第79話 2人だけの最終決戦―――クレイの戦闘ポーションVS伝説のバトルエリクサー
「さて、これで邪魔者はどこにもいない」
そう言って、懐から小瓶を取り出した黒服隊長。
伝説のバトルエリクサーか。
黒服隊長が言うにガザンの山岳ダンジョンで入手したらしい。
たしか前に女神に会った時、ダンジョンの宝箱に入れたとか言ってたな……。
「おまえさんも、もの好きだな」
「ああ、私の人生でやり残したことはこれだけだ」
グッとバトルエリクサーを飲み干した隊長。
俺はポーチから出した【|戦闘ポーション(瞬間身体能力アップ)《インスタントパワーブースト》】に視線を落とした。
神が作ったエリクサーか……
さ~~て、どこまでいけるかな。
戦闘ポーションを飲み干した俺は、静かに剣を抜く。
「――――――いくぞ王子!
私の人生――――――最後の勝負だ!」
瞬間、隊長が目の前から消えた。
横に飛んだわけでもなく、宙に舞ったわけでもない。
消えた瞬間、俺の下腹部に激しい痛みが走ると同時に身体が回転して後方に吹っ飛んだ。
「ぐっ……はぁっ!……はっ!」
隊長は特殊な動きはしていない。
単に前に進んで剣の持ち手とは逆の左腕で、ボディーブローをかましてきたのだった。
「王子……その程度ではバトルエリクサーを飲んだ意味がない!」
……っ! はぇええ……
よろめきながらも起き上がった俺は、回復ポーションを飲みつつ隊長に視線を戻す。
戦闘ポーション1本じゃ、反応すらできないってことか。
いっとくが俺の戦闘ポーションの身体強化効果は、並の魔法や現存アイテムをはるかに凌駕する効果があるんだぞ。
「なるほど……正真正銘、神の作ったバトルエリクサーってことか」
しゃ~ない。
追加で飲むしかないか。
俺はポーチからもう一本戦闘ポーションを取り出して、飲み干した。
2本分の戦闘ポーション。
身体への負荷は上がるが、とんでもないバフ効果がついている。
「――――――はぁあああ!」
地を蹴った俺は、隊長めがけて突進した。
周辺の木々の揺らめきや、空気の流れを置き去りにするような感覚。
隊長に動く気配はなし。
「なるほど、打ち合ってくれるってことか。なら遠慮なくいくぜ!」
一気に間合いを詰め、上段から剣を振りおろす。
――――――!?
斬撃を放った瞬間、隊長は剣ではなく左腕を合わせて上げてきた。
おい……
勢いよくぶつかる俺の剣と隊長の左腕。
ガキンッと鈍い金属音が俺の耳に入ったあと――――――
「な……」
砕け散ったのは、俺の剣だった。
隊長は何事も無かったかのように、左手に着いた金属片をパッパツと払う。
「すげぇ……」
戦闘ポーション2本分の全力一撃だぞ。
剣でもなく左腕で受け切る等、想定外にも程がある。
バトルエリクサーか。
外見に特に変わりはないな……それに気配も今まで通り、隊長から発せられるものに変化はない。
が、気配察知なんかで追えるレベルの動きではない。外見は同じだが中身は別生物のようだ。
おそらくは隊長の生命エネルギーを燃焼させているんだろうが、その効率性が凄まじく高いんだろう。僅かなエネルギーで膨大なパワーを作り出す。
先の戦いでみた強化人間みたいに、無茶な攻撃で手がもげたりってこともない。身体自体が生み出したパワーで、とんでもないバフを得ているからだ。
俺の戦闘ポーションと原理が似ている。
だが……っ!
「どうした王子!」
「クッ―――!?」
速すぎる……
真正面から直進しているだけだが、横に躱すのが精いっぱいだ。
そして、次の瞬間には――――――
「ぐぉっ!」
いつの間にか回避した先から、強烈な蹴りが襲い掛かって来る。
直撃は避けたが、風圧でまたも吹っ飛ばされる俺。
そう、俺の戦闘ポーションと原理は似ているが……
純粋にアイテムの質として―――戦闘ポーションをはるかに上回っていやがる。
たく、神め……とんでもないものを作りやがって。
「ふはぁあああ! これだぁ! 貴様の特殊ポーションをも超える力ぁあ!
パワーも速度も防御も、すべて私の方が上だぁああああ!」
追い打ちをかけるように、隊長の攻撃が続く。
おいおいおい……すげぇな。
持っている剣すら振るわず、拳や蹴りだけの攻撃。
すげぇ! すげぇえぞ、バトルエリクサー!
俺の想像以上の効果だぁあ!
「ふむ、それが限界か?……ではこれで終りだな、王子」
限界? 終りだと?
こんなとんでもないアイテムに出会ったんだぞ。
俺の想像をはるかに超えるやつだぞ。
ウズウズしてくるじゃねぇか。
やりたくなっちまうじゃねぇか。
「――――――バトルエリクサーを超えるポーションを作りたくなるだろうがぁ!」
さあ、ポーション作りの時間だぜ。