第39話 黒服たちのデバフ魔法作戦
俺たちを取り囲む5人の黒服たち。
「ま~~たおまえたちか? 隠してたエロ本でも落としたのかよ」
「ようやく見つけたぞ」
「エロ本見つけたんなら帰れ」
「聖女は我々がいただく」
俺の挑発には一切乗らずにたんたんと話を進める黒服の一人。
この声は、たしか隊長と呼ばれていた奴だな。
「クレイ殿、こいつらはいったい?」
「エトラシア、こいつらは以前ラーナを襲ったやつらだ」
「ら、ラーナ殿を! それで聖女をどうのと言ってるんだな」
「おそらくはラーナの聖水が目的だ」
「くっ……この痴れ者どもめ! ラーナ殿の聖水は、人を助けるためにあるものだ!」
「ふん、知った事か。さあ、一度だけチャンスをやろう。おとなしく聖女をわたせば見逃してやる」
チャンスだと。殺気を抑えるのに必死なやつらが、なにほざいてやがる。
こいつら、余程ラーナが欲しいらしい。
「ああぁ……なんで……」
彼女の顔が青ざめる。唇が震え、足がすくんでいた。
目の前には、あの時彼女を襲った黒服たちが、嘲笑うように立っている。
ラーナの怯えた声。
たく、こいつから取柄の笑顔を奪うなよな。
俺は彼女の手をギュッと握り、はっきりとした口調で言葉を伝える。
「大丈夫だラーナ、俺がいる。だから安心しろ」
「う、うん。クレイさん」
無理矢理笑顔を作るラーナ。
俺は再び黒服達に、鋭い視線を向けた。
「―――おい、おっさん! しつこい美少女ストーカーは嫌われるぜ」
「ふむ、交渉は決裂のようだな」
5人の殺気が高まる。
というか抑えていた殺気が解放されたかんじだ。
「―――身体能力上昇!
―――物理防御力上昇!
―――魔法攻撃力上昇!」
他の黒服たちが、隊長に多種のバフ魔法をかける。
バフ魔法の使用は前と同じくだが、今回は隊長オンリーに全振りか。
「リタ! 防御に徹しろ! ラーナとユリカを守れ!」
「はいです! ご主人様!」
「エトラシア! 剣を抜け! 死ぬほど気合入れろ!」
「あ、ああ! クレイ殿!」
俺はポーチから戦闘ポーションを取り出し、一気に飲み干した。
抜刀して地を蹴り、敵のボスである隊長との距離を一気に縮める。
――――――速攻で隊長格を潰して、やつらの統制を崩す!
よし、あと少しで間合いに―――!?
くっ…………
身体の動きがおかしい!
俺の体が重い……さらに力が抜けていく感覚。五感全体が弱まっていくような。
素早く周辺を確認すると他の4人が連続で詠唱を続けている。
「―――身体能力減少!」
「―――物理攻撃力減少!」
「―――物理防御力減少!」
「―――物理速度力減少!」
デバフ魔法か……
「その通りだ! ぬぅっ!」
俺の眼前に鋼の刃が迫る。
隊長に斬り込んだ俺だったが、想定外の急激なパワーダウンで意表を突かれ初手を取られた。
ギンッと剣と剣が交差した。
「ぬぅ……あれだけのデバフ魔法を喰らってまだその力か」
意表を突かれて後手を取ったが、まだ俺の身体能力の方が上だ。
「なるほど、無策でくるとは思わなかったが。こんなプレゼントを用意してくれてたとはな」
「当然だ、我らに失敗は許されない。聖女は必ず頂く」
「かってに持っていこうとするな、極悪サンタが!」
剣のつばせりあいから、いったん離れる俺と隊長。
「―――総員、作戦を続行せよ! タイナーは魔道具発動!」
「はっ! 隊長!」
タイナーってたしか風魔法でっ撤退した時のやつか。この声……女か。
