表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/81

第8話 辺境の町に来て初めてのポーション作り

「マットイさん、ちょっとお宅のテーブルを借りるぞ」


 俺はポーチから取り出した素材をテーブルに置いていく。


 まずは響き草、これは風に揺られるとやわらかい音が鳴る草だ。

 原理としては、草の細胞が風の力を吸収して音に変換することができる。


 それからポーションのベースは、俺自家製の魔石を漬け込んだ水。


 これに……


「ラーナ、出番だぞ」

「ムグゥ……ふぁい?」


 なにをのんびりと茶菓子なんぞ食べてんだ。


「え~~と、クレイさん。私はポーション作れないですよ?」


「いや、ラーナには聖水を出して欲しい。この瓶に入れてくれ」


 俺は小瓶をラーナの前に置きつつ言った。


「ああ、お水ですね~~グってしたほうがいいですか?」


「いや、普通でいいぞ」


 ラーナのいう「グッとする」とは「神青の聖水」のことだろう。もちろん「神青の聖水」は最高素材ではあるが、今回のポーション作成には不要だ。なんでもかんでも一流素材を合わせればいいってもんじゃない。

 それに、「グッ」はラーナにかなりの負担をかける行為でもある。本当に必要な時にしか出さないほうがいいと俺は考えている。


「じゃあ、クレイさん」

「ん? もう出たのか?」

「違いますよぉ~~いつものやつ~~今日はまだ飲んでないですぅ」


 ムスっとした顔をするラーナ。


「ああ、【ポーション(魔力全回復)《マナフルリチャージ》】か……」


 俺がポーチから出したポーションを受け取ると、ラーナは満面の笑みでクピクピ飲み干した。



「ふぁ~~頭スッキリする~~これ最高です~~」



 満ち足りた声を漏らすラーナ。

 どうやら彼女は日常生活を送るだけでも無駄に魔力を消費しているらしく、その大容量の魔力も1日足らずでほとんど消費してしまうようだ。


 なので、毎日【ポーション(魔力全回復)《マナフルリチャージ》】を飲んでいる。

 まあ身体に害をなすものではないので、必要ならばそれでいいんだけど。


 一度この爽快感を味わってしまうと、ポーションなしの生活には戻れないらしい。知らんけど。


「は~~い、じゃお水だしま~~す」


 ラーナの両手から水が出てきた。

 聖水である。


「これでいいですか? クレイさん」

「ああ、じゅぶんだ。ありがとうラーナ」


 俺は小瓶を手に取り、自身の眼前ですこし振ってみる。

 うむ、やはり聖水だ。マジで凄いなこの子。


 あれ? この聖水……


「んん?……この香りは」


 ラーナの手元には、マットイさんが出してくれた紅茶とラベンダー風味のクッキー。

 そして、ビンに入った聖水もほのかにラベンダーと茶葉のかおりがする。


 もしかしてラーナの聖水は直前に摂取したものに影響を受けるのか?


 ってことは聖水でもちょっと違った風味のものを色々出せるってことだ。

 これは興味深い。

 じっくり住まいを構えたら、色々試してみたいな。


「クレイさん?」


 少しばかり思案にふけっていたら、ラーナがその小さな整った顔を覗かしてきた。

 おっと、少し脱線してしまった。


「いや、なんでもない。さてこれで素材は揃ったな」


 響き草少々、基本的な薬草である体力回復薬草と俺のポーション水にラーナの聖水

 全ての素材を―――



「【ポーション生成】!

 ――――――【ポーション(聴力回復)《クリアサウンド》】!」



 よし! 完成だ。


「マットイさん、これを飲んでみてくれ」

「これはポーションですかな? わかりました飲みますぞ!」


 ゴクゴクと【ポーション(聴力回復)《クリアサウンド》】を飲み干すマットイさん。


 年齢による自然な身体の衰えは致し方ない。

 だが、このおっさんのは違う。


 耳を傷めた原因は、毎日鍋をガンガン耳元で叩きすぎたからだ。


 本来の機能に回復させてやることは、ポーションの力でできることが多い。


「どうだ? 聞こえるか? 俺はクレイだ。元第7王子だ」


 どうした? マットイさん?


 なんか俺ではなく、ラーナをガン見しているぞ……?



「――――――みっつですぞ!」



 はい? なにが?


「みっつてなんだ?」


「ほくろ! ほくろ!」


 ダメだ、俺の言葉は聞こえてないっぽい。


 とりあえず俺もラーナの方を見るが……え? ほくろってまさか……!?


