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第9話 転生王子、物件を内見していたら……なんか出てきたんだが

「マットイさん、お家はどこにあるんですか?」

「ふむ、お嬢ちゃん。今から行く物件は町のはずれでしてな。もう少し歩きますぞ」

「は~~い」


 俺とラーナは、領主代理のマットイさんに連れられて物件を目指していた。


「わあぁ~~モヤモヤが無くなってる~~気持ちいいです~」


 ラーナの言う通り、俺たちが門をくぐった時に発生していた霧のようなものは消えていた。


「マットイさん、さっきまで漂っていたあれって」

「ええ、あれは瘴気ですぞ」


 やはり瘴気か。


「しょうき? ってなんですか?」


「ふむ、お嬢ちゃん。瘴気は毒ですぞ」


「ええ!! ど、毒っ!?」


 急に両手に口をあてて空気を吸い込まないようなポーズをするラーナ。


「ラーナ、さっきぐらいの濃度であれば人体にすぐには影響しない」

「ふぇ? そ、そうなんですね?」


「瘴気とは分かりやすく言えば、害となる魔力だ」

「そうなんですね……悪い魔力さん」


 そもそも聖女が瘴気を知らんってどういうことだ。

 と言いたいところだが、ラーナは最近聖女に抜擢されたばかりの女の子。まあ地方教会の一般修道女ならば知らないということもあり得る。


「即効性はないが、長期間に渡ってさらされていると体調不良の原因になるんだ。まあ濃度によりけりなところもあるけどな」


「ふぇええ、こ、怖いです。なんでそんなのが出ちゃうんですか?」


「原因はしっかりと解明はされてはいないんだ。負の魔力のたまり場があってそこから漏れ出してくるとか、なんらかの要因で自然発生しているとか色々と説はある」


 俺は素材採取で森に入ることが良くあったが、瘴気が充満している森を見たことがある。森というか枯れた木々の集まりだったけど。


「まあ、フロンドは瘴気が発生することでも有名な土地だからな」


「私はもう慣れてしまいましたぞ。クレイ殿下のおっしゃる通りで、この瘴気が作物の育ちも悪くさせていますし、人が寄り付かない一因でもありますぞ」


 辺境の地で魔物が多く、瘴気も発生する。

 まさしく追放される地ってかんじだ。


「でもクレイさんはいろんなポーションを作れますから! しょうきなんてへっちゃらです!」

「おいおい、あまり勝手な事を言うんじゃないラーナ」


「なんと、やはりクレイ殿下はフロンドの救世主ですな!」


 救世主扱いはゴメン被るが、瘴気に効くポーションか。

 なるほど、俺のポーション欲をくすぶる題材ではあるな。


 まだ見ぬポーションをどう作るのか。


 これ想像するだけで楽しい。


「ほら~~クレイさんいつもの悪い顔になってますから。これは期待できるやつですよ~~」


 こいつめ、誰が悪い顔だ。

 ポーション愛あふれる表情をしたまでだぞ。


 それにここに住み着くとなると、俺たちにとっても必要なポーションではあるしな。



「では、そんなクレイ殿下のためにも、最良の物件を紹介せねばなりませんな。

 ―――ということで、到着しましたぞ」



 マットイさんが自信満々で立ち止まる。



 ――――――いや、ちょっと待て。



「ふわぁああ~~大きなお屋敷ですね~」

「はい、フロンドいちのおすすめ物件ですぞ」


 眼前に広がる巨大な屋敷。

 石造りの外壁は歴史を物語り、雑草まみれではあるが前庭がドーンと広がる。


「でかい……俺は一般的な物件をお願いしたんだが?」


「はい、少し傷んでおりますが、一般的な24部屋に少し広めの庭つき戸建て物件ですぞ」


 こら、24部屋のどこが一般的なんだよ。

 前世でいうなら、アパート一棟いやマンションクラスじゃないか。


「これ、どこぞの貴族が住んでたんじゃないのか?」

「おお、流石はクレイ殿下。はい元領主の館でございますぞ」


 やはりか……こいつ、どうしても俺を領主にしたいのか。


 取り敢えず俺たちは中を見てみることにした。


「立派な大広間だな」


 屋敷に入ると、目の前には高い天井と大きな空間が俺たちを出迎えてくれた。傷んではいるが、しっかりとした床に規律の取れた奥行きだ。


