!ヴァノが!ロンフォが!』

『ヴァノ?ロンフォ?い、一体何言ってんだ?』

セレナは唾を飲み込み、涙を浮かべながらガラに言った。

『ヴァノは、老龍でうんと昔からロンフォていう玉を守ってるの!ロンフォは世界を穏やかにするんだ。あれがないと世界はとても危険になる!たくさんの悪い奴らがコンパルサに入って、玉を奪おうとしてる!ヴァノが死んじゃう!私助けに行く!』


ドロレスが後ろを確認しながら言う。

『何かの本で読んだことがあるよ。世界の均衡を保つオーブがあって、ドラゴンがそれを守ってるって。お嬢ちゃんが実在するんなら、そのオーブも実在するってことだ!』

ガラはハッとした。

『魔導士の狙いはそこか!』

『きっとそれを悪用しようとしてるんだ!』

ガラはセレナの肩を掴んで言った。

『だがお前一人で行ったって、やられちまうぞ!いくらドラゴンになったって無理だ!』


後ろから走る音が聞こえてきた。

『まずい!とにかく出口まで急ごう!』


ガラたちは再び走り出した。



一方その頃、コンパルサ(深淵なる森)では…


『よし、アングラ様の報告によれば、おそらくドラゴンはいない。いても1体!我らにかかればドラゴンなど恐るるに足らずよ!我に続け!』

魔導士たちが森の中へ入って行く。おそらく50人はいるであろうか。アングラが、ガラのドラゴン退治の報を受けた後に、放った調査隊である。


アングラは古代魔導帝国の研究をしていくと、一つの興味深い対象を発見した。ドラゴンオーブの存在である。古代魔導帝国の千年の歴史は、遥か昔、魔物たちが蔓延っていた弱肉強食の時代に遡る。

魔物たちから突然変異で、異常に高度な知能を持つものが現れた。魔王である。魔王は、魔物たちを操り、世界を恐怖のどん底に陥れていた。

そんな中、“ドラゴンの血を引くもの“が、“火““水““土““風“の力をもつ4人の英雄たちと力を合わせ、魔王を打ち破り、四つのドラゴンオーブを作り出して、魔物たちをなだめさせた。

四つのオーブは、世界各地へと散らばり、ドラゴンの霊力によって守られ、世界は均衡を保っていった。

世界に平穏がもたらされ、英雄たちの子孫は、魔導帝国を築き、千年もの長きに渡って、世界を治めていたのである。

しかし昨今、ドラゴンの減少により、霊力が徐々に失われ、オーブの力も弱まり、魔物たちや人々の心は乱れ、異常気象なども多発していた。


アングラは、オーブの存在を確かめようと、過去にコンパルサへ調査隊を送り出していた。そこへ現れたのが、セレナを含めた3体のドラゴンだったのである。魔導士とはいえ、3体ものドラゴンを相手にするのは、あまりにもリスクが高過ぎた。

しかし、ドラゴンの存在自体が、オーブの存在を決定付ける証拠となったのだ。

しかし問題はドラゴンをどうするか。そこで目を付けたのが、ガラの存在である。ガラはクァン・トゥー王国直属の勇者隊のメンバーの一人であった。“炎のガラ“の異名通り、火の力を操る魔法剣士であり、伝説の英雄の子孫“火の民“の末裔であった。火の民は、火を操るがゆえに、火に対する耐性が非常にすぐれた皮膚を持っている。

ガラならば、ドラゴンが吐く火にも耐えられるかもしれない。倒せないとしても、ドラゴンに深手を負わせることは出来るはずだ。しかも、勇者隊を離反した人間である。近い将来、アングラが権力を完全に握った時に、反乱する恐れのある因子の一つでもあった。従って、この案はアングラにとって非常に都合が良かったのだ。


コンパルサに入ると、魔導士たちは僅かながらの霊力を感じていた。

『やはりドラゴンはいるのか…』


そこへ二つの影が近付いてきた。


『そこで止まれ!怪しい人間共よ!』

『深淵なる森に何のようだ!』


ハーフドラゴンのジェズィと、竜人のシャキーラである。ハーフドラゴンは、角、羽、尾が生え、鱗で覆われているが、人間よりやや大きい程度の大きさの亜人種であり、顔はドラゴンに近い。よくリザードマンと間違えられる。竜人は、さらに人間に近い姿形だが、これもまた鱗で覆われており、角、羽、尾が生えている。


