第49話 隊長たちと大司教
◇黒服隊長視点◇
神聖国大教会、大司教のとある部屋にて。
「そうですか。聖女ラーナは、連れてこれなかったですか」
「はい……父様。……面目次第もありません」
「う~~ん、残念です」
白髭をさわりながら、静かな吐息とともに目を閉じる初老の男性。
我らが家長のダムロス大司教である。
聖女ラーナの確保指示を出したのも、父様であるダムロス大司教だ。
我らは神聖国の大教会、ダムロス大司教直属の影の部隊である。
構成員の大部分は孤児や元奴隷であり。幼少期に父様によって教会に保護された者たちだ。
我らは大司教の事を「父様」と呼び。大司教は我々を「子」と呼ぶ。
そして父様の子供の中から、戦闘や魔法、情報収集に優れたものが選抜されて出来上がった組織が、我々である。
我らはダムロス大司教の影だ。表向きの教会は信仰と慈悲を掲げた清廉な組織だが、その裏で動いているのが我らのような「汚れ仕事専門」の人間である。教会を維持するには、綺麗事だけじゃ世の中は回らない。我らはその「回らない部分」を担当する。それが与えられた役割。
父様に保護されなければ、我らは誰も生きてはいなかった。仮に生きたとしても待っていたのは地獄だ。
そんな場所から救ってくれたのが、父様。
大恩ある父様のために動くことのみが、我らの人生だ。
「と、父様。も、申し訳ございません……た、隊長は頑張ったんです! でも相手が意味不明なやつで」
「タイラー、いい訳をするな!」
「で、でも。わたしが余計なことを言ったから。魔道具:重複付与のことも、しゃべっちゃったし」
「いいから、おまえは少し黙っていろ」
俺の隣で必死に父様に言い訳をする少女。
この子、タイラーも孤児である。
人さらいにさらわれたのち、好色貴族のおもちゃにされていたところを父様をはじめとする我らに助け出された。
魔力量が人より多く、魔法の覚えも良かったので、この影に所属した。
私は父様に簡潔に報告をした。2度の襲撃の失敗について。
「なるほど、5人の子らのみならず、魔道具、人造魔剣をも打ち負かすとは……」
「父様、今回の失敗は隊長である私の責任。処分は私のみにして頂きたく」
「た、隊長! そんなこと……!」
「タイラー、黙れと言うのがわからんのか」
「だ、だって……ムグっ……!」
私はタイラーの口を塞ぎ、ふたたび父様に視線を向ける。
今までも細かな失敗はたまにあった。が……今回のは違う。
明らかな失敗。聖女ラーナがここにいない。100%の失敗だ。ここまで大きな失敗は初めてだ。
「全員を処分するのは得策ではないかと。私ひとりの処分で、残りは再び任務に戻すことが理に叶っております」
父様の白髭がピクリと動く。
そしてその堀の深い頬が、少し上がった。
「処分? なぜです? そんなことで、わたしの大事な子らを処分などするはずがないでしょう」
「父様……」
「そうですよ。あなたたちは裏の仕事を今まで存分にやってきてくれました。誰もやりたがらない仕事をです」
「しかし、今回2度にわたり失敗を……」
「いえいえ、いいんですよ。ひとは間違えますからね」
父は許すというのか。我らを。
「とはいえ聖女ラーナはわたしの教えを広めるうえで、必要不可欠な存在。ここで諦めるわけにはいかないですねぇ」
ここまで父様が、聖女ラーナに固執する理由。
あの聖女は聖水を生み出すことができる。それも教会のどの神官よりも高純度な「神青の聖水」だ。
聖水としての効果と金銭価値はとてつもなく高い。
それを半永久的に生み出せるのだ。
教会の資金源や、他国の王族貴族たちとのパイプ強化に使うのだろう。
父様の最終目的はすべての国家統一。そして、子らに平等を。
その偉業を成すためには、ありとあらゆる手段を使わなければならない。
我らもその崇高な事業の一翼を担っている。
「父様の寛大な処置に感謝します。では、我らは再び動きます」
なんとしても聖女ラーナを確保しなけばならない。
今度こそしくじらない作戦を……
「ええ、もちろんですが、少しお待ちなさい。次は父も動きますのでね 」
「な……父様は表舞台の人。裏は我らが……!」
「ええ、もちろん無茶はしません」
ぐっ……この人を動かしてしまった。
が、父様の命令は絶対。やむを得ん。
「ふふ、そんな難しい顔をしなくていいのですよ、わが子らよ。指示は追って出しますので」
「分かりました……父様」
「あ、そうでした。あなたたちに行ってもらいたい場所があります」
父様であるダムロス大司教から、一枚の地図を渡される。
「これは? ガザンの山岳ダンジョンですか?」
「ええ、太古より存在する古いダンジョンです。ここにあるエリクサーを見つけてきてください」
「エリクサー? 父様であれば持っているのでは?」
