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第67話 意外な助っ人

「クレイさん、いつにも増してとんでもないスピードですね」

「ああ、ラーナ【ポーション生成】!。最も【ポーション生成】!作り慣れた【ポーション生成】!ポーションだから【ポーション生成】!な」


 ラーナと会話している最中も、次々とポーションが生み出されていく。


「ば、馬鹿なぁ……この場でポーションを大量生産だとぉ……」


 あり得ないと、声を漏らすダムロス大司教。


「だから言ったろ【ポーション生成】!。できると【ポーション生成】!」


 俺のポーション作成は止まらない。

 常にフル稼働だ。



「ぬぅうう、このポーション工場がぁ! ――――――あなたたち! 王子を潰しなさい!」



「「「グォオオッ!」」」


 ぬっと出てきた3体の強化人間。

 大司教取り巻きの強化聖騎士たちとは服装が違う。


「黒服たちか……」


 たしか、隊長ともう一人以外は強化人間にされてたんだったな。


「「「―――ギャギャッ!」」」


 次の瞬間、一斉にこちらへ駆け始めた黒服強化人間たち。


 が、俺は無心でポーションを作り続ける。

 なぜなら、俺とラーナの前に2つの影が現れたからだ。


「お兄様の邪魔はさせませんわ!」

「クレイ殿のところにはいかせん!」


「「「ギュアアア!」」」


 3体の強化黒服たちが、アイリア&エトラシアと交戦を開始する。


「エトラシア、わたくしは2体の相手をします。あなたには1体任せますわ!」

「あ、ああ。わかったアイリア殿!」


「油断なきよう……では~~いきますわよぉおおお!」


 猛烈なスピードで突っ込んでくる強化黒服に、アイリアのスピアが唸りをあげて襲い掛かる。

 強烈な突きに、その進撃を止める一体。手持ちの短刀でアイリアの突きを弾きつつ防御に専念。


 次の瞬間アイリアが、横に飛んだ。


 もう一体がアイリアの死角から回り込んで、その刃を振るったからだ。


 スピアを器用に回転させて、死角からの攻撃に対応するアイリア。

 強化黒服の短剣とスピアが、ギンッギンッとその強烈な衝突音を響かせる。


「くっ……やりますわね」


 一方エトラシアは、正面一体に向かって強烈な打ち下ろしの一撃を放つが、その威力を察知したのか即座に後方に飛び退いた。


 そして、何かしらの詠唱に入る。


「ま、魔法も使えるのか! あ、アイリア殿!」

「ええ、この者たち。ほかの強化人間とは違いますわね……」



「|ギャイギュッグジールアアマァア《ハイロックシールドアーマー》!!」



 強化黒服の魔法により、3体の身体が岩盤で覆われていく。


「これは、上級岩盤防御鎧ハイロックシールドアーマーですわ!」


 岩の鎧を纏った3体は、その重量をものともせずアイリアとエトラシアに迫る。


「ぬぅうううう!」


 エトラシアの渾身の打ち下ろしを喰らう1体だが、突進を止めることは出来ずにそのまま正面衝突の凄まじい音が響いた。

 全身で突撃を止めたエトラシアの額に、血管が浮かび上がる。


「ぐっくぅ……す、凄い力だ……」


 アイリアは2体に挟まれて攻めあぐねていた。どちらか一方が常に死角に潜り込もうと、高速移動を連発しているからだ。


 そこへ炎の弾丸が強化黒服たちに打ち込まれる。

 ティナの援護射撃だ。2体に命中するも……


「「ギュア!」」


 僅かな声を上げたのみで、さしたるダメージは見受けられない。


「ん……魔法防御も上がっている。あの鎧やっかい」


 ティナはムッと唇を噛むも、別のフロンド戦闘班への援護射撃に戻る。

 彼女は戦場全体の援護をしている為、こちらにかかりきりにはなれない。


「クレイさん……」

「ラーナ、今はポーション作りに集中しろ。回復ポーションが無ければ戦線は崩壊する」

「でも……」

「今はアイリアたちに任せんるんだ」

「う、うん……」


 ラーナは黙って聖水を出し続けた。


 ここはアイリア達に踏ん張ってもらうしかない。

 ポーションを作成しながらも、戦闘に視線を向ける。ラーナには集中してもらうためにああ言ったが、いつでも参戦できる態勢は作る。


 にしても……厄介なやつらだ。

 黒服たちは元々実力が高い。クスリ注入によりその身体能力とタフさは飛躍的に向上している。さらに化け物になる前の連携プレイも可能ときている。


 だがアイリアとて槍の名手。さらには自身の魔力で身体強化まで出来る。


「ハァアア!」


 アイリアの突きが、飛び回っていた1体の脇ばらを捉えてそのまま突き抜けた。


 かに見えたが……。


 ―――浅い!


