第62話 大司教の広域殲滅魔法とラーナの決意
フロンドの町に、聖教国の大司教率いる聖騎士たちが攻めん込んできた。
町の門を固く閉ざして、防衛戦に備える俺たち。
非戦闘員の住民はすでに俺の屋敷に避難済だ。
ポーション屋敷メンバーとしては、ラーナにユリカ。そしてライムにリタが非戦闘員扱い。
リタは戦闘員としても活躍できるが、ラーナの護衛にした。聖女ラーナは今回の要だからな。
防衛戦力としては、戦闘経験のある住民にポーション屋敷メンバーで組む。
俺、アイリア、エトラシアにフェルにティナ、そして王族侍女のリアナ。
アイリアの槍技は一流だ。王国でもトップレベルの腕前である。
そして多彩な魔法を使えるティナは、貴重な遠距離戦闘員。
さらに侍女のリアナは素早い機動力と戦闘技術を兼ね備えている。とくにナイフの扱いにおいて右に出る者はいない。
「く、クレイ殿。空が真っ黒に染まっていきますぞ……」
鍋を頭にかぶったマットイさんが、フロンド上空を指さした。
魔導士たちを総動員して雲を作ってやがる。とすればやることは恐らく……
『あ~あ~、大丈夫です。大司教様』
フロンド全体に大きな声が響く。拡声魔法だな。
にしても大司教? そんなお偉方が来ているのか。
『こんにちは、フロンドに巣食う邪教徒のみなさん。わたしは聖教国の大司教であるダムロスです』
なんだ邪教徒って。
『あなたちの行いは神の御心に背いています。その邪教を広めるため人身売買、危険薬物の流出など非道の限りを尽している。よって、神の代行者であるわたしがこの地にきたのです』
大司教の言葉に、フロンドの住民から憤慨する声が続出する。
そりゃそうだ、事実無根の無茶苦茶な事を言っている。おそらくこれは俺たちに向けた言葉ではなく、自軍の聖騎士たちへ納得感を出させる演出だな。
つまりラーナ絡みの黒幕は、このダムロス大司教である可能性が高い。
『さて、あなたたちに神の怒りを見せてあげましょう』
『大司教様、雷雲の展開100%、準備完了しました』
『はい、わかりました。さあ邪教徒どもよ、付近の森を御覧なさい』
巨大な雷雲がゴロゴロと稲光を帯び始める。
やはりか……まあ雲を集中展開したのなら、やることは一つしかない。
「クレイおにい……すごい魔力量」
「そうだなティナ。おそらく魔導士全員の魔力を集めて雷雲を作ったんだろう」
『天の雷よ、聖なる裁きを千の雷光と成して降り注げ!
――――――極大拡散聖雷撃魔法!!』
広範囲に広がった雷雲から、凄まじい数の雷撃が森に降り注ぐ。それを追って、ゴロゴロと雷特有の音が大合唱を奏でる。
まるで雷の豪雨だ。
「はわわわ……く、クレイ殿! 魔の森がぁ……まる焼けですぞ!」
「ん……なかなかやる」
魔の森の一部は、雷撃の嵐により丸裸となってしまった。
ところどころで魔物の叫び声が響く。雷撃の中心地にいたやつは即死だが、周辺にいたであろう魔物は半殺し状態なのだろう。
そして再び拡声魔法の声が町中に響く。
『はい、どうですか? 邪教徒のみなさん、逆らっても無駄という事がわかったでしょう。にしても魔物どもがゴミのように焼かれていきますねぇ~こんな辺境の地でも善行を積んでしまいましたよ、フフフ』
なにが善行だ。ただの殺戮マシーンじゃないか。
さらにダムロス大司教の声は続く。
『さて、ここでみなさんに朗報です。大司教殺しの大罪人ラーナを大人しく引き渡せば、神のお裁きは猶予してあげあましょう』
大司教の言葉に、ざわつくフロンドの住民。
まああれだけの殲滅魔法を見せつけられた後だ。そりゃ浮足立つだろう。
ちなみにラーナが濡れ衣を着せらている事情は、ポーション屋敷のメンツには伝えてある。
が、町のみんなにまでは言って無い。
「お兄様、ラーナの事は説明すべきですわ」
「ああ……そうだな」
聖教国が攻めてきてから明かすのは、タイミング的には微妙でその場しのぎのウソっぽく聞こえるかもだが、ちゃんと言わないとな。
「みんな聞いてく―――」
「はあ? ラーナちゃんが大罪人?」
「勝手に人の土地に来て、何言ってんのあのおっさん」
「あの子に罪人のにおいはしないよ!」
「ラーナちゃんは虫も殺したことないよ!」
「ラーナねんちゃんわるいこじゃないもん」
「「「「「ラーナちゃんは渡さねぇ!!」」」」」
こいつら……
どうやら説明するまでもなかったようだな。
町のやつらは、あんなクソ司教の言葉ではなく、実際のラーナを知っている。
この町は事情もちで流れ着いた者も多い。だから罪人への嗅覚が高いんだろう。その感覚がラーナの信用を勝ち取っているのかもしれんな。
……ん?
俺の手が誰かにキュッと掴まれる。
「み、みんな……グスっ……」
いつのまにか、後方屋敷待機組のラーナが出てきている。
大司教の話が聞こえたからだろう。
「ラーナ、安心しろ。おまえの事は必ず守ってやる」
「……クレイさん」
それ以上は語らずに、ジッと俺の目を見るラーナ。
『1時間だけ猶予を上げましょう。ですがぁ~~さっさとしないとフロンドの町は地図から消えてしまいますよぉ~~』
再びこだまする大司教の声。
町のみんなが、怯えた表情を隠せないでいる。
そんなみんなの顔を見て、聖女ラーナは俺から手を離して声を絞り出した。
その澄んだ青い瞳には、彼女の強い意志が宿っているようにみえる。
「クレイさん、みんな。私いくね」
自身が行けば、みんなは助かるかもという決意か。
普段はお調子者だが、やはりラーナは強い子だな。
だが、ラーナが行っても大司教はフロンドを殲滅する気だ。
それに―――
「ラーナ。行かなくていいぞ」
「で、でも。私が行かないと……雷がいっぱい降ってみんなが」
「ああ、それは大丈夫だ。ライムをここに連れてきてくれ」
「ライムちゃん? ど、どういうことですか? クレイさん」
唐突な俺の発言に理解が追い付かず、首を傾げる聖女。
「お兄様の言う通りですわラーナ」
「ん……ライムがいたのは幸運」
「ふぇ? アイリアにティナちゃんまで……??」
「ライムはな、特殊な能力を持っているんだ」
そう、いわゆるスキルである。俺の【ポーション生成・合成】のような力。
この世界にスキル持ちはほとんど存在しないが、わずかばかりいる。ライムはその1人だ。
「ええぇ……能力って?」
「ライムの能力は―――【晴れ女】だよ」
「いや、それ能力ですか!?」
シリアスな戦場に、聖女のツッコミがこだました。