『これはこれは、我が名は魔導士トーレスと申す。暫定宰相アングラ様の命を受け、コンパルサへ調査に参った。邪魔をするなら国家反逆とみなすぞ?』

『反逆だと?笑わせるな!こちとらお前らの国ができる遥か昔からここにいるんだ!』

『一体何の調査だ?ここにはお前らの欲しがるものなど何もない!今すぐ立ち去るがいい!』


トーレスはふぅとため息をつき、手下の魔導士に向けて手をくいっと向けた。

『やれやれ。そうか、分かった。よし、お前たち。やれ。』

魔導士たちが一斉に呪文を呟き、竜人たちに向けて紫色の光球を放った。

ドドドッ!という音と共に、無数の光球が竜人たちを襲う。「チッ!」と素早く反応した二人は、さっとそれぞれ左右に飛び上がってかわした。

紫色の光球は、地面や木々にぶつかって爆発した。

ドンドン!と凄まじい音と、バキバキという木が倒れる音が当たり一面に響き渡った。ギャアギャアとたくさんの鳥たちが飛び立つ。


その瞬間、上空から魔導士たちに向かって数匹のワイバーンが襲いかかってきた。


『ぐああっ!』

ワイバーンたちは、魔導士を捕まえて、空へ飛び上がる。

『ギャァーーース!!』

瞬く間に数人の魔導士たちが空へと連れ去られてしまった。


トーレスは叫んだ。

『ワイバーン!隠れていやがったのか!』

ジェズィは持っていた槍を構え、シャキーラは、弓矢を引いた。



ガラたちはその頃…


ドロレスが叫ぶ。

『見えた!あそこが出口だ!』

下水路の先に川が流れている。


三人は川へ出ると、土手に移動した。

セレナは突然服を脱ぎ出した。

『おい!セレナ!変身するのか?待て!』

『お嬢さん!一人で行くのは、ガラの言う通り危険過ぎるよ!』


裸になったセレナは服をガラに無理矢理持たせた。

『このままだと世界が危ないんだ!』


セレナは何を思ったか、突然ガラに抱きついてキスをした。


『え?え?』

ガラは唖然としている。


そして、セレナはドロレスの方に向いて近付き、今度はドロレスに抱き付いてキスをした。


『お嬢さん?え?あたしはそんな趣味は…』

『え?は?』


セレナはニコッと笑う。

『じゃあ二人とも“持って行く“ね!』

『持って…


ドロレスが言いかけた次の瞬間、セレナはドラゴンに変身し、ガラとドロレスを持ち上げ、そのまま空へ飛び上がった。


『わわわ〜ッ!!』

ドロレスは驚いて目をつぶった。


大きな翼をバサッバサッと羽ばたかせ、セレナはコンパルサに向けて、物凄いスピードで向かう。


ガラはセレナに捕まりながら言った。

『ドロレス!振り落とされんなよ!』

『ううぅ〜ッ!あたしは高いとこが苦手なんだ!』


《大丈夫!しっかり掴まえてるから!》


ガラとドロレスの頭の中にセレナの声が響いた。

《言葉は口から出る。口と口を合わせると心で話ができるの!》


『セレナの声がする!思念で会話できるのか!』

『お、お、お嬢さん!もうちょい低く飛べないかな〜ッ?』

《大丈夫だよ!ふふっ心配しないで!あと私はセレナでいいよ》

あっという間にパンテラを離れ、コンパルサに向けて飛び立っていった。



そして、トーレスたちは…


『お前たちは竜人を!お前たちはハーフドラゴンを狙うんだ!ワイバーンは俺が仕留める!』

魔導士たちが二手に分かれる。


シャキーラはババッと素早く矢を放つ。

『ジェズィ!セレナが気付いた!』

『そうだな!彼女が来るまで持ち堪えるんだ!』


ジェズィは槍を振り回して魔導士を薙ぎ払う。

『ぐあっ!』

しかし、背後にいた魔導士が光球を放つ。

『ジェズィ!危ない!』

シャキーラは、光球とジェズィの間に入った。

ドーンという音と共にシャキーラが吹き飛ばされた。

『シャキーラ!』

『やったぞ!』

トーレスは魔導士たちに叫ぶ。


『ハーフドラゴンはお前たちに任せる!あとは俺について来い!』


トーレスは、ドラゴンの洞窟へ向けて走り出した。ワイバーンが彼らを追う。

『ふん!これでもくらえ!』

トーレスは一気に3発の光球を放った。

1発がワイバーンに命中した。

『ギャース!』


『よし、またワイバーンが来ないかここで見張っていろ!』


トーレスと魔導士たちは10名程になった。


その時、魔導士が何かを発見した。

『トーレス様!あれを!』

