第8話「鷹」
アラヤ王は、小さな肩を震わせ、フルシアンのそばで泣いている。フルシアンは、王を早く安全な場所へ避難させなければと思った。
目の前にいるランディー伯爵はケリー公爵に背後から斬りつけられ、憤怒の表情へと変わった。
「…おのれ、愚かな者どもよ!良いだろう!わしの真の姿を見て後悔するがいい!」
そう言うと、伯爵の目がさらに赤く光り、髪の毛は逆立ち、耳の先が尖り出した。
そして体はみるみるうちに大きくなり、ボタンが吹っ飛び、服が裂け、筋肉が盛り上がり、身長は2メートルを悠に超えた。爪は伸びて鋭さを増していった。
靴から爪が飛び出し、靴も裂けてしまうほど伯爵の足は巨大化していった。
カラン!
ケリー公爵は、その姿を見て恐怖のあまり、剣を落として腰を抜かしてしまった。
「あ、あわわ!な、何と言うことだ…何なのだこいつは!?」
しかし、フリンは違っていた。
「ふん!大したことないじゃないか…!」
フリンは、先程アラヤ王に化けた怪物の女性がつけた短刀の傷跡がすっかり塞がったのを確認し、双剣を構えて再び立ち上がった。
「フリンよ…油断するな!これはストリゴイとは比べ物にならないほどの力を…
サンボラがそう言った瞬間、ドン!という衝撃波が起き、彼を吹き飛ばした。
「…!!」
ドーン!という音と共に、サンボラはドアに衝突し、ドアごと壁を突き破ったのである。
「サンボラ!!」
伯爵は肉眼では追えないほど素早いスピードで、サンボラに体当たりし、吹き飛ばしたのである。
「な、何…!?まったく見えなかった!」
「ぐはっ…!」
サンボラはドアと壁の瓦礫の下敷きになったが、生きてはいるようである。
「サンボラ!大丈夫か!」
フルシアンはサンボラに声をかけた。
サンボラはヨロヨロと立ち上がった。
「ほう!…意外とタフではないか…」
伯爵の声は、明らかに人間の声帯ではなかった。その声はとても低く、耳から入り、背筋全体を振動するような声であった。
サンボラは言った。
「危なかった…これ程までのスピードとパワーだとは…あらかじめ補助魔法をかけていなければ確実にやられていたな…」
それを聞いてフリンは少しホッとした。
「サンボラ…ここはあたいがやる…さっきは油断したが、このままじゃ、あたいの腹の虫が収まらないんだ…!」
フリンは全身の毛が逆立ち、怒りに体を震わせ双剣をカチンと合わせて火花を散らした。
フルシアンは、フリンに向けて言った。
「だめだフリン!無茶するな!ここは一旦退くんだ!」
フリンはフルシアンをキッと見つめて言った。
「退く?…一体どうやってさ!あんたはアラヤ王を抱えながら、この吸血鬼野郎から逃げられるとでも思ってんのか?……大丈夫、心配すんな!あたいはスピードだけなら誰にも負けない!アマンにだって負けたことはないんだ。補助魔法なんか使わなくったってな!…あたいの本気を見せてやる!」
伯爵は、不気味な笑みを浮かべてフリンに言った。
「キキキキ…この子猫風情が!本気を出すだと?ふざけたことをぬかしおって!このワシに貴様如き敵うはずがなかろう…」
そう言った瞬間、伯爵は、フリンの懐に飛び込み、両手の爪をフリンの喉元目掛けて振り抜いた。
咄嗟にアラヤ王は目を瞑った。
ブンッ!
しかし、その両手は大きな弧を描いて空を切ったのである。
「…!?」
伯爵は、一瞬フリンが消えたかと思った。しかし、その瞬間、フリンはくるくると伯爵の頭上で回転しており、そのまま双剣で彼の肩の後ろあたりを斬りつけた。
シュバッ!
伯爵の肩の後ろから血がバッと吹き出した。
「くっ!小癪なぁっ!」
伯爵は、振り向き様に再び爪をフリン目掛けて振り抜いた。
ブンッ!!!
