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キミ想ウ花束  作者: 桜美 咲蘭
欲望、
89/107

7

目と目が合った瞬間、

息が止まった。


黒瀬くんの瞳の中に映る私は、

いまどんな顔をしているんだろう。


泣き出しそうな顔?

それとも……必死に強がってる、滑稽な顔?


きっと、アホみたいな顔してるんだろうな。

こんなイケメンの隣に、私なんかが。

釣り合うわけ、ないのに。


「中学のときから、好きで……ずっと、追いかけて」


声が震える。

でも泣くのは、まだ早い。

最後まで言わなきゃって、唇を噛んだ。


「黒瀬くんの……好きな人、私に似てるって、ホント?」


一瞬、黒瀬くんの表情が変わった。

眉間に、ふっとシワが寄って、視線が逸れる。


あ、って思った。


――ああ、終わった。


私の初恋、ここで終わるんだ。


「……全部、嘘だったの?」


向日葵も。

髪を結んでくれたことも。

優しさも全部。



「ねぇ……私は、誰かの代わりだったの?」


空が曇り始めたのは、いつからだったろう。

ポツ、ポツと、冷たい雫が肩を濡らしていく。


空と一緒に泣くみたいに。

夏の気まぐれな空が、二人を試すように雨を降らせる。


その中で、黒瀬くんが静かに呟いた。


「……半分正解、半分不正解」


違うよって、言ってほしかったのに。

その答えは優しさなんかじゃなかった。


ぐっと堪えていた涙が、視界を滲ませる。

苦しい。悲しい。わかんなくなる。


「逆だよ」


「……え?」


「白川に似た子を……抱いた」


……嘘でしょ?

聞き間違いじゃないの?


「ダサい自分、白川に見せたくなくてさ。

似た子に……手を出した。ごめん」


どうして。

どうして、そんなに不器用なの。


嬉しいはずなのに、

悲しいのに、

ぐちゃぐちゃに絡まって、

嬉しいなんて感情、どこかへ消えてしまった。


「似てても、似てるだけなんだって、気づいた」


「……やめて。もういい。もう、大丈夫」


「白川。聞いて」


「やだってば!」


「――俺も、中学のときから、ずっと白川のことが好きだよ」


雨音が大きくなった。

世界がふたりだけのものみたいに閉ざされていく。


もう……わかんないよ。

初恋のくせに、こんなに難しくて、苦しくて。

恋愛初心者には、レベルが高すぎるんだよ――


「……ごめん、ちょっと、ごめん……っ」


感情が爆発して、

心が持たなくて、

その場から逃げ出すように走り出した。


本格的な雨が降り出す。

服も髪も、全部びしょ濡れ。

夏の雨は、なんでこんなに意地悪なんだろう。


……もう、恋が、嫌いになりそう。


「……た、すけて……」


息がうまくできない。

苦しくて、苦しくて、立っているのもやっとで――


「え、ビショビショじゃん!!」



本能で選んだ逃げ場所。

甘えてしまいたくなる、優しい先輩。


「……はや、て先輩……」


「はいはい。よく頑張ったね。

お風呂入っておいで。

泣くのはそのあと。整理するのも、あとでね」


素直に黒瀬くんの言葉を受け止められなかった。

まだ気持ちが、追いついていかない。


窓の外も、心の中も――

降り続く夏の雨が、止む気配はなかった。

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