第81話 転生王子のポーション作りは終わらない
「いくぞ王子ぃいい!
―――――――――ぬぉおおおおお!!」
隊長の叫びと同時に、拳が唸りを上げて空気を裂く。
俺の【戦闘ポーション(限界突破身体能力アップ)《リミットブレイクパワーブースト》】も、隊長のバトルエリクサーも互いに身体能力アップに特化したポーションだ。
己の生命力を身体強化に転換しているという点では、同じ。
隊長の拳……
もはやあとさき考えずに、全生命力を拳にのせてきている。
最後の一撃という事が嫌でもわかる。
だが―――
俺のポーションも負けるわけにはいかん。
「「これで終わりだァァアアア!!」」
二つの拳が、空間を揺るがす音を残して激突する。
拳と拳がぶつかり合った瞬間、とてつもない衝撃が俺たちを包む。
衝撃波が大気を引き裂き、木々は幹ごとねじ曲がり、地表がえぐれ、天高く巻き上がる土煙。
俺と隊長はそのまま、弾かれるように反対方向へと吹っ飛んだ。
「―――ぐっ……!」
地面に叩きつけられたであろう感覚。
視界がぐにゃりと揺れ、先ほど起こった轟音から音が聞こえなくなった。
音の消え去った世界に、時間が止まったような錯覚が広がる。
しばらくして……
砂煙の中から、俺はよろけながら立ち上がった。
「…………っ、ハァ、ハァ……」
拳をダランと下ろし、足を引きずるようにして一歩また一歩と前に進む。
歩を進めるうちに、吹き上がった土煙が薄くなっていく。
呼吸を整えながら、俺はゆっくりと足を止めると。
俺の視線の先には、地面に倒れて動かない男がいた。
「……終わったな、隊長さんよ」
隊長は仰向けに倒れており、拳を握ったまま動かず、わずかな呼吸音のみが聞こえてきた。
「たく、あんたの我儘に付き合わされてボロボロだぜ」
「……だ」
僅かに開いた口から、漏れる隊長の声。
「……完敗だ」
「そうかい、なら俺は帰るぜ。おっと……まあ大丈夫だとは思うが、もうラーナにいらんことするなよ」
俺は踵を返して、隊長に背を向けた。
「……フ……フフ……」
背後から聞こえる弱々しい声。
「安心しろ王子、バトルエリクサーを使った以上ただでは済まん……もはや思い残すことなどなにもない……」
ふぅ……
まあ、そうなるわな。
バトルエリクサーはとてつもないバフ効果を与えるが、その引き換えに自身の生命力を全て燃やし尽くす。
太古の神が、神々の身体スペックを元にでも設計したんだろう。
使うのは人間なんだぜ。
やりすぎなんだよな。
俺の戦闘ポーションも後々手痛いしっぺ返しはくるが、すべて燃やし尽くすなんてことない。
その前に活動不能になるからな。
このおっさん(隊長)もバトルエリクサーを飲んだ時から……いや、その前から自分の結末はわかっていたのかもしれない。
俺は振り向いて、再び隊長の元へ進む。
ポーチに手を突っ込み。
1本のポーションを取り出し、隊長の前に置いた。
「なんだこれは?」
「回復ポーションだよ」
俺が隊長の前に置いたのは、【ポーション(超生命力回復)《メガライフパワーチャージ》】だ。
エトラシアの妹ユリカを瀕死の状態から救ったポーション。
レア素材がエトラシアの鞘から生えてたから、作っておいたんだが……まさかこんなところで使うとはな。
「王子……貴様の特殊ポーションか……」
「あとは知らん。飲むかどうかはお前に任せる」
「もはやこの世に未練はない……身体も動かんし、飲む力も残っておらんわ」
「だから勝手にしろって。まあ、そう簡単には逝かせてくれそうにもないけどな」
「……?」
無言のまま眉間にうっすらと皺を寄せた隊長に背を向け、ゆっくりとその場を離れる。
一歩進むごとに身体にズキリと痛みが走る。
クソっ……俺もたいがいボロボロだったことを忘れてたよ。
「おい、行くんなら早くしろよ」
少し進んだ先で、俺がボソリと呟くと……
「ひゃん!」というマヌケな声とともに、女が木陰から尻もちをついて出てきた。
出た来た女は俺に一礼すると、隊長の元へ一目散に走って行く。
「……た、タイナー……な、なぜこんなところに……」
「え、えと。とりあえず王子のポーション飲ませます!」
「いや……私は……」
「隊長の意見は聞きません! 無理やり飲ませますからっ! えいっ!!」
さらに周辺から3人の人影が現れておっさん(隊長)の元へ駆けていく。どれも見たことのある顔だな。
おまえら解散したんじゃなかったのかよ。
やはりそう簡単には逝かせてくれないようだ。
「ふぅ~~」
俺は一息つくと、再び前を向いた。
さてと、帰るか。
―――ブルンっ!
ゆっくりと歩いていると、なんか木陰から飛び出してきた。
ブルンと揺らしたやつが。
「クレイさん、かっこよすぎですぅうう!」
「うわぶっ!!」
ボロボロの身体をブルンで挟んできた聖女。
ラーナか。
「く、クレイ殿! うわっ!」
続いて出てきたのはエトラシアか。まあその場で転倒しているが。
「ご主人様! ボロボロです~~」
「クレイ様~無茶しすぎです!」
「キャンキャン!」
「お兄様ぁあああ~~♡」
「ん……クレイおにい」
「……スウスウ」
「クレイさま、タオルをお持ちしました」
こっちにもいっぱい隠れてたのかよ……
「クレイ殿が人の接近に気付かないとはなぁ」
黒服たちまではわかっていたが、ラーナたちまではわからんかった。
エトラシアの言う通り俺も相当消耗しているんだな。
「クレイさん……」
そっと俺の背中に回される細い腕。次第に力を帯びて、きゅっと強くなっていく。
「あんまり無茶しちゃダメですよ」
「……そうだな」
よくよく考えてみれば、前世では誰も俺のことなど気にしていなかった。
まあ、気にしてくれる人がいるってのは……
いいもんだな。
「さて、屋敷に戻るか」
「は~い、クレイさん。ゆっくりやすまないとですよね~~」
「え? ポーション作るんだけど」
【読者のみなさまへ】
いつも読んで頂きありがとうございます。
これにて第一部完結となります。
今まで長きにわたりご愛読頂き、本当にありがとうございました。
たくさんの応援、作者の励みになりました。お礼申し上げます。
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