第1話「竜の女」
お初にお目にかかります。判虹彩と申します。どうかよろしくお願いします。さて、私は生まれて初めてこの小説を書きました。いかがでしょうか?
文才こそありませんが、小学生の頃から漫画にハマり、書いては友人に見せて楽しんだものです。どうやらその頃から何かしらストーリーを考えては表現するのが好きな性分のようです。でも難しい文章や表現力はありません。頭の中に浮かんだ世界をひたすら文に起こしていく。それだけです。お見苦しいところもあるかとは思いますが、この世界を気に入ってくれたなら本望です。
よろしくお願い致します。
男は剣を片手に持ちながら、森の奥をじっと見つめている。髭を蓄え、ボロボロのレザーアーマーに身を包んでいる。肘、肩、頬や瞼に傷があり、血が滴り落ちている。額には汗が滲み、頬から顎にかけて、血と混じり合いながらポタポタと流れ落ちている。
しかし男は微動だにせず、ただ森の奥を剣を構えながら凝視しているのだ。
ふと左鼻の穴からドロっと血が垂れる。すぐさまグイッと袖で拭き取りながら男は呟いた。
『くそったれ。3匹もいるなんて聞いてねえぞ。』
その時であった。男が見つめる森の奥から大きな影が飛び出した。木々や葉を吹き飛ばしながら、大きな影は空へと浮かび上がる。
バサッバサッと大きな音を立て、その影は、みるみるうちに男の方へ向かっていく。
『グオオオオーーン!』
大地を揺るがすような咆哮。
まさにそれは“ドラゴン“そのものであった。
その大きな影は、すっかり男を陽光から遮り、下にいる男をギラリと睨み付けた。
そのドラゴンは、全身を銀色の鱗で覆われており、陽光に当たると、乱反射しキラキラと輝いている。頭には角が2本生えており、口には鋭い牙がたくさん生えている。全長10数メートルはあるだろうか。またその翼は、そのおよそ2倍はあるであろう。
バサッバサッと羽ばたいた風は、容赦なく男にぶつかっていく。尻尾は垂直に垂れ下がっており、先の方はゆっくりと左右に振れている。
男はドラゴンから目を離さず、剣を構えながらジリジリと後ろに下がった。その時、剣を持たない方の手から青白い火がボッと出たかと思うと、手の周りにまとわりつかせた。どうやら彼は火を操れるようである。
『さあ、来やがれ!』
男がこう言うと、ドラゴンは一瞬ふっと上昇し、頭から男目掛け、物凄いスピードで突っ込んできた。そして、牙を剥いて男に襲いかかる。
その瞬間、男は火をまとっている手をドラゴンの方にかざした。
『ファズ!』
男の手から放たれた光球が、ドラゴンの目の前で閃光を放ちながら爆発した。
バーン!と物凄い音が森中に響き渡る。
ドラゴンは咄嗟に目を瞑り、ぐわっと首を曲げて向きを変えようとした。
その瞬間、男はくるくるっとドラゴンの腹の下に向かって前転し、持っていた剣を左右に弧を描くように振り払った。ドラゴンの腹からブバッと血が吹き出す。あまりにも鮮やかな動きである。
ドラゴンは、「グオオ」と叫びながら体制を崩し、ドーンという地響きと共に、地面に倒れ込んだ。
『やったか?』
男はドラゴンの方を振り返る。しかし、ドラゴンはすぐさま起き上がり、男の方に向き直した。
『ちっ!タフなやつめ!』
男はドラゴンの方を向きながら、ジリジリと横に移動し、もう一度片方の手に火をまとわせた。
ドラゴンは、今度は四つん這いになりながら、男と対格に距離を保ち、円を描くように移動していく。
『ロロロロ…』
ドラゴンは喉を鳴らしながら、男を睨み付けている。腹からはポタポタと血が垂れている。
男は火をまとわせた手を、今度は自分の横の地面に向けてかざした。その瞬間、手から光球が飛び出し、ボンッ!と地面に穴があいたのである。そして男は、またぱっとその横に移動する。
男は段々と肩で息をするようになってきた。
『はぁはぁ、このままだと俺の体がもたねえ。…この技は使いたくなかったんだが…決めさせてもらうぞ!』
そう言いながら、男はまた地面に光球を放ち穴を開ける。
その時、ドラゴンは口を大きく開き、男目掛けて炎を吹き出した。
ゴオオオオ!
