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キミ想ウ花束  作者: 桜美 咲蘭
欲望、
88/107

6

私だけの時間が止まったまま、

ざわざわと、周囲の時間だけが進んでいく。


黒瀬くんと深青さんのぎこちなさ。

それなのに、自然に重なるアイコンタクト。

――見るだけで、胸が締めつけられる。


どうして。

どうして、こんな気持ちにならなきゃいけないんだろう。


誰も私なんて見ていない。

それなのに、息が苦しい。

心臓の音だけがうるさくて、もう何も考えられない。


聞きたくない。

見たくない。

触れたくもない。


――わたしだけが、まるでこの場にいてはいけない人みたい。


……無理だ。


静かに、椅子を引く。

音を立てないように、気配を殺すように。


「白川さん?どこか行くんですか?」


七瀬さんの声が聞こえた。

でも、聞こえないふりをした。


これ以上ここにいたら、心が崩れてしまいそうだった。


「ちょっと……外、行ってきます」


精一杯、笑ったつもりだった。

でも、声は震えた。目を逸らした。

全部、嘘だって、自分が一番よくわかってた。


足早にその場を離れる。


廊下に出ると、ひんやりとした空気が肌を撫でた。

ようやく、息ができる。


逃げるようにして歩き出す。

背中を向けていれば、涙を見られずに済む。


それでいい。それでいい――

そう自分に言い聞かせたその瞬間、


「……白川!」


追いかけてこないで。


そう心で願ったのに、

その声は、まっすぐ私を追ってきた。


好きな人に、また会えたんでしょう?

あの人と再会できたなら、もう、私なんていらないじゃない。


そう言いたくても言えないまま、歩き続けようとしたそのとき――


パシッ。


不意に掴まれた腕。

その感触が、私を現実に引き戻した。


「……どうした?体調、悪い?」


低くて優しい声が、すぐ近くで私を包み込む。

なのに、泣きそうになる。ぐしゃぐしゃに、泣きたくなる。


だって――

もしかしたら、このまま、初恋が終わってしまうかもしれないから。


ずっと、私の世界には黒瀬くんしかいなかった。

追いかけて、追いかけて、ただ、想っていた。


だけど――

黒瀬くんの世界には、私じゃない誰かがいるんでしょ?


そっと、ゆっくりと振り返る。

まだ、泣かない。今だけは。


「……私、黒瀬くんのことが、ずっと好きだった」


震える声で、やっと、ちゃんと口にした。

ずっと胸の奥で眠らせていた言葉を、ようやく、届かせた。


時間が止まったように、空気が静まり返る。


今、この一瞬だけでも、

ちゃんと想いが届きますように――そう、願った。

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