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キミ想ウ花束  作者: 桜美 咲蘭
欲望、
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13

「……これも、シュミレーション済みだったりする?」

「……初めてだけど」

「お、初めてゲット」


くすっと笑いながら言うと、黒瀬くんはちょっと眉をひそめた。


「……そういう目線で過ごすの?」

「うん。そういう目線で過ごすの」



だって――


 


「黒瀬くんの“初めて”は、ぜんぶほしいもん」


私の“初めて”を、こんなにもさらっていくんだから。

出会ってから何度、心を奪われたか分からない。

だったら、私だって。彼の記憶の中に、ちゃんと爪痕を残したい。


 


「……ごめん」


ポツリと落ちたその言葉に、少し驚く。


「謝った」

「ごめん」


ギュッ――


繋いだ手に、ふいに力がこもる。

あたたかくて、やわらかくて、まっすぐな“ごめん”。


その手が、心に触れてくる。

ごめんね、ちょっと意地悪しちゃった。


 


「いいなあ、クラゲになりたいな」


天井を泳ぐクラゲたちを見上げながら、ふと思ったことをつぶやく。


「前も言ってたよ」

「え?いつ?」

「高校のとき」

「……覚えてない」

「俺が覚えてるから、いいよ」


静かなトーンで、さらりと返される。

それだけで、また心臓がきゅっとなる。


 


私が忘れてたことを、黒瀬くんはちゃんと覚えてる。

過去の私の気持ちを、大切にしてくれてる。

そんなふうに言われたら――好きにならないわけがない。


 


「イルカショー行こっ!」


パッと顔を上げて言うと、黒瀬くんは少し眉を上げた。


「濡れるかも」

「じゃあ、濡れないところがいい!」

「真ん中……かな?」


それなのに、気づけば会場のいちばん前列。

周りはレインコートの人たちでいっぱい。

多分――いや、絶対濡れる。



でも、こんな時間なら、ちょっとくらいびしょ濡れでもいい。


 


「一時期ね、めっちゃシャチにハマってたの」

「うん」

「知ってた?」

「うん」

「なんでも知ってるじゃん」

「好きだからね」


ぽつんと落ちるように、何気なく出てきた言葉。

けれど、それはしっかりと、心に届いた。


また、くれるんだ。そういう嬉しい言葉を。

いつも、何気ない顔で。


 


「……私ね、黒瀬くんのこと、知らないことばっかりだよ」

「……それでいいよ、別に」

「……でも、知りたいよ」

「……全部知っちゃったら、つまらないでしょ?」


 


「……つまらないって、思った?」

「ん?」

「私の好きなもの、ぜんぶ知って、つまんないなって思った?」


黒瀬くんは、一瞬だけ視線を泳がせてから、ちゃんと私の目を見て言った。


 


「……知れば知るほど、好きになるよ」


 


その瞬間、心の中に光が差し込んだ。

水面に反射する日差しみたいに、キラキラと。


 


波打つ胸の奥で、また新しい“初めて”が灯った気がした。

こんな気持ち、知らなかった。

たったひとことで、こんなにも幸せになれるなんて。



繋いだ手から、今日という一日が宝物になっていく――そんな気がした。

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