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第34話 魔物の森だろうがポーション作りは止められない

 さて、フェンリルのおでき(状態異常)を治すポーションを作るんだが。


「―――ギュウゥウ!」

「―――ギャルシャァー!」

「―――ジュグッルゥウ!」


 まずはこの伝説級の魔物たちを落ち着かせないとな。

 さっきのような攻撃を乱発されたら、即全滅だぞ。


 苦痛と苛立ちで荒ぶるフェンリルたちのなかから、ラーナの底抜けに明るい声が聞こえてきた。


「わぁ~い、フェルちゃん。クレイさんがポーション作ってくれますよ~♪」

「ガルゥ?」

「その痒いのとんでくやつですよ」

「ギュア?」


 フェルちゃん……もう名前つけちゃってるよ。


「ラーナ、その子フェンリルに周りの奴らを少しの間、大人しくさせてもらえないか?」


「は~い。フェルちゃん、できるかな?」

「グルゥウ……」

「そうなんだ~」

「キュン……」

「いいんだよ~できないこともあるからね」


 おい、もう完全に会話成立してないか?


 そしてどうやら無理なようだ。

 まあ理性を保てない程の痒みが体を駆け巡ってるようだから、そう簡単には落ち着けんか。


 よし、ならば……


 第一段階として興奮状態を抑えるポーション。

 第二段階で、おできを治すポーション。


 これでいくか。


「リタ! 大きめのうつわを作れるか?」

「ハイです、ご主人様!」


 元気な返事と共に、周辺に倒れていた木々を材料にさっそく器作りを開始するロリっ子ドワーフ。


 今回はフェンリルに作るポーションだ。

 瓶で飲めるかもわからんし、量が必要となる。


「ラーナ! 出番だぞ、ここに並べた瓶に聖水を入れてくれ。聖水はいつものやつでいい」

「は~いクレイさん、それ~~♪」


 聖女ラーナの手から聖水がドバドバ流れでる。

 俺が準備したありったけのカラ瓶に、聖水が次々とそそがれていく。


 今回は神青の聖水でなはなく、通常聖水を使う。

 なんと言ってもこれだけのデカいフェンリルたちに飲ますんだ。大量の聖水が必要となる。


「エトラシアとユリカは聖水の入った瓶を俺のところに持ってきてくれ」


 2人は頷くと、仕事にとりかかる。


 さて、これで下準備は整った。


 まずはフェンリルたちの興奮状態を抑えるポーションだな。


 俺はポーチに手を突っ込んで、素材を取り出す。


 ・月光草

 月光を浴びて成長する薬草だ。心を鎮める魔力を微量に含んでいる。


 ・スリープフラワー(眠り花)

 穏やかな眠りに誘う香りを放つ花。安眠を促す効果がある。


 ・聖水

 いわずもがな、聖女ラーナから生み出される上質の聖水だ。



「よし、これらを使って―――


【ポーション生成】!

 ――――――【ポーション(静寂の吐息)《リラックスブレス》】!」



 よし、完成だ。


「ふあぁ~これがイライラを抑えるポーションですか? クレイさん」

「そうだ。過剰な感情を整えて、できる限り冷静な思考を取り戻す効果がある」


 とはいえ精神関係のポーションは、使用者の感情を完全にコントロールすることは難しい。

 というかそんなことができると恐ろしいことになってしまう。

 あくまで補助程度の位置づけだな。


 てことで作りまくるぞぉ~~~


「【ポーション生成】!」

「【ポーション生成】!」

「【ポーション生成】!」


 ふぅ……こんなものか。


「リタ、うつわはできたか?」


「はいです。ご主人様!」


 木製の大きなボウルが俺の前に運ばれてきた。うむ、さすがリタだ。


「凄いぞリタ。この短時間で良く作った」

「えへへ~~です」


 人が数人ほど入れそうな大きさのボウルに満足した俺は、エトラシアとユリカを呼ぶ。

 ポーションを器に入れるのを手伝ってもらうためだ。


 大量に完成した【ポーション(静寂の吐息)《リラックスブレス》】が巨大ボウルに次々と注がれていく。


「よし、これでいいだろう」

「クレイ殿、これをどうするのだ?」


「それはな……ラーナ! その子フェンリルに器の水を飲んでくれと、周りのフェンリルに伝えてもらえるか」

「は~~い。お願いしてみますね。あと子フェンリルじゃなくて、フェルちゃんですよ~」


「お……おう。では、フェルにお願いしてくれ」


「フェルちゃ~ん。ゴニョゴニョ」

「ギャワギャワギュン」

「そっか、じゃあギュルしてキャンすればいいんじゃないかな?」

「ギュン! クンクン」


 ギュルしてキャンってなんだ……もはやラーナがフェンリル語みたいなの話しだしたぞ……

 とんでもないコミュ力だな。あの有名なこんにゃくでも食べてるんじゃないだろうな。


 とにもかくにも話はまとまったようで、フェルが器に顔を突っ込みゴクゴクとうまそうにポーションを飲み始めた。

 なるほど、まずは自分で飲んでみせるということか。


「ギャル……グルグルゥウウ!!」


 なんとなくだが、美味いって顔してる気がする。


「クレイさ~ん、フェルちゃんが「なにこれ!? 美味すぎるぅううう!」ですって」


 あ、やっぱそうなんだ。

 通訳ありがとなラーナ。


 初めは苛立ちと警戒心で近づかなかった周りのフェンリルたちが、一頭また一頭とフェルの突っ込んでいる器に頭を突っ込み始めた。


 フェルがあまりにガッついているからだろうか。


 警戒心より興味の方がまさったようだ。


「グルゥフシャァアアアア!」

「ギュルァアアアア!」


 よほど美味かったのだろうか。

 狂ったように器に頭を突っ込みだすフェンリルたち。


「ふわぁ~~やっぱりクレイさんのポーションは凄いです! フェンリルにも大人気ですよ~~」

「ああ、凄いな。クレイ殿のポーションに全てのフェンリルが群がっているぞ」

「ご主人様、これでフェンリルたちの注意をそらしたです!」

「クレイ様! 大盛況ですね!」


 いや……興奮状態を抑えるポーションなんだけど。


 逆により興奮してないか?


 若干納得のいかない結果だが、まあじきにポーションの効果が出てくるだろう。



 さて、リタの言う通りフェンリルたちの注意がそれているうちに……


 次のポーションを作るとするか。



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