表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘れがたき炎の物語  作者: 判虹彩
破滅の帝国編
33/33

第9話「旭日」

神聖ナナウィア帝国から東の方角は、だだっ広い平野や農地が広がっている。まっすぐに伸びた地平線から朝日が昇ると、スレイヤ城の城壁を金色に照らし、その姿を運河の水面が映し出す。

からっと晴れた青空には虹が現れ、人々は今まで帝国を覆っていた陰鬱な空気が明らかに変わったのを肌で感じ取っていた。

自由の天地(ランドオブザフリー)が街中にビラをまき、お手製の楽器を鳴らし、騒ぎ立てた。そのビラにはこう書かれていた。


【悪しき権力の亡者、ランディー伯爵は吸血鬼であった!そしてそれは我々“自由の天地”が正義の鉄槌を下し、とうとう追いやった。我が帝国は自由になった!皆の者よ高らかに叫ぼう!喜びを分かち合おう!】


スレイヤ城の上階の窓から燦々と朝日が降り注いでいる。

アラヤ王は召使いに保護され、ケリー公爵はその場でしゃがみ込み、ただ茫然としていた。

そこへ近衛兵やら召使いたちがやってきて、ケリー公爵に何があったのか尋ねた。


「公爵…こ、これは一体…何があったのです?」


公爵は項垂れたまま茫然と、聴こえるのか聴こえないのか分からないくらいの声で呟いた。


「私は…長い間、夢を見ていた…まるでトゥームーヤの亡霊に取り憑かれていたようであった。ああ…それはたしかに…私が勝手に作り出していたものだった…」


床に座り込んだケリー公爵の手の上にネズミがたたっと通過した。反射的に公爵は手を払うようにして少し起き上がった。

そしてふと部屋を見回した。クァン・トゥー王国から来た使者たち、そして召使いの女性に抱きついて堪えていた涙を流しているアラヤ王。

この使者たちは、既にこの国がどういう状況であるか知っていたのだ。地下に抵抗勢力があるのは把握していたが、彼らはクァン・トゥーの使者と共にアラヤ王を救い出し、また黒幕であるランディー伯爵にも果敢に挑み、それを排除してのけたのである。それも彼ら自身の命をも投げ打ってである。

公爵は、次第に状況が分かってくると奥から熱いものが込み上げて来た。

スレイヤ城の上空は、ケリー公爵の心のようであった。長い間、陰鬱な霞が彼を覆い尽くし、権力と嫉妬、恐怖の曇り空であった彼の心に、今まさに旭日が赫々かっかくと昇り、くっきりと虹が弧を描き始めたのである。それはランディー伯爵による邪気が確実に消し払われた証と言えるであろう。


城の中庭にはたくさんの兵士や城の者たちが集まって来ていた。上階で爆発があった為である。

ハンネ妃は、一旦城の外へ出たが、自由の天地(ランドオブザフリー)の皆と共に、再び城の中へと戻って来たのである。


城のエントランスには、ランディー伯爵の変わり果てた姿が横たわっていた。


「これは…一体何だ?」


「魔物か?…にしては服装が王宮の者であるな…」


兵士たちが近寄って行こうとすると、ハンネ妃が叫んだ。


「近付いてはなりません!それはランディー伯爵の真の姿なのです!彼は…吸血鬼の王でした」


兵士たちは驚愕した。


「何ですと!?では…我々はこの吸血鬼に騙されていたというのか…!」


その時、上階からケリー公爵たちが降りて来た。フリンはフルシアンの肩を抱え、兵士の一人がサンボラの亡骸を抱えていた。


「妃殿下!」


ケリー公爵は、ハンネ妃の姿を見るとしばらく黙っていたが、涙を浮かべ彼女に跪いた。

言葉はなくとも城の者たちは、これがどういうことか理解した。その光景がすべてを物語っていたのである。そしてハンネ妃は優しくケリー公爵の肩に手を置いた。


「公爵殿。今、わが帝国は魔を打ち破り、正義の旗を高らかに掲げたのです。これから私と共に、再びこの帝国を立て直す為、尽力していただけますか?」


ケリー公爵は驚いて顔を上げた。妃は自分を牢獄へと追いやった張本人を許すどころか、再び共に手を携えて帝国のために力を尽くしてくれと言うのである。なんと慈悲広大な心であろうか。