すぐさま男は横に転がり回避する。
『まだ分かんねえみてえだな!俺に火は効かねえんだよ…』
そう言いながら、またしても男は地面に穴を開ける。四つほど穴を開けただろうか。穴はドラゴンを囲んで外側に四隅に位置している。
そして男は、剣を両手に持ち替え、刃を地面に向けて突き刺した。
『ファイヤーハウス!』
その瞬間、穴を開けた四隅の角の内側の地面から大きな火柱が立った。
ゴオーという音と共に、火柱はみるみるうちにドラゴンを覆い尽くした。
『グオオオオン!!』
ドラゴンは悶絶しながら吠えている。
男は地面に突き刺した剣を握りながら、無言でドラゴンを見つめている。
その時であった。ドラゴンは男の反対方向にくいっと体制を向け、尻尾を男目掛けてぶつけてきたのである。
すぐに男は剣から手を離し、後方へ飛んだ。
『ちっ』
剣がドラゴンの尻尾で折れて吹き飛んだ。その瞬間、火柱がふっと消えていった。
そして、ドラゴンはそのまま力無く倒れ込んだ。ドオーンという音があたりに響く。
男は膝から崩れ落ち、地面に座り込んだ。
『はぁはぁ、やったぞ』
しばらくすると、ドラゴンはみるみるうちに縮んでいく。角、羽、尾、鱗は次第に消え去り、形を変えていく。頭からは銀色の髪が生え、鱗は白い艶のある肌に変わっていった。まさしく女の姿である。女はそのまま倒れ込んだ姿で、苦しそうにしている。
男は立ち上がり、脇から短刀を取り出して、その女に近付いていく。女は、カッと目を開き、男に顔を向けた。見た目は10代後半くらいであろうか。女は、必死の形相で男を睨みつけている。
『さあ、殺すがいい!』
女の目は、燃え盛る火のようにオレンジ色をしていた。先程のドラゴンと同じ色の目である。
そして、銀髪は腰まで伸び、白い肌を半分程隠していた。
男は短刀を女の方に向けていたが、さっと懐にしまい、向きを変え歩き出した。
『どうした!殺さないのか!』
男は女の声に気にも止めずに歩いていく。しかしながら、歩調はフラフラである。おそらく男は既に体力が限界なのであろう。
女も立ち上がり、男に近付いていく。女も歩調はフラフラである。
『待て!人間!なぜ私を殺さない!』
『うるせえな…うちに帰んな。もう悪さすんなよ。』
女は男を見ながら立ち止まる。
そして、すぐにまた男の方へ歩き出す。
『待て人間、どこへ行くんだ!』
『なんだよ。俺はもうお前に用はねえんだよ。』
そう言いながら、男は地面に置いてあった革袋を持ち上げた。そしてまた歩きだすと、そこには2体のドラゴンが倒れていた。
先程戦ったドラゴンと、ほぼ同じ姿かたちのドラゴンである。だが既に2体とも息はなかった。男が仕留めたのであろうか。男は無言でドラゴンの角や牙を抜く。そしてそれを淡々と革袋に入れていった。女はその様子を男の少し後ろで、ずっと見つめている。
『それを売るのか?』
男は女の方に向かずに答える。
『これは証拠品だ。ギルドで金に替える』
よし、と言うと男はまたしても歩き出した。
女はすぐに男の後を追いかける。
『なあ、なあ、どこへ行くんだ?人間の棲家へ行くのか?』
『そうだ。』
男は歩きを止めない。
女の姿は、まるで人間の少女そのものであった。先程戦ったドラゴンの姿とは到底似ても似つかない。
『なぁ、人間よ!私もついていきたい!そこへ連れていっておくれ!』
男はピタッと足を止めて振り返る。
