第76話 戻ってきた日常?
大司教を撃退してからひと月が経った。
壊された門や塀の修理も進んでおり、ポーション屋敷も通常稼働で日常が戻って来た感じだ。
エトラシアとフェルは朝のジョギング。
リタとティナは、訪問予約が入ったらしく器具の整備。
ユリカと侍女リアナは朝食の準備。
アイリアは入念なお化粧中で、ライムはまだおねむである。
そう、いつもと変わらぬ日常……のはずなんだが。
ふんふんふ~ん♪
軽やかなステップに鼻歌を口ずさむ美少女。
聖女ラーナだ。
彼女は大司教の一件が片付いてから、ずっと上機嫌なのだ。
まあそれはいい。ラーナの無実が証明されたし、色々とモヤモヤしたものから解放されたのだから。
ルンルンになって何も悪いことなどない。
というか元よりラーナは明るい女の子だ。違和感もない。単に上機嫌なだけならばの話だが……。
「クレイさん、今日の着替え置いておきますね♪」
「クレイさん、一緒に食べましょう、はいあ~~ん♪」
なぜか、俺にグイグイくる度合いが増した。
まあ距離間が近いのは前々から多少感じてはいたし、ぶっちゃけ夜は一緒に寝ているというか勝手に潜り込んでくる。
だが、それは他の女子たちも同じだし、エロいことが繰り広げられているわけでもない。
「クレイさん、店番のシフトは全部わたしと同じにしておきました♪」
「クレイさん、今日のパンツ置いときますね♪」
「クレイさん、トイレですか? わたしも一緒に行きます♪」
いや、俺のプライバシー皆無なんですけど。
「ラーナ殿、ユリカがさがしてたぞ」
「は~~い、エトラシアさん~~じゃあクレイさんまたあとでね♪」
ご機嫌でスキップするラーナ。数歩いったところで、ピタリと止まり―――
「あ、そうだクレイさん、お風呂の順番は私と同じ時間にしときました♡」
ダメだろそれ……
「ラーナ殿、毎日花が咲いたような笑顔だな……」
スキップルンルンで去って行くラーナを見ながら、エトラシアが口を開いた。
「まあ元気なのはいいことだ……ん?」
エトラシアの鞘からなんか生えている。
「おおっ!! こ、これは!?」
「え……!?」
こいつは不滅草だぞ!
間違いない! 俺はエトラシアの腰を両手で掴んで、マジマジと剣の鞘から顔を出す緑のつたを確認する。
「うぉお! すげぇ! やはり再び生えてきたかぁ!」
「あ、ちょっとクレイ殿……」
これでまた【|ポーション(超生命力回復)《メガライフパワーチャージ》】が作れるじゃないかぁ!
いやぁ~~ユリカに使用した前回は、ぶっつけ本番だったからなぁ~今回は更なる改良を加えてみるかぁ。
「流石だな、エトラシア!」
「わ、わかったのだが、クレイ殿……その……」
なにをモジついているんだと、俺が言おうとした時だった―――
うしろから身の毛もよだつほどの殺意を感じた俺は、とっさにその場で飛び上がる。
――――――敵襲か!
「クレイさん、女性の腰を簡単に揉んだりしたらダメですよ」
そこにはユリカの用事が終わったのか、ラーナがいた。
え? 今の殺気はラーナか?
だが、彼女はすでにいつものニッコリ笑顔で「もう、クレイさんはポーションのことになると~」とかボヤいている。
とりあえず俺はエトラシアに謝って、レア素材の採取をさせてもらった。
そこへ、アイリアが黄金色の髪を揺らして、ラーナに声をかける。
「ラーナ、時間ですわよ」
「は~~い、アイリア!」
また別の用事があるらしい。
「あ、クレイさん。今後は揉むなら私の腰にしてくださいね♪」
そういって、ラーナはアイリアと共に別室に入って行った。
そして、その後にゾロゾロと続く女子メンバー。おねむだったライムまでいるじゃねぇか。いや全員かよ……
なんだろうな?
「会議です」
「うおっ!」
いきなり音もなく背後から声をあげる、メイドのリアナ。
いや、俺の気配察知に引っかからないだと!? どんだけ気配消すのうまいんだよ。
「クレイ様、みなさまは今から会議にはいります」
「お、おう……」
俺の驚愕などお構いなしにマイペースで会話を続ける戦闘メイドさん。
「会議ってなんだ?」
「はい、ラーナさまの今後についてです」
「なにそれ?」
「はい、ラーナさまは先日の一件もあり、一カ月間の特例期間が設けられています」
「?」
「特例期間なので、あるていどのおいたも許容されていました」
「???」
「ですが、それも今日で終わり。この会議では、今後の挙動および全女子共通の方針などが決められる予定です」
ちょっと何言ってのかわからんけど、恐らくはみんなラーナのことを心配してるんだな。
彼女は精神的な疲れが一気に噴き出して、近日のよくわからんグイグイ行動を引き起こしているんだと思われる。
俺がなにかしらのポーションを作ってみてもいいんだが。
ま、女子同士にしかわからんこともあるだろうし。
ここは、みんなに任せよう。
自分のなかで腹落ちした俺は、グッと伸びをして。
「さ~~~てと」
俺は、このレア素材でポーション作るかぁ。
自室にこもった俺は、もはや他のこと等忘れてポーション作りに明け暮れるのであった。
―――数時間後
会議は無事終わったらしいが……
「クレイ様、今後はユリカと同じマグカップを使ってください♡」
「ご主人様~あたしと二人だけの部屋作ったです♡」
「く、クレイ殿……その……あの……」
「ん……クレイおにい、10センチ離れたら死ぬ禁呪魔法ためす」
「にいに、いっしょにねよ」
「お兄様ぁ~~お風呂の時間ですわぁ~~♡」
なぜか全員がラーナ化していた。
いや、一部いつも通りもいるんだが、にしても――――――
みんなして、グイグイくるじゃないの!
「フフ、クレイさん、なにか言いたそうですね」
「いったい、どんな会議をしたんだ?」
「それは内緒ですよ~~さぁ買い出しに行きます、拒否権はありませ~ん」
そう言ってルンルンで俺の手を引っ張るラーナ。
ま……いいか。そのうち飽きて鎮静化するだろう。
こうしていつもの日常?が戻ってきたことを実感する俺なのであった。




