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キミ想ウ花束  作者: 桜美 咲蘭
初恋
6/110

6

大好きな黒瀬くんが、笑いながら泣いてる私を見つめてる。

少し戸惑ったような顔で、上目遣いに。

……可愛い。


「黒瀬ってほんと罪な男だな」

「なんすか」

「黒瀬くんってさ、彼女いるの?」


紗夜のど直球な質問に、涙がスッと引っ込む。


「いないよ」


――おわ。よかった。

心臓、ちゃんと動いてる。

「いるよ」なんて言われてたら、破裂してたと思う。


「おま、お前まさかチェリーじゃないよな?!」

「…違いますよ」

「あ、ちゃんとやることはやってるんだ」


あ、そっか。……そうだよね。

わかってたはずなのに、少しだけ、胸がチクリとした。


黒瀬くんと視線が重なる。

また、あの優しい顔。「大丈夫?」って。

……やっぱり、好きだなあ。


お酒の力ってすごい。

私が聞けないことを、全部、誰かが代わりに聞いてくれる。


「澪さ」

「……ん?」

「同期のよしみで、黒瀬くんに抱いてもらう?」

「ぶっ!」

「うわ、汚い! お前、吹くなよ!」

「な、な、何言ってるの!?!」

「冗談だって」

「じょ、冗談にもほどがあるよ! 黒瀬くん困ってるじゃん!」


西園寺がニヤニヤして笑う。


「女に困ったら、最終兵器がいるからな。よかったな」

「ははっ」


……笑う!?

いやいやって否定するところじゃないの!?

黒瀬くん、ほんと何者……?


「白川さんって、最終兵器なんだ」


え、そこ拾う……?


私の知ってる黒瀬くんと、どこか違う。

でも、知れば知るほど、

やっぱりこの人が好きだって思い知らされる。


――惚れた弱みって、こういうこと?


「あ、もう終電だ」

「帰るかー」


夢みたいな時間が、終わってしまう。

来週また顔を合わせても、きっと私は「お疲れ様です」しか言えない。


「あの、黒瀬くん」

「ん?」

「…お花、ありがとう」

「ごめん、そんなもんで」

「一生大事にする!」

「……枯れるよ?」

「な、なんとかする!」

「おお、頑張れ」


これ以上を望んだら、罰が当たりそう。

ただ、大好きな人が笑ってくれる――それだけで、もう十分。



家に帰って、夢が覚めたみたいに静かになった。

でも、現実はまだ私を離してくれない。


調子に乗って飲みすぎたせいか、ふわふわしてる。

視界が揺れて、足元が定まらない。


「あ、これだけは……」


ふらつきながらも、水を入れたコップに、ひまわりを挿す。


「……なんで、ひまわりだったんだろ」


誰かにあげるつもりだった?

でも、彼女はいないって言ってたし。

家に飾るつもりだったの? それはちょっと、可愛すぎる。


「……好きすぎる」


声に出した瞬間、胸がきゅっとなった。


いつかこの想いを言葉にしたら、黒瀬くんは、なんて答えるんだろう。


もしも、彼に彼女ができて、

その人に「かわいい」なんて言って、

お土産に花を買って、「似合うね」なんて微笑んだら――


「……いやだなあ」


胸がざわつく。

ムカムカして、気持ち悪くなる。

でも、それは恋のせいか、それとも飲みすぎたせいか、わからない。


お化粧を落とす気力もなく、

ただひとつ、ひまわりのある場所だけを確認して、

そっと目を閉じた。


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