13
空に、最後の花火が咲いた。
ぱん、という音が胸に響く。
夜空いっぱいに広がる金色の光が、黒瀬くんの横顔を照らしていた。
その一瞬だけ、世界が止まったような気がして――
私は言葉も忘れて、ただその横顔を見つめていた。
「……終わっちゃったね」
ぽつりと呟いた私の声に、黒瀬くんがゆっくり顔を向ける。
「うん。思ったより、あっという間だったな」
「楽しい時間ってすぐ終わっちゃうね」
ほんの少しだけ指が触れたままの手。
握ってもいないのに、離そうともしない。
その曖昧な距離が、逆に心地よかった。
「来年もさ、また来ようか。花火」
不意に言われたその言葉に、思わず彼の顔を見つめてしまった。
「来年も……?」
少し驚いたように問い返すと、黒瀬くんは照れ隠しのように視線を逸らしながら、ぽつりと呟いた。
「うん。次は……2人で」
その言葉が、夏の夜風よりずっとやさしく胸に触れた。
「2人で、か……」
繰り返す私の声は、小さく震えていた。
嬉しくて、苦しくて、信じたくて、怖くて。
全部が入り混じって、上手く言葉にできない。
祭りの喧騒も、通り過ぎる人たちの笑い声も、
すべてが遠く、ゆっくりと日常に戻っていく。
でも、私の心だけは、まだこの夜に置いていかれているようだった。
黒瀬くんが私の手をそっと握った。
そのぬくもりは、夏の夜の空気よりずっと確かで、
胸の奥に、しっかりと焼きついた。
――この夜が、永遠に終わらなければいいのに。
そんな願いを、心の奥にそっと閉じ込めながら。
私は、ふたり分の想いを抱きしめたまま、ゆっくりと歩き出した。




