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忘れがたき炎の物語  作者: 判虹彩
老龍編
2/21

第2話「パンテラ」

さて、2話です。もうお気付きの方もいらっしゃると思いますが、はい、色んな名前がロックしてます。ええ、そういった楽しみ方もいいんじゃないかと思います。ええ。

ガラとセレナは洞窟から出て歩き出した。


『ガラ、これから人間の棲家に行くんだろ?たくさん人間がいるんだろ?そこで何をするんだ?』


矢継ぎ早な質問に、ガラは数秒間黙っていたが、

『お前、ホントにさっき戦ってたドラゴンかよ?これからパンテラって町に行って、ギリオスって奴に会うんだよ。』

『ギリオスって誰だ?ガラの仲間か?』


『仲間っつうか、まぁ古い知り合いだがな、言ったろ?これを金に替えるんだよ。』


ガラは担いでいた袋をグイッと持ち上げセレナに見せる。


『パンテラってとこは人間がたくさんいるのか?』


『…お前食うなよ』

ガラはセレナにむけて厳しい目を向ける。


『食わないよ!ドラゴンは人間の肉そんなに好きじゃない!』


『…そんなに…』


ドラゴンがいる森はとても深く、普通の人間では到底入って来れない。なぜならば、入ってきても多くの魔物や竜族に襲われてしまうし、また、森全体に漂う不思議な霊力の影響で、精神を乱され、普通の人間ならば一日と持たないからである。

この森の名は“コンパルサ”古代の言葉で「深淵なる森」という。遥か昔、古代魔導帝国が世界を支配していた時代からあり、ところどころで、古代帝国の遺跡が崩壊し、苔むした壁や石像などに出くわす。


ガラはすいすいと森の中を歩く。しかし、何か違和感を感じた。

『おかしいな。』

『どうしたガラ?』


『いや、この森に入ってきた時に出てきた魔物や竜族に全然出くわさないんだよ。』


セレナは少し笑みを浮かべて、言った。

『私がいるからだよ。皆、私の存在に気付いて道を開けてくれているんだ。』

『ほう、なるほどな。』


それを聞いてガラは内心ほっとしていた。

なぜかというと、セレナとの戦いで剣を破壊されてしまっていたからだ。残す武器は、脇にしまってある短刀しかない。もし今、森の化物に出くわすとやっかいだと思っていた。また、竜族たちもセレナのドラゴン程ではないが、かなり強力な相手であった。


『思っていたより早く町に着きそうだ。』


森を抜けると街道に出る。街道からはパンテラの町まで一直線に進めば着く。セレナは時折りすれ違う馬車や旅人に興味深々であった。


『おい、あまり目立ったことするなよ。』

ガラは人差し指を立てて言った。

『分かっておる。ドラゴンにはならない方がいいのだろう?』


『そらそうだが、町は憲兵がうろついてんだ。あまり目立つとめんどくせえことになるからよ。』


セレナはうんうんと頷いた。ガラは、やれやれといった表情で歩いていく。

しばらくすると、とある旅団の馬車が近付いてきた。先導する馬に一人、馬車は2台それぞれに馬が2頭で引っ張り、後続の馬にも一人乗っていた。旅団の馬車には布が被され、前の馬車には、布の隙間からたくさんの荷物が積まれていた。

しかし、後ろの馬車には、布の隙間から檻のようなものが見えた。そこに入っていたのは、4人の子供であった。皆表情は暗く、うつむいている子、またうつむきながら泣いている子がいた。

