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キミ想ウ花束  作者: 桜美 咲蘭
初恋
7/110

7

週明けの月曜日。

これまでで一番、体が軽い気がする。


「白川〜!お前、俺に言うことあるだろ」

「西園寺先輩、見てくださいこれ!

ひまわり、ドライフラワーにして飾ってます。

しかも写真撮って、待ち受けにしました!」

「知らねーよ」


ランチタイム。

誰よりも早く私の席に現れたのは西園寺先輩。

ちょっとご機嫌斜め。仕方がない。



「どうしたんですか? 超絶イケメン!」

「陽様が足りない」

「超絶イケメン陽様〜!」


紗夜が呆れたように笑う。

「なにやってるんですか、2人して…」


――本当は、西園寺先輩よりも黒瀬くんを一目見たかった。

でも、今日に限って姿が見えない。

どうしてこうもすれ違うのか。

西園寺先輩はすぐに見つかるのに。


「白川からの感謝の気持ちが足りない」

「今朝、1番に挨拶に行こうと思ってたんです!

でも見つからなくて…」

「朝、エレベーターで目合ったよな?」

「え、それ西園寺先輩だったんですか…?

超絶イケメンすぎて、他人かと思いました」

「お前、逃げただろ」


正直、西園寺先輩はすごくモテる。

塩顔イケメンで、優しくて、仕事もできて。

どうしてこんなに構ってくれるのかは、未だによく分からない。




でも、入社当時の私の教育係で、

女子社員からの嫉妬にさらされた時も、さりげなく助けてくれた。


「西園寺先輩のこと、好きにならないの?」

「ううん、ならない。絶対ない。私、黒瀬くんが好きだから」


「白川〜?何サボってんの〜?

黒瀬のストーカーのくせに、仕事サボってんの〜?」

「関係ないでしょ!ストーカーも黒瀬くんも関係ない!」


……そんな会話を、昔していた気がする。

きっと西園寺先輩はわかってる。私が誰を見てるか。

それに、たぶん紗夜のことが好きなんじゃないかな。

なんとなく、だけど。




今日も、黒瀬くんには会えないかもしれない。

経理の私と、営業の彼。

忙しさも、働いてる階も、全然違う。



――でも。





「白川さん」

「はいっ!」


振り返ると、そこに黒瀬くんがいた。

……え? 黒瀬くんのほうから、声をかけてくれた?

今までは「お疲れ様です」ってすれ違うだけだったのに?


「やっぱり白川さんだ。おつかれ」

「…お、お疲れ様です」


並んで、エレベーターを待つ。

今日の私、髪型おかしくないよね? 大丈夫だよね??


名前を呼ばれた。A子じゃなくて、白川さんって。

ちゃんと「私」って認識してもらえてる。

――超絶イケメン陽様、本当にありがとうございます……!


「大丈夫だった? あの後。けっこう飲んでたけど」

「だ、大丈夫です! 嬉しすぎて、アルコール効かなかったくらいで!」

「そっか、ならよかった」



エレベーターの扉が開く。

「どうぞ」って手で先を促される。

……レディーファーストなんて、慣れてるんだ。

ちょっと切ない。嬉しいけど、寂しい。



私が17階で、黒瀬くんが16階。

まさかの二人きり。



「あ、あのね! もらったひまわり、ドライフラワーにしたの」

「ドライフラワー?」

「うん、枯れないように加工して。ずっと残せるの」


あの頃と違う。

今の私は、ちゃんと話題を用意して、会話ができる。



スマホの画面を覗き込むように、距離が近づく。

……息って、どうやってするんだっけ。



「へぇー。すごいな」



黒瀬くんの視線が、スマホから私に移る。

こんな距離で見つめられたの、初めて。

目が合って、思わず逸らしてしまう。


「…うん。すごいでしょ」

「有言実行?」

「えっ?」

「一生大事にするって言ってたろ」


ふふっと笑う声に、心臓が跳ねる。

「もう着くな」って言葉の中に、少しだけ名残惜しさが滲んでいて――


「じゃ、頑張って」


扉が閉まり、私はその場でしゃがみ込む。

……だめだ、耐えられない。


黒瀬くんって、もしかして――人たらし?


「し、心拍数が……」


また一つ、好きが募っていく。

胸が熱くて、ちょっと苦しい。

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