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第32話 聖女ラーナはモフモフにからまった

「がふっ! ごっ……!」


 美少女の太ももで目ざめの朝を迎えた俺。


 脳天に聖女ラーナのかかと落とし。腹の上にはロリっ子メイドリタの押さえ込み。

 そして、下半身に女騎士エトラシアの頭突き……。


 いやいや、君たちの寝相はどうなっているんだ?

 とくにエトラシアさんや。それは完全に反則攻撃ですぜ。


 ユリカは……いないな。

 とりあえず毛布から出た俺は、グッと伸びをしてテントから出る。


 周辺に魔物の気配はなしか。


「あ、おはようございます! クレイ様」

「おお、早いな。朝食の準備をしてくれてるのか」


 くりっとカールした赤毛を揺らしながら微笑むユリカ。

 俺が昨晩出した食材の残りで、朝飯を作ってくれているようだ。


「はい、クレイ様。わたしもなにかお役にたてればと思いまして」


「そうか、ありがとう。にしてもいい匂いだな」


 俺は湯気がもれる鍋を覗き込んだ。彼女は乾燥野菜の端切れと干し肉を入れて、塩で味をととのえているようだ。


「あるものだけで作ったスープです。なにか温かいものがいいなと思いまして」


 その匂いにつられたのだろうか、ラーナたちもテントから出て来た。


「わぁ~~ユリカちゃん凄い~」

「美味しそうです!」


「リタの魔導コンロのおかげだよ。火もおこさないで済むし、凄いわこれ」

「えへへ~です」


 ユリカとリタ、ラーナはすでにかなり馴染んでいた。ユリカのコミュ力はなかなかのものだ。


「んはぁ……ゆ、ユリカ?」


 ひとり寝ぼけ気味の騎士がいるな。

 鎧が前後逆だぞ。


 全員が起きたのを見計らったかのように、用意していた器にスープをよそってみんなに配るユリカ。

 すでに組み立て式のテーブルも設置してあり、テーブル中央には携帯食の堅パンが置かれていた。ちょっとイイ感じの朝食になりつつある。


「「「いただきまぁ~す」」です」


 おお。これは!


 スープ、普通に美味いじゃないか。

 限られた食材と状況でよくここまで出来るな。


 みんなも同じくのようで、スプーンを黙々と口に運び続けていた。

 おかわりまであるので、みんな大満足の朝食だ。


 後片付けも適度なタイミングでスッと入るし、この子は卒なくこなすタイプの美少女だろうか。


「う~む、ユリカは本当にエトラシアの妹か?」

「なっ! クレイ殿、それではまるでワタシがダメダメみたいじゃないか!」


 もちろんエトラシアがダメってわけじゃないが、姉妹のギャップが大きすぎてつい口に出てしまった。


「いや、悪かった。エトラシアもいいところはいっぱいあるぞ」


「ほ、本当か! 例えば? なぁ例えば!」


 グイグイ欲しがるエトラシア。


 ユリカと違って彼女のいいところ……


「そうだな……頑丈なところか」

「ほ、ほかには!」

「う~ん、丈夫なところ」

「むっ……もっと!」

「あとは、強靭なところだな」


 ガックリと肩を落とす女騎士。

 いや、頑丈なのは大事なことなんだぞ。


「その強固な身体がユリカを救ったんだ。そこは自信をもてよ」


「そ、そうなんだが……もっとこう女性らしいところでなんかないのか……まあまあ顔がいいとか……」


「んん? いや、おまえはまあまあじゃなくて、とんでもなく美人だろ? 何言ってんだ?」

「えっ……ええぇえ!?」


「さっきの食事を見ても、綺麗で優雅な所作。さすが元令嬢という感じがしたし」

「ふっ……ふぉぉ……」


 いや、なにを赤面してるんだ?

 これは単なる事実だからな。


 ラーナやユリカは美少女タイプ。リタはかわいいロリっ子。


「そしてエトラシア。おまえは凛々しい美人女騎士(ポンコツな部分を除けば)だ」


「ふぉおおお! 後半かっこ部分は気になるとこだが、そうなんだな!!」


 そう言うとエトラシアは上機嫌でユリカの片づけを手伝いに行った。

 相変わらず行動が良く分からん奴だな。


 さて食事も済んだことだし、野営セットを片して帰るか。


 ん……?



 ―――なにかくる!



 とんでもない速度だ!



「ふぇええ~~クレイさん! なんかきたぁああ……うぶっ!?」


 ラーナが突如現れた白い何かに絡まっている。



「―――ガルラァアアアア!」



 周辺に鳴り響く、鼓膜が破れるぐらいの大きな咆哮。


 そして白い毛並みに狼のような体躯……おいおいまさか……。


「く、クレイ殿! あ、あ、あれはなんだ! ブラックじゃないホワイトウルフか? にしてはデカすぎるぞ!」


 これはブラックウルフなんて下位種族ではない。王国でもS級の魔物として指定されている魔物。


 狼系魔物の頂点に君臨する伝説級魔獣―――


「フェンリルじゃないか……」


「ふぇ、ふぇんりるだとぉ……?」


 さすがのエトラシアでも知ってるか。

 だが、成体ではないな。俺がかつて見た個体はもっと大きかった。


 つまり子供だ。


「くっ……騎士の血が騒ぐなクレイ殿……あれ? ぬ、抜けない」


 エトラシアはいつも通りテンパり始めたのか、剣の鞘をガチャガチャやっている。

 この子は落ち着きさえすれば、いい動きができるはずなんだが。


 今はそんな悠長なことは言ってられん。


「エトラシア! いったん下がってユリカを守れ! リタ、俺の援護だ!」


「くっ……わかった。クレイ殿」

「ハイです! ご主人様!」


「ラーナ! そこから出られそうか?」


 ラーナは突如現れたフェンリルの体毛に絡みついている。


「ふぇえ……う、うごいてるけど、どんどん入っていきますぅ~~」


 ラーナがもがくほど、どんどんモフモフに取り込まれていく。

 いや、マジでどういう状況よって話だが事実だ。



「―――ギャルルルッッッ!」



 苛立っているのかフェンリルの殺気が高まっていく。


 ちっ……やるしかないのか。


「あああぁ! クレイさん!」


「どうした、ラーナ! 今助けてやるから待ってろ!」


「違いますぅ~~クレイさん!」


 なんなんだよ、戦闘に入るんだからもうちょい緊張感もった声出せよ。



「―――この子、おできありますっ!!」



 はい? なんだって?


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