8(S)
「あれ? 黒瀬は?」
「黒瀬は今、席外してますね」
「先週の金曜、飲みに行こうって誘ったのに“用事がある”って断られたんだよなー」
――ん?
用事?
「だから今日また誘おうと思ってさ」
「え、ちょっと待ってください。黒瀬が“用事がある”って言ったんですか?」
「うん、言ってたけど」
「……え?」
その瞬間、何かが引っかかった。
あいつから「飲みに行きませんか?」って連絡が来たの、確か18時すぎ。
先輩の誘いを断るなんて、あいつには珍しい。
「ちょ、パニックパニック」
「え? なんで??」
いや、待て。
……これ、何かある。
ガタッとパズルが崩れた音がした。
「そういえば、西園寺ってさ、広報部のあの黒髪ロングの子のこと、お気に入りでしょ?」
「あー、そんな感じです!!!!」
「声でか」
「すみません、でも今それどころじゃないっす!」
うわーーー!!!
って勢いで、目の前の仕事を終わらせて、
うわーーー!!!
ってある子を探しに社内を全力疾走。
「黒髪ロングーーーー!!」
廊下の先で、ちょっと足を止めた子がいる。
……止まったのに、また歩き出した。
「いやいやいやいや! 今、一回止まったよね!?」
「…お疲れ様です」
面倒くさそうな顔。
白川がそばにいないと、ツンが強めになるの、もう慣れてるけど。
「俺もう無理! 頭、爆発する!!」
「なんですか」
「……飲みに行こう」
「……澪も一緒にいいですか?」
「だめ!!!!!」
「うるさい…」
……そう。
今、俺の頭の中のパズル、ぐっちゃぐちゃ。
白川の気持ちは一方的な片思いだと思ってた。
でも――あの日の黒瀬の動き。
あれは、どう見ても“偶然”じゃなかった。
「とりあえず、一旦落ち着いてください」
彼女が冷静に言ってくれる。
その冷たさが、むしろありがたかった。
ビールを流し込んで、喉を潤す。
少しずつ、崩れたピースを拾い直していく。
あの日のあいつの言動、白川の反応、
ぜんぶをもう一度照らし合わせて――
このパズルの“正解”、俺がまだ知らないだけかもしれない。
でも、今夜は
少し困った顔で俺を見てくる、
お気に入りの黒髪ロングと一緒に。
少しずつでいい。
答えを見つけていこう。