彼は見つめるハンネ妃の瞳の中に、賢帝トゥームーヤが確かに生きていると感じた。

そして自分が情けなくなった。改めて王の器の何たるかを思い知らされたのである。


ハンネ妃は、フリンたちに目をやった。


「いけない、彼らは重傷を負っているわ!誰か!宮廷魔術師をここへ!」


確かにフリンたちは、かなりの深傷を負っていた。フリンは腹に負った傷から血を流して今にも倒れそうで、フルシアンは左腕を失っていた。しかし彼ら自身は、自らの負傷以上に、サンボラという仲間であり、古くからの友人を亡くしてしまったことに意気消沈していたのである。


ハンネ妃は、彼らに近寄って話しかけた。


「クァン・トゥーの使者たちよ…よくやってくれました。本当に…感謝しても仕切れないわ…そのお方…その顔付きは、わが帝国の出身者かしら?」


彼女は、サンボラの亡骸を見てそう言った。彼はたしかに神聖ナナウィア帝国の出身であった。ハンネ妃は、彼の功績を讃え、手厚く埋葬するとフリンたちに約束をした。


程なくして宮廷の白魔法使いたちが駆け付けた。


「これは深い傷ですわ。完治するまでしばらくかかりそうね」


フリンは、ほっとしてそのまましゃがみ込んだ。


もう一人の白魔法使いは、フルシアンの失った左腕を見て言った。


「戦士様、まだ傷口が塞がっていないようですわ。…その、取れてしまった腕の方がもしあれば…何とか元通りに出来そうなのですが…」


白魔法使いの若い女性は、おどおどとフルシアンの腕を支えて言った。


「それは本当か!ならばすぐに()()()()()()よう!」


フルシアンは、もう二度と弓矢が引けないと思っていたが、その言葉を聞いて希望が湧いたのである。

しかし、白魔法使いの女性は、一体どうやって持って来るのか少し疑問に思った。

フルシアンは、城の方を見ると言った。


「おお!もう持って来てくれたのか!気が利く連中だなぁ!」


白魔法使いの女性は、既に兵士が彼の腕を持って来たのかと思い、フルシアンの後ろを見た。しかし、誰も立っていない。彼女は目線を落としてみた。すると、何と彼の腕が勝手にこちらに移動してきていたのである。彼女は思わず腰を抜かした。


「きゃぁぁあっ!!」


よく見ると、たくさんのネズミたちが彼の腕を担いでいたのである。


「今回の功績は()()だよ。ぞんざいに扱わないでおくれ」


フルシアンはしゃがんで腕を受け取り、白魔法使いの女性に見せた。

そして見事に腕が元に戻ったのである。フルシアンはこの時、「白魔法使い」という存在の重要さを改めて感じた。今後は必ず彼らの存在が大きくなってくる筈である。勇者英雄隊にも優れた白魔法使いが必要だと思わざるを得なかった。


そしてハンネ妃は、アラヤ王を抱きしめた。


「アラヤ!よくここまで頑張ったわね!さすが王様よ!」


アラヤ王はハンネ妃の胸の中で涙を流し、心の底から安堵した。彼なりに母親であるハンネ妃を救おうと、何度も召使いに手紙を渡していたのである。


「母上!あの…一つ聞きたいことが…」


「どうしたの?急に」


「フランク…あ、いや、ピクシーを知ってますか?」


「ピクシー?あの小さい妖精のようなものかしら?」


「そう、父上はピクシーを知っていたの?」


ハンネ妃は、アラヤ王が何を言ってるか一瞬分からなかった。しかし、次第に彼女の記憶の奥底に眠っていた、亡きトゥームーヤの言葉が蘇ってきたのである。


〈ハンネ、僕にはね、この城に秘密のお友達がいるのさ。誰も見たことがない。でも確かにそれはいてね、お菓子とか果物をこっそり食べているんだ。名前はフランキー。僕だけの秘密を君だけに伝えるよ〉


