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写真のおかげで、二日酔いなんて吹き飛んだ。
疲れたなって思ったら、この写真を見ればいい。
嬉しさと恥ずかしさが入り混じって、仕事も捗る。
「白川、おつかい行ってきてー」
「喜んで!」
ルンルンでエレベーターを待っていたけど──
ピーン、と第六感が働く。
「お前なんでそんなに元気なんだよ」
「出たな、トンカツ野郎…!」
「はあ?」
「うちの紗夜に、どさくさに紛れて何をやってくれたんですか」
「…何って。未遂だし、次回の許可は得たし」
「何言ってるかわかんないです」
先輩と一緒にエレベーターに乗り込む。
二日酔いのせいか、エレベーターの重力にグッと胃が悲鳴。
横を見ると、西園寺先輩も「うっ」となってる。
いい歳した社会人が、ふたりでちゃんと二日酔い。
気を紛らわそうと、スマホの写真を開く。
黒瀬くんが私をお姫様抱っこしてる──あの奇跡の一枚。
「あ、もらったんだ」
「はい。焼き増しして部屋に飾ります」
「…言うと思った」
紗夜と同じセリフ。
もはや私のストーカー発言に、誰も動じない世界。
「慣れって怖いですね」
「なに急に」
「こっちの話です。…あれ、先輩どこ行くんですか?」
「コーヒー買いに」
「奢ってくださいよ〜」
「やだ」
「ちぇー」
おつかいの道すがら、少し遠回り。
先輩は「来んなよ」って言ってるけど、知らんぷり。
「同窓会の夜、電話すみませんでした」
「あー、あの意味わからん電話」
「寝起きでした?なんか物音してたし」
「寝てねえわ。お前が“慰めろ”とか言うから、家出る準備してたんだよ」
…え、優しすぎる。
先輩ってやっぱり、ちゃんと優しい人だ。
「電話途中で切れたし、なんかあったかと思ったけど、どうせ黒瀬だろ?」
「黒瀬くんに飴と鞭をいただきました」
「…お前が良かったならいいけど。何かあったら言えよ」
「えへへ。先輩みたい」
「先輩だからな」
あの頃、教育係がこの人でよかった。
当時はめちゃくちゃ嫌だったけど、それは…内緒。
「なんかいる?」
奢らないって言ってたのに、ちゃんと聞いてくれる。
おつかいがなかったら奢ってもらえたのに。残念。
コーヒー屋さんの前で、少し時間稼ぎ。
空を見上げてぼーっとしてたら──
「白川、何サボってるんだ」
ヤバい!え?上司?って慌てて声がする方を向く。
…って、違う。黒瀬くんだ。
「び、びっくりした〜黒瀬くんかぁ…」
心臓バクバク。
嬉しいけど、写真のこと思い出して顔が見られない。
「何してんの?」
「おつかいのついでに、西園寺先輩についてきて」
「西園寺先輩?」
タイミングよく、ケーキ片手にご機嫌な先輩登場。
「おう、黒瀬」
「なにサボってるんですか」
「俺は休憩中!サボってない!」
そして私を指差す。
「こいつがサボってる!」
ひどい!売られた!
「お前、ちゃんと送った? 送り狼にならなかった?」
「…先輩こそですよ」
「え?私、自力で帰ったんじゃ…?」
「んなわけないだろ。お前あんだけ爆睡してて帰れるわけないじゃん」
「……」
「黒瀬が送った」
「…どこまで…?」
「家まで」
「……え」
黒瀬くんが、にっこり笑った。
こ、怖いって、その笑顔!
「じゃ、俺、会社戻るわ〜」
「えっ!?」
西園寺先輩、スタコラ退散。
残された私は、黒瀬くんと二人きり。
「おつかいってどこ?」
「え?あ、ホームセンター…です」
「説教がてら着いていこうかな」
「……せ、説教?」
「ほら、行くよ」
私、あの日……
いったい、何をやらかしたの?