第73話 決着、ポーションの力をなめるな
「グアァ? ポーションをガッタイだトォ……?」
「そうだ、おまえのクスリを打ち消すポーションだ」
「グヌヌぬぅ! ワダジのクスリをウチケスダドォオオ! なめるなよォォ、ギキシュ―――」
強化ダムロス大司教の身体から、ミシミシと肉体や骨が異音を放ち始める。
ブチブチと皮膚が裂けて、肉体のあちこちから黒い何かが這い出してきた。
「ふぇえ! クレイさん、あれって……」
ラーナが怯えた声を上げつつ、強化大司教の黒いものを指さす。
手だ。
無数の手を身体から生やしやがった。
そのおぞましい手は、周辺に倒れている聖騎士たちの落とした剣をひとつ、またひとつと掴み取ると、まるで意思を持っているかのように独自に動き出す。
「ちっ……もはや人間やめてやがるな」
「ギヨォホホホホホホ!」
強化大司教の声と共に、バラバラな動きだった腕が一斉に回転運動をはじめた。
基本もクソも無いが異常な膂力によって回転速度が増していき、まるでレシプロ機のプロペラのようにブンブン風切り音を発する。
「ぞんなポーション、オソルルニタラズだがぁ……これでクダラナイ小細工もできんだロォオオ!」
なるほど、俺のポーションを多少は警戒しているのか。
動ける聖騎士たちが再び攻撃を再開するが、強化司教の体中についている回転剣に阻まれる。
うかつに接近しすぎた者は、回転刃の切り刻み地獄に落とされてしまう。
「お兄様! ここは私たちが道を切り開きますわ!」
「そうだ、クレイ殿! ワタシに任せてくれ」
槍と剣を構えるアイリアにエトラシア。
が、俺は2人に待ったをかける。
そして戦場全体に大声を響かせた。
「――――――全員大司教から離れろ! デタラメだがあの回転に巻き込まれたら唯ではすまない!」
「クレイさん、でもこのままじゃ……ってまたポーション作ってるぅう!」
呆れた声を出すラーナ。
まあ俺がすることは、これしかないからな。
ポーチから取り出した2つの瓶。ひとつは戦闘ポーション。
もうひとつは、【ポーション(体内空気清浄)《エアフレッシュ》】
俺が開発した生活ポーション。淀んだ空気や悪臭を身体から発する微風で飛ばす効果がある。これ自体は生活補助のちょっとしたポーションだ。
さて、サイコ司教の無数の剣をかいくぐるには……
「自身の速度を極限まで上げればいい!!」
俺は2本のポーションを左右に持ち、スキルを発動する。
「―――【ポーション合成】!
【戦闘ポーション(瞬間身体能力アップ)《インスタントパワーブースト》】×【ポーション(体内空気清浄)《エアフレッシュ》】!」
2つの小瓶が光の中で融合する。
「合成完了―――【戦闘ポーション(戦闘風属性付与)《バトルウィンドブースター》】!!」
瓶の中では、液体が凄まじい速度で循環している。
俺は出来上がったポーションを一気に飲み干す。
「よ~~し、体内風力、充填開始ぃい!」
「ひゃあ! なにこれ!? クレイさんの身体が……」
ラーナがめくり上がりそうになったスカートを押さえて、驚きの声をあげた。
「ん……これ風属性の力。でも魔力とは違う、クレイおにいのオリジナル」
「ギャハハハハ~~いまざら~何をシテモ~~ムダァあああ!」
強化大司教が全身の剣を回転させつつ、俺に向かって猛烈な勢いで突進してきた。
腕の稼働範囲など無視しまくりのデタラメな動きで、全身に回転刃の鎧を装備したような巨体。
ふぅ……
風力充填完了―――
地を踏む足に力を込める。
次の瞬間には俺の姿は強化大司教の目から消えていた。空気を裂くような衝撃音とともに一閃となって、大司教の側面から斬撃を放つ。
「ギャバッ!?……?」
―――遅い!
俺はすでに反対側に移動している。
「ヒャゲェ? キュハャ?」
俺は高速で攻撃離脱を繰り返し、強化大司教は俺の動きについてこれずに、見当ちがいな攻撃を繰り返す。
「ギィイイイ! ちょこまカトォオ! これでもクラエィイイイ!」
業を煮やした強化大司教が、すべての剣の回転を止めて、振り下ろしてきた。
何十本という剣が、バラバラのタイミングで振り下ろされてくる。
「よし! こいつを待ってたんだ!
――――――速力アップ! うらぁあああ!」
風力を最大限利用して、迫りくる幾多の斬撃を紙一重で躱し、また剣で受け流し。
「ふぅ……ようやく来たぜ」
巨体である強化大司教の肩に乗った俺は、持っていた剣を奴の口に差し込む。
「バフフフフ……ムグゥ……ガ」
ようやく、試せるな。
「やっぱ、ポーションは口からに限るよなぁ! くらえ、サイコ司教ぉおおお!
―――――――――【ポーション(超聖浄化再生)《メガホーリーリニューアル》】ぅうううう!」
もう一方の手に握るポーションを、その開かれた口に突っ込んだ。
「ハガァアアアアア!!」
ビクビクと痙攣をはじめる大司教。
徐々にその肉体がしぼみ始める。無数に出ていた腕も、ボロボロと落ちていく。
「どうやら効果ありのようだな。サイコ司教さんよ」
「グソォオオ……ワタシの最高傑作のクスリがぁあ! あり得んンンン……」
身体がしぼみ始めた大司教だが、必死に崩れゆく無数の腕を俺にぶつけようとあがきはじめる。
が、おれは風圧のパンチを数発撃ち込み、大司教の最後のあがきをことごとく封じる。
「グゲェエエエ、ぎ、ギサマぁあ! いったい……ナニモノだぁ……」
俺か……
「俺はただのポーションオタクだよ―――
風力全開ぃいいいい!
―――――――――暴嵐一撃瞬拳!!」
目にも止まらぬ速さで、強烈な一撃を腹に打ち込まれた大司教。
「ギュハァアアアアアぁあああ……ああァァ……ぁぁ……ァ…………」
大司教の身体は宙を舞い。魔の森の方へ吹っ飛ばされていった。
ふぅ……終わった。
「俺のポーションが、ゲスなクスリに負けるかよ」
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