彼女は、トゥームーヤがふざけていたのかと思っていた。しかし、アラヤ王が目を輝かせてその言葉を言った時、懐かしさと共に、アラヤ王の中に確かにトゥームーヤの魂があることを実感したのである。


「…フランキー?」


「そう!父上はフランキーって呼んでたんだ!僕にも見えたんだ!」


ハンネ妃は、何故だか涙がほろほろと止まらなかった。そして優しくアラヤ王の頭を撫でた。


その肝心のフランクは、既にアラヤ王の肩の上に乗っていたのである。


「ま、さっきからずっとここにいるんだけどな〜俺は…」


そして、シイルがハンネ妃の元へ駆け寄った。


「皇后様!」


シイルは兵士たちを引き連れ、地下墓地へと向かい、状況を確認してきたというのである。もし、あの手強いスケルトンたちが城内に現れては大変に危険な状況になることが予想されたからである。しかし、ランディー伯爵が倒されたと同時に彼の魔力が失われ、地下墓地のスケルトンたちも姿を消していたそうである。


「まさに伏魔殿だったのね。恐ろしいことだわ…」


フリンは白魔法使いに手当てを施されながら言った。


「エズィールが言ってた通りだ。あの伯爵は魔王と同等の魔力を放っていたそうだからにゃ。だから奴が居なくなれば、他の小さい魔物たちも消えるんだよ」


「…魔王?」


シイルは、深刻な表情になりハンネ妃に伝えた。クァン・トゥー王国の使者の本当の目的、そしてクァン・トゥー王国ではあの(いにしえ)の魔王が復活してしまったということ、そしてわが帝国の土の民を救出し、魔王を封印する為に互いに協力関係にあったことである。


「な、何ということ…それはもはやこの世界全体の危機だわ!伯爵はひょっとして、その魔王の手下なのかしら…」


フルシアンが言った。


「それはまだ分かりません。しかしエズィール…エルフのドラゴンは、恐らくその可能性は高いと見ています」


シイルは続けた。


「我々はそこで二手に分かれて今回の作戦を決行したのです。うまくいけばシャーデが、彼らを引き連れてそろそろここに戻る頃かと思います」


するとケリー公爵が慌てたように話し出した。


「ああっ!た、大変だ!」


皆がその声に驚いて公爵を見つめた。


「ランディーは、既にサーバスに軍を向かわせておる!秘密裏にサーバスのテイラー妃、つまり私の妹をそそのかし、クーデターを引き起こすつもりなのだ!」


「何ですって!」


ハンネ妃は青ざめた。


ケリー公爵は、昨晩ランディー伯爵から初めてその話を聞いたのであった。伯爵は水面下で隣国サーバス王国の現状をつぶさに把握しており、テイラー妃を利用し、王権を乗っ取ろうと画策していたのであった。しかもそれは実に巧妙に仕組まれた作戦であった。

作戦の内容は、突然神聖ナナウィア帝国の軍隊が夜襲を仕掛ける。サーバスの軍隊がそれを退けるが、そのどさくさで王を戦死に見せかけて殺し、テイラー妃が王権を奪取するというのである。ランディー伯爵は、テイラー妃を傀儡政権として操り、強大な2国を手中に収めたかったのであった。

しかしケリー公爵は、その突拍子もない計画に疑念を抱いていた。それは伯爵としては小心者として映ったのである。


「この…化け物め…この私を意のままに操りおって…!」


公爵は兵士から剣を奪うと、ランディー伯爵の元へとずかずかと歩み寄った。

そしてその剣で横たわる伯爵を斬りつけたのである。


「公爵!いけません!」


ハンネ妃が叫んだ。


「ああ、まだ奴が死んだとは限らない。今のうちに手足を丈夫な鎖で縛り上げてから様子を見た方がいいだろう…出来れば銀の鎖が良い」


フルシアンがそう言ったが、公爵は聞く耳を持っていないようである。

彼は笑いながらハンネ妃の方に振り返った。


「ふん、もう死んでおるわ!あの高さから落ちたのだぞ?この化け物のせいで私は…くそっ」


公爵は剣を持ってランディー伯爵の足を何度も斬りつけた。

実は彼にはまだ昨夜の酒が残っていたようである。


フリンはその時何かを感じ取った。


「公爵!ダメだ!そこにいたら…」


ガバァッ!!


