15
216の私の部屋。
部屋番号にさえ黒瀬くんがいるの。
住所を書く度に黒瀬くんの"誕生日"が浮かぶんだよ。
私、黒瀬くんのことが。どうしようもないくらい、好きなの。
馬鹿みたいに、ただ、ずっと好き。
玄関を開けて一歩踏み込んだ瞬間、手を引かれた。
触れた指先の熱に、思考が霞む。
何も言えないまま連れていかれた先は、バスルーム。
「え、服、まだ……」
絞り出すような声は、
シャワーの轟音にすぐに呑み込まれていった。
熱い湯が頭から降ってきて、身体を濡らす。
けれど、それ以上に熱いのは、彼の視線だった。
「……朝比奈先輩の匂い、もう限界」
「……え?」
「白川は、俺のだろ?」
耳元で囁かれる声に、背筋がゾクリと震える。
その言葉と共に、腰を引き寄せられる。
シャツの隙間から指先が忍び込み、濡れた布の感触さえ甘い刺激に変わる。
シャワーの音が、もう遠くで響いているように感じる。
唇が重なった瞬間、世界が滲んだ。
呼吸も思考も、彼に溶かされていく。
息もできないほどに、心まで奪われていく。
「……黒瀬くん」
名を呼んだその刹那、ふわりと体が浮かんだ。
まるで空気を滑るように、優しく、それでいて迷いのない腕に抱えられる。
ベッドに沈められた頃には、身体も心もすでに彼の熱に溶かされていた。
濡れた服なんて、もう気にならない。
ただ、彼に触れていたかった。
「黒瀬くん、待って……」
その声は自分でも驚くほど震えていて。
「……待たないよ」
静かに囁かれたその言葉が、心の奥を深く揺らした。
ずっと夢に見ていた。
妄想して、憧れて、何度もシミュレーションしてきた“はじめて”。
けれど、いざその時が来ると、胸が苦しい。
本当に、これでいいの?
このまま進んでしまって、大丈夫……?
もっと丁寧に、もっと心を込めて、
ちゃんと“想い”を交わしてからにしたかった。
「……湊くん」
名前で呼んだ瞬間、彼の動きが止まった。
目が合う。
見つめ合う瞳の奥で、感情が激しく揺れるのがわかる。
肩で息をする彼の姿も、濡れた髪も、火照った頬も――
どれも、たまらないほど愛おしい。
「……ごめん」
ぽつりと落とされたその言葉に、
胸の奥がぎゅうっと苦しくなった。
私は彼の首に腕を回して、そっと抱きしめ返す。
「……いいよ。全部あげる」
想いのすべてを預けたかった。
声が震えるのは、緊張のせいだけじゃない。
恥ずかしさと、喜びと、ほんの少しの怖さ――
でもそれ以上に、彼の優しさが私を包んでいた。
ときどき滲む意地悪なドSな表情でさえ、もう愛しくてたまらない。
少しだけ痛みが走った。
けれどそれも、彼の熱にすぐ塗り替えられていく。
満たされていく。
心も、身体も、彼という存在で満ちていく。
――ポタ。
額に落ちた一滴の水。
何気なく見上げると、そこには涙を浮かべた彼の顔。
「……やば、ごめん」
震える声が、切なく響いた。
その涙に気づいた瞬間、心が震える。
この人の、一番深い場所に、私がちゃんといる。
そう思えた瞬間、すべてが報われた気がした。
「……愛してる」
耳元に落とされたその言葉は、
“好き”なんかじゃ到底届かない、圧倒的な真実だった。
胸が詰まるほど嬉しくて、
泣きたくなるくらい幸せで。
もう私の全部――心も、身体も、未来さえも。
黒瀬くんのものだと、心から思えた。




