第75話 戦闘が終わっても、ポーション作りは終わらない
「まぁまぁまぁ~ゴマ粒みたいにちっさくなていきますわ♪ さすがお兄様」
アイリアが吹っ飛ばされていくダムロス大司教を見て、ふふんとその大きな胸を揺らした。
「とんでもない速さ、それにとてつもない一撃だ……やはりクレイ殿はとんでもないな!」
横にいたエトラシアも、空を見上げて「ふはぁ」と感嘆の声を漏らす。
フロンド住民たちからは勝鬨があがり、なんかクレイコールもついでに巻き起こる。
大歓声が響く中で、俺の背後にシュッと気配が。
「リアナか、お疲れ」
「いえ、やるべきことをしたまでです。それよりもクレイ様、着地点まで走り確実に仕留めますか?」
戦闘侍女のリアナが、メイド服のロングスカートを揺らして俺に問いかけてきた。
「いや、やめておこうリアナ」
大司教の飛ばされたあの方角は魔の森だ。
つい先刻、大司教が広域殲滅魔法で森の一部を焼いている。
おそらくあの森は、手負いの魔物で溢れかえっているだろう。
手負いは基本的に危険度が上がる。
想定外な動きや力を出すことがあるので、絶対になめてかかってはいけない。
今そんな森へ行くのは、危険が大きすぎる。
「はい、クレイ様。仰せのままに」
今にも飛びだしそうだったリアナは、スッと身を引いた。
さて、サイコ司教のことよりも……
俺は一人の少女の元へと静かに歩を運んだ。
その少女は、地べたにぺたんと座ってうつむいていた。
頬にかかる綺麗な青髪がその顔を隠しており、表情はうかがい知れない。
「ラーナ」
「う……うぅ……」
ゆっくりと顔をあげたラーナは、安心と不安が混在したような表情で、俺の顔を見る。
脅威が去ったことで冷静な思考回路が戻り、自身の責任を重く受け止めてしまったのだろうか。
「そう真面目に落ち込むな」
「だって……」
「ラーナ、大丈夫だ」
「だけど、みんなが……」
「たしかに町の門は壊れちまったし、塀もボコボコの穴だらけだな」
「そ、そうじゃなくて……」
彼女は答えに詰まり、視線をさまよわせた。
ラーナが最も気にかかっていること。まあ、おおよそ予想はつく。
「クレイ殿下~~」
そこへマットイさんの声が聞こえてきた。
せぇ~はぁ~と息を切らしながらも、俺に報告をあげるマットイさん。
「クレイ殿下! 正門部隊、負傷者はいるものの死者はゼロですぞ!」
「クレイの兄貴! 西戦闘班もみんな生き残ったぜ!」
「「東、北戦闘班も同じく! 死人はゼロ!」」
バッドたちからも元気な声が飛んできた。
「ほら、大丈夫だったろラーナ」
「ふあぁ……クレイさん……みんなぁ……よかったぁ」
安堵のあまり途切れ途切れになる声。喉奥でつかえていたものが、ふっと抜けるように。
その表情は、いつものラーナに戻り始めていた。
にしてもよく頑張ったな。
みんな傷だらけではあるが、死人は出ていないのだ。
俺の作戦を忠実に守り、無理せずこまめに回復ポーションを飲んでくれたというのもあるが、やはり戦闘メイドのリアナの存在が大きい。
彼女がフロンド戦闘班の援護に徹底してくれたからだ。その持ち前の俊足を飛ばして、縦横無尽にナイフを振るい、時には投げて。
あとはティナの援護魔法も戦闘班の危機をいくつも救っている。
「キャンキャン!」
「わぁ~~フェルちゃんも無事です~!」
ラーナに飛びつくちっこい子犬。
フェルは外壁まわりで、魔術師隊全員を相手に大立ち回りをしてくれた。
たった一匹で、50人の魔術師相手だからな。さすがのフェルも魔力を極限まで使い果たしたようで、ラーナの膝に飛び込むと速攻で寝息を立て始めた。
俺はポーション屋敷のメンツ全員と、フロンド住民の安否を確認したのち聖騎士団長と面会する。
彼らは俺たちへ謝罪したのち、即時撤退を約束した。
辺境視察の名目で準備されていた物資は、彼らが帰りの分を除きすべて俺たちに譲渡すること。
また、大司教の馬車から出てきた大量の金貨も没収。
そして、ラーナの罪に関しては聖教国で無罪を公表すること。
あと今回の件、表向きは辺境視察の際に賊の急襲をうけたことにする。
王国が知っても碌なことが起きないのは分かり切っている。
正体を隠しているとはいえ、死んだことになっている妹(姫)たちもいるし。あの兄はいらん動きしかしないだろうし。
聖騎士たちも大司教に騙されたのだが、それは彼らの問題だ。当の本人は吹っ飛ばされて行方不明だが、俺たちは関知しない。あとは本国でやってくれ。
ということで話はついた。
ふぅ……やっとひと段落ついた。
「ふぉお~~」
「お疲れさまですね、クレイさん」
ラーナが、水筒を渡してくれた。
どうやら、すっかり元に戻ったようだな。
「やっぱ、ラーナは笑顔が一番だな」
「ふふ、そうかもですね」
くっと水を飲み干して、ぐ~~っと両腕を伸ばす。
そんなこんなで、一息ついていると。
待ってましたとばかりに、マットイさんたちが駆けつけてきた。
「クレイ殿下、負傷者全員分の回復ポーションが足りませんぞ」
「クレイの兄貴、こっちもだ。補充してもらったポーションが無くなちまった。すまねぇ」
さらに先ほど面会をした聖騎士団長も、こちらに来て申しわけなさそうに声を出す。
「その……お約束通りすぐにでも帰国したいのですが……町の外でいいので、一晩野営してもよろしいでしょうか?」
野営?
ああ……そういうことか。
まだ地面から起き上がれない聖騎士も多く、魔術師たちも全員が魔力体力尽き果てている。
「よし、ならおまえたちのポーションも作ってやる」
「よ、よろしいのですか? その、我ら全員を元に戻すポーションだけでも大量に作ってますし……あの、クレイ様への負担が……」
「え? まったく大丈夫だけど」
俺の即答にキョトンとする騎士団長。
ラーナがクスクスと笑いながら口を挟む。
「騎士団長さん、大丈夫ですよ。クレイさんは、ポーション狂いですから」
てことで―――
「よし、じゃ聖水たのむわ。ラーナ」
「はい! クレイさん、いきますよ~~!」
住民の分と、騎士団の分。すべてのポーションを作りまくるのだった。




