表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キミ想ウ花束  作者: 桜美 咲蘭
夏、恋
77/107

8

ついさっきまで――

黒瀬くんと、まるで夢みたいな時間を過ごしていた。


優しくて、甘くて、近くて。

ちょっと触れたら壊れてしまいそうな、奇跡みたいな時間。


なのに。

私が変に拗ねたせいで、あの天国の時間はあっさり終了。


「嫌い」なんて、冗談でも言うんじゃなかった。

言った瞬間に、空気がぱたりと静かになった。


家を出て、駅へ向かう道。

並んで歩いているのに、どちらも無言。


電車に乗っても、話さない。

近くにいるのに、心だけ少し遠くに感じる。


――しん、としてる。


信じられないくらい会話がない。


…私が悪いの?

いや、違う。

たぶん、いや絶対に、黒瀬くんが悪い。


私が怒ってるって気づいてるのに、全然慌てない。

むしろ、あの人――どこか楽しそうにしてた。


悔しくて、情けなくて、苦しい。


駅に着くにつれて、浴衣を着た女の子たちが増えていく。

色とりどりの帯、しゃらんと揺れる髪飾り、白い素肌。


みんな、まるで夏の主役みたいに、キラキラしてた。


本当は私だって、着たかった。

浴衣。可愛くして、黒瀬くんに見てもらいたかった。


でも、花火大会に一緒に行けるってわかった時、

それだけで嬉しくて、他の望みなんて口にしなかった。


それ以上を求めるのは贅沢すぎる。

そんなことしたら、神様に怒られそうで。


だけど、今は――

神様、ちょっとくらいわがまま言っても許してよ。


そんなことを考えてるうちに、

駅に着く頃には集合時間ギリギリになってた。


改札を抜けると、目に飛び込んできたのは――

西園寺先輩と、紗夜の姿。


思わず、黒瀬くんの存在を忘れてダッシュした。


「わ!きた!」

「せんぱーいっ!」

「誘ったやつが遅刻かよ!」

「遅刻してないです! ギリセーフです!」


そのテンポ、声の調子、全部が懐かしくて心地いい。


――先輩。


なんだろう、落ち着く。


甘いものを食べ過ぎたあとに、

しょっぱいポテトが食べたくなるみたいな。


「……初めて西園寺先輩に会いたいって思いました」

「は? 何言ってんの?」


眉間にしわ寄せて、全力で引いてる西園寺先輩が、

なんだか妙に愛しかった。


「2人、同時タイミング? 同じ電車だったの?」

「一緒に来た」


黒瀬くんが平然と言って、

その言葉に紗夜がふしぎそうに首をかしげた。


「……西園寺先輩。行きましょう」

「は? お前、黒瀬と――」

「先輩! わたし今、黒瀬くん嫌いなので!」


声が少し震えたのは、気のせいじゃない。


先輩の腕を掴んで、強引に歩き出す。

「掴むな!」って文句を言ってる先輩の声も無視して。


今日は決めたの。

黒瀬くん大好きを、封印するって。


代わりに、先輩のお守り係になる。


騒いで、笑って、はしゃいで――

本当はそうでもしないと、泣いてしまいそうだったから。


馬鹿みたいに笑ってないと、

心の中がぽろぽろ、音を立てて崩れそうだったから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