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キミ想ウ花束  作者: 桜美 咲蘭
初恋
13/89

13

季節は残暑を残しつつも、秋へとゆっくり移り変わっていた。

そんなある日のこと。


仕事を終えてスマホを開くと、高校の同窓会のお知らせメールが届いていた。

――黒瀬くん、来るのかな?

思考の行き先には、いつも黒瀬くんがいる。


今日は、黒瀬くんチャンスがゼロの日。

しょんぼりしながらエレベーターに乗り込み、

端っこでスンとしていたら――

16階で扉が開いた。




……なっ……!


眼鏡姿の、く、く、く、黒瀬くん……!


思わず目を見開いた。


エレベーター内がザワつく。やっぱり……イケメン情報網、存在してる……?


私は端で完全に埋もれてて、後頭部しか見えない。

でも、黒縁メガネだった。写真撮りたい……!


1階に着いて、黒瀬くんが先に降りる。

どうしよう。前に喋りかけてくれたから、

認識はしてもらえてるはず……!





「……く、黒瀬くん!」


私の渾身の呼びかけに、立ち止まって振り返る。


目が合った瞬間、ぶわっと体温が跳ね上がる。

私、今、鼻血とか出してない……よね?!


「……あ、おつかれ」

「あ、えっと……今日はもう、帰るの?」

「うん」

「そっか!おつかれ!……えっと、呼び止めてごめんね…!えっと…おつかれ…」


焦って言葉が出ず、同じことを二回も……。最悪……。


「帰り、電車だっけ?」

「あ、うん」

「じゃあ、駅まで一緒に行こうか」


神様、ありがとう!






黒瀬くんの横を歩くなんて――

贅沢すぎて、何かの罰が当たりそう。


「……眼鏡してるの、初めて見た」

「あー、今日はずっとデスクワークだったから。外すの、忘れてた」


眼鏡を外そうとしたその手に、注意喚起!


「すっごい似合ってるから!ね!」

「おお、ありがとう」


笑った――!

眼鏡と、照れ笑い。

Wパンチ。破壊力、半端ない……!




ちょっとした勇気が、少しだけ私を成長させてくれた気がした。

駅までの道が、今日はどこまでも続いてくれたらいいのに。


「あ、そうだ。高校の同窓会のメール、見た?」

「あー、見たよ」

「……黒瀬くんは、行くの?」

「今のところ予定ないし、行こうかなって」

「そっか。黒瀬くん来たら、みんな喜ぶと思うな」


……その中に、黒瀬くんの想い人もいるのかな?

“久しぶり”って声をかけられて、再会して、想いが実って――


胸が、きゅう、と痛んだ。


黒瀬くんが幸せで、笑っていてくれたら、それだけでいい。

でも、その「幸せ」が私じゃないなら、やっぱり苦しい。

……わがままかな。欲張りすぎかな。


「白川さんは行くの?」

「……どうだろ」


苦笑いしか浮かばない。

私の高校時代の記憶は、ほとんど黒瀬くんで埋まっている。


「俺行くけど。来ないの?」

「……え?」

「来ないの?」


黒瀬くんが立ち止まり、つられて私も足を止める。

絡んだ視線に、心拍数がどんどん上がっていく。


「どうする?」


……私が行っても、行かなくても。

何も変わらないって、思ってた。


「……行く」


見つめられて、固まって。

それ以外の言葉が、言わせてもらえないような空気。


狡いよ。

黒瀬くんは、ほんとに……狡い。


「ほんとに?」

「……うん、行く」

「わかった」


再び、歩き出す。

強引に流れを作られたけど――

あんなふうに見つめられて、断れる人ってこの世に存在する……?




「じゃあ、一緒に行こっか」

「え!?」

「駅集合で」

「ちょ、ちょっと待って!」

「この前の、キラキラした白川さんがまた見れると思って、楽しみにしてる」

「……黒瀬くん!?私の声、聞こえてる?!」

「ん?」





「……聞こえてない」





悪戯な笑顔。

どこでそんな技、覚えてきたの……!


「じゃ、日曜日の15時。駅の東口で。来いよ?」


私の反論なんて、聞くつもりもなく去っていった。

情報処理が間に合わない……!



翌日・社内


「もう分かりません!黒瀬くんって何者!?」




「元からそういうタイプだったんでしょ。

澪が知らなかっただけでしょ?」

「……そうだけど」


「……好きなら、知っとけよ」

「西園寺センパーイ!なんで拗ねてるんですか〜!」

「おま、触んな!」


西園寺先輩の髪をワシャワシャしたら、ぷいって逃げられた。




「同窓会!ひまわりのようにキラキラしてきます!」

「達者で」



キラキラ、かわいく。

全部、黒瀬くんのために。

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