その瞬間、なんとランディー伯爵が起き上がりケリー公爵の喉元に噛み付いたのである。


「きゃぁーっ!」


「うわぁぁーっ!」


兵士や召使いたちが一斉に叫んだ。

ハンネ妃は、さっとアラヤ王を背後にまわし、剣を取った。


「しまった!」


フルシアンは、すぐに弓矢を放とうと背中に手を回したが、手応えがなかった。すでに伯爵との戦いで矢を打ち尽くしていたのである。

そして、近くの兵士が背負っていた弓矢を取った。


「ぐわぁぁあっ!」


ケリー公爵の喉元に噛み付いたランディー伯爵は、彼の血を啜っている。ケリー公爵の顔は蒼白になった。


ピュッ!


フルシアンの放った矢が、ランディー伯爵の肩に突き刺さった。


「ギャァォオオッ!」


ランディー伯爵は、ケリー公爵の喉元からパッと離れ肩を抑えて悶絶した。


そして、フルシアンはさらに矢を放った。

凄まじいスピードである。


しかし、その矢が伯爵に刺さる直前、彼の体が黒い煙に覆われた。矢はその煙を通過して地面に突き刺さった。


その黒い煙の塊ははゆらゆらと宙に浮いている。


「な、何だこれは!?」


シイルがそう言った途端、その煙は城の排水溝の中へと入っていった。


「太陽の光と銀をまともに喰らったんだ。奴もかなり弱ってるだろうぜ。すぐには襲ってこれないだろう…」


その時、ハンネ妃が叫んだ。


「公爵!いけないわ!」


ケリー公爵は、顔面蒼白になり兵士に抱えられたまま倒れ込んでいた。


「いかん!かなり血を吸われている!」


「白魔法使いよ!」


すぐに白魔法使いの女性が駆け付け、ケリー公爵の治療にあたった。


「…妃殿下、ダメですわ!魔法が効きません!どんどん弱っていってます…!」


ケリー公爵は震えた手をあげてハンネ妃に何やら喋りかけた。ハンネ妃は、彼の手を取った。


「公爵!しっかり!」


「…いや、も、もう…私は…無理だ…これで…これで良かったのだ…」


「何を言うの!これからあなたの力が必要なのです!」


ケリー公爵は、ハンネ妃の頬に手を当てた。


「…これが報いだ…ハンネ…本当に…すまなかった…本当に…王を…よろしく頼む…」


そう言うと、ケリー公爵の手がパタっと力無く地面に落ちた。白魔法使いの女性は、首を横に振った。


「白魔法が…受け付けません…せ、生命の綱が…絶たれました…」


ハンネ妃は、公爵の手を握り涙を浮かべた。


「ああ!なんてことなの!…こんなことって!」


その時、城下町の朝の鐘が聞こえてきた。

白い鳩がバサバサ羽音を立てて城の周りを飛び回った。


ランディー伯爵の魔の手は、サンボラどころかケリー公爵の命までをも奪ってしまった。

ハンネ妃は、公爵のことを最後まで信じ抜いていた。自らを牢に入れたにも関わらずである。

何故ならば、彼女はすべて分かっていたからである。

ケリー公爵という男は、元来優しくて穏やかで繊細な性格であった。トゥームーヤというあまりにも偉大な兄の影に常に隠れていた彼は、周りからは比較され、馬鹿にされ、嘲笑されていた。しかし、彼はそれを知っていた。

だが、彼は「兄は兄。俺は俺だ。兄のようなことは出来ないかもしれぬが、兄とて一人では何事も成し得ない。俺は彼のような偉大な男を支え抜く有能な家臣になろう。陰ながら自らのやれることに全力で取り組めば良いのだ」


