第3話「マングー村」
さてさて、第3話です。ええ、ちょいエロです。お好きでしょう?え?好きじゃない?なるほど…
ガラはセレナを市場から少し離れた場所にある“湖上の煙亭”という名の飲食店に連れて来た。
店の看板には名前の下に“山羊の串焼き”と看板メニューが書かれた貼り紙や、“亜人さんはお断り”などとあからさまな差別的表現の貼り紙などが貼ってあった。
セレナは鼻をクンクンさせながら上機嫌である。また店の貼り紙を見てはガラに話しかけている。セレナたちドラゴンは、人間の使う文字は読めないが、言葉だけは話せるのであった。
ガラはセレナを街に連れてきてしまったことに対し、今更ながら少し後悔の念があった。
太古の昔からドラゴンは、人里から離れて暮らしていた生き物である。滅多に姿を現さないがゆえに、伝説として人々の中では語られてきた。
勿論竜族は、コンパルサの至る所にいるが、純血のドラゴンは、極めて珍しいのである。何故なら、竜族たちは姿かたちはそのまま、決して変身したりは出来ない。全身鱗で覆われ、角、爪、尾をもつハーフドラゴンは、人間の様な身体付きであるし、姿かたちは竜そのままのワイバーンなどは、ドラゴンより小型ではあるが、もちろん人間の姿にはなれない。稀に3メートルを超える種をドラゴンと呼ぶ場合もあるが、ドラゴン程の霊力や変身能力などは持っていないのである。
セレナは一体どれ程の年月を生きてきたのであろうか。他の2体は自分が殺めてしまった。セレナは自分のことを本当はどうするつもりなのだろうか。
ガラは当初どうでもいいと思っていたことが、詫びの気持ちや、神聖なるドラゴンを殺めてしまった畏敬の念、またセレナへの愛着など、様々な思いがふつふつと湧き上がってくるのを感じるのであった。
だがセレナのあまりにも愛くるしい顔を見ると、ただこの時間を過ごすのも悪くはないという気持ちもあった。
そして何より今は、空腹感という絶大な欲望もある。
『おい!マスター、山羊串と麦酒!あとこいつに何かおすすめをやってくれ!』
あいよ!という威勢のいい声と共に香ばしい匂いのする食べ物、飲み物が運ばれてきた。
『わぁ〜!美味しそう!』
『好きなだけ食え』
セレナはガツガツと食べ物をたいらげ、飲み物をどんどん胃に流し込んでいく。美しい外見とは裏腹な姿である。他の客も、物珍しそうにチラチラとこちらを見ている。
しばらくするとセレナは少し落ち着き、真剣な面持ちで「ガラ?」と話しかけた。
『どうした?』
『なぜ人間は人間を嫌うんだ?同じ人間なのに。なぜ子供を売ったりするんだ?』
旅団に奴隷として連れて行かれそうだった子供たち。この店の貼り紙。市場でも、物乞いをする獣人ハーフや、道の脇にうずくまるハーフエルフに冷たい言葉を浴びせる店主などをセレナは見ていた。
ガラはしばらく考えると麦酒をグイッと飲んで、ゆっくり答えた。
『セレナ。人間てのはな、とても複雑なのさ。ドラゴンみたいにただ食ったり寝たりしてゃいいってもんじゃねえんだ。生きてくってのは、人間として生きていくってのは、それだけでとても大変なことなのさ。』
そういうとガラは外に目をやり、遠くを見つめながら麦酒を飲んだ。ガラはその時、いつも見る悪夢を思い出していた。
燃え盛る家々、逃げ惑う人々、そして腕の中で亡くなっていくウラという女性。ウラはガラの妻であった。ガラはウラの死によって、何もかも嫌になり、故郷を飛び出し、遥か遠くの国にひっそりと住んでいたのだ。
セレナはいつもと違うガラの顔をじっと見つめていた。彼女は、持っている山羊串を見て最後の一口をガブっと食べ、ガラに言った。
『人間は愚かで弱いな!ドラゴンは強いぞ!』
口の中には肉がたくさん入っている。モグモグしながら話している無垢なセレナを見つめ、ガラは言った。
『なぁ、お前さんの仲間…殺しちまって悪かったな。』
セレナは、噛んでいた肉をゴクッと飲み、ぶんぶんと首を横に振りながらこう言った。
『いいんだ。ガラは自分が生きるためにやったことだろ? 確かに仲間を殺されたのは悔しいし、悲しい。でも、ガラは私を殺さなかった。その時、何でだろうって思った。多分、この人は、ドラゴンを憎んで殺してるんじゃない。何か理由があるはず。って思ったんだ。』
セレナたち純血のドラゴンは、人間とは比べ物にならないほど長生きをする。どれほど生きてきたのかは定かではないが、複雑で矮小で愚かな人間たちが、彼女には不思議でたまらない存在だったのだ。
ガラは面食らった。近しいものの死。それは時に己の人生を狂わすほど強い衝撃を与える。
だが、この竜の女は、仲間の死を受け止め、ましてや殺した張本人と行動を共にしている。彼女を突き動かしているのは、死や憎しみをも越えてしまうほどの好奇心なのだろうか?
