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第65話 強化人間

 戦闘開始から数十分が経過した。俺たちポーション屋敷のメンツとフロンドの戦闘班の奮戦により、なんとか聖騎士たちの侵入を防いでいた。


 が、その状況を一変させる事態が発生する。


 ズズーーーンッと響く大きな音。

 轟音とともに正門が大きく崩れていく。付近にいた聖騎士数名も門の崩落に巻き込まれたようだ。


「ちっ……無茶苦茶しやがるな」

「お兄様」

「そうだな、アイリア。現行の作戦は中止だ。いったん正門通りに戦力を集中させるぞ」


 ザッザッという足音とともに、首にかける十字のロザリオを揺らしながら町に入って来る聖騎士たち。

 戦力を整えて、正門から一気に攻め込んでくるつもりなんだろう。


「お兄様、誰か出てきますわ」


 視線を正門中央に向けると、1人の神官が立っていた。

 その荘厳なる法衣から、上位の神官であることが伺える。


「はい、邪教徒のみなさん。大司教のダムロスです」


 淡々とした口調で自己紹介してきた神官。

 こいつが聖騎士どものトップか。

 ダムロス大司教は、俺たちへ視線をぐるりと一巡させた。そしてピタリと俺の前でその顔を止める。


「ふむ、あなたが元第7王子のクレイさんですね」


「ああ、そうだが」


 今更隠す必要もない。


「まったく……面倒な事をやらせてくれますねぇ。さっさと大罪人ラーナを渡せばいいものを」

「ふん、嘘の罪状を並べたてるインチキ司教は信用できんのでな」

「アハハハぁ~~インチキ司教ですかぁ~」


 薄ら笑いを浮かべてニンマリとする大司教。

 なんだこいつ……


「ときにクレイさん。あなたは素晴らしいポーションをお作りになるようですねぇ。こんなろくに設備も揃っていない辺境で、回復魔法をも上回る効果のあるポーションを製造できるなんて、素晴らしいですよ」


 俺は黙って大司教の話を聞く。


「ふふぅ……実はぁ~~私も趣味でクスリを作ってましてねぇ~」


 大司教の面が歪み始めて、醜悪なにおいを放ち始めた。


「大司教様! あまり前に出られては……!」

「そうです。後方にお下がりください!」


 1人グイグイ前に出てくるこの男を止めるべく、近づいてくる聖騎士2人。


「はぁ? 何言ってんですか、前に出てこないと発動できないでしょうがぁ」


 発動? なんのことだ?


 大司教が両手を空にかかげて、なにかしらの詠唱を開始した。

 かかげる手のひらから光が溢れだす。


 なんだこれ? 聞いたことのない詠唱だ……光属性の攻撃魔法か!?



「――――――聖十字の啓示セイントロザリアロード!」



 その直後、なにを考えたのか魔法を発動したダムロス大司教が、スッと後ろをむいた。

 眩い光が、聖騎士たち全体に降り注がれる。


「だ、大司教さま……!?」

「……これは!?」


 突然の大司教の行動に、聖騎士たちに動揺が走る。

 てことは、バフ効果のある周知の聖属性魔法ってわけでも無さそうだな。


「なんだこの魔法? わかるかティナ?」

「ん……ティナも知らない。けど魔道具発動の魔力に似ている」


 魔道具か……


「うわっ……ロザリオが!?」

「ギャっ!!」


「さあさあ~~わが愛しい子らよ、たっぷり注いであげますからねぇ~」


 聖騎士たちが首にぶら下げているロザリオから針が出て、彼らの首に刺さり始めた。

 あたりに展開する聖騎士たちから、無数の悲鳴があがる。


 なにかを注入しているのか!?


