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キミ想ウ花束  作者: 桜美 咲蘭
欲望、
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11

スッピンなのも、寝癖がひどいのも、

そんなの気にする余裕なんてなかった。


玄関の扉を開けたのは、

反射的で、無意識で、

まるで夢の続きに足を踏み入れるようだった。


 


もしかして、まだ夢の中なのかもしれない。

現実みたいにリアルな、朝の夢。


「……でーと?」


かろうじて出た言葉は、情けないくらい間の抜けた声。


寝起きの頭では考えるのが追いつかない。

目の前にいるのは、黒瀬くんで。

彼は、真顔で――いや、少しだけ、笑っていて。


「デートしよう」なんて、唐突すぎて。

昨日、あんなことがあったばかりなのに。


呆然と立ち尽くす私を見て、

黒瀬くんがふっと笑った。


――ふは、って。

その笑顔に、胸が高鳴る。


伸びてきた彼の手が、私の頬に触れたかと思えば、

そのままやさしく、でもしっかりと引っ張る。


「起きて。朝だよ」


少しだけ痛くて、確かに現実だった。


でも、それ以上に、

その声が、笑顔が、

信じられないくらい優しくて。


……現実だった。

黒瀬くんが、ここにいて。

私を起こしてくれている。


その時だった。

ドタドタと、背後から床を揺らす足音が近づいてきて――


「おらっ!」


私の肩を押して前に出たのは、西園寺先輩。

そのまま、勢いよく黒瀬くんの胸ぐらを掴んだ。


目が覚めるような迫力に、私は一瞬で冷えた空気を感じる。


「泣かせんなよ」

「……はい」

「マジで、次はねえから」

「……はい」

「次またこいつがお前のせいで泣いたら――

 お前から奪って、颯のとこ行けって言うからな」

「……分かりました」


黒瀬くんの答えは、どこまでも低く、静かで、真剣だった。


悔しい。


……西園寺先輩、カッコよすぎて悔しい。

でも、ありがたくて、涙が出そう。


「白川。下で待ってるから。準備しておいで」


黒瀬くんが私に“魔法”をかけた。


その一言だけで、全身の血が巡り始めた気がした。


頷いて、部屋へと戻る。


「……行っちゃうのかー」


床に寝転がったまま、颯先輩が寂しそうに言った。


ごめんなさい。

優しさに甘えたままで、利用して。

ちゃんと、感謝を伝えなきゃ。


「……先輩、ありがとうございました」

「え、あら。振られた?」

「……告られてないです」

「うわあ。ずるー」


颯先輩らしい軽さに救われる。

クスッと笑って、バタバタと支度を終える。


玄関には、仁王立ちの西園寺先輩。

睨みきかせて待ってた。


「……黒瀬のこと、襲うなよ」

「もっと言うことないんですか?」


「嫌なことされたら、すぐ言えよ」

「……先輩みたい」

「先輩だからな」


その返しに、ちょっとだけ照れてしまう。


「……えっと、お疲れ様でした」

「なんだそれ!」

「先輩が教育係で良かったです」

「なに急に。キモイよ」

「チッ」

「は? 舌打ち!?」

「デートいってきまーす!」


最後まで西園寺先輩は西園寺先輩だった。

……大好きだ、こういうところ。


外に出れば、昨日の雨が嘘みたいに晴れていた。

ところどころに残った水たまりが、

朝日を受けてキラキラと輝いている。


まるで、今日という日を祝福しているような光。


「……お待たせ」


「待ってないよ」


黒瀬くんはそう言って、柔らかく微笑んだ。


ほんとは、待っててくれたくせに。

そんなところも、優しいんだから。


そして――


歩き出した瞬間、そっと、手を繋がれた。


その手のあたたかさに、心臓が跳ね上がる。


……もう、ダメだ。

爆発しそう。

私は、ほんとに、チョロい女だ。

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