そこにはドラゴンの死骸が2体横たわっていた。

ガラが倒したドラゴンである。

『ドラゴンの死骸!2体も!あの男、2体も倒したと言うのか!しかも1体は手下に…何と言う奴だ。炎のガラ…恐ろしい男よ。』

『だが、これでハッキリした。残すドラゴンは竜の巫女のみ。よって、もうここにドラゴンは居ない。行くぞ!』


トーレスはさらに進み、セレナたちドラゴンの棲家の洞窟に辿り着いた。


『ここか!よし入るぞ』

トーレスたちは洞窟の奥へと進んだ。

奥に連れて、洞窟はかなりの広い空間になっていった。

『中はこんなに広いのか。確かにドラゴンが住むにはちょうどいい広さだ。』

そして、そのさらに奥に何やら大きな物体がいるのを発見した。


『な、何だあれは?』


そこには黄金に光り輝くオーブが、台の上に鎮座し、その後ろに巨大な何かがいる。苔むした岩山のように見えるが、かすかに動いている。いや、眠っているようだ。

老龍“ヴァノ“である。

ヴァノはセレナが誕生する遥か昔からそこに居て、オーブを守っていた。一体いつからそこに居るのか誰も分からない。くすんだ灰色の鱗に覆われたその大きな体は、30メートルを優に超えており、体中に苔やキノコが生えている。ヴァノは100年に一度目覚めては、また100年眠りにつくという、気の遠くなるようなサイクルで生きている竜である。

コンパルサ周辺の村では、先祖代々、空飛ぶ竜を目撃したという話が伝えられており、その姿を見たものは、子々孫々まで幸せになると言い伝えられている。

洞窟の上部には、おそらくドラゴンが出入りするであろう穴が空いており、そこから月の光が差し込み、ヴァノの顔を照らしていた。


『こいつは驚いた。まだドラゴンが居たとは。…だが、こいつ生きてるのか?いや、眠っているのか?』

トーレスは唾を飲み込み、恐る恐るオーブに近付く。

その時であった。ゆっくりとヴァノの目が開き、顔が動き出した。ゴゴゴ…と、岩山が擦れる様な音が洞窟に響き渡る。


『我が眠りを妨げるものは、何者ぞ…』


魔導士の一人が驚く。

『こ、こいつ喋ったぞ!』

トーレスは、少し後退りした。

『ふっ、なんだ。とんだ老いぼれではないか。』


『我が名はヴァノ…神聖なる宝珠を守護する竜なり…宝珠は世界の理を司る珠玉なり。』

『我が名はトーレス。クァン・トゥーは王直属祭司であり、宰相アングラ様の命を受け、この宝玉を頂きに参った。』

ヴァノは静かに答える。

『例え時の城主なりとも、この宝玉を渡すわけにはいかぬ…汝らよ…世界を破滅させたくなくば退くがよい…』


トーレスは苛立った。

『ちっ。拉致があかんな。』

おい、とトーレスは部下の魔導士にオーブを持ってこいと指示した。

部下たちは恐る恐るオーブに近付いた。


その時、ヴァノの目が大きく開き、立ち上がった。

ゴゴゴという音共に、ヴァノは翼を開き、口を大きく開けた。

『愚かな人間よ。立ち去れ…!』

ヴァノの口の奥から白い光が輝き出す。

コォーという音と共に、波動が口からほとばしった。

『まずい!』トーレスは地面に伏せた。

『ぐわぁーッ!』部下たちは、たちまち漕げる様に消え去った。

『な、何だこれは?』

『さぁ、立ち去れ!人間共よ!』

ヴァノはまた口を開けた。

『まずい!』トーレスはヴァノの口目掛けて紫色の光球を放つ。

ドーンという音と共に、ヴァノは目を瞑り、首を大きく逸らした。

『グオオオオン!!』

とてつもない咆哮は、洞窟はおろか、森全体に響き渡った。

『効いたぞ!おい!お前ら!ありったけのディストーンを食らわせてやれ!』

ディストーンとは紫色の光球のことである。

トーレスと残りの部下たちは一斉に構えた。

ボボボッという音と共に数発のディストーンがヴァノに向けて放たれる。すぐさまヴァノは翼を盾にして防ぐ。ドドドンという爆発音が鳴り響く。

グオォォとヴァノが苦しそうな声を上げる。


その時、バサッバサッという翼の音と共に、月明かりに照らされた若きシルバードラゴンが、夜空から舞い降りた。

両手にはガラとドロレスを抱えている。


『グオオオオン!』


凄まじい怒りの咆哮は、洞窟全体を震わせ、老龍の目の前に着地した。


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