「クフフフゥ~~いい声ですねぇえ! たまりませんねぇ~」


 この猟奇的な言動……この男の本性か……


「ん……クレイおにい」

「お兄様! 聖騎士たちの様子がおかしいですわ!」


 ティナとアイリアの言う通り、聖騎士たちの身体に変化が起こり始めた。

 筋肉が膨張して、元々良かったガタイが一回り大きくなっている。


 さきほど大司教を止めに入った騎士2人が、こちらに飛び掛かって来た。


「ギュアアアァ!」


 まるで獣のような声を発して、異常な跳躍力と騎士の動きなど無視したデタラメな動き。


「―――ぬぅ!」

「ハァアア―――!」


 俺の剣と、アイリアのスピアが同時に繰り出される。


 交差する、俺と騎士の剣。


 ――――――重いっ!


 だが、対応できないわけではない。

 俺はぶつかり合った剣をそのまま振り切った。


 俺の斬撃と、アイリアのスピアの突きで、聖騎士たちが振りおろしてきた剣は猛烈な勢いで弾かれる。

 戦闘ポーションで強化された俺と、自動魔力身体強化されたアイリアの一撃だ。騎士2人の腕は明後日の方向を向いている。


 これ以上、戦闘は続行できまい。


 が……


「―――ガァアア!」


 その騎士は異常な唸り声とともに、折れ曲がった腕を再び俺に振り下ろしてきた。


「なにっ……!」


 騎士の異常な攻撃を避けつつ、俺はがら空きの横腹にケリを打ち込む。

 強化された俺の蹴りをもろにくらった騎士は、空中で回転しながら後方に吹っ飛んだ。

 チラリと横を見ると、アイリアも強烈な突きで騎士を吹っ飛ばしたようだ。


 何を注入したんだ?