再び爪は大きく空を切り、その音だけが部屋の中に響き渡った。
すると、今度はフリンは地面スレスレにしゃがみ込んでおり、伯爵の足元を斬りつけた。
シバッ!!
次は伯爵の左足首から血が吹き出たのである。
「…すごい!これは戦えるぞ!!」
フルシアンは、フリンの実力の進化に驚いた。
—彼は彼女としばらく会わない期間があった。
それはガラがドラゴンを退治する前のことである。彼はアントニーと共に神聖ナナウィア帝国へと交渉に向かい、フリンはチドと北方の遊牧民征伐へと向かったのであった。
遊牧民たちが次第に力をつけていることは前から分かっていたが、クァン・トゥー王国宰相のアングラは、それの対処よりも、「オーブ奪取計画」を優先させていた。
しかしながら、遊牧民もかなりの強敵である。そこでアングラはフリンとチド中心とした征伐隊を結成し、そこへ向かわせたのである。
アングラは征伐隊とはいえ、遊牧民たちを完全に制圧するに足る兵力ではないことは分かっていた。そこで彼らには「こちらに攻め込むには一筋縄ではいかないぞ」と思わせるくらいの抵抗を見せよと伝えたのである。
具体的には、サーティ川を挟んだ地点を前線と設定し、それ以上踏み込ませることがないようにと指令を下したのである。
フリンとチドは前線へと向かい、野営を張った。しかし、そこで彼らが見たのは、想定以上の数の遊牧民部隊だったのである。それはおよそ想定の5倍程の戦力であった。
彼らは死に物狂いで戦った。
征伐隊もおよそ三分の一がやられてしまったが、まさに命からがら何とか前線を守りきったのであった。そういったギリギリの死地に身を置いたフリンとチドの実力は、彼ら自身が思っている以上に洗練され、圧倒的な戦闘力の向上を達成したのである。兵士たちは、彼らはまさに“鬼神”の如き姿であったと後に回想している。
—ストリゴイでさえ彼女の真のスピードには及ばずであった。フルシアンはこのフリンの真の実力に希望の一条を見た。
しかしながらサンボラとフルシアンは、フリンと伯爵の攻防があまりにも速過ぎるゆえに、ただただ見守っているしかなかった。そこで、フルシアンは徐々にアラヤ王を出入り口(ドアがあったが破壊され大きく開いた)付近に移動させていくことにした。
すると、ドンという音と共に伯爵の手元からフリンが吹っ飛んだ。
フリンはすかさず受け身を取り、再び攻撃を繰り出す。
フルシアンは、圧倒的なスピードを誇るフリンであっても、伯爵に僅かながら押されていると感じた。しかも、先程まで血が垂れていた伯爵の傷口は、しばらくすると塞がっていたのである。ヴァンパイアの特長である「不死性」というものであろうか。そしてまたさらに伯爵の一撃をまともにくらえば、あっという間に形勢は不利になると思った。
「一撃が重い…!フリンよ…もう少し持ち堪えてくれ!」
そして、何とか出入り口に差し掛かった時であった。
ズンッ!
という音と共に、フリンが再び吹き飛ばされたのである。しかし、今度は受け身を取るのが上手くいかずフリンはザッと床に転がった。
そして、すたっと立ち上がった時、タタッと床に何かが垂れ落ちた。喀血したのである。
「かはっ!」
そして彼女は腹部を押さえていた。しかもその手からもじわっと血が滲んでいたのである。
「フリン!」
「いかん!」
伯爵の一撃がフリンの腹部にクリーンヒットしたようである。やはりフルシアンが懸念していた通りになってしまったのであった。
伯爵は、ニヤリと笑いながら自分の爪から滴り落ちるフリンの血をペロっと舐めた。
「ん〜…猫風情にしては中々であったぞ…しかしやはりわしの敵ではないな…」
その時サンボラが杖を掲げた。
「フリン!よくやった!おかげで時間が作れた!“ディストゾーン”!!」
その瞬間、サンボラの杖から無数の紫色の小さな光球が飛び出し、バッと伯爵の周りを囲んだのである。
そして、サンボラは杖を持っていない手を挙げ、グッと拳を握るような動作をした。
すると、無数の紫色の光球が一斉に中心にいる伯爵にぶつかっていったのである。一つの光球が衝突するとドンという音と共に爆発をして、ダメージを与える。それが無数に連続にぶつかっていった。ドドドン!という衝撃波が細かく断続的に起こった。
フリンとフルシアンは顔を覆った。
「グフアッ!!」
伯爵は思わずよろけた。
「いいぞサンボラ!効いてるようだ!」
しかしフルシアンがそう言った瞬間、伯爵はその光球の隙間から脱出し、サンボラの目の前に急接近した。
「サンボラよけ…!」
ズブッ!!
