第44話 フロンドの住民たちは、もっとポーションが飲みたいらしい
ん? 朝か……??
俺が目を開けると、知らない天井だった。
いや、知ってる天井だな。
にしてもこんなだったかなぁ?
「ああ~クレイさんおきたぁ~~」
「ご主人様、おはようございますです!」
「おお、クレイ殿。おはよう」
「クレイ様、寝起きのお顔も素敵です」
「キャンキャン!」
美少女4人と1匹が、俺の顔を覗き込んでいるじゃないか。
ここは俺の屋敷だった。
黒服の隊長をぶっ飛ばしてから、俺もぶっ倒れたらしい。
そして、俺はそのままポーション屋敷に運ばれて、一晩ずっと寝ていたとのことだ。
ちなみに黒服たち5人は逃げたらしい。
タイナーという女が、再び緊急脱出魔法で黒服仲間全員を吹っ飛ばしたようだ。
まあ隊長とやらが、あれで無事なのかは知らんけど。
てことで、知ってる天井だった。
2泊3日の外出が濃厚すぎて、ちょっと忘れてしまっていたようだ。
「みんな、すまなかったな。重かっただろ」
「そんなことないですよ~~森の中はフェルちゃんが背中に乗せてくれて~そのあとはエトラシアさんがおぶってくれましたし」
「そうなのか? 悪かったなエトラシア、フェル」
「キャンキャン♪」
「何を言う。クレイ殿はワタシたち姉妹の命の恩人だから。当然のことをしたまでだ。それに……つねにクレイ殿と密着してラッキ……じゃなくて……えと、その……いい鍛錬になったから」
エトラシアが赤面しているのは良く分からんが、俺はベッドから降りて改めてみんなに礼を言った。
「くあっ……。体がゴリゴリする……寝すぎたからか」
「クレイさん、いきなり起きちゃって大丈夫なんですか?」
「ああ、ラーナ。もう元気だぞ」
ぐっと伸びを数回して、大あくびを放つ。
どうやら完全に体力は回復しているようだ。
「さて……では」
「じゃあ行きましょうクレイさん」
「クレイ様、準備はできていますよ」
そう、朝起きてやることと言えばひとつしかない。
「ポーション作るかぁ~~」
「違いますよ!? 朝ごはんですからね!」
起きて早々にラーナに突っ込まれた。
そっかぁ……違うのか。
いつもの彼女だな。
なんかいつもの風景が戻ってきたみたいで、少しばかり俺の身体が軽くなった気がする。
「なら朝飯にするか」
笑顔で頷き、バラバラと下のリビングに降り始める美少女たち。
さて、俺も行くか。
上着を羽織ろうとすると……背中に何か柔らかいものがひっついてきた。
「どうした? ラーナ」
背中に引っ付いたまま無言の聖女。
俺の腰から伸びた手に、キュッと力が入る。
「また無理させちゃった……」
ボソっと後ろから呟くラーナ。
いつもの底抜けた明るい言葉とは全く違って、酷く弱々しい声。
「まあ、気にするな。俺がやりたくてやったことだ」
「知ってるもん、クレイさんならそう言うもん……」
腰に回された腕がより強くなる。
それからしばらくの間、2人とも黙ったまま。
ただ、お互いの存在だけを感じている時間がすぎる。
うっ……いかん。
「なあ、ラーナ」
「なんですか、クレイさん」
「これ、あとどんぐらい続く?」
いや、別に嫌ではないが背中にマシュマロ2つが引っ付きすぎて、流石に男としてマズイことになりそうなのだ。
「フフッ……クレイさん、もしかして興奮してるんですか?」
変な汗がではじめたところで、ラーナが背中越しに悪戯っぽい口調で言う。
「ええぇ……まあ……そりゃそうだろ」
「よかったぁ~~」
なにが? 俺はもう良くない状態なんだが。
「クレイさんも男の子なんだってことが、わかりました」
「そ、そうか……じゃ、そろそろ」
「ダメです! これは頑張ってくれたクレイさんへのご褒美なので、もうしばらく続きます」
どうやら離してくれないらしい。
「ラーナ。たしかに無理はしたが、この通り無事だぞ」
「じゃあ約束してください。これからも無事でいるって。無茶苦茶しないって」
「お、おう……もちろんだ」
「フフ、言いましたね。絶対ですからね♪」
いつものラーナに戻ったようだ。
では朝飯に行くかと動こうとしたが――――――ギュッ!!