これが彼の身につけた哲学であり、生き方であった。ハンネ妃は若い頃から兄の一歩後ろに目立とうとせずにいる弟を見てきたのである。トゥームーヤが気が付かないような細かいところまで弟のケリーは頑張って奔走していることを彼女は知っていた。世間がどう見ようと、美しい兄弟の一つの姿を彼女は感じ取っていたのである。

事実トゥームーヤ自身も弟の気持ちを充分に分かっていたし、彼のことを彼のいないところで買っていたのであった。


〈ハンネ。私がいなくなった後は、弟が支えてくれる。何も心配要らないよ〉


しかし、そのバランスは音を立てて崩れてしまったのである。

ランディー伯爵がスレイヤ城にやってきた時、彼はケリー公爵の心の奥底にしまってあった兄への嫉妬、憎悪、それらを言葉巧みに増幅させた。そして公爵こそが次の帝国の皇帝に相応しいと言ってまわったのである。

当初公爵は、そんな伯爵の言葉を冗談に捉えていたが、それが次第に彼を本気にさせてしまった。そしていつしか「俺は兄を超えてみせる。兄以上の偉大な帝国を築き上げてみせる」と思うようになっていったのであった。

ランディー伯爵は、まさに公爵と皇后を分断させたのである。

ハンネ妃が“妃殿下”と呼ばれているのはその為であった。彼女は本来ならば“皇后”である。皇帝の次の位の持ち主であるはずである。

彼女のことを“皇后”と呼ぶ人間をランディー伯爵は嫌い、陥れていった。


「何を言う!あやつはただの妃ぞ!次代の皇帝はもう決まっておるのだ!」


アラヤを“王”と呼ばせていたのも伯爵であった。神聖ナナウィア帝国は、内部からじわじわと崩れていったのである。


シイルは、ハンネ妃の肩に手を置いた。


「皇后様。どうかお気を確かに。悲しいことですが、これからは我々が陛下を命をかけてお守り致します…」


ハンネ妃は涙を拭ってシイルに言った。


「サーバスへ進軍した軍はどの程度かしら…今すぐに止めなくてはいけません。この事態を救えるのはシイル、あなたしかいません。我が帝国の“勇者”であったそなたしか!」


シイルは力強く頷いた。


そして、ハンネ妃はシイルに皇后の印を押した書簡を持たせ、彼に託そうとした。


その時である。


兵士の一人が空を見上げて叫んだ。


「うわぁ!な、何だあれは!?」


「ド、ドラゴンだ!!」


兵士たちの指差す方向から、朝日に照らされた純白のドラゴンが飛んできたのである。

その後ろには翼の生えたペガサスも続いて飛んでいる。


「あっ!エズィールだ!おーい!!」


フリンの並外れた視力は、他の誰よりもその姿を正確に捉えていた。それはまさしくエルフのドラゴン・エズィールとペガサスに乗ったアントニーの姿であった。よく見るとエズィールにはシャーデと二人の女性らしき人物も乗っているようである。


シイルは、ハンネ妃に伝えた。


「彼らです。エルフのドラゴンとクァン・トゥーの勇敢なる“勇者たち”です」


エズィールとペガサスは、ゆっくりと旋回しながら城の中へと舞い降りた。


エズィールはハンネ妃を見ると、こくりと会釈した。彼に乗っていたのはシャーデと土の民であるアリアナとアイリスの二人であった。


そしてエルフの姿に戻ると、エズィールはハンネ妃の前に跪いた。


「神聖ナナウィア帝国のハンネ皇后陛下。私はエルフの国トトからやってきたドラゴン、エズィールと申します」


そして、あたりを見回すと横たわるサンボラが目に飛び込んできた。


「うむ。やはり一筋縄ではいかなかったようじゃな…サンボラよ…無念極まりないのう…」


シャーデが口を開いた。


「我々の方も辛うじて助けられたのは半数の土の民よ。本来なら彼らをアジトで静養させたかったのだけれど、エズィールがサンボラの危機を感じ取ったの。そしてランディー伯爵の本性の邪気もね」