セレナはその馬車を不思議そうに見つめる。


『奴隷商だ。あまり近付くなよ。』

『どれいってなんだ?なぜあの子たちは皆泣いているんだ?食われるのか?』

ガラは少し足を早めた。

『いいから来いって』


しかし、ガラの忠告を聞く前に、セレナは馬車に近付き、旅団の後続の馬に乗っている男に声をかけてしまった。


『なあ、この子たちをどうするんだ?』

旅団の男は少し驚いた様子でこう言った。


『あん?こいつら亜人種は高く売れるんだよ。邪魔すっとお前も檻に入れるぞ。』


『しまった!』

ガラはセレナを慌てて呼び戻そうとする。


『子供たちは泣いている。可哀想だから離してやってくれないか?』


突然声をかけられ、旅団の男は呆れた顔であった。


『何言ってんだ?お前商売の邪魔する気か?』


そう言うと、旅団の前方に向かって止まるよう叫んだ。旅団を先導していた馬がこちらに来る。


『なんだねえちゃん、お前貴族か?この子らは高いぞ?』


すると檻の中に入っていた子供たちが叫ぶ。


『おねーちゃん!助けて!』


そこに駆け付けたガラは、すぐさま旅団に向かって言った。


『わりぃな!こいつは俺のツレでちょっと頭の病いってやつでさ、これから町に連れて行くんだ』


旅団の男たちはなんだと言った表情で、また進もうとする。


その時、セレナはおもむろに檻に手をかけたかと思うとバキッと破壊してしまった。旅団の男は慌てて叫んだ。


『何やってる!』


と、その瞬間であった。


旅団の男が言葉を次ぐ寸前に白目を剥いて馬から落ちたのである。背中には矢が刺さっている。


『盗賊だセレナ!逃げろ!』


瞬く間に街道の影からゾロゾロと武器を持った盗賊たちが姿を現した。10人ほどであろうか、剣や弓、鎌や斧などを手に持ち、つぎはぎの鎧や兜を被っている。それは町の店に飾ってあるような上品な代物とは到底思えないつくりであった。


ガラはちっ!と舌打ちしながら短刀を抜いた。

『ちと多いな』

セレナはガラの方に向き、叫んだ。


『ガラ!子供たちを連れて逃げて!』


子供たちは檻から飛び出し、ガラの方へ走っていくが、盗賊に囲まれてしまった。


盗賊たちは武器を構え、にやつきながらセレナを見て


『おいおい、こいつは上玉だぜ!荷物だけじゃなくこいつも、連れて行こう!』

『奴隷のガキ共も一緒にな!』


セレナはみるみる怒りに満ちた表情になっていく。銀髪は逆立ち、オレンジ色の目はギラギラと光出した。


『まずい!あいつ変身する気だ!』


その瞬間セレナの体が光り輝き、角、羽、尻尾、白い肌から銀色の鱗が浮き出てきた。そして、どんどん大きくなっていく。


『グオオオオン!!!!』


盗賊たちは驚き、腰が抜けたり、逃げ出したり叫び出した。旅団の男たちも同様である。


ガラは一瞬の隙を付き、子供たちを囲んでいる盗賊の喉元に短刀を突き刺した。

盗賊は倒れ、ガラは子供たちを抱えて走り出した。


『こっちだ!』


数メートルほど離れた場所に子供たちを避難させ、ガラはまたセレナの元へ走り出した。


セレナは尻尾で薙ぎ倒したり、口から炎を吐いて盗賊たちをやっつけていく。残りをガラが短刀と火の力で倒していく。

あっという間に盗賊は全滅してしまった。


子供たちはその様子を驚きながら見ていた。


セレナはまた人間の姿に戻り、ふうっと一息ついた。

『ガラ、ごめん。私…』


ガラは盗賊の死体を道の脇に放り投げ、セレナの方に向く。


『…』何かを言いかけたが、子供たちがわぁっとセレナのまわりに集まる。セレナはしゃがんで子供たちを撫でたり、抱擁したりしている。


ガラは言葉を飲み込み、倒れている旅団の男の服を脱がしていく。


『セレナ、これを着ろよ。』


セレナが着ていた布切れはドラゴンに変身した時破れて無くなってしまったのであった。またセレナの白い肌は透き通るように美しく、すらっと伸びた脚は曲線美を描き、この世のものとは思えない。まさに絵画の様であった。


セレナは旅団の男が着ていた服を着た。


『ガラ、この子たちは…どうしよう?』


少し困ったような表情を浮かべながら、セレナはガラに申し訳なさそうに言った。


ガラはもう一人の旅団の男の服を脱がし、それを着た。


『そのガキ共を馬車に乗せろ』


セレナはきっと表情をこわばらせ、ガラに厳しい目を向ける。


『ガラ!…


ガラは言葉を遮るように続ける。


『ちょうどいい。俺たちが旅団に成りすましてガキ共をパンテラに連れていく。心配すんな。奴隷商に渡したりはしねえよ。パンテラに孤児院がある。そこにそいつらを預ける。俺たちは見張りの憲兵にも怪しまれずに町の中に入れるってわけだ。』