そして、ガラは洞窟での献身的な彼女の姿を思い出した。仲間を殺した人間なのに、何故だろう。何故ここまでしてくれるのだろう。
ガラの心は、次第に彼女の心の中へと向けられていくのだった。
店を出たガラは、セレナの方を見てこう言った。
『なあ、お前さん、他に何か欲しいものはあるか?もしくは、俺に何かして欲しいこととか…』
セレナは首を少しかしげ、ニコッと笑った。
『ありがとうガラ。私は服も買ってもらったし、食べ物もたくさん食べたよ。欲しいものはもう十分もらったからいらないよ。ただ、もっとガラに付いていきたいんだ。もっと色んなところに行きたい!それで、次はどこに行くんだ?』
セレナは、まだまだガラと共に行動をしたいのだ。長い間、洞窟の中で暮らしていた竜は、夢にまで見た人間たちの世界の中に、今まさに
飛び込んでいる。建物、人々、暮らし、目に見えるすべてが、セレナには特別に見えた。
ガラは少し考えた。
『よし!それならとっておきの場所に連れてってやる!』
セレナは目を見開いて満面の笑みを浮かべた。
『とっておき?』
ガラはにこりと笑った。
『温泉だ!』
パンテラから南西に進むと、とある小さな農村に辿り着く。ちょうどパンテラとコンパルサの間に位置し、徒歩で1日(8〜9時間休憩含む)かかる距離である。温泉地としても有名で、旅人の癒しの地としても、愛されている。
名前を“マングー村”という。
ガラたちは、旅団から拝借した馬に乗り、マングー村へと向かった。セレナは実に乗馬が得意であった。コンパルサにいる時も、時たま人間の姿で馬と戯れていたのだという。
『ガラ、変な臭いがする』
『ああ、硫黄だ。温泉が近いってことだ。』
マングー村で唯一の温泉宿“クスーツ”。そこでは“マリル”という女主人が切り盛りしていた。
『おや?…あんたは、ガラ!ガラかい?まったく久しぶりだねぇ!』
『久しいなマリル。相変わらず元気にしてるか?』
マリルは40代くらいの人間種の女性で、髪は赤毛の短髪、耳飾りや首飾りを付けており、少し低めのハスキーボイスでハキハキとした語り口調、時折り豪快に笑う姿は、立ち寄る旅人たちを和ませる。マリルはセレナに目をやると、ガラにこう言った。
『おやあんた、この娘っ子はどうしたんだい?えらいべっぴんじゃないか』
『旅の途中でついてきたんだ。まぁ、後で詳しく話す。』
そういうとガラは奥へと入っていった。マリルは手招きしてセレナを案内する。
ちょうど湯場には、ガラたち以外は誰もいなかった。
久しぶりの温泉に、ガラは長旅の疲れを癒すのだった。またドラゴンとの戦いは、想像を絶する程に身体に負担をかけていた。セレナがくれた薬草は傷こそ癒えたが、体力の回復はまだ完全ではなかった。
男湯と女湯の間には、木の板の仕切りがあった。しばらくすると服を脱いだセレナが女湯に入ってきた。
『わ〜!あったかい!』
『どうだ?気に入ったか?』
仕切り越しにガラはセレナに話しかける。
『うん!こんな素敵な場所があったなんて!ガラ、連れてきてくれてありがとう!』
ガラは喜んでいるセレナの声を聞いて安心した。やはりセレナの仲間たちを殺してしまったことへの償いをどうしてもしたかった。もちろん、命は帰ってはこないが、セレナが楽しめればそれでいい。この後何があるかは分からないが、今はとりあえず体を休めよう。
ガラは目を閉じてふうと息を吐き、首まで湯に浸かりながら、体を温めた。
ザバーン!
