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第33話 伝説の魔獣フェンリルのおでき

「ええぇ……ラーナ」


 いま、緊張感高まるシーンなんだが。


「ほら、おでき! あ、ここにもありますっ!」


 フサフサの白い毛をまくりあげて、おでんきをみんなに見せつけるラーナ。


 ……自由すぎるな、この聖女。


 さて、ラーナが強引に情報をブっ込んできたのが、たしかに何かしらの出来物がある。

 しかもフェンリルの体中にできているようだ。


 近寄ってもいいものかと思案していると。


 ――――――!? 


 周辺から複数の気配が近づいてくるっ……!


 ゴウッと突風のような風があたりに吹き荒れると、多数の影が現れた。


「―――ギュルルギュルゥ!」

「―――ギャルッギュッッ!」

「―――ギャギュッッグルゥ!」


「く、クレイ殿……こ、これは……」

「ご主人様、囲まれてるです!」


 気配を感じてからの接近が速すぎる……


「これ全部、フェンリルかよ」


 ラーナが巻き込まれているフェンリルよりも大きな個体を中心に、数十匹のフェンリルがいつのまにか俺たちを取り囲んでいた。


 こんな伝説級の魔物が複数現れるなんて、流石に想定外だぞ。


「ご主人様、真ん中のフェンリルの口が光っているです!」


 ぐっ……おいおい。


「みんな伏せろぉおおお!!」



「――――――ギャウワァァアア!!」



 一頭のフェンリルから放たれた光の束は、俺たちにではなく空に向かってぶっ放された。

 凄まじい轟音が空に上がっていき、周辺の雲が吹き飛ぶ。


「ひぃいい……く、クレイ殿ぉ……今のはなんだぁぁ」


 エトラシアが顔面蒼白でガクブルしている。

 いやこれはエトラシアだからとかいう問題ではなく、ほとんどの人が同じ反応をするだろう。


「疾風の閃光……フェンリルは風属性の魔法を使うことができる。あれはそれを凝縮して打ち出したものだ。もはや上級魔法とかそういうレベルではないがな」


「なんだぁそれぇ……無茶苦茶じゃないかぁ」


 俺も初めて見た。あんなものまともに喰らったらヤバいどころの話じゃない。

 上空に放ったにもかかわらず、周辺の木々が余波で倒れている。


 だが、なぜ上空に放ったんだ。


 威嚇のためか? それとも取り囲む仲間に当たるかもしれなかったから?


 威嚇など取り囲んだ時点で十分にできているし、仲間うんぬんも違う気がする。


「クレイ様、なんだか魔物たちの様子が変です。それにこのモヤはなんでしょう?」


 エトラシアの横で同じく顔を真っ青にしていたユリカが口を開く。


 ユリカの言う通りだ。

 フェンリルたちを見ていると、なにかがおかしい。


「―――ギュジュウゥウ!」

「―――ギャルシャァー!」

「―――ジュグッギュルゥウ!」


 苛立ちが滲み出たような唸り声、目の焦点も合っていない。


 そもそもフェンリルは知能が高い魔物のはずだ。

 だが、目の前にいる魔物たちは明らかに我を忘れたように涎を垂らしたり、無駄に身体を震わせたりしている。

 先程の疾風の閃光もなぜ放ったのかも良く分からん。


 しかもこのモヤは……


「ご主人様、このモヤって……もしかしてです?」


「ああ、そうだなリタ。これは瘴気だ」


 フェンリルたちから大量に吹き出ているモヤ。

 その正体は瘴気だ。


 これはとんでもない量だぞ。フェンリルたちがもつ強力な魔力がすべて瘴気と化しているってことか……?


「いったいどういう状況なんだ、クレイ殿」

「どうやらフロンドの瘴気の元はここにあるかもしれないぞ、エトラシア」

「そ、そうなのか!?」


 そうだな、俺もまさか魔物が瘴気を出しているとは思わなかったが。とにかく……


「まずは絡まってるラーナを助けるぞ!」

「ああ……ってラーナ殿! なにを……!?」



「ふふ~~ここですかぁ~ここがいいのかなぁ~」



 エトラシアが驚いたのも無理はない。

 ラーナがフェンリルの白い毛に潜り込んで、モゾモゾしていたからだ。


「おいラーナ! なにやってんだ!!」


「かいてあげてるんです~」


「かく? ってなんのことだ?」


「おできですよ~~」


 たしかによく見ると、ラーナはフェンリルのおできを優しくカリカリしている。まるで子犬をあやすように。

 いやいやいや、S級の魔物だぞ……



「クレイさ~~ん。大丈夫ですよ~この子はおできが痒くてたまらないみたいです~」



 ラーナが絡まっている小さめのフェンリルは、なんとも言えない表情でラーナのカリカリに身を委ねている。

 ぶっちゃけS級の魔物がする仕草ではない。


 マジかよ……この聖女とんでもないぞ。


 元々他者と仲良くなる素質はあるけど、今回は魔物だぞ。ていうかフェンリルだ。


「ガウギャウゥ」

「ふむふむ」

「ギュアギュン~」

「う~ん、なるほど~」


 なんか会話ぽいのはじまった!


「クレイさ~~ん」

「どうしたラーナ」


「この子やまわりのみんなは、おできが痒くて痒くて我慢できないみたいですぅ」

「痒いだと? というかフェンリルと話ができるのか、ラーナ?」


「なんとなくで分かりますよ~。で、痒くて四六時中イライラして体から悪い魔力がでちゃうみたいです」


 なんとなくで分かるのかよ……


 ラーナの通訳が正しければ、やはりあのモヤが瘴気なのは間違いないようだ。

 つまりフロンドの瘴気は、この森に住む伝説級の魔獣フェンリルたちから出ていたことになる。


「クレイさん……」

「どうしたラーナ」

「私がこの子をかいてあげるのは、その場しのぎです」

「そうだな」


 ラーナの言う通り、それでは根本的な解決にはならない。


 解決策は―――


「つまりおできを治してやればいいんだな」


「はい! クレイさん!」


 聖女が満面の笑みで答えた。



 さあ~~ポーション作りの時間だ。



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