『お前何言ってんだ?』
女は続ける。
『お願いだ!あなたのお供にさせておくれよ!』
男はふぅーっと息を吐き、しばらく女を見つめると、また歩き出した。
『好きにしろ。俺は知らん。』
と言うと、女の顔はパッと明るい表情になった。
そして、すたすたと男のそばまで近づいていく。男は女を見て言った。
『お前、そのかっこで付いてくるのかよ?』
そう言った瞬間、男は苦しそうな表情に変わり、ううっと唸ったまま倒れ込んでしまったのだった。
男が目を覚ますと、そこは広い洞窟の中だった。男は起きあがろうとするが、体が言うことを聞かない。
『くそっ。無理し過ぎた』
すると奥から女が歩いてきた。ドラゴンから変身した女だ。銀髪は後ろで束ねられ、布切れを身につけている。
『なんだ、お前の棲家か?』
よく見ると女の手には葉っぱが数枚握り締められている。
『じっとしてろ。大丈夫。食ったりはしないよ』
そう言うと女は、握っていた葉っぱをおもむろに口に含み、くちゃくちゃと噛み出した。次に着ている布切れの端をびりっと破くと、そこにくちゃくちゃになった葉っぱをぺっと吐き出した。すると、男の体の傷の部分にそれをくっつけたのである。うっと男は声を出すが、女は言った。
『竜の薬草だよ。傷が治るんだ。』
たしかに男は体の奥から温かくなっていくのを感じた。そして、女はまた奥へ行き、戻ってくる。しかし次は口に何かを含んでいる。男の頭のすぐ横に座ったかと思うと、男の口へ自分の口を付けた。
男は驚いたが、まだ体が言うことを聞かない。
その瞬間、口の中に水が流れ込んでくる。女は口移しで男に水を与えたのだ。
『飲め。』
そう言うと女はこの動作を二、三回繰り返した。
男はそのまま眠りに付いてしまった。
その夜、男は夢を見た。燃え盛る家々、逃げ惑う人々、男は何かを必死で探していた。家の前で倒れている女性を見つけると、男はぐっと抱き寄せた。
『ウラ!俺だ!目を覚ませ!』
『あ…あなた…』
女性の衣服は全身焦げており、意識は朦朧としている。
『ウラ!しっかりしろ!』
女性はそのまま男の腕の中で息を引き取った。
『ウラ!!!』
ハッと男は目を覚ました。
隣にはすーすーと、寝息を立てて女が眠っている。おそらく、一晩中男を看病していたのだろう。男は体の痛みがすっかり引いてることを実感した。
『こいつはすげぇな。』
そう呟くと、置いてあったレザーアーマーを手に取り、素早く着用しながら外へと歩いて行き、再び森の中へ入って行った。
女が目を覚ますと、薪火がくべられ、そこに串に刺された動物の肉が焼かれていた。
『ほら、食え』
その肉を女にやると、女は夢中でそれに食いついた。
『じゃあ俺は行く。傷、治してくれてありがとうな。』
女は立ち上がり
『お願いだ!私も連れて行って!あなたの邪魔はしないから!』
男はしばらく考えると
『どうなっても知らねえぞ』
女は笑顔になり
『うん!ありがとう!人間!』
と答えた。
男は
『俺はガラってんだ。』
と言いながら洞窟の出口へと歩き出した。
『ガラ!私はセレナ!』
セレナは嬉しそうにそう言い、ガラに付いて行ったのだった。
いかがでしたでしょうか?ガラとセレナの出会い。ありきたりな展開かもしれませんが、どうか長きに渡りお付き合いいただければ嬉しいです。ご感想もお気軽にください。今後ともよろしくお願いします。