突然、ガラの顔にお湯がかかった。なんとセレナが仕切りを乗り越え、男湯に転落したのである。
セレナは立ち上がってガラに言った。
『いきなり静かになったから心配したぞ!』
ガラはセレナの体に目をやると、すぐさま目を背けた。
『ば、馬鹿野郎!こっちに入ってくるやつがあるか!』
セレナは自分の体を見てから、ガラの方を向いた。
『ガラ?どうした?私の裸を見て、こーふんしてるのか?』
『お、お前!向こうに戻れよ!』
セレナは無邪気な顔をした。
『なんでこーふんするんだ?なんで、人間の男にはないのに、女は胸がこんなに大きいんだ?』
と、両手で自分の乳房を掴み、揉みながらガラに言った。
『もも、も、揉むな!知らん!』
セレナはさらに、質問をぶつける。
『なぁ、人間の男と女はどうやってまぐわうんだ?』
『だぁ〜っ!もう、うるさい!』
ガラはザバっと湯から出て、洗い場に向かった。そして、顔を真っ赤にして夢中で頭を洗い始めた。セレナはガラが困惑している様子が不思議で、また可愛いと思った。
しばらくすると、ガラのすぐ後ろにセレナが座っていた。
『!?』セレナはガラの背中に手を置いて言った。
『ガラ、本当にありがとう。背中洗ってやるよ。』
『お、おう。ありがとな』
セレナはガラの背中を洗いながら続けて言った。
『ガラ、ウラって人は、ガラの大事な人なんだろ?私の棲家でうなされている時、何度も呼んでいた。』
ガラは静かに話した。ウラは子供の頃からの友達で、村で一緒に育った女性である。大人になってから結婚をして、仲良く暮らしていたのだが、ある日、戦争が起きて、魔王の軍勢が村に押し寄せてきた。彼らは村を焼き、人々を殺し、略奪の限りを尽くしていったという。ガラはその時、村にはいなかった。ガラは狩りに出掛けており、帰ってきたら、地獄の光景が広がっていたのだという。急いでウラを探すと、燃え盛る自分たちの家の前で倒れているウラを見つけた。しかし、もうその時は手遅れだった。
『お前に使った技があるだろう?あれは本当はもう使わないと決めていたんだ。自分の魔力をほとんど使い果たす大技で、ドラゴンでさえも焼き尽くすんだ。だが、あれをやると思い出しちまうんだよ。』
セレナは何か言葉を掛けたかったが、なんて言ったらいいか分からなかった。そしてガラの辛い過去を知り、胸が苦しくなった。
その時、ガラはふと思いついた様子でセレナに言った。
『セレナ。温泉の“しきたり”を教えてやる。』
ガラたちは湯場を出て休憩所に来た。マリルが飲み物入ったコップを2つお盆にのせてやってくる。
『どうだい?いい湯だったろう?』
ガラとセレナにその飲み物を渡す。それは、よく冷えた山羊のミルクであった。
ガラはコップを片手に持ち、もう片方の手を腰に置いた。
『いいか、まず、こうして、グイッと一気に飲み干すんだ』
ゴクッゴクッと一気にミルクを飲み干したガラは、プハーっと息を吐き、恍惚な表情を浮かべた。
『たまらん!』
セレナも真似をしてみた。グイッと勢いよくミルクを飲み干し、プハーっと息を吐いた。
温泉で火照った体に、冷たいミルクが体の中に行き渡る。何ともいえぬ爽快感だ。
『ガハハ!必ず温泉に入るとこれをやらなくてはいけないんだぞ。』
二人の様子を見て、にこやかに微笑みながらマリルが言った。
『ガラ、鍛冶場にも寄っておくれよ!ルワンゴの爺さんやトゥインゴたちがお前さんを待ってるよ!』
『ああ、もちろんさ。元々寄る予定だった。』
『かじば?』セレナにガラは答えた。
『ああ、お前との戦いで剣を折られちまったからな。新しいやつを手に入れんとな。』
『ごめん。無我夢中でやってしまった』
『いいさ。しかし、あの炎の中をよく動けたな。ドラゴンとはいえさすがに焦ったぞ。しかも、剣を折ると火が消えるのよくわかったな。』
セレナは少し照れながら答えた。
『なぜかは分からない。あの剣から火の力をすごく感じたんだ。だからあれを壊せば火が消えると思って』と。ドラゴン特有の超絶的な感覚なのだろうか。
ガラは指をなしながら言った。
