第77話 転生王子、聖女のブルンを元気にする
「クレイさ~ん。お待たせしました~」
ポーション屋敷の庭に出ていた俺に手を振りながら、駆けてくるラーナ。
買い出しについてきて欲しいというので、彼女を待っていたのだ。
かわいく手を振るラーナ。
ついでに胸元の膨らみも。ブルンと揺れている。
なんだが―――
どうしだんだろうか、今日のブルンはなんだか元気がない。
いつもならハリと弾力と大きさが相乗効果を奏でて、ブルルンッっ!!って感じなんだが。
今朝はブルッ!ぐらいだな
「どうしたんですか? クレイさん」
「いや、今日のブルンは元気がないなと思ってな」
「そうなんです、今日のブルンちょっとおとなしくて……
――――――ってなんですか! 今日のブルンって! そんなの毎日見てるんですか!」
「ああ、まあそうだけど。なんでそこまで怒るんだ? すごいな」
「いや、怒られないと思ったクレイさんの方がすごいですよ!?」
だってラーナのブルンは、いやおうなしに視界に入るからな。
むしろ見るなという方が理不尽だろ。
ちなみに少し前の全女子がグイグイきまくる事案は、完全になりをひそめていた。
あれから再会議がひらかれたらしく、エスカレートしすぎて、ちょっと収集がつかないからいったん元に戻すことになったらしい。
言っている意味が良く分からんが、これでいつもの日常が戻って来たので俺としては全く文句がない。
距離感がおかしかったからな。
とまあラーナと他愛のない会話を交わしているうちに、商店街についた。
「これくださいな~(チラ)」
「あ、お肉安い! 晩ご飯はシチューにしましょう(チラ)
「そうだ、ユリカちゃんが黒コショウ切らしたっていってたから、あのお店にも行かないと(チラ)」
俺の視界には、いつも通りの買物風景が繰り広げられている。
基本俺は、ラーナについて行く&荷物もちだ。
だが、一点だけいつもと違う。
「なあ、ラーナ」
「はいなんですかクレイさん? もう帰ろうぜは却下ですよ~」
「いや、違う」
てか俺はそんなに毎回帰りたいオーラだしてんのか?
まあ、それはいったん置いといて―――
「食べたいのか?」
俺は向かいのクレープ屋に視線を向けた。
「えぇええ! な、なにを急に!」
「だって、さっきからずっとチラ見してるじゃないか。なんならセリフにすら出てるぞ」
「ち、ち、ちがいますよ! 新作クレープがでたんだなぁって、ちょっと見ただけですからっ!」
「新作? ああ、なら買ってやる」
「ダメです!!」
俺が出そうとした財布を、グッと押し戻す聖女ラーナ。
ラーナは節約家の一面があり、じゃんじゃんお金を使わない。
だが、たまには使ったほうが良い。
「いや、今回は俺が買うから。たまには食べたいものを食べた方がいいぞ」
「ダメったらダメです! いつもクレイさんが買ってくれるからぁああ!」
再びブルンさせる聖女。
が、やはり元気のないやつだ。ゆれもいまいちだし、空気振動も伝わってこない。
「どうした? そこまで我慢する必要もないだろ」
「ううぅ……」
涙目で自分のお腹の肉をつまむラーナ。
「ちょっとまえに色々ドカ食いしちゃって……ダメなんですぅ」
ああ、そういう……
ダムロス大司教の一件が解決して数日は、鬼のように食いまくってたっけか。まるで憑き物が落ちたかのように。
いろいろなことから解放されたんだから、好きなことしまくってもいいと思うけどな。
ぶっちゃけ見た目に変化はないし。
ただし、これは女子の敏感センサーに言わせれば全然違うとかに該当するのかもしれん。
「アイリアたちはすっごいスタイル良いし、エトラシアさんに至っては腹筋割れているしぃ~私だけブクブクになる訳にはいかないんですぅ~」
シュンとへこみながら、俺に訴えてくるラーナ。
アイリアは元より王族としての体型維持技術と心構えがあるからなぁ。あと腹筋は割れても割れなくてもどっちでもいいと思うが。
まあラーナの気持ちを無下にも出来ん。
しかし、このままずっとブルンに元気がないってのもなぁ。
見慣れすぎて、ちょっと寂しい。
「よし、ならこれだな」
俺はポーチから出した一本のポーションをラーナに手渡した。
「これは?」
「ああ、【ポーション(摂取栄養無効化)《カロリーオフ》】だ」
「かろりーおふ?」
「簡単に言えば、食べたものが脂肪にならない」
「ええぇええ! なんですか、そのチートポーション!!」
ラーナが今日一の声をあげた。
【|ポーション(摂取栄養無効化)《カロリーオフ》】、体内に摂取したカロリーを大幅に無効化することができる。
正直なところ、この世界でそんなことを欲する一般人はあまりいない。貴重な食料がもつカロリーなのだから、わざわざ摂取しないなんて考えられないことだろう。
まあこれは王族時代に、どっかの令嬢がどうしてもいうので作ってみたダイエットポーションだ。
「常用するのはダメだが。今日ぐらいはいいんじゃないか?」
随分と我慢しているようだし。
やた~~と言いながら、ゴクゴクポーションを飲み干したラーナ。
そこからラーナのクレープ祭りが始まった。
ええぇ……
無茶苦茶たべるやん……この細めな体のどこに入っていくんだ?
「さあ~クレイさんも~~~♪」
「いや、2個も食べられんから……」
「ふふ~~我慢はダメですよぉ~~♪」
グイグイ両手クレープと共に迫って来るラーナ。
身体の揺れと共に、子気味良く揺れる2つのデカいの。ふむ、見慣れた揺れだ。
揺れを見ていた次の瞬間、視界が2個目のクレープに遮られて俺の口も塞がれえてしまった。
しょうがなく食べきる俺を見て、満面の笑みで揺れる聖女。
まあ、いつものブルンに戻ったのでよしとするか。
ラーナが上機嫌でクレープを食べまくっている姿を鑑賞していたら、背中にゾクリと気配が走った。
――――――なんだ!?
これは手練れだな……。
しかも見覚えのある殺気だ。
明らかに俺に向けられたもの。
「ラーナ、俺は少し用事ができた。クレープ食べたら、先に帰っておいてくれ」
「むぐぅ~~ふぁぁ~~い、クレイさん、ムグムグゥ~」
ラーナにひと声かけた俺は、スッとクレープ屋から離れる。
人気のない裏路地まで歩を進めると。
そこには一人の男が立っていた。
「ふぅ……何の用だよ。もうエロ本はないぞ」
日常が戻って来たってのに、いまさら何の用だ。
――――――黒服隊長さんよ。