 俺が気づきそうになった瞬間だった。


 マットイさんが吹っ飛んだ。


「なに見てるんですかぁ! この変態オッサン!!」


 ラーナが顔を真っ赤にして強烈なビンタを放ったからだ。

 マットイさんが見てたのはルーナのほくろだった。破けた修道着から見えるどでかい膨らみの間にある。


「っていうか3つもあるのか?」


「うぅう……ありますぅ」


 ラーナが言うのだから本当にあるのだろう。


「俺はひとつしか見えないけどな」

「だって目立つのはひとつだけで、あとは結構奥に……ってなにクレイさんまで見てるんですかぁ! エッチ!」


 ラーナの強烈なビンタから起き上がったマットイさん。

 目がビビるぐらい充血してるぞ……


「凄いですぞ! 見えます! いろいろ見えます!」


 いかん、なんか耳ではなく目が活性化してしまったみたいだ。


 おそらく聖女の聖水の力が想像以上に大きかったんだ。

 こりゃ予想よりも相当純度の高い聖水だぞ。



「よし、ならば割合をこう変えて……

 ――――――【ポーション生成】!」



 俺は再度生成した【ポーション(聴力回復)《クリアサウンド》】をマットイさんに飲んでもらう。


「どうだ? 俺はクレイだ」


「おお、クレイ殿ですな」


 おお、これはいけそうだ。


「そして元第7王子だ」


「おお、第7王子殿下!!」


 よし、こんどこそ成功だ。


「す、凄い……クレイさん。マットイさん耳が聞こえるようになったんですね。こんなの回復魔法でもできないのに」


「ああ、うまくいったようだな」


「おお! なんだか音が綺麗になりましたぞ! むぅ~~~外を歩く人間は……4人ですぞ!」


 俺が窓から外を見ると、たしかに大通りに合計4人が歩いていた。


 合ってるよ……。


 いや、もうこれ効きすぎたか……アサシンみたいになってしまった。


「まあ、効きすぎた効果は徐々に落ちてくるからな。何本か作っておくから、週1回飲めばいいだろう」


 そう、今回のケースだとポーションで元の機能を一時的に回復している状態だ。あとは定期的に飲むことにより自身の治癒力と相まって少しずつ良なっていき、一般的な聴力に戻るはず。

 俺のポーションは、少しばかりのきっかけを与えているのだ。


「おお~クレイ殿下~感謝いたします。殿下のポーションは病みつきになりそうですぞ! 毎日飲みますぞ!」


 いや、週1って言っただろ。よだれ垂れてるぞ。


 いずれにせよ、これでようやく話ができるようになったな。


「確認させてくれ、マットイさんが領主代理ってことはこのフロンドには本来の領主はいないってことだな?」


「はい、数年前に魔物大量発生(スタンピード)が起こりまして。その時に領主は一家ともども逃げてしまいました。当時守備兵隊長を務めておりました私が、臨時で領主代理となったのですぞ」


 ああ、たしかさっき逃げ出したといってたのはそれか。


「それ以降ずっと王都へ領主さまの赴任を打診しておりましたが、返事はなかなかもらえずでして」


 王国も旨味も無ければ、駐留する意味もないこの町のことは後まわしにしてたんだろう。

 こんな辺境かつ危険とされている土地の領主になりたい貴族なんていないだろうし。


「ですが! ついにクレイ殿下がいらしてくださったのですぞ!!」


「いや……それは違う。俺は追放されて―――」


「ようやくですぞ! しかも王族である第7王子殿下が!」


「それに俺はもう王族じゃな―――」


「これで魔物を討伐してこの町を良くしてくださるのですぞ! おお~ありがたや~~」



 いや、話を聞けよ。また耳が元に戻ったのか?



「マットイさん、ちゃんと聞いてくれ。俺は追放されたんだ。もう王族ではない」


「そ、そんなはずはありません! 私の願いは王国に聞き入れられたのですぞ! だからこそ殿下がこられたのですぞ!!」

「なら、なぜ俺とラーナの2人なんだ。魔物を討伐するなら兵はどこにいるんだ?」


「そ……それは。あとから合流するのですぞ!」


「王子である俺に1人の護衛兵も無くあとからくるのか?」


「う……くっ。そんなはずは……殿下は私の耳を治してくださったのに……」


 まあ気持ちはわかる。


 この人はおそらく根が真面目だ。普通ならこんな町に留まらずに、さっさとどこかに行く。

 行く資金がなくてもクソ真面目に門番を続けたりしない。


 だからこそ信じたいんだ。


 救いがやって来たってことを。


 だが、適当な嘘でしのいでもなんの解決にもならん。


「だから俺は領主でも王子でもなんでもない、ただのポーションオタクだ」


「……」


 マットイさんは、俯いて黙ってしまった。


「ふぅ……だがまあ俺の作るポーションで良ければ、多少はこの町に協力できるかもしれんぞ」


「そ、それは本当ですか! 殿下のあの奇跡をみなにも……!」


「ああ、ただし今後は有料だからな。俺たちも生活しないといけないからな」


「もちろんですとも殿下。我が町には医者もほとんどおらずでして、助かりますぞ!」


「では、すまんが空き家か宿屋に案内してくれるか? 持ち金は多少ある。あと殿下はいらない」


「はい、クレイ殿下! とびっきりの優良空き家物件がございますぞ!」


 よし、もう好きに呼んでくれ。


 ということで、俺たちは領主代理のマットイさんにお家を紹介してもらうことになった。


 あまり人と関わらないようにしようと思っていたが、まあいいか。

 現実的な事を言えば、多少の交流がないと素材購入やらしずらいし、周辺情報とかも得づらい。


 それにある程度の人がいれば――――――



 俺のポーション効果をたくさん試せるぞぉ……グフフ。



「あ~~クレイさん、また悪い顔してますぅ~それメッ!ですからね」



 ラーナの聖水もあるしな。


 いや~~けっこう楽しそうなポーションライフになりそうだぞ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