 突きが入る直前で体を捻ったのか。

 結果として岩の鎧側面を削られるに留めた強化黒服は、そのままアイリアの槍を脇にがっしりと抱え込む。


 さらにもう一方の手をアイリアの眼前まで伸ばして、詠唱を開始する。

 真っ赤な炎の玉がみるみる大きくなっていく。


「な、なんですって!?」


 こんな近距離で攻撃魔法だと! 自身への被害よりも、アイリアを仕留める事を優先したのか。

 流石のアイリアも思わず驚きの声を上げている。


 マズいっ!


 俺はポーション作成を止めて地を蹴ろうとしたが、アイリアの前に光の壁が出現した。


「ギャグハェッ!!」


 近距離で炎弾が爆発したことにより、強化黒服は煙を上げて後方に吹っ飛んだ。

 光りの壁に守られたアイリアは、無傷である。


「こ、これはマジックシールド? 誰ですの?」


 ティナではないな。


 俺たちの前に現れた2つの影。

 肩で息をしながら、ぼたぼたと血の流れる片腕を抑えている男と、足を引きずりながらこちらに向かってくる女。


「あなたたちは……」


 黒服の隊長と女か。


 こいつらがマジックシールドを展開したのか……


「くっ……おまえらぁ! いったい何の真似だ!」


 エトラシアが隊長たちの姿を見て、怒りを露わにする。


「ハァハァ……黙れ、未熟騎士が……。その3体は我らが相手をする……ひっこんでいろ……」

「なんのつもりか知らんが、騙されないぞ! アイリア殿、こいつらは大司教の手下だ!」

「我らはもはや父の子にあらず。おのが正しいと思ったことをするまで……ハァハァ」

「なにが正しいだ! アイリア殿を助けるふりをしてだまし討ちする気だろう!」


 エトラシアの怒涛の言葉に、隊長は静かに答える。


「勘違いするな。我らは……変わり果てた仲間に安寧を与えるために来た」


 3人の強化黒服に視線を向ける隊長。


「くっ……そんなこと信用できるか……」


 エトラシアの言う通り信用は出来ない。

 が、こいつらも大司教に嵌めらていたのは事実だし、おそらく変わり果てた仲間をこの手で終わらせたいのは本音だろう。


 俺は改めて戦線をぐるりと見渡す。

 アイリア・エトラシアに俺という近接前衛が抜けて、フェルは外で魔術師とやり合っている。つまり強化聖騎士との戦いは、フロンド戦闘班(住民)をリアナ(戦闘侍女)とティナの援護魔法のみでカバーしている状況だ。


 隊長と女は、強化黒服に引導を渡してやりたい。

 俺たちもこの3体を倒して、早々にアイリア達を戦線に復帰させたい。


 四の五の言ってる場合でもないな。


 しゃーない。


「―――おい、隊長!」


 俺は2本のビンを隊長たちに投げた。


「回復ポーションだ。飲め!」

「……」


「な、クレイ殿! そんな奴らを……!」


「信用などしていないが……利害は一致するってとこだけは理解した」


「いいだろう王子……一時休戦だ。我らは同胞3人にしか興味はない……終わったら去る。

 ――――――タイナー! 聞いていたな、素早くポーションを飲め! 戦闘準備!」

「……っ……は、はい……隊長!」


 俺の渡した回復ポーションを飲み、装備を確認する隊長とタイナー。

 アイリアとエトラシアも武器を構える。


「わたくしたちも戦いますわよ」

「くっ、少しでも妙な動きをしたら斬る!」


「……ふん、勝手にしろ」



 思いがけない助っ人の登場で、俺はポーション作りに専念できる。


 さて、急造のチームだが。ここが踏ん張りどころだ。



「さあ~~いきますわよ~~!!」



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