『ほらあそこの高台に鍛冶場があるだろ?』
クスーツから数メートル離れた高台の上に、三角屋根から煙突の生えた屋敷があった。煙突からはもくもくと煙が上がり、カンカンという金属を叩く音が響いている。マングー村自慢の鍛冶場である。
ガラが鍛冶場に入ると、そこには数人の職人たちが作業をしていた。ドワーフのような者、獣人のような者、様々な人種が同じ作業場で働いていた。
マングー村はパンテラと違い、ほとんどが亜人種で構成されている。むしろ人間種は、マリルとその一人娘のルナくらいしかいない。すなわちこの村には、パンテラで見たような人種差別をするような人間は一人もいないのである。
作業をしていた職人が一人、ガラの存在に気付いてこちらにやってきた。
『あれれ?どこかで見たことがあるぞ!…おい、まさか!ガラかい?うっひゃー!久しぶりじゃないか!』
ドワーフの鍛冶職人、トゥインゴである。トゥインゴは、父親のルワンゴと共に鍛冶屋を営んでいる。彼は、慌てて父親を呼びに行った。奥から出てきたのは、威厳ある髭を蓄え、トゥインゴよりも少し小さいが、ガッチリとした体つきの老ドワーフ、ルワンゴであった。
『おお、こりゃ驚いた!炎のガラ!我がマングーの鍛冶場へよく来たな!』
ルワンゴは、鍛冶場の親方兼マングー村の村長である。80歳を優に超えているが、未だに現役で鍛冶場で槌を振るっているのだ。
マングー村はかつて、ガラに救われたことがある。ガラはその昔、“勇者アマダーン”と共に、パンテラやマングー村が属する“クァン・トゥー王国”を魔王の危機から救った、英雄の一人であった。しかし、ここでの“勇者”と“魔王”という関係は、古代のようにハッキリとした善と悪の対立ではない。例えば、A国とB国が敵対しているとすれば、A国の勇者に対して、B国の国主が魔王となり、B国ではA国の国主が魔王、自国の英雄が勇者と呼ばれるといった具合である。
古代、邪悪な魔物たちが魔王に率いられ、世界を蹂躙していた時代に、突如として現れた勇者が、魔王を倒し、建国されたのが、魔導帝国であるとされている(「古代魔導帝国の伝説」参照)。その時の勇者と魔王という言葉が、帝国崩壊後、様々な国々が乱立する中で、形骸化されていったと言ってよい。
ガラは勇者たちと共に、魔王の軍勢を退け、マングー村を救ったのだ。しかし、その後報復によって、自分の住む村が焼かれ、妻を失った。その終わりのない憎悪の連鎖にガラは嫌気がさし、勇者たちから離脱したのであった。
『ルワンゴ、まだ現役とはな。息子も大分一人前になったみてぇだし、引退してもいいんじゃねえか?』
『何をバカをいうな。まだまだオラは現役さ!槌振ってねぇとよ、逆に体の調子が悪くなっちまうんだ。』
ガラは今までのいきさつを説明し、新しい剣が必要だとルワンゴに言った。ルワンゴはそれを聞くと、不適な笑みを浮かべてこう言った。
『まったく、オメェはついてる男だぜ!つい最近、商人からアンスラックス鋼を安く仕入れてよ、とっておきの逸品が出来たばかりなのよ!』
アンスラックス鋼とは、世界でも有数の鉱石である。鋼以上の硬さに加え、僅かな魔力を秘めている。武器や魔道具によく用いられているが、一般ではなかなか手に入らない為、かなりの高額で取引きされているのだ。
ルワンゴは、奥から一振りの剣を持ってきた。
『これを見てくれ!アンスラックスの美しい輝きと、驚くほどの硬さとほどよい軽さ、そんじょそこらの盾なんか一刀両断よ!』
ガラはその剣を手に取ると色んな角度から眺めた。
『なるほど、こりゃとんでもねえな。』
『オラこいつを"メタリカ"って名付けたんだ。ドワーフの古い言葉で"切り裂き"って意味だ。』
『分かった。これにするぜ。幾らだ?』
ルワンゴは少し考えて言った。
『ホントは1000トレントと言いたいところだが、お前さんなら800でいいよ。』
ガラは革袋から金を取り出し、ルワンゴに渡した。
トレントというのは、クァン・トゥー王国の通貨で、王の名前“トレント・ダウンワード2世"から取った名である。