セレナはほっとした表情を浮かべた。


『ガラはいい人。やっぱりあなたについて行きたい。』


ガラは心のどこかで、懐かしい感覚がした。しかしそれがまだ何なのか、彼には分からなかった。


『なぁ、ガラ。どうして人間は服を着るんだ?』


『…あ?そりゃ裸でいると…その…』

『その、なんだ?』

セレナは純粋な目をガラに向ける。

『こここここ興奮するんだよ…つまり、あれだ…ああくそ!なんて言ったらいいか分からねえ!とにかく人間はドラゴンと違う。何か着てねえとダメなんだよ!』


『ふーん。』



一行はパンテラに向けて進みだした。





パンテラは商業で栄えた交易都市である。町は人々で活気に溢れ、街道を通して様々な物資や人々が行き交っていた。

町で一番大きな酒場“ダイヤモンド・ダレル”にはギルドが存在し、魔物狩猟や、捕獲、鉱石の採掘など、様々な仕事を人々に斡旋していた。そこを取り仕切る支配人が、“ギリオス・ブラウン”である。浅黒い肌に鋭い眼光。髪の毛は無く、長く伸びた髭は先で編み込まれている。

恰幅の良い体には威圧感があり、低くしゃがれた声でゆっくりと話すのが特長的であった。


ギイイ…と酒場のドアが開くと、二人の人間が入ってきた。ガラとセレナである。二人は奥へと進み、酒場のカウンター越しにバーテンダーに話しかけた。


『ガラだ。ギリオスはいるか?』


バーテンダーは、驚いた表情で


『おお、ガラ!あんたまさか、生きて帰って来たってのか!?』


その声を聞き、ガラたちに近付く人物がいた。彼女は“ドロレス・マーキュリー”。ガラよりも少し背は低いが、筋肉質でしなやかな体付き、その肉体美を邪魔しない程の露出度の高いアーマーを身に纏い、その黒髪は規則的に編み込まれている。


『ガラ!あんた、よく帰ってきたな!』


ガラはドロレスと抱擁し、握手を交わす。


『ドロレス。ギリオスはいるか?』


ドロレスに案内され、二人は酒場の奥へと進む。

奥には丸く大きなテーブル、さらに奥に大きな椅子に腰掛けた男性、両脇には武器を携えた屈強な男が二人立っている。一人は体は人間だが、毛皮で覆われ、顔は人狼風のいでたち。もう一人は、羊の様にくるっと曲がった角が頭の両脇から生え、こちらも屈強な体付きだが、足は鹿のように人間と逆に折れ曲がった様に立っている。

まるで“フィーンド“の様ないでたちであった。

パンテラは、交易で栄えた都市であるが、人種の交わりも多く、かなりの人種が入り混じっている。獣人やエルフ、ドワーフ、フィーンドなどはそうであるが、それらがグラデーションを成し、十人十色の人種が入り乱れているのである。

しかしながら、パンテラは人間種が多数を占めており、上流階級にいくにつれて人間種が多くなっていく。ガラたちが奴隷売買の旅団に出会ったのは、まさに他人種に対する差別的な考え方が根強く残っていることの証左であった。

また、ギルドは多くの仕事を取り扱う性質上、亜人種系が多数を占めている。


椅子に腰掛けた男性は、パイプを加えながら入ってきた二人に目をやると、目を丸くした。


『ガラ!こいつは夢か?お前まさか…』


『ギリオス。ああ、こいつを見な。』


ガラは革袋からドラゴンの牙や爪を取り出し、テーブルの上に置いた。


ギリオスは両手を頭に乗せて言った。

『こいつ本当にやりやがった!信じられん!あの伝説のドラゴンだぞ!?「炎のガラ」の名は、廃れちゃいなかった!お前は生ける伝説だ!』


興奮したギリオスは、すぐに隣に立つ人狼風の護衛に話しかけた。護衛は奥へと入って行き、錠前がついた箱を持ってきた。


ギリオスは錠前を鍵で開け、箱を開いた。


『1、2、…よし、ほら約束の5000トレントだ。』


ガラはテーブルの上にバサッと積まれた札束を革袋に入れた。ギリオスはふとガラの隣りに立つセレナに目をやった。


『ガラ、彼女は誰だ?旅団にしちゃ若いな。』


ガラは表情を変えずに言った。


『こいつは俺が雇った魔法使いだ。旅団にいて良い腕を持ってたんで俺が引き入れた。…ったく、あんたも意地が悪いな。ドラゴンが3匹もいたなんて聞いてなかったぞ。さすがに死ぬかと思ったぜ。』