フリンは瞬間的に叫んだが、遅かった。
「いやぁぁぁーっ!!」
フルシアンは、すぐ横にいたはずのサンボラがあっという間に天井近くまで移動したと思った。しかし目線をそちらに向けた瞬間、悲しみと悔しさ、そして絶望感でいっぱいになった。
なぜならば、サンボラの体は伯爵の腕に貫かれたまま宙に浮いていたからである。
サンボラの手から杖が落ちた。
「…不思議な魔法を使う男よ…なかなか惜しかったぞ…」
そして伯爵はサンボラに突き刺さった腕を抜いた。
サンボラは力無く床に倒れた。
「ちきしょおおおお!!!」
フルシアンは、弓を素早く構え矢を放った。
—伯爵が変身するその少し前、シイルはハンネ妃を城の外まで誘導していた。
「さすが皇后陛下、このルートにほとんど兵はおりませんね!」
「あなた方の情報のおかげですわ。コツコツと兵士の交代場所や時間を調節し、最短ルートを見出したのよ」
ハンネ妃は、兵士の中でも彼女のことを慕っている者がおり、水面下で彼らの協力を得ていたのである。
そして二人は城を出て、城壁付近のある地点に辿り着いた。
「…お待ちを。確かここに…あった!」
シイルは、地面の芝生で微妙に色が違う場所を探すと、少し不自然に色が変わっている箇所を見つけ出した。そして芝生をべりっと剥がすと、そこには50センチ角程の木製の正四角形のフタが現れた。
そのフタには縦に数センチの穴があり、そこに手をかけて引っ張るとフタが開いて小さな階段が現れたのである。
その時、城の中央上階付近からドドドンと音がしたのである。シイルはふと城の方を見上げた。それを見たハンネ妃は、シイルに言った。
「シイルよ、ありがとう。ここからは私が一人で行くわ。あなたは彼らを助けに行くのです。」
「…ですが…!」
秘密の通路の出口には、おそらくランドオブザフリーのメンバーがハンネ妃を待っているであろう。しかし、一人で通路を通るのは危険だと思った。
しかし、ハンネ妃はどこからか途中で拾ったであろう剣を手にしていた。
「私の腕もまだまだ現役ですのよ。さあ、行きなさい!」
ハンネ妃は剣術の達人でもあった。シイルは頷き、城の中へ引き返したのであった。
—そして城の上階、アラヤ王の寝室では、フルシアンたちが絶対絶命のピンチを迎えていた。
普段は冷静沈着なフルシアンであったが、怒りに任せ、伯爵に矢を放ち続けていた。
「うおおおおお!!」
しかし伯爵は、なんの造作もなくすべて手で矢を払い落としていく。
「無駄じゃ無駄じゃあ!そんな矢などわしには通用せんぞ!」
そして、とうとう矢筒が空になってしまったのである。
「くそっ!くそっ!くそぉぉーっ!!」
フルシアンは弓を捨て、ナイフを取り出した。
フリンは普段の姿とは違うフルシアンを見て涙を浮かべた。そして腹の傷を押さえながら剣を握り締め、ヨロヨロと伯爵の方へ歩き出した。
「サンボラをよくも!」
叫び声と共にフルシアンは、伯爵に向かって走り出し、斬りつけようとした。
アラヤ王は、廊下の隅に体を寄せ、しゃがみ込んで目と耳を塞いでいる。
「…残念!これで終わりだっ!!」
伯爵はそう言うと、フルシアンの攻撃を難なく交わし、鋭い爪を振り抜き、彼の腕を切断したのである。
切断した衝撃で、腕は宙をくるくると回転し、床にどさっと落ちた。
「ぐぁぁあっ!!」
フルシアンは、腕を押さえて悶絶した。
「フルシアーーーン!!」
フリンは泣き叫んだ。
ケリー公爵は、あまりの恐ろしさに身動き一つ取れなかったが、勇気を振り絞り、再び剣を取った。
「お、おのれ…化け物め…!」
その時であった。
