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「フリーズしてないで言えよ。
リピートアフターミー? 超絶イケメン陽様!」
「……え? なんで? 直帰って……」
「めっちゃ流すじゃん!
早めに終わったから飲み行きたいって言われてさ。
どうせお前ら、二人で寂しく飲んでると思って――
連れてきちゃったー! あはー」
西園寺先輩……。
今日はどんな無茶振りされても許します。
感謝しかないです……!
「ごめん、お邪魔するね」
そう言って私の目の前に座ると、
ネクタイをゆるめながら「生ふたつ、お願いします」と店員に。
固まっている私に気づいて、ちょっと首を傾げる。
「ん?」
――ああ、
心臓が痛い。
神様って、本当にいるのかもしれない。
「ちょっと、澪」
「あ、ごめん。びっくりしちゃって」
「お前さぁ、俺と黒瀬の対応の差、激しすぎん?」
カンパーイ。
乾杯の音がジョッキ越しに響く。
口をつけたビールの味が、全然わからなかった。
「なんか今日、キラキラしてるね」
「……え!? き、キラキラ?」
「なんか雰囲気、可愛い」
――か、かわ……!
この人、本当にわかってて言ってる?
演技じゃなくて素でやってる?
だとしたら…この破壊力、危険物指定すべき。
「今日、誕生日なんだってさ」
「あー、そうなんだ。おめでと」
「……ありがとう。も、もう大丈夫」
「え?」
西園寺先輩のニヤニヤが隠しきれてないし、
紗夜は「このチーズおいし〜」とか言って、完全に私を放置してる。
もう、なんかいろいろ満たされすぎて、心のキャパ超えそう。
「あ、そうだ」
ふと何かを思い出したように、鞄に手を伸ばす黒瀬。
「こんなんで申し訳ないけど――はい」
差し出されたのは、一輪の、ひまわり。
「え?」
西園寺先輩の、謎の「え?」に一瞬引っかかった。
なんでひまわり? 持ってたの? とか、もう、どうでもいい。
「今日の白川さんに、似合いそうだなって」
「……ありがとう」
昨日、美容院で髪を整えて、
頑張って選んだ服を着て、
少しでも綺麗に見えたらいいなって、
そんな私に――好きな人が「かわいい」って言ってくれて。
しかも、プレゼントまでくれて。
「え……」
「あー! 黒瀬が泣かしたー!」
「えっ!? ご、ごめん! 俺なんか変なこと……?」
「……あはは! ネジ外れただけ! なんか、もう、嬉しくて!」
ほんのちょっと泣いただけ。
でも、なんだろう。
もう、これ以上の幸せなんて望んだら――バチが当たりそう。