第5話「潜入」
「助けて!」
アイリスは、ストリゴイの手に蹴りを喰らわしたが、びくともしなかった。ストリゴイは、鼻息荒くアリアナを馬車から引き摺り下ろそうとしている。
その時、エズィールが馬車から飛び出した。
土の民たちは何が起きてるのか分からなかった。ただただ目の前の出来事に恐怖で怯え切っているのである。
エズィールがなぜ馬車から降りたのかも分からないが、土の民たちはアリアナの手を掴んで、何とか馬車の中へ引き戻そうとするが、物凄い力でじわじわと外に引き摺り出されそうである。アリアナは声をあげて泣き叫んでいる。
「痛い!痛い!助けて!」
その時、馬車の外から何やら大きな何かが羽ばたいているような音がした。
土の民の男性は何だと思い外を見ると、驚き叫んだ。
「わぁーっ!ド、ドラゴンが出たぞ!!」
馬車の外には巨大で真っ白なドラゴンが現れ、馬車の真上を飛んでいる。エズィールがドラゴンに変身したのである。馬車の中はパニックに陥った。
バクン!
その時エズィールは、頭上からアリアナにしがみついているストリゴイの頭をがぶりと噛み、そのまま頭を引きちぎってポイと吐き出した。
アリアナの足を掴んでいたストリゴイの腕は、そのままばたっと力無く解け、体ごと地面に倒れてしまったのである。
そして、シャーデはさらに収容所の中から出てくるストリゴイやヘルハウンドをレイピア(細身の剣)と短刀の二刀流で切り刻んでいく。
「キリがないわ!いきましょう!」
シャーデは、くるっと馬車の方へ振り返り、走って馬車へ飛び乗った。
アントニーは、ある程度馬車を収容所から遠ざけ、馬車の屋根の上に上がった。
「よし!結界の外に出たぞ!これでとどめだ!」
アントニーは精神を集中させ、両手を収容所の方に向けてかざした。
「ファイヤウォール!!」
アントニーが叫んだ次の瞬間、収容所全体が炎に包まれた。ゴォーという轟音と共に、中からギャーギャーと断末魔が聞こえてくる。ストリゴイの声であろうか。
【ファイヤウォール】とは、火の魔法の最上級である。灼熱の炎を巻き起こし、まさに「火の壁」を作り出す。あまりにも大規模な炎を発生させる為、あらかじめ魔法制限の結界を張っておかなくては、辺り一面を焼き尽くしてしまうのである。戦場で使う場合は、戦場ごと焼き尽くしてしまう為、魔法使いは予め燃やす範囲に結界を張っておくのがルールとなっている。
(『戦争における魔法使い指南書』より)
炎は、アントニーが張った収容所の周りの結界から外へは出てこなかった。
まるで、“釜“のように結界の中が灼熱の炎に包まれている。
「す、凄い…」
その光景を見ていた土の民たちは、あまりのも凄まじさに絶句していた。
アリアナは、アントニーが放った魔法“ファイヤウォール“を見て震えながら呟いた。
「ファイヤウォールですって?この世の中に数人しか使えないとされている火の最上級魔法よ!?一体この者たちは何者なの?」
「レジスタンスじゃよ。我々は神聖ナナウィア帝国の圧政に牙を向く地下組織なのだ」
アリアナは、目を見上げると白髪のエルフが立っていた。
「はじめまして、わしはエルフのドラゴン、エズィールじゃ。」
そして、その隣には先程収容所でストリゴイたちをやっつけていた赤い髪の女性が立っていた。
「私はシャーデよ。もう少し早ければもっとたくさん助けられたかもしれないわ。本当にごめんなさい。」
彼女は手を差し出しアリアナたちと握手をした。
「あ、いや、そんな…こちらこそありがとう…」
アイリスはまだ手が震えている。アリアナもそうであった。シャーデは腰を下ろし、土の民たちの様子を見て話しかけた。
その時、先程馬車の上から魔法を放ったアントニーが降りてきた。
「ま、ざっとこんなもんさ。お前さん魔法に詳しいのか?」
アリアナは半ば放心状態で答えた。
「え、ええ。私は魔法の研究をしていたの…」
アントニーはニヤリと笑いながら話を続けた。
「ごく稀に同じくらいの火を使える魔法剣士がいるがな。奴等には打てても一発や二発が限界だろう。俺はあのくらいならあと20発は打てるな!」
「す、凄い…」
アリアナとアイリスは目を丸くして彼を見つめた。
「さすがね。予想以上だわ」
シャーデはアントニーに言った。
