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キミ想ウ花束  作者: 桜美 咲蘭
夏、恋
72/107

3

花火大会まで、あと1週間のところだった。

黒瀬くんを避ける日々を続けていたけれど——

そんな努力なんて、あっさり意味をなくす。


偶然すれ違ったのは、自販機の前。



「なんかいる?」

「…え?」

「ジュース」


不意に聞かれて、自販機のラインナップに目を向ける彼の横顔。

相変わらず綺麗で、目を奪われそうになる。


「あ、ありがとう」

「ミルクティーでいい?」

「うん…!」

「おっけ」


黒瀬くんの指先がボタンを押し、

落ちてきたペットボトルを拾ったかと思えば——

そのまま私には渡さず、くるりと背中を向けて歩き出す。


「ちょ、ちょっと!」

「少しだけ俺の休憩、付き合ってよ」

「……はい」


近くのベンチ付きの休憩スペース。

テーブルを挟んで、私たちは向かい合わせに座った。


“ただの同期”だったなら、

きっと、こんなふうに自然に並んでいたんだろうな。


もし、初めて出会ったのが会社だったら——

それでも私は、黒瀬くんのことを好きになってたのかな?

……ううん、きっとなってた。


どんなタイミングで出会ったとしても、

私は結局、黒瀬くんに恋をする。それだけは変わらない気がする。


「飲まないの?」

「の、飲むよ!ありがとう」


焦ってペットボトルを抱える。

でもそれさえぎこちなくて、情けなくなる。



「…あの、黒瀬くん」

「ん?」

「花火大会のことなんだけど……」


手が、ペットボトルを握る指が、震える。

ちゃんと伝えなきゃ。

怖くても、逃げたくない。


「西園寺先輩と、紗夜も……一緒に来てもいいかな?」


胸の奥が、ぎゅっとなる。

“あ、予定入っちゃってて”とか

“あれ、冗談だったんだよね”なんて言われたら……

どうしよう、って。


「白川」


名前を呼ばれて、ハッとして顔を上げる。

目が合った瞬間、視線が絡んで、

「う…」と、変な声が出てしまった。


無表情な黒瀬くんに見つめられると、ドキドキしすぎて、息が止まりそうになる。


「なに、う、って」


少し困ったように笑ったその表情に、胸がきゅんとなる。

よかった。笑ってくれた……


「いいよ、別に」

「…え?」

「元気なかったから、行けなくなったのかと思った」

「…だって……冗談だったって言われるかもって……」

「なんでだよ」


コトン、と缶をテーブルに置く音がした。

肘をついた黒瀬くんが、頬杖をついて私を見る。


「行きたそうだったから、誘ったのに」

「…すみません」

「俺も、白川と行きたかったし」


その一言で、心臓がきゅーっと痛くなる。

この人は、天然で人の心を奪っていくんだ。


「そうだ。連絡先、教えてよ」

「えっ!?」

「交換してなかったよね? 集合場所とか連絡必要でしょ」

「…あ、うん」

「…なに?嫌?」

「いやじゃない! びっくりしただけ!」


「なんだよそれ」

くすっと笑いながら、黒瀬くんがスマホを操作する。

私もあわてて自分のスマホを取り出して、QRコードを表示する。


「これ? 澪ってやつ?」


な、名前!! 呼ばれた!

心臓、ほんとに止まるかと思った。


固まっている私に、「なに?」と不思議そうな顔。


「あ、うん。それ…!」

「また連絡するわ」


立ち上がった黒瀬くんが、私の横を通りすぎるとき——

ポン、と優しく頭を撫でた。


……無理。

完全に無理。


彼の背中が見えなくなってから、私は机に突っ伏して額を打ちつけた。


この人、そのうち本当に私の心臓止めてくる気がする。


そして——

スマホに、ポンと通知が届く。


「黒瀬です」


急いで友達追加して、反射的にスクリーンショット。

アイコンは設定されていないままで、なんだか彼らしい。


「……やばいなあ」


嬉しいことばかり続くと、

その分、あとで泣く未来があるんじゃないかって——

ちょっとだけ、怖くなった。


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