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目と目が合った瞬間、
息が止まった。
黒瀬くんの瞳の中に映る私は、
いまどんな顔をしているんだろう。
泣き出しそうな顔?
それとも……必死に強がってる、滑稽な顔?
きっと、アホみたいな顔してるんだろうな。
こんなイケメンの隣に、私なんかが。
釣り合うわけ、ないのに。
「中学のときから、好きで……ずっと、追いかけて」
声が震える。
でも泣くのは、まだ早い。
最後まで言わなきゃって、唇を噛んだ。
「黒瀬くんの……好きな人、私に似てるって、ホント?」
一瞬、黒瀬くんの表情が変わった。
眉間に、ふっとシワが寄って、視線が逸れる。
あ、って思った。
――ああ、終わった。
私の初恋、ここで終わるんだ。
「……全部、嘘だったの?」
向日葵も。
髪を結んでくれたことも。
優しさも全部。
「ねぇ……私は、誰かの代わりだったの?」
空が曇り始めたのは、いつからだったろう。
ポツ、ポツと、冷たい雫が肩を濡らしていく。
空と一緒に泣くみたいに。
夏の気まぐれな空が、二人を試すように雨を降らせる。
その中で、黒瀬くんが静かに呟いた。
「……半分正解、半分不正解」
違うよって、言ってほしかったのに。
その答えは優しさなんかじゃなかった。
ぐっと堪えていた涙が、視界を滲ませる。
苦しい。悲しい。わかんなくなる。
「逆だよ」
「……え?」
「白川に似た子を……抱いた」
……嘘でしょ?
聞き間違いじゃないの?
「ダサい自分、白川に見せたくなくてさ。
似た子に……手を出した。ごめん」
どうして。
どうして、そんなに不器用なの。
嬉しいはずなのに、
悲しいのに、
ぐちゃぐちゃに絡まって、
嬉しいなんて感情、どこかへ消えてしまった。
「似てても、似てるだけなんだって、気づいた」
「……やめて。もういい。もう、大丈夫」
「白川。聞いて」
「やだってば!」
「――俺も、中学のときから、ずっと白川のことが好きだよ」
雨音が大きくなった。
世界がふたりだけのものみたいに閉ざされていく。
もう……わかんないよ。
初恋のくせに、こんなに難しくて、苦しくて。
恋愛初心者には、レベルが高すぎるんだよ――
「……ごめん、ちょっと、ごめん……っ」
感情が爆発して、
心が持たなくて、
その場から逃げ出すように走り出した。
本格的な雨が降り出す。
服も髪も、全部びしょ濡れ。
夏の雨は、なんでこんなに意地悪なんだろう。
……もう、恋が、嫌いになりそう。
「……た、すけて……」
息がうまくできない。
苦しくて、苦しくて、立っているのもやっとで――
「え、ビショビショじゃん!!」
本能で選んだ逃げ場所。
甘えてしまいたくなる、優しい先輩。
「……はや、て先輩……」
「はいはい。よく頑張ったね。
お風呂入っておいで。
泣くのはそのあと。整理するのも、あとでね」
素直に黒瀬くんの言葉を受け止められなかった。
まだ気持ちが、追いついていかない。
窓の外も、心の中も――
降り続く夏の雨が、止む気配はなかった。




