第43話 電撃の戦闘ポーション
「な、なんだそれは! 貴様なにをした!」
黒服の隊長が驚きの声をあげる。
「なにって、見りゃわかるだろ。ポーションを作ったんだよ」
「ば……馬鹿な! 設備も何もないその場でポーションを作成するなど……あり得ん!」
まあ女神さまから貰ったスキルだからな。
そりゃ、驚くのも仕方ないか。
「ぬぅ……だが、いかなるポーションを作ろうが無意味だ! 魔道具:重複付与でデバフ魔法を再度かければいいだけのこと!」
それはどうかな―――
「【戦闘ポーション(戦闘雷属性付与)《バトルサンダーブースター》】発動! 体内蓄電開始だ!」
瞬間、俺の全身を貫く稲妻のような衝撃。体力が電力に変換されて、体の隅々に広がっていく。皮膚の下で電流が流れる感覚にグッと拳を握りしめた。
「きたきたぁ!」
指先からビリビリとした感触が広がり、視界の端で青白い火花が弾ける。
「―――どれ」
試しに軽く腕を振る。
すると、バリっと空気を裂くような放電音が響いた。
「うっし、上々だ! さあ……いこーか」
「なにをやろうが無駄だと言ってるのが、わからんのか!」
隊長の鋭い斬撃を剣で受ける。
「ぐっ――――――!?」
途端に火花が走り、隊長は咄嗟に後方に飛ぶ。
「な、なんだ……これは……雷撃?」
そうだよ。
「俺の作った【戦闘ポーション(戦闘雷属性付与)《バトルサンダーブースター》】は雷属性付与効果がある。つまり今の俺は―――」
体中にめぐった電気を再度腹の奥底に溜め込んで。
「電気人間なんだよ――――――放電、開始ぃいい!!」
俺の体から幾重もの電撃が放出されて、隊長たちを襲う。
「グハァアア!」
「キャァアア!」
隊長ともう一人の黒服に雷撃が直撃した。
まさか俺から雷が出るとは予想出来なかったのか、回避防御行動が間に合わなかったのだ。
「ぐぬううう……なぜ貴様が雷撃魔法を……?」
「いたたぁ……た、隊長……魔道具が破損!」
「な、なんだと!!」
そりゃそんな精密魔道具が、雷の直撃を喰らえばぶっ壊れるだろう。
それになぁ……
いっぱしのポーション作りとしては、下げる力ってなんか気に入らんのよ。
やっぱポーションってのは、アゲてなんぼだろう。
にしても電撃を直撃しても意識を失わないとは、さすがだなこいつら。
「さて、これでバフもデバフも重ねられなくなったな」
「馬鹿な! やつに魔力はないはず! タイナー!」
「は、はい隊長、――――――魔力測定!」
タイナーと言われた黒服が、俺の魔力量を計測する。
「た、隊長。あいつの魔力量はゼロです!」
「あり得ん! 魔力なしに雷撃魔法を発動させるだと……しかも通常の魔法とは異なる雷撃だぞ!」
それ前にも言っただろ。
「例え身体強化は出来たとしても、ポーションで魔力を付けるなんてことはできんはずだ」
そうだな、魔力は元より個人個人の許容量がある。
それを超えて魔力を与えることはできない。
つまり元々魔力がゼロの俺は、どうあがいても魔力は付与できない理屈だ。
「ところがどっこい俺のポーションはな
――――――体力を付与属性に転換することができるんだよっ」
再び雷撃を放つ俺。
黒服2人は、魔法防壁を前面に展開して攻撃を防ごうとするが……
「グハァアア……! この雷撃……攻撃範囲が広い!!」
俺の電撃は、黒服が展開した魔法防壁を覆い囲むように襲い掛かる。
「その通りだ、俺のは通常の雷撃魔法とはちがうんでね」
体内に蓄電した電力を放電することで攻撃しているのだが、出力と放電箇所を調整することで、攻撃範囲をある程度変えることが出来る。
さっきのは体全体から放電したので、広範囲に電撃が走ったというわけだ。
「おのれぇ……わけのわからんポーションを次々とだしよって……」
俺だって戦闘ポーションは好き好んで使っているわけではない。
何度も言ってるが、ポーションの本来の役目は回復だ。
だが……
「今は使うしかないからな。大事なラーナをおまえたちなんかにやらん!」
「ぬぅ……タイナー……俺から離れろ」
「えっ、隊長……まさか!」
「魔道具:重複付与がある故に使用は控えていたが、その必要は無くなった」
「でもぉ、それはまだ試作段階って、とおさまも言ってたじゃないですか!」
「馬鹿者! 余計な名前を出すな! 命令だ、早く離れろ!」
隊長はタイナーを突き飛ばすように離すと、背中に手を伸ばす。
なんだ、別の剣か?
「小僧、互いに体力は限界だろう」
隊長が引き抜いた剣が、怪しい光を放つ。
「ぬぅうううう―――」
魔力か……? 魔力を剣に注いでいる?
隊長の剣がバリバリと雷の火花を弾き始める。
「魔剣か……」
「フハハ……そうだ。これは人造魔剣だ」
人造……てことは人の手で作られたってことか。
魔剣ってのは昔から神々が作って、この地に落としたものとされているレアアイテムだ。
火の剣とか氷の剣とか、剣自体に魔力が宿っており、使用するとなにかしらの効果を発揮する。
「その剣自体に魔力はないが、流し込めるってわけか」
「その通りだ小僧! この剣には魔力を込めると雷撃効果を付与することができるのだ!
さあ人造魔剣よ――――――すべての魔力を喰らうがいいぃい!」
バリバリと音を立てる剣を手に、地を蹴る隊長。
「小僧ぉおお! 決着をつけるぞぉおおお!
――――――人造雷撃斬!!」
隊長の振るう剣が、雷鳴を轟かせて俺に襲い掛かってきた。
いいだろう。
おれの放電雷撃は広範囲攻撃も可能だが―――
一点集中もできるんだぜぇ!!
「剣に蓄電電力を最大集中!
出力最大――――――電撃閃雷斬!!」
瞬間、電撃と雷撃が激しくぶつかり戦場全体に火花が散った。
「グハッ……!」
隊長が呻き声を上げ、全身から煙を上げながら地面にズンと崩れ落ちた。
衝撃で土煙が舞い、その後しばしの静寂がその場を包む。
「ふぅ……」
俺は荒い息をつきながら剣を構えたまま、動かない敵を見つめて言う。
「―――終わりだな」




