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西園寺先輩と紗夜も一緒に来ていいか
黒瀬くんに聞いて、「いいよ」って言ってもらえたことを報告したら、
――ものすごく、疑われた。
「で? 本当に黒瀬くんが“いいよ”って言ったの?」
「……言ったもん」
「ふーん」
「ほんとだってば」
紗夜の目がジトっと細められる。
信じてないわけじゃないけど、
何かを見透かしているみたいな、あの目がちょっと苦手だ。
花火大会の前日、ようやく黒瀬くんにLINEを送った。
集合時間と場所、それと「よろしくお願いします」の一言。
たったそれだけの内容を打って、
送信ボタンを押すまでに――2時間。
「了解」
返事は、それだけ。
たった3文字なのに、何度も読み返して、スクショまで撮った。
……ちょっと怖い。私、もうだいぶ重症だ。
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そして迎えた当日。
朝から心臓がずっと跳ねてる。
前の晩は緊張しすぎてほとんど眠れなかった。
目の下のクマが心配になるレベル。
ベッドの上は、選びきれなかった服で埋め尽くされてて、
全身鏡の前で、何度も着替えては鏡を見て、
それでも「なんか違う…」を繰り返す。
本当は浴衣が着たかった。
でも、紗夜に拒否されて、1人で着る勇気もなく結局あきらめた。
なんか、ちょっと悔しい。
でも、それを超える緊張が私を支配してた。
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集合時間まで、あと2時間。
少しでも落ち着こうと思っていたそのとき――
ピンポーン
チャイムの音が鳴った。
こんな時間に? 紗夜にはまだ早いし……誰?
不審に思いながら、玄関の覗き穴を覗くと――
……誰もいない。
「……いたずら?」
ドアノブに手をかけて、そっと扉を開けた、その瞬間。
「……え」
言葉が喉の奥で止まる。
ドアの向こうに立っていたのは――
黒瀬くん。
思わず、反射的に、ドアを閉めた。
バタン
いやいやいやいや、
何かの間違い。幻覚? 妄想? 夢?
ちょっと深呼吸して、そーっとドアを開ける。
「……なんで閉めるんだよ」
困ったように眉を下げながら、黒瀬くんがそこにいた。
……やっぱり本物だった。
「……え? え? なんで?」
「驚かせようと思って」
「……う、うん。驚いた……え?」
驚いたなんてもんじゃない。
プチパニックってこういう状態のことを言うんだ。
玄関で2人、変に見つめ合ったまま固まる。
まって、なんで?
驚かせようって理由で、
人って人の家に来る?
え? どういうこと? 本気で分からない。
「……私、集合時間と場所……送ったよね?」
「うん。“了解”って返した」
淡々と、でも確かに言葉を重ねる黒瀬くん。
落ち着きすぎてて、逆に動揺する。
あの返事は、文字通りの“了解”じゃなかったの?
え、じゃあなんで、ここにいるの?
理解が追いつかなくて、思わず「……え?」と繰り返す私に――
「ははっ」
笑った。
屈託のない、無邪気な笑顔。
何にも気づいていないみたいに、楽しそうに笑ったその顔に、心臓が跳ねる。
この人、ずるい。
私なんて、翻弄されっぱなし。
悔しい。
でも、それ以上に――
嬉しい。
突然来てくれて、笑ってくれて。
私の心の中が、もうめちゃくちゃになっていく。
ドキドキが止まらない。
これは恋だって、何度も分かってるのに。
それでも、毎回新しい“好き”を更新してくる。
……ほんと、黒瀬くんって罪な人だ。