公爵は背後から何かが来る気配がしたのである。彼は何事だと思い振り返った。それは彼の背後よりも足元に近いことが分かった。なんとそこには床いっぱいに広がる黒い物体があったのである。
「うわわわ!な、何だこれは!?」
ケリー公爵は足がすくんで固まった。しかし、その黒い物体は、するするとケリー公爵の足元をすり抜けていっているようである。彼は目を凝らしてその物体をよく見た。そして再び声を上げた。
「うわわっ!ね、ネズミだ!!」
それは数え切れないほどのネズミの群れであった。びっしりと床一面ネズミだらけである。それが一斉に伯爵目掛けて走り抜けていったのである。
「いやっほーっ!!」
アラヤ王はその時、何やら聞き慣れた声がしたと思った。よく見ると、なんとその先頭のネズミにピクシーのフランクが乗っていたのである。
「仲間たちを連れてきたぜ!」
アラヤ王は目を見開いた。
フランクはネズミに乗ったまま伯爵を指差して叫んだ。
「よーしお前たち!あの怪物に噛みついてやれ!」
ネズミの大群は、伯爵の体によじ登っていった。
フリンは驚き、フルシアンに言った。
「な、何だこれは!?一体誰が!?フルシアンが呼んだのか!?」
フルシアンは腕を押さえながら、首を振った。
「い、いや俺じゃない…そんな余裕はなかった…」
伯爵はネズミの大群を振り払おうとするが、払っても払っても次から次へとネズミが伯爵の体を覆い尽くしていくのである。
それはまるで城中どころか、帝国中のネズミがここに集まっているかのようであった。
圧倒的なネズミの数で、伯爵の体は真っ黒な塊のように見えた。
「ぐああっ!おのれ!こ、こいつら!何なのだ!」
フリンはこの隙にフルシアンに駆け寄り、ベッドのシーツを破り、彼の腕をぎゅっと縛り止血した。
そして、フランクはネズミに乗ったままアラヤ王の元へ駆け寄った。
「フランク!一体どこに行ったのかと思ったよ!」
アラヤ王がネズミに向けて話しているのを見たフルシアンは、(彼も獣心眼を使えるのか?)と思った。
しかしアラヤ王はネズミに話しかけているのではなく、ネズミの上に乗ったピクシーに話しかけているのであった。ピクシーはアラヤ王にしか見えないのである。
そしてフランクは何やらアラヤ王に一つのアイデアを伝えた。そしてアラヤ王はうんと頷き、咄嗟に立ち上がると、突然寝室の奥に駆け出した。
「なっ!ちょっと王さま!そっちは危ないって!」
フリンは驚いた。突然アラヤ王が伯爵の方に向かって走り出したように見えたのである。
しかし、彼はネズミだらけの伯爵の横をすり抜け、窓際に到達したのであった。
「よし今だ!」
アラヤ王が窓際に到達したのを見届けたフランクはパンパンと手を叩いた。
その瞬間、伯爵にまとわりついていたネズミたちがパッと離れたのである。
「今だぜ!王さま!!」
アラヤ王は頷くと、王の寝室の大きなカーテンを掴みながら走り出した。
すると、窓から一気にまばゆい陽の光が差し込んだのである。窓は東に向いており、東の空から朝日が昇っていた。夜が明けたのである。
フリンとフルシアンは、一瞬目が眩みそうになり、目を覆った。
すると、伯爵が叫び出した。
「ギャアァァァァーッ!!!」
伯爵の体はみるみるうちに焼け爛れ、真っ赤に腫れ出した。
「夜が明けたのか!」
フルシアンはヴァンパイアの伝説「ヴァンパイアは太陽の光に極端に弱い」ことを思い出した。
伯爵は顔を押さえて悶絶している。
そして、フランクはネズミに乗っかったまま、何やら長い棒のような物を持っていた。それはキラリと光るナイフであった。フランクはナイフをまるで騎士のスピアのように脇に抱えていたのである。
「突撃ぃぃ〜っ!!」