「ふん、なんだおまえ。わたしが女だからって舐めない方がいいぞ。それに隊長の作戦は完璧だ。どうあがいてもおまえに勝ち目なんかない」
「タイナー、余計な会話はするな!」
「は、はいっ! 隊長!」
「―――身体能力減少!」
「―――物理攻撃力減少!」
「―――物理防御力減少!」
「―――物理速度力減少!」
再び隊長以外の4人からデバフ魔法が放たれる。
連続使用かよ……
デバフ魔法自体が高度な魔法であり、ごく一部の人間しか使えない。
それを当然のように使用するこいつらは、やはり相当な手練れたちだ。
身体からさらに力が抜けていくのを感じる……が。
おかしいぞ。
デバフ魔法の効力は一回のみのはず。その身体に与える影響力は一度与えると一定期間発動し続ける。
重ね掛けしても、同じ魔法では効果は同じだ。
だが……あきらかに追加の効果が発動している。
「おまえさんの持つ魔道具か……」
俺はタイナーと呼ばれた女に視線を向けた。
「ふっふ~ん。そのとおりだ、この腐れポーション野郎が! 隊長が重複付与効果を発揮する貴重な精密魔道具である、【魔道具:重複付与】を準備してくれたんだ! どうだ、すごいだろう!」
めっちゃ丁寧に説明してくれた。
「タイナーぁあああ!!」
「ははぃ!」
めっちゃ隊長に怒られた。
にしても、デバフ効果を重ね掛け有効にする魔道具か。
厄介だな。
「―――ぬぅうううん!」
再び隊長の剣撃が俺を襲う。
くっ……
衝撃で後ろに足がさがる。
「ふっ、どうやら私の力が上回ってきたようだな」
隊長の口角がつり上がり、さらに斬撃を放ってきた。
くそっ……防御で手いっぱいだ。
「―――つあっ!!」
俺は後方に飛び、いったんその場から距離を取ってポーチに手を突っ込む。
取り出したのは戦闘ポーション。
「ほぅ……二本目か」
「そうだ」
俺は2本目の戦闘ポーションをグッと飲み干した。
再び俺の体内に力が湧き上がってくる。
隊長との距離を詰めて、圧倒し始めるが―――
「―――総員、作戦続行! 奴のポーション効果をおとすんだ!」
「―――身体能力減少!」
「―――物理攻撃力減少!」
「―――物理防御力減少!」
「―――物理速度力減少!」
ちっ……これじゃいたちごっこだ。
それに戦闘ポーションの連続使用で……くっ……
頭にズキッと痛みが走る。
「貴様のポーション。とんでもない威力を秘めているが、身体への負担も相当なものだろう?」
「俺の体の心配か? まさかまさかの男専門おっさんかよ」
「フハっ、強がるな小僧。おまえのポーションは使えば使う程、体を酷使する」
「変態プレイもOKおっさんってか。怖いねぇ」
「フッハハハ、減らず口を吐いている場合か? さあ~~何本までもつかなぁ!」
そうだな。正直なところ、あいつの言う通り何本も飲めば俺の体がいかれちまう。
でもな……俺は1人じゃないんだよ。
「フェル! 大好きなラーナの為に力を解放しろ! 黒服2人程度ならいけるよな!」
「キャンキャン!」
「リタ! 引き続きラーナとユリカを守れ! 守備の要だぞ!」
「ハイです! ご主人様!」
「最後にエトラシアぁ! 例のポーション飲んでおいて良かったな! さあ、騎士の力をみせろ! 黒服1人いけるか?」
「ああ、クレイ殿。言われるまでもない!」
そうだ、俺には頼れる仲間がいる。
ぼっちじゃないんだ。
無限にデバフ魔法を重ねがけ出来るってんなら、かける暇を与えなければいい。
そう、魔法を使う余裕を無くしてやる。
「さあ、俺の仲間は手強いぜ。覚悟しろよ」




