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第51話 聖女ラーナのお楽しみ

「これくださ~い」

「あら、ラーナちゃん今日もかわいいねぇ、はいおまけだよ」

「わぁ~い、ありがとうおばちゃん♪」


 鮮やかな青い髪をふわりと揺らしながら、商店街の人たちと談笑する聖女。


 フロンドの商店街にて、俺はラーナの買い出しに付き合っていた。

 というか連れ出された。


 クレイさんもたまには外に出ないとダメです。だそうだ。


 にしてもこの商店街も、以前よりずいぶん活気が出てきたな。


 数カ月前に来た商人ラズアンも、定期的にこのフロンドへ来るようになった。

 彼は俺との取引もするが、商店街にも商品を置いていく。そして他の個人商人たちも結構な品をこの商店街に卸しはじめたのだ。


 だから俺たちが来た頃とは違って、店の品揃えもかなり良くなっている。


「楽しそうだな」

「ふふ、みんないい人だし。お話するの楽しいですよ」


「そういうもんか」


「そうですよ~クレイさんも、もっと外に出ないと」

「いや、俺もちょくちょく外出してるぞ。魔の森とか、魔の山とか」


「そういうことじゃなくって……はぁ……」


 え? 違うのか?

 素材探し以外に、外出する用はないんだが。


「あ、ラーナちゃん。例のもの入荷したよ~」


 なぜか溜息を吐くラーナに、向かいの雑貨店から声がかかる。


「ええぇ、本当ですか! やった!」


 一転、ウキウキのスキップでお店に向かうラーナ。例のものってなんだ?


 店舗で一連のやり取りを終えて、ホクホクの笑顔で小さめの袋を2つ、俺に見せるラーナ。


「ああ、お菓子か」


「はい、そうですよ~これ王都でも流行ってるんらしいです~すっごく美味しいんですよ」


 袋から取り出した、粒をひとつ俺の口に入れるラーナ。


「お、これはうまいな……」


 アーモンドに小粒の砂糖がコーティングされているようだが、たしかに良い。

 なるほど、ラーナは甘いものには目がないからな。


「むふふ~~クレイさん。実は流行っている理由はこのお菓子だけじゃないんですぅ」


 そう言いつつ、興奮気味に袋の中をいじるラーナ。


「じゃ~~ん。これです!」


 なにやら紙で包装されたペラペラがでてきた。


「この包をあけるとぉ~~」


 ドキドキした面持ちで、包をあけるラーナ。


「これが出てくるんですぅ~~」


 カードぽいものを自慢げに俺に見せる聖女さま。


 ほう……どうやらお菓子のおまけ的なもののようだ。

 カードには人の絵が描かれている。


「ああっ! やった、S級のレアカードですよぉ♪」


 いいやつが出たらしい。


「ライムさまだっ、ちょっとムスっとしたバージョンだぁ~かわいい~~」


 んん? ライム??


「お、おい。それ……」


 俺はラーナからカードを見せてもらう。


 カードには小さなドレス姿の女の子が描かれていた。

 うむ、第10王女だ。



 ていうか、俺の妹じゃねぇか!!



「あそっか~クレイさんの妹さんでしたね。わぁ~いいなぁ~実物もかわいいんだろなぁ」


「ああ……そうだが」


 ラーナが言うには、このお菓子のおまけカードには、王国の著名人が描かれているらしい。

 そして、王族もそのほとんどがカード化しているとのこと。


「よくこんなの許可したな……」


「まえに新聞にものってましたよ。王家が公認しているお菓子が大流行って」


 包を見ると、たしかに大手の商会名がある。

 王家とのつながりも深い商会だ。


「えっと……発案者はたしかカルビン第2王子さまだったかな?」


 ああぁ、あの兄か……


 俺を追放した兄のことだ。使用料とかいって、間違いなく中間マージンを抜いているだろう。


 まあ、俺には関係のない事だが。


 カードの脇には、いくつかの番号や記号がふられている。

 どうやらこれでカードバトルも出来るらしい。

 この数値や記号は、カードのパラメーター(ゲーム上のステータス)のようだな。


「うふふ~~あとでユリカちゃんに自慢しようっと♪」


 ユリカもカード友らしい。2個買ってたのは彼女の分か。

 ラーナはお菓子そっちのけで、バインダーのようなものを取り出してカードを収納している。


 うむ、ほとんどカード目的だな。


 絵も綺麗だし。ゲームとしても遊べる。

 この娯楽の少ない異世界で、人気が出るのもうなずける。


 これはたしかにハマるかもな。

 気持ちは良く分かる。

 俺も前世で、ウエハースチョコについてたシールを夢中で集めていた時期があるし。


「しかし随分と集めてるんだな」


「はい、お小遣いをなんとかやりくりして集めてるんです!」

「なあ……金ならもう少しぐらい使っても……」


 ラーナたちは、小遣いを決めて律儀に使っている。


 ぶっちゃけ、ポーション屋敷の売り上げはけっこうなもののはず。

 経理はユリカに任せているから、実際のところは良く分からんけど。


「ダメです! 今は良くても必ずピンチがきます! そのときにお金無かったらどうするんですか!」


 教会暮らしが長かったからか、なんかお金に関しては厳しいんだよな。この聖女。

 まあ、ラーナの言う事も一理あるか。


「わかった。ラーナがそう言うなら、今後もやりくりして楽しんでくれ」


「はい、クレイさん。あ、そうだカルビン王子もありますよ~ほら」


 うわぁ……あいつめちゃくちゃ顔面補正かけてんじゃねぇか。もうこれ別人物だぞ……


「これはSS級カードで、めったに出ないんですよぉ」


 SS級か……全ての数値がデカい。

 たぶん最強カードじゃねぇのか、これ。

 兄の事だ。ゲームバランス無視してこのステータスを無理矢理ねじ込んだな。


「てことは一番のレアカードは手に入れているってことか」

「このカードは、バトルで使いませんよぉ」


 なんで?


「だって、顔が綺麗すぎでウソっぽくてなんかキモいし。クレイさん追放した人だし。だからキモ王子は使いませんよぉ」


 おいクソ兄。あんたの顔も知らない美少女に補正バレてんぞ。


「でも……私が狙っているカードはまだ手に入れてないんです。SSS級のカードですよ」


「へぇ、そんなレアカードがあるんか。」


「はい! クレイさんですっ!!」


「いや、そのカードはないだろ。絶対」


「なんでですかぁああ! やだやだ、クレイさんゲットするぅうう!」


 気持ちは嬉しいが、まあそれはないな。

 あのクソ兄が、俺のカード作成許可を出すわけがない。


「クレイさん~~運をあげるポーション作ってくださいぃ~~それでクレイさんをひく~~」


 んなもんあるかい!


 いや……待てよ。


 商人のラズアンからはじめて貰ったレア素材。


 たしか―――



「ラックの実」だったよな……



「ああぁ! クレイさんがワクワク顔してる~~ってことは」


 そうだ、ラーナ。


 さあ、ポーション作りの時間だ。



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