アラヤ王は、ネズミに乗ったピクシーが、まるで戦場を駆け巡る騎兵のように見えた。
その小さな騎兵は、勢いよく伯爵の体をよじ登っていき、頭のてっぺんに辿り着いた。
そして、伯爵の目玉にナイフを突き刺したのである。
「討ち取ったぞ〜っ!!」
伯爵は目を押さえてさらに悶絶した。
フルシアンは、実に不思議な光景だと思った。確かにネズミだけではなく、何かがネズミを指揮しているようにも見えたのである。
そして、フリンがその時叫んだ。
「ああっ!そうか!銀!銀だよ!フルシアン!!」
反射的にフルシアンもフリンと同時に何かが閃いたようである。
古き伝説によれば、ヴァンパイアの弱点は「太陽の光」と、「銀」であった。伝説ではヴァンパイアを退治した剣士が銀の剣を用いたとされていたのである。
確かに銀のナイフが突き刺さった目からは、煙のようなものが出ており、黒ずんでいるように見えた。通常の武器で斬りつけた傷跡は、すぐに復活してしまうのに対して、明らかに違う現象が起きていたのである。
すぐさまフルシアンは寝室奥の食器棚に駆け寄り、引き出しを開けた。そこにはたくさんの銀の食器が並んでいたのである。フォークにナイフ、スプーンにフルーツ用の串などであった。
フルシアンはそれらを持ち、投げナイフのように伯爵に目掛けて投げつけた。
「くらえ!」
グサグサと伯爵の体に銀の食器が次々と突き刺さっていく。そして、それはやはり伯爵に確実にダメージを与えているようであった。
伯爵は、あまりもの痛みで膝をついた。
「ぐおお!おのれ〜ッ!!」
その時である。
倒れていたサンボラがバッと起き上がり、叫んだ。
「皆!そこをどいてろ!ディストーン!!」
するとサンボラの手から紫色の光球が放たれ、伯爵めがけて飛んでいったのである。
フルシアンとフリンは、咄嗟にアラヤ王とケリー公爵を庇いながら床に伏せた。
光球は、伯爵にぶつかり大きく爆発した。
「グオオオオァァァァーッ!!!」
ドーン!という衝撃と共に、窓際へ吹っ飛んだ伯爵は、そのまま窓を突き破り、下へと落ちていった。
伯爵はそのままエントランスへ激突した。
階下では度重なる爆発音に、城中の者たちが集わらわらと集結していた。そこにシイルの姿もあった。
そして、ドタドタと大勢の人間たちがアラヤ王の寝室へと向かってきたのである。
「殿下!どうなされたのです!あっ!ケリー公爵!!」
「うわぁ!なんだこのネズミの大群は!?」
フリンは、アラヤ王を兵士に預け、サンボラの元へと駆け寄り、抱き起こした。
「サンボラ!大丈夫なのか!?」
しかしサンボラは既に虚な表情を浮かべて、血を吐いていた。
「フリン…いや、もうダメだ。魔法の効果で俺はまだ生きているが、効果が…なくなればすぐに死ぬだろう…」
「そんな!ダメだ!今、白魔法使いをよんでくるから!」
「いいんだ。フリンよ…これでやっと仲間たちに会える…良い死に場所だ…」
サンボラは、そう言うとフリンに一つのペンダントを渡した。
「…これを、パンテラにいるルーシー…ルーシー・ブラウンという女性に渡してくれないか…」
フリンはそれを受け取ると、泣きじゃくった。
「俺は…たくさんの過ちをおかしてきた…これでいいのだ…罪は償えると思わないが…みなを助けて死ねる…幸せだ…」
そう言うと、サンボラは静かに動かなくなった。
「サンボラ!サンボラ…!」
フリンはサンボラに抱きついて大声で泣き叫んだ。フルシアンもフリンの肩を抱きながら大粒の涙を流した。
その時、東の空を一羽の鷹が飛び立った。朝日に向かって、悠々と、雄々しく。そして鷹は光の中に消えて行ったのであった。




