表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/81

第81話 転生王子のポーション作りは終わらない

「いくぞ王子ぃいい!

 ―――――――――ぬぉおおおおお!!」


 隊長の叫びと同時に、拳が唸りを上げて空気を裂く。


 俺の【戦闘ポーション(限界突破身体能力アップ)《リミットブレイクパワーブースト》】も、隊長のバトルエリクサーも互いに身体能力アップに特化したポーションだ。


 己の生命力を身体強化に転換しているという点では、同じ。


 隊長の拳……


 もはやあとさき考えずに、全生命力を拳にのせてきている。


 最後の一撃という事が嫌でもわかる。



 だが―――


 俺のポーションも負けるわけにはいかん。



「「これで終わりだァァアアア!!」」



 二つの拳が、空間を揺るがす音を残して激突する。


 拳と拳がぶつかり合った瞬間、とてつもない衝撃が俺たちを包む。

 衝撃波が大気を引き裂き、木々は幹ごとねじ曲がり、地表がえぐれ、天高く巻き上がる土煙。


 俺と隊長はそのまま、弾かれるように反対方向へと吹っ飛んだ。


「―――ぐっ……!」


 地面に叩きつけられたであろう感覚。


 視界がぐにゃりと揺れ、先ほど起こった轟音から音が聞こえなくなった。


 音の消え去った世界に、時間が止まったような錯覚が広がる。


 しばらくして……


 砂煙の中から、俺はよろけながら立ち上がった。


「…………っ、ハァ、ハァ……」


 拳をダランと下ろし、足を引きずるようにして一歩また一歩と前に進む。

 歩を進めるうちに、吹き上がった土煙が薄くなっていく。


 呼吸を整えながら、俺はゆっくりと足を止めると。


 俺の視線の先には、地面に倒れて動かない男がいた。



「……終わったな、隊長さんよ」



 隊長は仰向けに倒れており、拳を握ったまま動かず、わずかな呼吸音のみが聞こえてきた。


「たく、あんたの我儘に付き合わされてボロボロだぜ」


「……だ」


 僅かに開いた口から、漏れる隊長の声。


「……完敗だ」


「そうかい、なら俺は帰るぜ。おっと……まあ大丈夫だとは思うが、もうラーナにいらんことするなよ」


 俺は踵を返して、隊長に背を向けた。


「……フ……フフ……」


 背後から聞こえる弱々しい声。


「安心しろ王子、バトルエリクサーを使った以上ただでは済まん……もはや思い残すことなどなにもない……」



 ふぅ……



 まあ、そうなるわな。


 バトルエリクサーはとてつもないバフ効果を与えるが、その引き換えに自身の生命力を全て燃やし尽くす。

 太古の神が、神々の身体スペックを元にでも設計したんだろう。


 使うのは人間なんだぜ。


 やりすぎなんだよな。


 俺の戦闘ポーションも後々手痛いしっぺ返しはくるが、すべて燃やし尽くすなんてことない。

 その前に活動不能になるからな。


 このおっさん(隊長)もバトルエリクサーを飲んだ時から……いや、その前から自分の結末はわかっていたのかもしれない。


 俺は振り向いて、再び隊長の元へ進む。


 ポーチに手を突っ込み。


 1本のポーションを取り出し、隊長の前に置いた。


「なんだこれは?」


「回復ポーションだよ」


 俺が隊長の前に置いたのは、【ポーション(超生命力回復)《メガライフパワーチャージ》】だ。

 エトラシアの妹ユリカを瀕死の状態から救ったポーション。

 レア素材がエトラシアの鞘から生えてたから、作っておいたんだが……まさかこんなところで使うとはな。


「王子……貴様の特殊ポーションか……」

「あとは知らん。飲むかどうかはお前に任せる」


「もはやこの世に未練はない……身体も動かんし、飲む力も残っておらんわ」


「だから勝手にしろって。まあ、そう簡単には逝かせてくれそうにもないけどな」


「……?」


 無言のまま眉間にうっすらと皺を寄せた隊長に背を向け、ゆっくりとその場を離れる。

 一歩進むごとに身体にズキリと痛みが走る。


 クソっ……俺もたいがいボロボロだったことを忘れてたよ。


「おい、行くんなら早くしろよ」


 少し進んだ先で、俺がボソリと呟くと……


「ひゃん!」というマヌケな声とともに、女が木陰から尻もちをついて出てきた。


 出た来た女は俺に一礼すると、隊長の元へ一目散に走って行く。


「……た、タイナー……な、なぜこんなところに……」

「え、えと。とりあえず王子のポーション飲ませます!」

「いや……私は……」

「隊長の意見は聞きません! 無理やり飲ませますからっ! えいっ!!」


 さらに周辺から3人の人影が現れておっさん(隊長)の元へ駆けていく。どれも見たことのある顔だな。

 おまえら解散したんじゃなかったのかよ。


 やはりそう簡単には逝かせてくれないようだ。


「ふぅ~~」


 俺は一息つくと、再び前を向いた。



 さてと、帰るか。



 ―――ブルンっ!


 ゆっくりと歩いていると、なんか木陰から飛び出してきた。

 ブルンと揺らしたやつが。


「クレイさん、かっこよすぎですぅうう!」

「うわぶっ!!」


 ボロボロの身体をブルンで挟んできた聖女。


 ラーナか。


「く、クレイ殿! うわっ!」


 続いて出てきたのはエトラシアか。まあその場で転倒しているが。


「ご主人様! ボロボロです~~」

「クレイ様~無茶しすぎです!」

「キャンキャン!」

「お兄様ぁあああ~~♡」

「ん……クレイおにい」

「……スウスウ」

「クレイさま、タオルをお持ちしました」


 こっちにもいっぱい隠れてたのかよ……


「クレイ殿が人の接近に気付かないとはなぁ」


 黒服たちまではわかっていたが、ラーナたちまではわからんかった。

 エトラシアの言う通り俺も相当消耗しているんだな。


「クレイさん……」


 そっと俺の背中に回される細い腕。次第に力を帯びて、きゅっと強くなっていく。


「あんまり無茶しちゃダメですよ」


「……そうだな」


 よくよく考えてみれば、前世では誰も俺のことなど気にしていなかった。

 まあ、気にしてくれる人がいるってのは……


 いいもんだな。


「さて、屋敷に戻るか」

「は~い、クレイさん。ゆっくりやすまないとですよね~~」


「え? ポーション作るんだけど」



【読者のみなさまへ】

いつも読んで頂きありがとうございます。

これにて第一部完結となります。

今まで長きにわたりご愛読頂き、本当にありがとうございました。

たくさんの応援、作者の励みになりました。お礼申し上げます。


最後のお願いです。


少しでも面白かった~と思って頂けましたら、

このページ下にある【★★★★★】で評価して頂けると嬉しいです!


すでに評価やブックマーク、感想コメントで応援して頂いている皆様へ

めちゃくちゃ嬉しいです! ありがとうございます! 


みなさまの評価やブックマークが作者の大きな励みになります!

これからも面白いお話を投稿できるように頑張りますので、

引き続き応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