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キミ想ウ花束  作者: 桜美 咲蘭
夏、恋
79/107

10(S)

俺の腕を、白川がぐいっと掴んでくる。


なんで俺?

お前は黒瀬の隣、歩けよ。


最初は反射的に振り払おうとした。

けど、全然離さない。


「黒瀬くんのこと今は嫌いなんです」


そう言って、平然と俺の腕を引っぱる。

意味がわからない。


――もう、疲れた。

この謎テンション、意味不明な力関係。

しかもこの人混み。

暑いし、来るんじゃなかった、マジで。


駅前の通りは、すでに屋台の提灯が灯り始めてる。

浴衣姿のカップル、家族連れ、友達同士。

笑い声とお祭りのBGMが混ざって、

まるで空気が熱を帯びてるみたいだ。


後ろから、紗夜ちゃんと黒瀬の声が聞こえてくる。

何か話してる。距離が近い。


今この瞬間にでも、もし黒瀬が紗夜ちゃんと意気投合して、

「俺、有栖川さんのこと、好きかも」なんて、

ふざけたこと言ってみろ。


白川のことも黒瀬のことも、

一生許さないからな。


「お前、黒瀬となんかあった?」


横目で問いかけると、

白川は唇を尖らせて、視線を逸らした。


「黒瀬くん、私のことからかってるんです」

「なんで?」

「……私じゃない人との思い出を、私に言ってくるんです」

「思い出?」

「……ひまわりです」


――ひまわり。


その単語に、一瞬で思い出す。

あの日の居酒屋で、無造作に渡されたひまわりと、

嬉しそうに自慢してた白川の、ひまわり柄のボールペン。


……黒瀬、多分からかってねえな。


本当に白川がひまわり好きなのを知ってて、

純粋に白川に渡したくて渡してるだけだろう。


黒瀬は黒瀬で、白川の気を引こうとしてる――

それくらいの計算はしてそうだ。


全部憶測に過ぎないけど、

変に腑に落ちる。


やがて白川と紗夜ちゃんが「ちょっとトイレ」と言って離れた。

残されたのは、俺と黒瀬。


……気まず。


「お前、紗夜ちゃんに手出すなよ」


牽制するように言うと、

黒瀬は涼しい顔で、


「どうですかね」


――は?


「おまえ……!」


イラッときた瞬間、

黒瀬がすっと目線を上げてくる。


「先輩こそ」

「は?」

「いつまでも白川の教育係、やめてください」


――ああ、腹立つ。


こっちはずっと気を遣ってんのに、

こいつ、明らかに俺のこと下に見てる。

しかもその顔、ちょっと笑ってやがる。


身長のせいか?

舐めんなよ。


睨みつけてたら、ちょうど紗夜ちゃんが戻ってきて、


「何、見つめ合ってるんですか?」


って、笑いながら近づいてきた。


「見つめあってない!もう解散!紗夜ちゃん行くよ!」

「え?ちょっと!」

「じゃあな、黒瀬!俺は紗夜ちゃんと花火見るから!」


勢いのままに紗夜ちゃんの手を引いて、

屋台の列を縫うように早足で歩く。


提灯の明かりが反射する浴衣の裾、

金魚すくいの水音、たこ焼きの香ばしい匂い。

人混みの中で、どこか現実感が薄れてくる。


「先輩!腕、痛いってば!」

「ちょっと我慢して!」


どこまでも余裕な顔してる黒瀬が、腹立たしい。


あんな顔、俺にはできない。


でも――


この子は、俺のだ。



絶対に、離してたまるか。


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