「俺が大魔法使いアントニーだ!よろしくなお嬢ちゃん!カッカッカ!」
アントニーはからからと笑うと、さっと馬車の先頭に座り、手綱を持ち馬車を走らせた。
馬車は収容所を出て小高い丘の道を下っていった。
アリアナは馬車の横から顔を出し、収容所の方を見た。炎は次第に消え、巨大な煙がもくもくと上がっていた。そして、前方に目をやった。
丘の上から朝日がキラキラと山々を照らし、爽やかな風が彼女の頬を撫でた。
その時、ガバッと誰かが彼女に抱き付いた。
「アイリス?」
アイリスは目に涙をいっぱい浮かべながらアリアナに抱き付いた。
「姉さん!姉さん!助かった!私たち助かったのよ!」
アリアナは、馬車の中にいる土の民たちの顔を見た。彼らは痩せ細り、やつれていたが、皆涙を流して抱き合い、喜びを分かち合っていた。エズィールとシャーデは温かな眼差しを彼女たちに送った。そしてゆっくりと頷いた。
その時、アリアナの目からぶわっと涙が溢れ出てきたのである。
「あ、あ、あああ!」
言葉にならない程の感情の波が彼女を襲った。彼女は大声で泣き、妹を抱きしめた。
この中にキスクやハンセンたちはもういない。彼らは収容所に着いた時、真っ先に尋問され、拷問された挙句、化け物たちの餌にされてしまったのであった。彼女の心の中には喜びや悲しみが渦巻いていた。だが、私たちは生き残った!最後まで希望を捨てずにお互いを鼓舞し合い、生き残ったのだ!
次第に彼女の中には、土の民としての誇りが一層燃え上がっていったのである。
しばらく馬車を走らせると、アントニーは丘の下に何かを見つけた。
「うん?あれは何だ?」
エズィールはアントニーの声を聞き、前方に目をやった。
丘の下には広い野原が広がっており、そこには無数のテントが張られていたのである。
「野営地かの?」
その声を聞き、シャーデも前方に目をやった。
テントの模様は神聖ナナウィア帝国の紋章が描かれていた。
「いつの間にこんなところに…一体どこに向かうのかしら?」
それは神聖ナナウィア帝国の野営地であった。ざっと五千人くらいの兵士がそこに集結していたのである。
「なかなかの数だな…戦争でもおっ始める気か?」
シャーデは、シイルたちと共に城内のハンネ妃と内通していたが、戦争を始めるなどという情報は一切聞いていなかった。
「おかしいわね、戻ったらシイルに確認してみましょう…」
アントニーたちが収容所に向けて出発したと同時に、もう一つの別働隊(フリン、フルシアン、シイル、サンボラ)らは、スレイヤ城に向けて出発した。彼らの任務は、幽閉されているハンネ妃の救出、またアラヤ王の救出、そしてバンパイアとなってケリー公爵を操っているランディ伯爵の暗殺である。彼らは夜の闇に紛れて静かに馬を走らせた。
城からある程度離れた場所に馬から降り、彼らは黒いフードを被り城への侵入を開始した。
—彼らは事前にランドオブザフリー(自由の天地)のアジトにて、城への侵入経路を入念に確認していた。
神聖ナナウィア帝国のスレイヤ城は、世界屈指の難攻不落の城として有名であった。かつてクァン・トゥー王国勇者隊が現れるまで、過去数百年間に渡って決して落ちることのない城だったのである。城壁は100メートル以上あり、四方は広い運河に囲まれている。その運河には決められた船しか侵入出来ない仕掛けが設置されており、桟橋がある陸地も高い山々に囲まれているのである。
「で、君らクァン・トゥー王国勇者隊は、一体どうやってこの城を落としたんだ?」
ランドオブザフリーのリーダー、シイルはフリンたちに尋ねた。
「どうって…まずチドがあたしを城壁の上まで放り投げて〜…」
その時アントニーは、手を上げてフリンの言葉を遮った。
「待て待て、まず運河を俺の氷魔法で渡れるようにしたんだろ?」
「ああそうだった…」
フリンは頭をポリポリ掻いて言った。すると、フルシアンが口を挟んだ。
「それを言うなら、事前に俺の“獣心眼“で城内を偵察してからだろ?」
フルシアンの言う"獣心眼"とは、彼の特別な能力のことである。彼は弓矢の名手でもあるが、もう一つ特殊な能力を持っており、それは動物や虫たちと意思疎通や、自由自在に操れることが出来る能力である。彼は鳥や虫たちを使役し、事前に城の隅々まで調べ尽くしていたのであった。
