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キミ想ウ花束  作者: 桜美 咲蘭
欲望、
97/107

15

216の私の部屋。

部屋番号にさえ黒瀬くんがいるの。


住所を書く度に黒瀬くんの"誕生日"が浮かぶんだよ。

私、黒瀬くんのことが。どうしようもないくらい、好きなの。

馬鹿みたいに、ただ、ずっと好き。


玄関を開けて一歩踏み込んだ瞬間、手を引かれた。

触れた指先の熱に、思考が霞む。

何も言えないまま連れていかれた先は、バスルーム。



「え、服、まだ……」


絞り出すような声は、

シャワーの轟音にすぐに呑み込まれていった。

熱い湯が頭から降ってきて、身体を濡らす。

けれど、それ以上に熱いのは、彼の視線だった。


「……朝比奈先輩の匂い、もう限界」


「……え?」


「白川は、俺のだろ?」


耳元で囁かれる声に、背筋がゾクリと震える。

その言葉と共に、腰を引き寄せられる。

シャツの隙間から指先が忍び込み、濡れた布の感触さえ甘い刺激に変わる。

シャワーの音が、もう遠くで響いているように感じる。


唇が重なった瞬間、世界が滲んだ。

呼吸も思考も、彼に溶かされていく。

息もできないほどに、心まで奪われていく。


「……黒瀬くん」


名を呼んだその刹那、ふわりと体が浮かんだ。

まるで空気を滑るように、優しく、それでいて迷いのない腕に抱えられる。



ベッドに沈められた頃には、身体も心もすでに彼の熱に溶かされていた。

濡れた服なんて、もう気にならない。

ただ、彼に触れていたかった。


「黒瀬くん、待って……」


その声は自分でも驚くほど震えていて。


「……待たないよ」


静かに囁かれたその言葉が、心の奥を深く揺らした。


ずっと夢に見ていた。

妄想して、憧れて、何度もシミュレーションしてきた“はじめて”。


けれど、いざその時が来ると、胸が苦しい。


本当に、これでいいの?

このまま進んでしまって、大丈夫……?


もっと丁寧に、もっと心を込めて、

ちゃんと“想い”を交わしてからにしたかった。




「……湊くん」




名前で呼んだ瞬間、彼の動きが止まった。

目が合う。

見つめ合う瞳の奥で、感情が激しく揺れるのがわかる。


肩で息をする彼の姿も、濡れた髪も、火照った頬も――

どれも、たまらないほど愛おしい。


「……ごめん」


ぽつりと落とされたその言葉に、

胸の奥がぎゅうっと苦しくなった。


私は彼の首に腕を回して、そっと抱きしめ返す。


「……いいよ。全部あげる」


想いのすべてを預けたかった。

声が震えるのは、緊張のせいだけじゃない。

恥ずかしさと、喜びと、ほんの少しの怖さ――

でもそれ以上に、彼の優しさが私を包んでいた。


ときどき滲む意地悪なドSな表情でさえ、もう愛しくてたまらない。


少しだけ痛みが走った。

けれどそれも、彼の熱にすぐ塗り替えられていく。


満たされていく。

心も、身体も、彼という存在で満ちていく。


――ポタ。


額に落ちた一滴の水。

何気なく見上げると、そこには涙を浮かべた彼の顔。


「……やば、ごめん」


震える声が、切なく響いた。


その涙に気づいた瞬間、心が震える。

この人の、一番深い場所に、私がちゃんといる。


そう思えた瞬間、すべてが報われた気がした。


「……愛してる」


耳元に落とされたその言葉は、

“好き”なんかじゃ到底届かない、圧倒的な真実だった。


胸が詰まるほど嬉しくて、

泣きたくなるくらい幸せで。


もう私の全部――心も、身体も、未来さえも。


黒瀬くんのものだと、心から思えた。



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