ルワンゴは、セレナをまじまじと見ながら話した。
『ほーう、お前さんが伝説のドラゴンか…どう見ても信じらんねぇな。確かにただの人間種にしちゃまとってるオーラが異様だが。』
『ここで変身してやろうか?』
『やめろって!』ガラは焦った。
セレナはケタケタと笑った。
ルワンゴは、トゥインゴに言った。
『おい、トゥインゴ、このドラゴンのお嬢さんに、お前の試作品を何かくれてやれ。』
トゥインゴは、ルワンゴの技術を学びながら、独自にアレンジを加えた武具や道具を作るのが好きであった。はじめは、冷めた目で見ていたルワンゴだったが、近年の作品は実用的なものもあり、目を見張るものがあった。
トゥインゴはセレナを見て少し考えた。
『よし!それならちょうどいい代物があるよ!』
トゥインゴが取り出してきたものは、赤い鋼で出来たダガー(両刃ナイフ)である。
『これはレッドワイバーンの鱗とマジックエレメンタルで作ったんだ。ただのダガーじゃないよ!色んな魔法を増幅させる凄い代物なんだ!』
セレナはダガーを手に取ると。目をキラキラさせた。
『もの凄く軽い!持ってないみたい!』
『ドラゴンだから普通の人よりも手に馴染みやすいのかな?』
トゥインゴは、自慢げに話す。
『これは、“スキッドロー”て名付けた!古代ドワーフ語で“突き刺し”て意味だよ!』
セレナは嬉しさのあまりトゥインゴに抱きついた。トゥインゴは顔を真っ赤にして頭を掻いた。
鍛冶場を出た二人に、マリルが駆け寄ってきた。
『お二人さん!今日はちょうど収穫祭なんだよ!ぜひ立ち寄っておくれよ!あんたらの歓迎会も兼ねるからさ!』
村の広場では、すでに宴会の準備が整っていた。マリルが「ガラが帰ってきたんだ、盛大に祝おう!」と村人たちに呼びかけ、拍手と歓声が上がる。焚き火がパチパチと音を立て、麦酒の香りが漂う。色とりどりの提灯が灯り、村独特の楽器による演奏が始まった。
セレナは目を輝かせてその様子を楽しんでいた。
その時、マリルの娘、ルナがセレナの手を取り、一緒踊りを踊ろうと誘った。
様々な人種が一つになってら祭りを心の底から楽しんでいる。
ガラは村総出の歓迎を受け、憩いのひと時を存分に味わった。
夜も段々と更けていき、祭りはまだ続いている。ガラはその場を少し離れ、宴を見渡せる場所へと移動した。そこで腰を下ろし、麦酒を飲みながら夜風に当たっていた。
『お前さん、一体今までどこをほっつき歩ってたんだい?』
後ろからマリルが麦酒片手にやってきた。
ガラはすぐに答えず、グイッと麦酒を一口飲んだ。
『久しぶりだな、こういうのは。』
マリルもガラの隣に腰を下ろした。
『あんたたちが救ってくれたおかげだよ』と言いながら酒を飲んだ。
マリルは、セレナとルナが楽しんでいる様子を見ながら言った。
『あの子、ルワンゴが龍族の末裔だって言ってたけど、何処で会ったのさ?』
『ギリオスが…パンテラのギルドマスターのオヤジさ、あいつが俺にぜひお願いしたい案件がある。と手紙を寄越した。フォークリーフでひっそりと暮らしてたんだが、はるばるクァントーに戻ってきたのさ。』
『フォークリーフ!?随分と遠くまで行ったもんだね!で?ギリオスの案件てのは…あの子と関係あるのかい?』
『ドラゴン退治さ。』
『なるほどね、そういうわけ。で、連れてきたってのかい?』
『連れてきたっていうより、付いてきたんだ。』
マリルはそう語るガラを見て、以前より温かみが増したと思った。それはきっとあの娘のお陰なのだろうと察した。
『いい相棒ちゃんじゃない。あんたにお似合いだよ。』
ガラは『相棒か…』と呟き、麦酒を飲んだ。
マリルは、こんなに夜が更けたら帰せないと、クスーツに泊めてくれると言い、ガラもお言葉に甘えることにした。セレナが喜んだことは言うまでもない。二人は小さな村の温かい歓迎を最後まで存分に味わった。
ーそして、翌朝。
クスーツを発とうとする二人に、ルワンゴが何やら神妙な面持ちで近付いてきた。
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