彼らの常軌を逸した会話にシイルやシャーデとその仲間たちは絶句した。
「お、驚いた…まるで次元が違う。どおりでクァン・トゥー王国がここまで勢力を伸ばしてきたわけだ。」
シイルは改めて彼らクァン・トゥー王国勇者隊の恐ろしさを知ったのであった。
シャーデも驚きを隠せないようであったが、少し心を落ち着けて彼らに言った。
「ええ、あなた達の実力がとんでもないことが分かったわ。でも今回の作戦に派手さは要らないわ。むしろ隠密に進ませないと、王妃や王の命が危ない。下手に刺激しない方がいいわね。」
アントニーはふふんと鼻を鳴らした。
「その気になりゃ城ごと吹っ飛ばせるがな。確かにあんたの言うとおり、それをやっちまえば今までの苦労が水の泡ってやつだな」
フルシアンは穏やかな言い方でアントニーに言った。
「アントニー。今回は戦争しに来たんじゃない。俺たちは元々国交を深めに来たんだ。彼らを滅ぼしてしまえば、我が国の貿易にだって影響が出るぜ」
「分かってるさフルシアン。俺だってそのつもりだよ。隠密ならお前とフリンが適任だな」
アントニーとフルシアンは実に絶妙なコンビである。お互いの能力や性格を知り尽くしており、アントニーの行き過ぎたところをフルシアンは冷静に対処し、コントロールすることが出来る。しかもアントニーの尊厳を損なわずにである。
そしてアントニー自身も、フルシアンの冷静さを買っていた。自分が気が付かないところを彼なら察知出来るし、彼となら判断を誤ることはないと思っていた。
フルシアンはアントニーの意見を聞いてこくりと頷いた。
「確かにそうだな。そしてハンネ妃と繋がりがあるシイルは確定だ。北の収容所にはエズィールの変身能力が役立つだろう。」
こうして、二つの隊のメンバーが決まっていったのである。
—作戦決行の日。
フルシアンら隠密隊は、スレイヤ城の目の前まで辿り着いた。
「なぁ、本当にこの下に入り口があるのか?」
シイルは、怪訝な顔でフルシアンに聞いた。
「ああ、魚たちが言ってる。何百年もの間に段々と広がっていった大きな穴が空いてるそうだ。それが城の地下墓地に繋がってる。」
フルシアンは、“獣心眼“で魚たちを操り、城を囲んでいる運河から城の中に侵入出来そうな経路を探させていた。すると魚たちは、桟橋の下辺りにちょうど大きな穴がポッカリと空いてるとフルシアンに伝えたそうだ。それは数百年間にも渡る年月により、少しずつ城の下部が侵食され、雨水が通る道が大きくなっていった穴が空いていたのである。それが城の地下墓地へと繋がっているというのだ。しかし、そこを通るにはかなりの時間を水中にいなくてはいけない。
そしてフリンは少し機嫌が悪いようだ。
「はぁ〜水か…」
サンボラは彼女の様子に気付いた。
「どうした?フリン。水の中に入るのが嫌なのか?」
「うう〜、そうだよ。こないだみたいに城壁にあげてくれりゃよかったのにな…」
フルシアンは、フリンに言った。
「それはチドがいたから出来た芸当だよフリン。今日は隠密作戦なんだ。我慢しろ。」
そう言うとフルシアンはおもむろに袋を取り出した。袋は何やら少し動いている。
それを見るとフリンは頭を抱えたのである。
「あたいは水の中よりも、それを口の中に入れんのが嫌なんだ!」
サンボラとシイルは何のことだろうと怪訝に思った。そしてシイルはフルシアンに聞いた。
「なぁ、その地下水路を通っていく為の秘策ってのはそれのことかい?」
フルシアンはニヤリと不適な笑みを浮かべながら頷いた。
「そうだよ。こいつを口の中に入れるのさ。」
フルシアンは袋の中から何かを取り出した。
「んをっ!」
サンボラはそれを見て思わず大きな声を出しそうになり、慌てて自らの口を塞いだ。
シイルも目を丸くしてそれを見つめた。
「な、何だそりゃ!?カエル?」
フルシアンが掴んでいるのは、体長10センチ程のカエルである。それが袋の中に数匹入っているのであった。カエルは薄い水色に綺麗な黄色の縞模様があった。
「ああ“月光蛙“さ。こいつを口の中に入れておけば、水中でも呼吸が出来る。間違っても飲み込むなよ。」