「はい、当時の領主さまは建築好きな方でしたので。しょっちゅうリフォームされてましたぞ」


 そして、次に案内されたのは。


「ふわぁあ~~すっごいお風呂!」


「ふふ、ここは前ご領主さまご自慢の浴室ですぞ! いいでしょう!」


 扉を開けた瞬間、俺の目に飛び込んできたのは大理石で覆われた巨大な浴室だった。

 中央に大きな湯船、そして脇にはいくつかの小さな浴槽がある。


 風呂が広いのはいいよな。


 俺が元日本人なのもあって、浴槽のある風呂は好きだ。

 湯につかれるというのは良い。


 その後もマットイさんに案内してもらったが、ビシッと基調の取れた部屋もあれば、なんだこの空間?みたいなのもあってちょっと面白かった。

 前世でも引越しとか苦にならない性格だったし、不動産の物件まわりは結構好きだったのでちょっとテンションがあがる。


 元領主は建築好きだからなのか、リフォームを重ねるのが趣味だったようだ。

 ちょっとポーション作りに通じるものはある。

 どちらも完成形をみたときの楽しみがあるからだ。建築ならいじった後にできた空間だとか、機能だとか。あとは実際にやってみると意外な発見があったりもする。ワクワクの要因だ。


「さて、だいたいこんなところです。まさしくクレイ殿下に相応しい物件だと思いますぞ」


 そしてマットイさんがドヤ~って顔をみせる。


 たしかにはじめは微妙な感じがしてたが、よくよく考えればポーション作成の部屋は多数あった方が便利っちゃ便利だ。それに前に広がる広い庭。ここに素材の薬草類を栽培することができればかなり良い。


 俺の心のなかでアリの物件になってきたのだが、問題がひとつある。


「マットイさん、ここの家賃はいくらだ?」


 そう、家賃である。傷んでいるとはいえこの規模の屋敷。さらに修繕する負担割合をどうするかによってもかなりの金額が動くはず。

 俺のへそくりも無限ではない。


「ふむ、クレイ殿下。家賃や保証金はないですぞ」



 はい?



「ただし、修繕はそちらもちとして頂きますぞ」


「いや、修繕はそれでいいとして。なんで無料なんだ?」


 いくらなんでも家賃0円は怪しすぎるだろ。


「いえいえ、クレイ殿下はこの地に安寧をもたらしてくれるご領主さまとなるお方。そのような方から家賃などモラエマセン」


「おい、なんか語尾があやしいぞ。ちゃんと情報を開示するんだ」


「いやいや、隠し事など。まあちょっとアレなだけですぞ! ご安心を!」


 アレってなんだよ、全然安心できねぇよ!


「そのアレってなんなの―――」


「ひゃぁあ! クレイさ~ん、なんかいますぅうう!!」


 ラーナが浴室の奥を指さしつつ、おれに飛びついてきた。


 なんだあれ? 黒いモヤモヤとしたなにか。


 だが、それは明らかにこちらへと近づいていくる。


「ふはぁ~~出ましたぞ~~!」

「おい、マットイさん。あれはなんだ!」


「ひぃいい~~館のゴースト、かつて魔物大量発生(スタンピード)で死んだ使用人の悪霊ですぞ!」



 おい!


 ――――――バリバリの事故物件じゃねぇか!!



 ゴーストってのはこの世界には存在する。アンデッドとかそういった系統のやつらだ。


 にしてもゴーストって言葉を発するのか?

 ハンマー片手になんかブツブツ言っているぞ……!!



 〖殺れない(やれない)殺れない(やれない)殺れない(やれない)……死ね(です)死ね(です)死ね(です)……〗




「うわぁ……なんか物騒なことを言ってる」

「ひぃい、クレイさぁんん~殺すとか死ねとかヤバいゴーストですぅう」


 マズいな、これは完全に敵意があるぞ。戦うしかないか。


 たしかゴーストは物理攻撃が効かないはず。

 そのかわり神官の浄化や聖水が絶大な効果を発揮する。


 んん?


 神官?


「残念だったなゴースト。ここにこの子がいたことを後悔するんだな」


 そう、いるじゃないか。ここに。


 神官中の神官である聖女が。



「よし、聖水をぶち込んでやれ! ラーナGo!」



「なんですかぁ~~Goって!!」




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