第60話 美少女のドレス姿よりもポーション素材
晴れ渡る空から陽が入る、ポーション屋敷のリビング。
今日はポーション店舗の休日である。
「おお、これは素晴らしいぞ!」
「キャンキャン!」
「ムフフ、フェルもわかるか。この素材の素晴らしさが」
小さなモフモフの頭を撫でながら素材を愛でる、至福の時間だ。
俺はリビングにて、王女たちが持ってきてくれた素材を整理している。
王城から脱出する際に、俺のラボからいくつか拝借してくれたとのこと。
追放された時は急だったから、ラボには寄れなかった。
これは嬉しい誤算だ。
俺が一人ニマニマしていると、女子たちのキャッキャウフフな声が聞こえてくる。
「わぁ~~すごいですぅ~~」
「綺麗ですね~~」
「このデザインかわいいです!」
どうやら、王城から持って来たドレスや宝石類を整理しているようだ。
メイドのリアナが言うには、とにかく馬車に詰め込められるだけの荷物を持ってきたそうな。
「ふふ、ラーナも着てみます?」
「ええっ、いいの? アイリア」
「もちろんですわ。遠慮は不要でしてよ。ユリカたちもよろしければお試しあれ」
「やった~~どれにしようかなぁ~~」
「いいんですか! 凄い、ええぇ迷っちゃいますね」
どうやら今からドレスの試着大会がはじまるようだな。
ちなみに先住組も押しかけ王女組も、フランクな話し方に変わっている。アイリアが王女としての扱いはいらないと、みんなにお願いしたそうだ。
ま、先も後も些細なことだ。
彼女たちも王族としてではなく、一般人として生きていくのだから。
あとはやりたいことを見つけて、好きなことをしてくれればそれでいい。
いいんだが―――
「ちょっと待ちなさい。君たち」
「どうしたんですか、クレイさん?」
どうしたんですか、じゃないよ。
「なぜここで脱ぐ?」
「だって、ここにドレスがあるからですよ」
なんだその、ここに山があるから登るみたいな答えは。
「俺は男なんだぞ。ちゃんと別部屋で着替えてくれ」
「「「「「は~~い……」」」」」
若干不満気な顔をしながらも、ゾロゾロとリビングを出ていく美少女たち。
この子たちに恥じらいというものはないのだろうか。
毎日同じベッドで寝ているので、もはやいまさら感は無きにしもあらずだが、最低限寝間着はきているし、男女のアレコレはしていないからな。
ここはポーション屋敷であって、ハレンチ屋敷ではない。
「ふぅ……さてと。素材整理を再開するか」
「キャンキャン!」
「よしよし」
フェルを撫でてやる。はじめは俺の事を警戒していたようだが、今ではこの通りの懐きぶりだ。
「あ、そうだ! 今日も生えているかなぁ~~♪ むふふ♪」
「キャ、キャン!?」
俺の声を聞いた瞬間、ビクっと体を震わし喜びの声をあげるフェル。そうかそうかフェルもお楽しみなのかぁ~
ずいぶんとフェル語も分かるようになってきたぞ。
「さあ~~きれいきれいしてあげるからなぁ~」
後ずさるフェル。子供が遠慮するんじゃないよ。
喜びでバタつくフェルをガシっと抱き上げて、モフモフをじっくりとかきわける。
―――おお!
モフモフの間から、にょきっとなんか出てるではないか。
「でかした! 素材を生やしたか!」
しかもスキンマッシュルームとは違うキノコじゃないか!
これは……デトックスマッシュルームか。
たしか体内の不純物を外に出す効果がある。いわゆる下剤みたいなもんだ。
これは結構なレア素材だぞ。
よく探すと何個か生えてるので、ブチブチと取ってやる。
いやぁ~~ほんと凄いなぁフェルは。
俺がフェルとキャンキャン戯れていると、リビングのドアがバタンと開いた。
「ああぁ~~クレイさん、またフェルちゃんのブチってむしってるぅ! もっと優しくですよぉ」
「すまんすまん、新種が生えてたんでついな」
「クゥ~~ン」
しまった。興奮しすぎたのか少し乱暴に取ってしまったようだ。
「悪かったよ、フェル。これでも飲んで機嫌をなおしてくれ」
ポーチから【|ポーション(静寂の吐息)《リラックスブレス》】を出すと、フェルは尻尾を振ってペロペロと飲み始めた。
うむ、可愛いやつだ。
「ところでどうですかクレイさん。ほらぁ~~」
ラーナがドレス姿でくるりと回ってみせる。
「お、着替えてきたのか」
「そうですよぉ~ふふ~~♪」
ご機嫌じゃないか。
ラーナに続いて、ユリカにリタもドレスを着用して登場して来た。
さらに後ろには、エトラシアも。なんか「わ、ワタシはいんだ……ううぅ……」とか言っているが似合っている。
「素晴らしいな」
「やた! クレイさんに褒められた」
「いいよ、これはいい」
「このドレス、けっこう胸元があいてて、着こなせるか不安だったんだけど良かったぁ~」
「くぅ~~たまらんな」
「ええっ! クレイさんがついに女の子に目覚めた!?」
「この形。このつや。かなりの上等品だぞ」
「……クレイさん、どこ見て言ってます?」
「え? キノコだけど。見てくれよラーナ、これ新種だぞ!」
「はぁ……」
「ダメだよラーナ。そんなすぐには変わらないよ。人って」
「そうです! ご主人様はそれでいいです!」
「わ、ワタシのドレスは見なくていいぞ……!」
いや、ドレス姿はちゃんと見たぞ。みんなかわいい。
それはもう終わって、今は素材の時間なんだが?
そこへアイリアたちもリビングに入って来た。
「ふふふ、やはりお兄様は一筋縄ではいきませんわね」
「ん……クレイおにい通常運転」
「……スゥスゥスゥ」
妹たちからも何やら言われているが、まあ気にしない。
ちなみにライムは入って来るなり俺の腕の中に入って、即熟睡タイム。
「ライムちゃんて、本当によく寝ますねぇ~」
ラーナがライムの寝顔を覗き込みながら言う
「ああ、この子はちょっと特殊だからな」
「え? ちっちゃい子だから良く寝るとかじゃなくて?」
「ああ……この子はな」
俺が話を続けようとした時、ドンドンと玄関の扉を叩く音が響いた。
「なんだ? 客かな? 今日は休みんだがな」
メイドのリアナが様子を見に行くと、すぐに戻って来た。
うしろにおっさんの影がついてきている。なんかハァハァと肩で息をしているようだが。
「マットイさんか? ポーションでも切らしたのか?」
「く、く、クレイ殿……い、一大事ですぞ!」
「どうしたんだ、そんなに焦って?」
乱れた呼吸を整えつつ、話を続けるマットイさん。
「て、敵が……フロンドを取り囲んでますぞ!」
え? なにそれ?
「敵ってなんだ? まさか兄貴じゃないだろうな……」
「違いますクレイ様。さきほど外を確認しましたが、遠方に見えたあの旗は神聖国のものかと。おそらくは教会騎士団です」
リアナが説明を付け加えた。
にしても、神聖国だと……?
「ふぇ……く、クレイさん……」
てことは、ラーナ絡みってことか。
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