第68話 黒服隊長との共闘
「クレイさん……」
ラーナの視線が、隊長とアイリア達に向けられる。
彼女としては最も複雑な気分なのだろう。今まで襲ってきた奴らと共闘するのだから。
「ラーナ、気持ちは分かるがこっちに集中だ。まだまだ聖水を出してもらうぞ」
「は、はい。そうですねクレイさん。この調子ならみんなの分もできちゃいますね」
そうだな。
回復ポーションはもう少しでめどがつくが……
「ああ、とにかく必要分の回復ポーションを作ってしまうぞ」
俺は喉から出そうになった言葉を飲み込んで、ポーション生成を加速させた。
「グラァアアア!」
「グモウゥウ!」
「ギヒィシィイ!」
3体の強化黒服たちが、意味不明な言葉を叫びながらアイリアたちに突っ込んでいく。
相変わらずの人間離れした速度だ。
迎え撃つべく地を蹴ろうとするアイリアとエトラシアに「待て!」と手をあげる隊長。
「タイナー! 同時詠唱開始!」
「は、はい! 隊長―――闇に潜みし愚鈍の呪いよ、身体を重く、力を砕け!」
「――――――身体能力減少!」
「――――――物理攻撃力減少!」
黒い魔力が、3体の強化黒服を覆う。
そうか、以前俺に使用したデバフ魔法だな。
「なるほど、やりますわね!」
アイリアが能力ダウンした中央の強化黒服1体に、強烈な突きを連続で放つ。
「ギュラァアッ!」
落ちた速度ではスピアを回避しきれず、左足に突きを喰らって岩の鎧が一部砕け散った。
「それそれ~~ですわ!!」
その隙を逃さず、ガンガン突きをぶち込むアイリア。
バリバリと鱗が剥がれ落ちるかのように、岩の鎧が削られていく。
「ふん、やるな槍娘。タイナー、我らはクルスからいくぞ!」
「は、はい。隊長!」
隊長とタイナーは、左の強化黒服に向かって駆け出した。
クルスってのは、たぶんそいつ本来の名前なんだろう。
隊長たち2人は、左の強化黒服の左右に回り込み、斬撃を放っては離脱を繰りかえす。
単調な交互に攻撃と言うわけでもなく、連続攻撃やフェイントなどが織り交ぜられており、法則が読みにくい。
やはりこいつらの連携攻撃は洗練されているな。
「はあぁあああ!……うくっ!」
右に視線を向けると、気合の一声が聞こえてくる。
エトラシアだ。
「ぐぬっ……当たらない……が! もう一発!」
デバフ魔法で強化黒服たちの速度が落ちたとはいえ、元々手練れなうえに強化人間化されている。
アイリアや隊長たちのように、上手く立ち回ることは難しい。
だが、テンパらずに渾身の一撃を繰り出し続けるエトラシア。その並外れた力に、ずっと同じ型を振り続けていた彼女。
その斬撃威力はとんでもないので、回避はできても攻めあぐねているのは強化黒服も同じだった。
全体の流れとしては、押し始めている。
「……何をしているのですかぁ!」
そんな状況を見て、ダムロス大司教の苛立つ声が発せられる。
「そんなザコどもにぃ~なに時間かけてんですかぁ~完成品ではないにせよわたしのクスリを与えてやっているとういのに……さっさと始末しなさい!」
大司教の声にビクッと身体を震わせる強化黒服たち。感情の多くは消え去っているが、大司教の命令は絶対であるように仕込まれているようだ。
3体の強化黒服はその場で何かを詠唱しはじめた。
「ギュラァア!」
「ギュラギュラァ……ギュルルラグルァ」
「な、これは詠唱か……しかもこれは、まさか!?」
「た、隊長……これって?」
隊長とタイナーがいったん後ろに下がる。
アイリアとエトラシアも、警戒を強めた。
「「「――――――ギュルカルギュビレィテェア!」」」
3体の強化黒服を魔力の光りが包み込む。
次の瞬間、1体が俊足を飛ばして間合いを詰め、隊長とタイナーへ同時に斬撃を放った。
なんとか攻撃を防ぐも、その衝撃でのけぞる隊長たち。
「ぐっ……身体能力上昇だと……あの状態で使用できるのか……」
「ふぁ!……た、隊長ぉ~デバフ魔法の効果が打ち消されてます!」
デバフ魔法にバフ魔法を重ねて、プラマイゼロにしたってことか……。
やはりこいつら手強いな。
「そうそう、そうですよぉ~~わたしのクスリを使っている以上は圧倒的パワーで蹂躙ですよぉ~」
「ふん、そうはいきませんわ!」
グフフと醜悪な笑みを漏らす大司教の言葉に、アイリアがスピアを構えた。
「クフフ~槍娘がなにをいきり立っているのですか、最後に勝つのはわたしのかわいい強化人間たちですよぉ~」
1体の強化黒服が、岩の剣を形成してアイリアに斬りかってくる。
岩の鎧を纏った土属性の魔法か、さきほどアイリアのスピアで削られた鎧も修復されていく。
「お兄様には近づけませんわ!」
身体に魔力を纏うアイリアのスピアが、唸りをあげた。
岩の剣とスピアが激突し、猛烈な交差音をあたりにまき散らす。
槍さばきにかけては王国でもトップレベルのアイリアだ。強化黒服の強烈な攻撃を防ぎつつも、的確に相手の急所に突きを叩き込んでいく。
「なんですの! いい加減、倒れなさい!」
岩の鎧があるとはいえ、アイリアの鋭い突きだ。本来ならば一撃で戦闘不能となる威力。
だが強化された聖騎士たちと同じく、痛みを感じないのか平然と戦闘を続行する強化黒服。加えて疲れも感じていない様子だ。
ここまで無茶苦茶な稼働をさせるってことは、どう考えてもあとあとの反動が致命傷になる。
もしくはクスリの効果が切れる前に、すべての生命力を使い果たすか。
えぐいクスリを作りやがる……
「クフフ~どうですかぁ~わたしの強化人間の耐久力はぁ~これでうっとしいゴミ王子も片付けられますねぇ」
―――プチっ
「まったく……ちょっとばかり優れたポーションを作れるからと、図に乗るんじゃないですよぉ~クズ王子のくせにぃ~槍娘のあなたもそう思いますでしょう、ねぇ」
―――プチっプチっ
アイリアの動きが止まった。
「あはぁ~~ついに諦めましたかぁ~いいですよぉ素直な態度はぁ。サッサと死んで、クソ生意気なアホ王子も始末してあげますから~ねぇ」
――――――ブチっブチっブチっ!
「ギャ? ギャラララ!」
ピタリと止まったアイリアを一方的に攻撃している強化黒服が、驚いたような声をあげる。
やつの猛攻は、一切アイリアにダメージを与えていないからだ。
彼女の周りに可視化できるほどの魔力が溢れている。それが攻撃を防いでいた。
アイリアの身体から、黄金色の光どんどん広がっていく。
あ……これはヤバい……
「――――――ああぁ? おまえ今なんつった?」
アイリアがキレた……しかもガチなやつ。