ギリオスは少しバツが悪そうな顔をした。


『3匹か…いや、何、だからわざわざ俺はお前をフォークリーフから呼び寄せたんじゃないか。』


ガラはふんと鼻をならした。


『とにかく、これでしばらくはお前の顔を見ずに済むぜ。達者でな。』


立ち去ろうとするガラに、ギリオスは立ち上がりながらガラを止めようとする。


『ちょっと待て待て!お前とは長い付き合いじゃないか!少しは俺からも何かさせてくれ!』


その時、ガラの後ろにいたドロレスが続けて言った。

『そうだよ!何せあんたは伝説を作っちまったんだからね!あたしにも何か奢らせてくれよ!』


ギリオスは「そうだ」と言いながら、店を見渡して

大きな声で叫んだ。

『みんな聞いてくれ!炎のガラが伝説のドラゴンを見事退治したぞ!今日は俺の奢りだ!皆、ガラの功績を讃えてくれ!』


酒場中に鳴り響いた声で、一瞬静まり返った次の瞬間、オオー!という怒号の様な歓喜に包まれた。


ガラたちはしばらく酒場で猛者たちからの祝杯を浴びた。ある者は肩を叩きながらガラを褒め称え、またある者は泣きながらガラの帰還を歓迎するのであった。

ドロレスは麦酒の入ったコップをガラに向けた。

『とうとうやったね!さすがはあたしが見込んだ男だけあるよ。で、これからどうすんだい?』

『そうだな、わけあってあまり長くは居られねえんだ。』


ドロレスは少しがっかりした様子で言った。


『なんだ、そりゃ残念。ま、いいさ。あんたらしいよ。またここに来た時は寄ってくれよ。』


確かにガラには少し心配なことがあった。セレナの存在である。旅団の一件での変身のように、またいつかそうなるやもしれぬ危険性を抱えながらこの街に滞在するのは、大きなリスクを抱えることになる。ましてやドラゴンが退治されていないなどと知れたら、誤解されかねない。下手をすれば牢獄行きである。


ダイヤモンド・ダレルを出たガラは、セレナの格好を見て言った。


『お前の格好は少し目立つな。ちょっと来い。』

『どこへ行くんだ?』

セレナは少しワクワクした。

ガラはスタスタと歩き、露店が立ち並ぶ広場へと入っていく。


セレナはあたりをキョロキョロ見渡しながら、ガラに話しかけていく。

『ガラ!これは何だ?』

『ガラ!凄いな!人がたくさんいる!』

興味深々なのをよそに、ガラはどんどん奥へと進んでいく。

そして、ガラたちは服屋に辿り着いた。


『お前さんその格好じゃ逆に怪しまれるからな、何か違う服を買ってやる。おい、店主よ!』


セレナはパアッと笑顔になった。


『えっ!私に服を買ってくれるのか?やった!!』


頬を紅潮させ喜ぶ姿は、まさに女神の様であった。

奥から出てきた中年の女性店主は、セレナを見て目を見開いた。


『あらまあ!何と美しいお嬢さんだこと!』

店主は、感激しながら、次から次へとセレナに会う服を選び、着せては脱がし、また着せていく。

セレナはガラに言った。

『ガラ!これどう?』


淡いグリーンのコット(中世のワンピース)を見に纏ったセレナは、くるりとまわりながら、ガラにとびっきりの笑顔を向けた。


それを見た瞬間ガラは驚嘆した。


『こいつは驚いた。お前さん、相当な上玉だよ。』

ガラの素直な気持ちだった。


『じょーだま?』セレナはキョトンとしている。


『ああ、お前さんを目の前にしたら、町中の娘、いや、貴族さんたちでさえ霞んで見えらぁ。』


店主が小さい拍手をしながら言った。


『まさに女神様がこの地に降り立ったかの様ですわ!旦那様、一体どこでこの様なお方を娶られたので?』

『いや、嫁じゃねえよ。いくらだ?買うぜ』


服屋を出たあと、セレナは上機嫌で、踊る様にガラの後をついていった。その様子を見ながら街ゆく人々は、セレナに視線を注がずにはいられないのであった。

そして、セレナはガラを突然呼び止めた。


『ガラ!腹減った!』


ガラは、その美貌とは似ても似つかないセレナのあどけなさに思わず吹き出してしまった。


『ぶっ!まったくお前は…調子狂うぜ』


ガラの心の中の懐かしさ、それはセレナによってどんどん増幅されていった。

それはまさしく、「人間性の温かさ」であったのだ。長年閉じ込めていた心の中の巨大な氷を、この竜の女は、少しずつ溶かしていったのである。その事実をガラは認めざる得ないのであった。


いかがでしょうか?感想などお待ちしております。

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