この不思議な蛙は、夜になると植物の光合成のように二酸化炭素を取り込んで、酸素を吐き出すという習性がある。それを利用して口の中に入れておくと、自分が吐いた息を酸素にして吐き出してくれるのである。慣れてくると一日中水の中に入っていることが出来るのである。
フリンは過去にそれを一度経験したことがあった。彼女自身、水の中に入ることでさえも好ましくない行動であったのにも関わらず、あまり好きではない蛙を口に入れるという行為がどうしても耐えられなかったのである。
「そいつ口の中で暴れるんだもん。一回水の中で口から逃げ出して死にかけたことがあるんだ。」
フリンはとても憂鬱な表情を浮かべた。彼女の顔をニヤニヤしながらフルシアンは、大きな口を開けて蛙を口の中に入れたのである。
「ほあほあ、まよっへうひはああいお!(ほらほら、迷ってる暇はないぞ)」
と、口の中に蛙を入れたままフルシアンは袋の中から蛙を取り出し、一人一人に渡していく。
シイルはごくりと唾を飲み込み、恐る恐る蛙を口の中に入れた。
「ううっ!」
とシイルは口を手で塞いだ。しばらくすると目を見開いて言った。
「おお!ふおい!ふひをああえいいあえいう!(おお!凄い!口を閉じていても息が出来る!)」
シイルは感動しているようだ。
そして、フリンも目を閉じて蛙を口の中に放り込んだ。
「おえっ」
少しえずいたが、彼女は経験していた為か何とか行けそうな感じであった。そして、フリンは蛙を持ちながらずっと固まっているサンボラを見た。
「ん?はんほあ?おおひは?(ん?サンボラ?どうした?)」
実はサンボラは蛙が大嫌いであった。蛙を持ちながらじっと見つめて(いや、見ているようで焦点は合ってないようである)サンボラはピクリとも動かなくなっていた。
「おい!おえ!ああく、ういいいえお!(おい!これ!早く口に入れろ!)」
フリンは蛙を指差し、それをサンボラの口に入れるように指を動かして指示した。
サンボラの額からじわりと汗が滲んでいる。
ふとサンボラは、フリンの口から蛙の足が出ているのを目にした。それを見てサンボラは自分の口を抑えた。
「おええっ!」
シイルとフルシアンは、二人の方を見た。
「どうした?何かしたか?」
サンボラは、目をピクピクとさせながら言った。
「な、なあ、俺はここで皆の帰りを見張ってる…ってのはどうだろう?」
普段冷静で勤勉な男が言うセリフとはあまりにもかけ離れていた言葉であった。フリンは腰に手をやってやれやれという仕草をした。そして、徐にさっとサンボラの背後に回り込み、腕を歯がいじめにしたのである。
「お、おい!フリン!何をする!やめろ!」
「うるさいな、静かに蛙を口の中に入れるんだよ!お前それでも魔導士のリーダーか?」
フリンは蛙をもう一度取り出してサンボラに言った。
サンボラは涙目になって抵抗している。
「い、いや、待て、それとこれとは…」
「違わねーよ!フルシアン!」
フリンはフルシアンに向けて顎をくいっとあげて合図を送った。シイルはサンボラの口をがっと抑え、無理矢理口を開けようとした。しかし、ガッ!とサンボラはシイルの手に噛み付いた。
「痛え!くそッ!噛みやがったこのおっさん!」
シイルは手をぶんぶんと振って静かに叫んだ。
そして、シイルはすぐさまサンボラの鼻を摘んだ。
サンボラはきつく口を結んでいる為、唯一の呼吸口が塞がれてしまった。みるみるうちにサンボラの顔が赤くなっていく。
フルシアンは、蛙を持ちながらほくそ笑んでいる。サンボラという男の意外な一面を見て面白くて仕方なかったのである。
そして、サンボラは耐えられなくなって口を開けてしまった。
「プハッ!」
「今だ!」
シイルが言うと、フルシアンはサンボラの口に蛙を押し込んで口を強く抑えた。
「よし!」
サンボラは体をバタバタとしている。目から涙を流している。フリンはニヤリと笑いながらサンボラを抑えている。
「よーし、いいぞ!ゆっくりだ。ゆっくりそのまま呼吸してみろ」
フルシアンはサンボラの口を抑えながら、彼に言った。
サンボラは体をガタガタと震わせながら次第に落ち着いていった。
「どうだ?息できるか?」
サンボラはこくりと頷いた。彼の目から涙が流れている。しかし、5秒に一度くらいおえっとえずいている。
フルシアンは再び蛙を口の中に入れ、手をあげて「ここに飛び込め」と皆に合図を送った。
ドボーン!