そしてアントニーが言った。


「すぐさま応援に駆け付けようとしたら、彼女たちが私たちも連れて行けとね」


するとアリアナとアイリスはハンネ妃に歩み寄って跪いた。


「麗しの皇后陛下。どうか身勝手をお許しください。私たち双子を土の民として皇后陛下の下で働かせてください!この命、わが民の誇りを!わが民の力を、誰よりもご理解してくださっている皇后陛下に捧げます!どうか!」


ハンネ妃は優しく頷いて彼女たちに言った。


「いいえ、こちらこそあなた方に謝らなくてはいけないわ。帝国が帝国足り得る力の根源は、何よりも土の民であると、私は予々申しておりました。あなた方を失えば、それこそ帝国の未来は永劫に失われてしまいます。エズィール、そしてシャーデ、クァン・トゥーの使者たちよ。本当によくやってくれました。心より御礼申し上げます」


その言葉を聞いたアリアナとアイリスの二人はほろほろと大粒の涙を流した。


そしてアントニーが口を開いた。


「北の牢獄の近くで野営を見かけた。一体あれは何だ?帝国は戦争でもおっ始めるつもりかい?」


シイルはそれを聞いてアントニーにランディー伯爵の策略を伝えた。そしてハンネ妃が言った。


「恐らくそれは、北方から集めた兵士たちでしょう。こちらからサーバスへ進軍すれば帝国自体が手薄になってしまう。ともかくそこへも使者を送らなければいけないわね」


そしてエズィールが言った。


「事態は一刻を争うことに変わりはないようだ。皇后陛下。どうか私とペガサスを使ってくだされ」


ハンネ妃は言った。


「シイルから聞きました。古いにしえの魔王が復活したと。サーバスには勇者の墳墓があります。あなた方の力をお借りすれば、魔王の封印が遠のいてしまわれませぬか?」


エズィールは首を振った。


「いや、伯爵の本性、あれは魔王と酷似しております。そして邪よこしまなものは争いを好みます。もしサーバスと帝国が争えば、彼らの思う壺ですぞ。戦争の邪気は彼らの格好の餌食なのです」


ハンネ妃は頷いた。


「ではエズィール殿。わが帝国の勇者をお使いください。シイルとシャーデよ。彼らに付いていくのです。どうか共に世界をお救いください」


ハンネ妃がそう言うと、シイルとシャーデは胸に手を当てて深く敬礼した。


フリンは彼らを見て言った。


「やっぱりそうだったのか!シイル!あんた帝国の勇者だった!通りで腕が良いわけだ!あたいたちが帝国を攻め入った時はあんたらが居なかったんだな!」


シイルは頷いた。そして笑いながら言った。


「ああ、君たちが来た時は既に我々は勇者隊を退いていた。何故ならば我々はトゥームーヤ、そして皇后陛下に命を捧げた身だからね!」


シャーデが続けた。


「真紅のシャーデ、そして漆黒のシイル。クァン・トゥー王国の勇者隊にも引けを取らないつもりよ」


アントニーは笑顔で彼らを見つめた。そしてフルシアンが言った。


「よし、ともかく北の野営地とサーバスへ向かおう!彼らの進軍を防ぎ、戦争を回避しなくては!」


「ガラたちは無事かなぁ…」


フリンが呟いた。


「よかろうフリン、わしに乗るがいい。そしてシイル殿も一緒にサーバスへと向かうのだ!」


ペガサスにはアントニーとフルシアンが乗った。

シャーデは早馬を飛ばして野営地へと向かうことになった。


そんな時、アラヤ王は彼らの姿を目に焼けていた。彼は後に皇帝として、フランクと共に神聖ナナウィア帝国最強の勇者隊を結成し、再び大陸を統べることになるのだが、それはまた別の話である。


クァン・トゥー王国の勇者隊と、エルフのドラゴンは、かつての帝国の勇者たちと共に、再び次なる戦いへと向かっていったのである。


第四章完。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