「ふふ~~人の手で作られた普通のエリクサーではありません」
父様の口角がわずかに上がる。
「神々の作った伝説のエリクサー。バトルエリクサーです」
「伝説のエリクサーですか。しかし実際に存在するのでしょうか?」
「そう伝説のエリクサーです。とある情報筋から偶然聞いたのですよ。存在する可能性はかなり高いでしょうね」
「承知しました。必ずや手に入れましょう」
「頼みましたよ、愛しい子らよ。では父も準備を始めるとしましょう」
部屋を出た我々は各自の出立準備に取り掛かる。
「隊長~伝説のエリクサーなんて本当にあるのかなぁ」
「口を慎めタイラー、父様の指令は絶対だ。我らはその手足となることだけを考えろ」
「はぁ~~い……隊長」
まったく、ムラの多いやつだ。
まだ幼いというのもあるが、このダンジョンでもう少し鍛えてやるとするか。
◇◇◇
◇ダムロス大司教視点◇
隊長たちが退出してから、私はある施設の地下室にきていた。
他の教会の者たちは知らない場所。さきほどの隊長たちですら知らない。
「ふぅ~~聖女確保は失敗でしたかぁ~~ねぇ?」
「ぐげっ……」
私の足元から心地よい声が聞こえる。
床に転がる肉片に、注射針を打ち込んだからだろう。
「ああ……良い声ですねぇ」
「うあっ……うあっ……ああぁああ」
「いいぃ~いいですよぉ」
肉片が痙攣して床をのたうち回っている。
クスリを注入したからだ。
パンパンと手を叩くと、奥から人が出てきて肉片を回収する。
「1日まえに打った人形はどうなりました?」
「は、戦闘力はかなりの上昇を見せましたが、約1時間後に破裂粉砕しました」
「う~~ん高位の神官が作った上級聖水ベースのクスリでも1時間ですか。やはり肉体維持が課題ですねぇ」
ふぅ……あとちょっとなんですけどねぇ。
「わかりました。引き続き研究を進めてください」
「はっ……ところで例の聖水は?」
「ああ、それは今しばらく待ってもらえますか。必ず入手しますのでねぇ」
そういうと、人はスッと奥に下がっていった。
聖女ラーナ……まったくどれだけお転婆なんですかねぇ。
ケラル大司教。彼が先に「神青の聖水」をだせる聖女ラーナを見つけてしまったのがマズかった。
これだけ情報に金をかけているというのに。足元の教会に見落としがあったとはねぇ。
彼がラーナを聖女認定してまったから。うかつに手が出せなくなってしまったんですよぉ。
ケラル大司教は、クソがつくほどの真面目ですからねぇ。
だから彼には天国に行ってもらいましたよ。聖女ラーナを手に入れるために。
わざわざ聖女に罪をかぶせて、表向きは追放して。
あとは攫って、こちらの施設に監禁すれば万事めでたしだったのですが。
追放された殺人聖女のことなど、誰も気にかけませんからねぇ。
ここまで面倒な事をしたのですが、元第7王子でしたか……傍にうっとしいハエがいるようですね。
あの手練れの隊長たちを退けるとは、想定外でしたよ。
ふぅ……
「わたしの人形作りの邪魔をしないで欲しいですねぇ」
隊長たちはわたしが聖女ラーナに固執する理由を資金確保と見ているようでが、違うんですねぇ。
聖女ラーナの「神青の聖水」さえ手に入れば、わたしのクスリは完成する。
このクスリで全ての人間をわたしの忠実なる兵隊、強化人間にすることができるんですよぉ。
現状のクスリ制限時間を大きく超えて、わたしのために動く人形たちを。
もともと国なんて、なくていいんですよねぇ。
すべての人間はわたしの愛しい子なんですよぉ。
勝手にほうぼうで国なんか作っちゃって。
そんな教えは間違いですからねぇ。
ひとつの家族にしてあげますからぁ。平等にねぇ。
だから、わたしが動いてあげるんですよぉ……クフフ。
あと、バトルエリクサーでしたか。
あると嬉しいですねぇ。クスリをさらに強化できるかもしれないですねぇ。
隊長たちは、処分されるのを覚悟していたようですが。
するわけないじゃないですかぁ。
処分だなんて、我が子を手にかける親がどこにいるんですか。
あの子たちは元々戦闘に秀でた素質をもつ子たち。わざわざ盗賊野盗どもに金を払って、邪魔な親どもを始末して孤児に仕立て上げたんですよ。
凄まじくまわりくどいですが、わたしへの忠誠は絶大ですからねぇ。
それをわたしが保護したんですからねぇ。将来性のある子たちの情報を得るのだって金がかかってます。つまり元手がかかってるんですよぉ
だからね……
最後まで働くんですよ。
親であるわたしの為に動かなくなるまでね……あの子たちも、この国の子たちも……それが家族ですからぁ。
さて、聖女ラーナがいるのはフロンドでしたね。
まあいいでしょう。完成前とはいえ、クスリの試運転もしちゃいますかねぇ。
そしてあの子は是非ともわたしの手に……グフフ。




