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キミ想ウ花束  作者: 桜美 咲蘭
初恋
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2

帰り際、私はいつも遠くから黒瀬くんの姿を探す。

少しだけ遠巻きに、

ほんの数秒でも彼を見つめてから帰るのが──私の日課。


ストーカー? ……うん、もうなんとでも言ってくれていい。

推しがいるって、それだけで明日を生きる活力になるんだよ。


見つけられたらラッキー。

見つけられなくても、「明日は挨拶できるかな」って、

その小さな期待で、私の生活は、黒瀬くんを中心に回ってる。



「澪!ほら、行くよ!飲み!」

「紗夜〜!ありがとう〜!」


会社から歩いて10分。

お気に入りの居酒屋へ向かう道すがら、私は空を見上げる。


夏の夜。湿った風。

はぁ、と小さなため息がこぼれた。


「そんなため息ついてるとさ、また月曜日も会えなくなっちゃうよ?」

「……それはやだー!」

「でしょ。紗夜様がとことん付き合ってあげるから!」

「紗夜〜っ!」


思わずぎゅっと抱きついたら、無言で剥がされた。

……そこまでは、付き合ってくれないらしい。






「お誕生日おめでとうー!カンパーイ!」

「もう明日は休みだし!気が済むまで飲んでやるー!」


華金の夜は、人も声も、賑やかで。


それでも私は、無意識に──

ここにはいないはずの黒瀬くんを、つい探してしまう。



「初恋の人が13年も近くにいるんだからさ。

どこかで、玉砕覚悟で告白とかしないの?」

「……玉砕前提なの悲しくない?」

「でもさ、澪のそれって“初恋”ってより“推し”にグレードアップしてるじゃん。もし玉砕したら、もう何も残らないんじゃない?」

「……黒瀬くんを思う気持ちがなくなったら、私には……何が残るのかな……」

「……」

「引かないで〜〜!!」


紗夜がビールを一気にあおる。

私は笑って、でもちょっとだけ本気で、泣きたくなる。


──あの頃の、初々しい中学生の私へ。


「これから13年間、ずっと終わらない初恋地獄が続くから覚悟しとけよ☆」


……って、言ってやりたい。

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