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キミ想ウ花束  作者: 桜美 咲蘭
夏、恋
74/107

5

「……ここで、ずっと立ち話する気?」

「……だ、だって。散らかってるし……」


視線を泳がせながら、ちらっと部屋の中に目をやる。

床には、さっきまで散々悩んだ服たちが散乱している。

どれを着れば少しでも可愛く見えるか――

何度も試しては投げ出して、結局どれも選べずにいた証拠が、丸見え。


恥ずかしさで顔が熱くなる。

こんなの、見られたくなかった。


「……悩んでる」


黒瀬くんが小さく笑って言う。

声のトーンは穏やかで、責めるでも、からかうでもなくて。


「……だって」

「何回も入ってるんだし、いまさらじゃない?」


さらっと、そんなことを言う。

たしかに、何度か来たことはあるけれど……それとこれとは話が別。


言い返せずに黙っていると――


「澪ちゃん、入れて?」


その一言と一緒に、黒瀬くんが首を傾げて、ふっと笑った。

……やめて。

そんな顔されたら、心臓の持ちようがない。


いいよ、って言ってないのに、するりと私の横をすり抜けて、

まるで当然のように、家の中に入っていった。


呆然としながら振り返ると、

彼はもうリビングに腰を下ろして、部屋を見渡していた。


「服、いっぱい」


足元の服たちを見て、声に少しだけ笑いが混じる。

ああもう、恥ずかしすぎて死にそう。


「……だから、散らかってるって言ったのに」

「うん、言ってた。でも可愛いじゃん、こういうの」


服に囲まれた空間で「可愛い」って何!?

私はもう、感情が忙しすぎる。


彼の手が伸びて、山のような服の中から一着を拾い上げた。


「これ、いいじゃん。白のワンピース」

「……え?」

「似合いそう。可愛いし」


その言葉に、胸がきゅうっとなる。

まっすぐに褒められることなんて、あまりない。

それが黒瀬くんからだと思うと、体温が一気に上がる気がした。


「……それに、する……」


おずおずとそのワンピースを受け取って、脱衣所に向かう。

着替えている間も、ずっと心臓がバクバクしてる。


たった一言「似合いそう」って言われただけなのに、

その服は、もう特別な一着になった。


でも――

黒瀬くんの自然な甘さに触れるたび、

少しだけ、胸の奥がチクリと痛くなる。


こんなふうに、彼はたくさんの女の子に優しくして、

きっと、何人もの心を奪ってきたんだろうなって。


鏡の前で一度深呼吸して、リビングに戻る。


黒瀬くんが、にっと笑った。


「いいじゃん。やっぱ、似合うね」

「……ありがとう」


うまく笑えているか分からないまま返すと、

彼が、ふと思い出したように口を開いた。


「ねえ、あれしてよ」


「……あれ?」


黒瀬くんは、頭の後ろで手を束ねる仕草をした。


「ポニーテール?」

「それ!」


「……やだ」

「やだじゃないでしょ。俺がやってあげる」


え? 今、なんて?


驚いて動けない私をよそに、

黒瀬くんは棚からヘアゴムとクシを取って、

スタスタと私の目の前に座り込む。


「後ろ、向いて」


低くて優しい声。

いつものクールなトーンより、少しだけ甘い。


どこまでも強引で、どこまでも優しい。

それがずるいって、何度も思うのに――

結局私は、逆らえない。



胸の奥で、何かがほどけるような、

それでいて結ばれるような、不思議な感覚が広がっていく。

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