……ダメだった。
それからしばらくの間、俺は聖女からご褒美をもらい続けるのであった。
◇◇◇
朝食もおえて、久しぶりに開店したポーション屋敷。
店内は多くのフロンド住人で溢れていた。
どうやら開店を待っていたらしい。
「クレイ殿下、無事に戻って頂き良かったですぞ」
「クレイの兄貴! アイスオークをぶっ倒したんだって? やっぱ兄貴はすげぇな!」
「お兄ちゃん、コホコホのポーション」
口々にしゃべりまくる住民たち。
「よし、みんなちょっと聞いてくれ。伝えておくことがある。」
俺の言葉に、ざわついていたみんなの視線が集まる。
「瘴気の元は俺たちが治療した」
「「「「「……??」」」」」
「つまり、今後町に瘴気はでないぞ」
「「「「「ええええぇええ……!!」」」」」
住民たちのテンションがだだ下がりした。
なんで?
ずっとこの町の懸念事項であった瘴気問題が、解決されたんだぞ。
「もうあのポーション飲めねぇのかよ~」
「おれ、毎朝楽しみにしてたのにぃ」
「ああ~神よ、わたしはなにを糧に生きていけばいいのでしょう!」
「コホコホのポーション……ないんだ……クスン」
なぜか住民たちが、微妙な声をあげはじめた。
「たしかに……クレイさんのポーションは止まらないですからねぇ~」
「わかるです!」
「クレイ殿、これはあまりに酷ではないのか?」
「クレイ様、せめて住民のみなさんにお慈悲を」
ラーナたちまで何を言っているんだ?
こいつら効果うんぬんのまえに、依存症かなにかにかかっているのか?
「良く分からんが、みんなはポーションが飲みたいという事なのか?」
「「「「「はい!!」」」」」
めっちゃ元気のよい返事が来た。
にしても飲みたいのか。
なるほどなるほど、そういうことか。
グフフ……
「あ、クレイさんの悪い顔でた!」
ラーナがするどく指摘してきたが、ムフフ。
「何を言ってるんだラーナ。これはみんなの総意だぞ」
「ええぇ……クレイさんちょっと勘違いしてると思うけど……」
勘違い? それは違うな聖女さまよ。
みんなに聞いてみればわかることだ。
「いいだろう、瘴気のポーションは必要なくなったが、うちはポーション屋だ」
「「「「「うんうん」」」」」
「主力商品である回復ポーションのほかにも、ラインナップを増やそうじゃないか!」
「「「「「おおぉ……」」」」」
「作ったら飲むか!」
「「「「「うおぉ……」」」」」」
「飲んで飲んで飲みまくるか!」
「「「「「―――うおおおぉ!!」」」」」」
すげぇ、ほぼ満場一致で同意が得られた。
「いえ~~ぃ!」
「クレイ! クレイ! クレイ!」
そこらじゅうではじまるクレイコール。
「ほらな、ラーナ。みんな俺の大事な実験台……じゃなくて仲間なんだよ。みんなのためにもポーション作りまくらないとな」
「ふ~~ん。ソウデスネ」
ジト目でセリフ棒読み聖女が、ふぅっと一息漏らした後に、その表情を変えて言葉を紡いだ。
「クレイさんのポーションは、みんなを笑顔にするから私も賛成ですよ」
「ムフ、ラーナもわかってくれたか」
「でも……やりすぎはメッですからね」
「ああ、もちろんだ」
というわけで、屋敷に戻っても俺のポーション作りは止まらないのであった。