辺りは真っ暗な水の中である。外は月明かりに照らされていたが、水中まではさすがに光が届いていなかった。
フルシアンは、再び袋の中から一つの瓶を取り出した。それをぶんぶんと振ると、ぼんやりと光り始めたのである。瓶の中には光苔が入っていた。光苔は酸素に触れると光りを放つという習性がある。しかし、まだ光は弱く、かろうじてフルシアンの手の先が光る程度であった。
そこでサンボラは杖を取り出し手を動かした。すると、杖の先端がぼんやりと光り始めたのである。古代魔法の一つであろうか。
杖をかざすと、水中でも彼らの顔や壁の様子がよく見えるようになった。
フルシアンは、サンボラに親指を立てて合図した。どうやらサンボラは先程の汚名を挽回したようである。
そして、彼らは壁の横に大きく空いた穴を発見した。
壁の穴は直径3〜5メートル程の穴が空いており、一人ずつであれば余裕で通れるくらいの広さであった。フルシアン、シイル、フリン、サンボラの順に穴に入り、進んで行った。
穴は次第に上の方に向いていき、大きな洞窟のような出口に辿り着いた。
そこには天井まで数メートルの空間が広がっていたのである。
ザバッと彼らは水面から顔を出した。
サンボラは、水面から出ると走り出し、地面に向かって大きく口を開け蛙を吐き出した。
「おえええっ!」
サンボラは手を地面に付き大きく咳き込んだ。
フリンは笑いながらサンボラの肩をポンポンと叩いた。
「あっはっは!あんたの意外な一面だにゃ!よく頑張ったよ!」
サンボラは口を拭いながらゆっくりと立ち上がった。
「め、面目ない…どうも蛙だけは子供の頃から苦手なのだよ」
シイルは辺りをキョロキョロと見渡した。
「本当だ。君の言った通りだなフルシアン。こんなところに通じているとはね。」
フルシアンは、その先の壁が崩れているのを発見した。
「ここだ、この先が地下墓地のようだな。」
しかし、壁には隙間が僅かしか空いておらず、そこからピューピューと風が出入りしていたのみであった。
「何とかこの壁を越えられればな…」
フリンはその壁に体当たりしてみた。しかし、壁はびくともしなかった。
「くそっ!ここで足止めなんて訳にはいかないな!」
シイルはどこか他に入り口がないか探してみることにした。フルシアンもそれに従って壁を触ってみたり、押してみたりした。
その時サンボラは杖を持ち、皆に声をかけた。
「その壁を破壊するしかないようだな。よし、皆下がっていろ」
するとサンボラの杖の先が紫色に輝き、杖から紫色の光球が放たれた。
ボーン!
という爆発と共に、壁が吹き飛び、直径1〜2メートル程の穴が空いたのである。
「このくらいの小さなディストーンであればあまり大きな音も出ないだろう」
シイルはサンボラの肩にポンと手を置き、笑顔を向けた。
「さすがだな!さっき俺の指を噛んだことは水に流してやるよ」
そして彼らは穴を通り、地下墓地へと侵入することが出来たのである。
すると、フルシアンは何やら地面に動いてるものを見つけ、さっとそれを捕まえた。
「それは何だ?フルシアン」
シイルは、フルシアンに聞いた。
フルシアンは1匹のネズミを手に持っていた。
「“彼“にここを案内してもらおう」
するとネズミがフルシアンの前に出て歩き出したのである。
「凄い能力だな…」
サンボラは改めて彼の能力に感心したのである。
そしてその時、フリンは何やら気配を感じ足を止めた。
「ちょっと待て…やっぱりだな。すんなり通らせてはくれないようだよ」
シイルは、フリンの顔を見ると前方に目をやった。
すると薄暗い墓地の奥から何やらカチカチと音を立ててこちらに向かってきたのである。
地下墓地の蝋燭の僅かな灯りが、それの姿をゆっくりと照らし出した。それは、人間のように二本の足で立ち、鎧を身につけ、手には剣と盾を持っているようであった。しかし、それは明らかに人間とは違っていることが分かった。何故ならば、彼らの身体には、兵士のような筋肉や頭髪は無く、むしろ剥き出しになった骨のみで動いていたからである。
フルシアンは、背負っていた弓矢を取り出して構えた。
「来たぞ!スケルトンだ!!」