 身体能力は間違いなくアップしている。


 土埃が舞うなか、むくりと起き上がる人影。

 何事もなかったかのように、再びこちらに前進してくる。


「おいおい……あれで意識あるのかよ……」

「お兄様、やはり変ですわ。聖騎士とはいえ、わたくしの突きを受けてすぐに起き上がるなんて」



「―――ギャラァアアアア!」



 人とは思えないような叫び声をあげる騎士。それに呼応して周辺の騎士たちも、叫びはじめた。

 まるで魔物だな……


「ひぃいい! な、なんだこれは、クレイ殿!?」

「エトラシア、良く分からんがこいつら異常なほどしぶとい。気を抜くなよ」

「あ、ああ……にしてもなんて顔をしているんだ」


 エトラシアが、聖騎士たちの顔を見て体を震わす。

 たしかに得体のしれないモノと相対しているような感覚だ。彼らの顔から感情を読み取れない。


 なによりも殺気が感じられない……


 そのくせに、獰猛な獣のような動きをする。

 相反するものが混在しているかのような、不気味な存在。


「クフフぅ~~どうですかぁ、これが強化人間ですよぉ~わたしのクスリぃ~凄いでしょう」


 ダムロス大司教がニヤリと口角を吊り上げる。


「おまえ、金が目的ではないな」


「ええ、そんなものに興味はありませんねぇ~~」


「なにを企んでいる? ラーナの聖水を何に使う気だ?」


「おやおや、随分とあの娘に詳しいんですねぇ。いいでしょう教えて差し上げます。家族ですよ」


 ダムロス大司教の顔がいびつに歪む。


「家族だと?」


「そう、わたしはねぇ~国なんてものは取っ払って全ての人を家族にしたいんですよぉ~」


「なんの話だ」


「そのためには強い武力が必要なんです。だからぁ~強化人間というわたしに従順なかわいい子供たちを沢山作るんですよぉ」


 自分の為に働く人間兵器を大量生産するだと……。


 そこへ大司教の後ろから、スッと姿を現す黒い影たち。んん?……あいつらは。


「父様よ、なぜこのようなことをする! 聖騎士もみな家族ではないのか?」


 この声は……やはりラーナを襲った奴らか。たしか隊長と言われていたやつの声だ。

 その隊長に向かって、大司教が平然と言い放つ。


「クフフ……なにを言ってるんですか隊長? これは必要な犠牲ですよ」

「犠牲?なぜだ? こんなことをせずとも、突撃命令を出せば、父様のために命尽きるまで戦う覚悟はできている」


「だめですよぉ。これは実験なんですから。いろんなデータが必要ですからねぇ」

「実験? こんなやり方では、父様の子供たちがみな死んでしまうぞ! 我らの力が信用できないのか!」


 真剣な眼差しを送る隊長を見て、フゥ……とため息を漏らす大司教。


「まだわからないんですかぁ、このお馬鹿さん。まったく、わざわざ攫って教育してあげたのにこの期に及んでわたしに逆らうとは」

「さ、さらった?」

「おっと、大実験を前に興奮して口が滑ってしまいましたねぇ~」

「どういうことだ父様!」


「まあいいでしょう~種あかししてあげます。あなたちの実の両親を殺したのはわたしですよぉ。そして地獄の日々を味合わせたたのもわたしですよぉ。そして愛を持って拾ってあげたのもわたしですよぉ」


「な……何を言っている……」


「まだわからないんですかぁ~あなたたちの優れた戦闘力が欲しかったから、色々仕組んでわたしの玩具になってもらったんですよぉ。ねぇ」


「くっ……では我らは……」


 こいつ、イカれてやがるな。

 黒服たちは正直どうでもいいが、性根が歪んでやがる。


「これメンドクサイ作業なんですけどねぇ。絶大なんですよ。これを幼少の頃にやるとねぇ、私の忠実なるしもべができあがるんですよぉ。都合よく動く駒がねぇ」


「タイナー、総員退避だ……全メンバーに信号魔法」

「た、隊長……みんなからの魔道具反応がありません」


「退避とは笑えますねぇ~ここまでみなさんにお話ししたんです。当然だれも生き残りませんよ。あなたち以外はすでに強化人間のクスリを注射してあげましたからぁ~クハハハ~~」


「クッ……」


 奥からのっそりと出てくる3人の強化人間。

 顔に見覚えがあるな。おそらく黒服たちだろう。


「タイナー、緊急脱出魔法! いそげ!」

「はぃいい、たいちょ……ふぁあ! み、みんながぁば、化け物に……」


 強化人間化した黒服3人が、強烈な一撃を同時に繰り出した。狙いはタイナーと言う女黒服だ。


「ぬぐぅう……ぐはぁ!」

「ふキャァアア!」


 隊長とタイナーは、町の壁まで吹っ飛ばされて激突する。

 壁に衝突した衝撃で2体の人影がバウンドして、地面に叩きつけられた。2人はピクリとも動かない。


 くっ……とんでもないパワーだ。


「逃がすわけないでしょう~~クフフぅあの戦闘力を誇った隊長でこのザマですかぁ~いいですねぇ~。さぁ~かわいい子供たちぃい~」


 大司教の号令でゾロゾロと動き出す、強化人間騎士たち。


「ちっ……おい、大司教。はじめから皆殺しにする気だったんだな」


「いえいえ、違いますよ。辺境視察に赴いた聖騎士団は卑劣この上ない邪教徒に急襲されるも奮戦して邪教徒どもと相打ち、その崇高な目的を遂げて天に召されるのです。私を守ってねぇ~」


 なんだそのクソストーリーは。


「聖女ラーナさえ手に入れば、無限の【神青の聖水】がわたしのものになります。最高のクスリが完成するのですよぉ。無敵の強化人間を無限に作り出して、全世界がひとつの家族になる夢が実現するのですよぉおお~クハハハァアア!」


 なにが家族だ。


 てめぇの性癖を他人に押し付けるなよ。



「―――おい、その夢は実現しねぇよ」



「はい? さきほどの戦闘をみていませんでしたかぁ~わたしの勝利は確定事項なんですがねぇ」


 確定なんてさせねぇよ。


 アイリアのスピアが魔力を帯びて輝き始める。

 ティナの杖に魔力が集まり出す。

 エトラシアが剣を上段に構えた。

 フェルは子犬からフェンリルへと、その姿を変えた。


 俺はポーチから2本目の戦闘ポーションを取り出し、グッと飲み干した。


「――――――ゲスのサイコ野郎が、ラーナは渡さねぇよ!」




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